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おまけガーデン。  作者: さんまぐ
アートの女神イロドリ。
2/19

アートとエクサイト。

東京子こと祝福された女神アートは悩んでいた。

先日、自身に意地悪をした創造神は皆の協力でお仕置きされていて気兼ねなく神の世界に行けるようになっていた。


実際アートの知らない所で千歳がコレでもかと神々に「お願い≒光の剣を出して威嚇しながらNOと言わせない中頼む」をしていたので、アートを見守ってくれる神々が増えていて皆挨拶をしたり「今日はどこに行くの?」とか「今日は北の噴水に方は嫌な神が多いから行かないほうがいいよ」と教えてくれるようになっていてアートは平和だった。

そして平和になれば気になるのは父母の事と父母を酷評した創造神崩れが作ったと言う世界の事になる。


父母の事に関してはあの後でキチンと時間を取って貰ってアレコレを聞くことが出来た。

マイルドにされていたが概要はわかる。

その後で千歳に答え合わせのように確認もした。

千歳はアートにわかるように絵本の言葉のように難しい言葉は使わないで伝わるように気を使ってくれた。


父は優しすぎて厳格、そして実直な性格。

更に性善説を信じている。

創造神として力を持つものは皆創造が好きで堪らない。

自己研鑽、切磋琢磨がモットーで他人を貶めて自身を高みに置くなんて事はしないと思っていた。


父は周りの言われなき酷評も切磋琢磨の一環だと、性善説を信じて酷評を善行の一部と捉えて我慢して受け入れていた。

だがそれは誤りで相手には明確な悪意があって、悪く言う事で自身を創造神として保とうとする行いであったり、粗暴な神達の示威行為の材料に使われていた。

それ故に心を壊して地球の神の元に身を寄せた。

だがそのおかげで母や常継に出会えて変わる事が出来た。

それによって父の意識も変わった事を知った。


母は自身が装飾神である事を知らないが為に周りを困らせてきた事。

困らせた世界の数が百近くある事。その為にかつて魔女と呼ばれた事。

そして千歳がその名で呼ばせない為に大変な対価を支払ってくれた事を知った。


父母と千歳の話を統合してアートなりに理解をした。

こういう時12歳の心で千歳が使っていた言葉の真意、理解力を高める能力を祝福されたアートは呑み込みが早い。



「気になる」

それはそれとしてアートは気になっていた。

父母の事はもう済んだ。

この後はやはりあのメガネの創造神が作った世界が気になっていた。

母に言うと「もう関わってはダメよ」と釘を刺されてしまった。


こうなると母は頼れない。

父はこの流れならあの創造神に関わる事を知ったら悲しい顔をするだろう。


アートは数人を思い浮かべてみる。


千歳…

「えぇ、やめなよアート。きっと嫌な思いしちゃうよ?」と言って止めてくる。


戦神…

「アートよ、悪い事は言わぬ。忘れるのだ」と言って止めてくる。


お魚さん…

「ヘイ!それよりお魚食べないカーイ?」と言って話を逸らして止めてくる。


ダメだ。身近な大人達は気遣いからきっと止めてくる。

そうなると頼れるのは…


「トキタマー!」

「あ、バブちゃん!」


「もーう、私はアートだよ?もう赤ちゃんじゃないからバブちゃんはやめてよぉ」

そう。アートは身近な大人達ではなく身近な鳥をたよることにした。


元アーティファクト「時のタマゴ」

父、東京太郎が創った時を跳べるアーティファクト。

今は解脱を果たして単独で時を跳ぶ力を失ったが神の世界、ゼロガーデン、コピーガーデンを好きに行き来する事が出来るようになった鳥。

神の世界の誰もが一目置く存在。


トキタマならアートの願いを聞き入れてくれると思ったのだ。


「バブちゃんは僕の中ではずっとバブちゃんですよー」

トキタマがアートを見て微笑む。

トキタマは最初に名付けた名前で呼ぶので、千歳は地球の世界の子で自身が父親と呼ぶキヨロスが生きるガーデンの世界にあるアーティファクトを身にまとって使いこなし、更に半神半人として神界に居る不思議な子で不思議ちゃんと呼ばれ続けている。


「それで僕に何の用ですか?」

「あのね…お願いがあるの」


そしてアートはトキタマに願い出る。

メガネの創造神が創った世界「エクサイト」を見てみたいと…。


「あ、やっぱりその話でしたねー」

トキタマがわかっていたよと笑うのでアートはビックリする。


「え?」

「皆から僕はお願いされたんですよー」


「え?え?」

「お父さんと黒さん、不思議ちゃん、後は地球の神様からお願いされたんですよー」


アートは驚いていた。

今の話の通りなら、キヨロス、黒いキヨロス、千歳と地球の神からアートがエクサイトを見たいと言うと思っていた事。トキタマを頼る事を見抜かれていた事になる。


「じゃあ…」

「はい。行きますよー」


そう言って先に進むトキタマの後を着いて行くと連れて行かれたのは地球の神様の所だった。


「来ましたよー」

「トキタマ、アートが来たのだな」



**********



地球の神が先に飛んできたトキタマを見た後でアートの姿を見る。

アートはアートなりの拘りなのだろう。幼稚園の制服で神の世界に来る。

今日も紺色のブレザー姿だ。


「地球のおじちゃん…」

地球の神様は少し困った顔をしながら「エクサイトが見たいのだな?」と言う。


「うん」

「千歳から「万一アートがお願いに来たら受け入れてあげて」と言われていた。

まあ私自身もトキタマにアートを見守るようには言っておいたのだがな」


そう言った地球の神はアートにライブラリの概念と閲覧の仕方を教えた。


「出来そうか?」

「うん。何となくわかるよ」

アートは千歳がやっていた事は感覚的にわかる。


「よし、では次に行こう。リリオを呼ぶ」

地球の神はリリオを呼び出す。


「こんにちは地球の神様、アート」

「済まない」

「リリオ!」


「良いんですよ。黒魔王さんとちぃちゃんからも多分私の力が必要になるって頼まれていましたから」

「リリオ?」

リリオにまで話が回っていた事にアートが驚く。


「アート、私達はアートが間違った事をしなければ味方よ。私からアートには見る力の使い方を教えるね」

「うん。でも私は見れるよ?」

両親に封じられていて両親は見えないが千歳は本当にダメな日以外は見えるようにしてくれている。

常継達を追う事も出来る。


「それだけじゃダメ。今回のアートは人の世界を見るんだからバレないように見なきゃダメ。わかる?」

「あ…」


「リリオよ。リリオは見えているのか?」

「はい。あの日からこうなる日が来る気がしていてずっとエクサイトを探していました。そして見つけました」


「頼もしいな」

「ありがとうございます。地球の神様はエクサイトの座標は必要ですか?」


「いや、私は既に見ている」

「え?そうなんですか?」


「ああ。あのジルツァークも可愛そうな神なのだ。いつか救ってやりたいと思っていた神。

ジルツァークが壁にぶつかって助けを求めれば私はいつでも助けるつもりでいたのだ。

まあ今も待ちぼうけているがな」

そう言って地球の神が笑う。


「おじちゃん?」

「気にしないでいい。今アートはリリオからエクサイトの座標をもらう事だ」


「地球の神様、隠匿神さんにフォローを頼めませんか?」

「そうだな。呼ぼう」

現れた隠匿神は「魔王に頼まれていたからやるよ」と言いながらアートの頭を撫でる。


「やってくれるの?」

「うん。頼まれたしね」

隠匿神がアートに笑顔になるとアートも嬉しそうに微笑み返す。


「看破神、私達をその場所に連れて行って」

「はい。手を繋いでください」

リリオは看破神と呼ばれても否定しない。

それだけ6年で育った看破の力は物凄い。


リリオは隠匿神とアートと手を繋ぐと「神如き力、看破と追跡の力で2人をエクサイトへ。隠匿神さん。私達を隠してください」と言う。


「了解。隠匿の力」


「アート、今は隠匿神さんの力で向こうからは見えないからね?」

「うん」


「普段は目立ったらバレるからね」

「うん。普段のリリオはどうしてるの?」

アートは疑問を口にする。


「ほら、気を抜かないで。普段の私なら超長距離から見るから並の神には気付かれないんだよ」

リリオは注意しながらも丁寧に教えてくれる。


「さあ、入るよ」

そう言ってエクサイトの中に入るアート達。

エクサイトに入った瞬間、群青色の空から世界を見下ろしていた。


「わぁ!空が綺麗」

「そうだね。ガーデンに負けず劣らずだね」

リリオが気持ちよさそうに答える。


「私、ガーデンのお空をちゃんと見た事ないから知らないや」

「そうなの?今度この力で見てみなさい」


「アートならやれるよ」

「ありがとう隠匿のお姉ちゃん」

隠匿神は嬉しいのかアートに喜ばれると「えへへへ」と言って照れる。


そこで空から大地を見たアートが一つの事に気づく。

「なんか変だよこの世界?」

「変?何処が?」

隠匿神は何のことだかわからない。


「ほら地面の色、シマシマなの」

「うん。これは私も気になっていたんだ。でももういいよね?見るって目的が果たされたから帰ろう」


そうリリオに言われて気付くと先程の場所で目の前には地球の神が立っていた。


「どうだった?」

「見れたよ。お空は綺麗だったけど地面はシマシマなの」


「そうだ。あれがエクサイトだ」

「あれ、何でシマシマ何ですか?」


「あまり人の世界を語るべきではないのだがアレがエクサイトとジルツァークの問題点だ。

あの世界の大地は茶色がかった緑色と鮮やかな緑、そして茶色がかった緑色の3色の世界だっただろう?」

たった今見てきた世界を地球の神が語る。


「はい」

「茶色がかった緑色はジルツァークが作った大地。鮮やかな緑色は創造神が創った大地なのだ」


「なんで色が違うの?」

「ふむ。アートは知る話ではないな。とりあえず見る事は出来たので満足だねアート?」

言い聞かせるような言い方。

アートは素直に返事をする事しか出来ない。


「…うん」

「じゃあこの間の事もあるから長居をするとジョマが心配するから早く帰りなさい」


「…はーい」

アートはそう言うと神の世界にある方の東とジョマの家に行く。


「僕が着いて行きますよー」

トキタマもアートと行ってしまう。



**********



「地球の神様?」

「わざと話を切り上げて帰した?」

リリオと隠匿神が訝しむ。


「…千歳を呼ぼう」

地球の神が呼ぶと千歳はすぐに来る。

仕事でガーデンにいると言っても実際に開発側にそう大きな仕事は発生しない。

発生しないように東京太郎がゼロガーデンには神の使い、ファーストガーデンとセカンドガーデンには神の使いが使う端末を千歳の父、伊加利常継に持たせているし常継の辛い場面ではジョマと東京太郎が適宜フォローに入っているからだ。

大規模なイベントがある時は少しだけ忙しいがそれでも年に1度か2度だ。


なので千歳はビリンが暇ならばゼロガーデンで逢ったりして、それ以外ではゼロガーデンやコピーガーデンの実家や全てのガーデンを視察の名目で散歩している。


「来たか」

「来たわよ。どうしたの?ってアートの事かな?」

千歳はすぐに察して地球の神の話を聞く。


「そうだ。アートがトキタマに頼り、そして私がリリオと隠匿神を呼んだ」

そして地球の神とリリオがエクサイトについて説明をした。


「そうなんだ。それで私が呼ばれたのは?」

「エクサイト…ジルツァークの事だ。恐らくアートはこのままでは終わらずにエクサイトが気になるだろう。この先に進む事に対して千歳の意見を貰いたい」

地球の神の言い方は千歳を頼っていることがわかる。

千歳もそれをわかっているから話がスムーズに進む。


「エクサイトには何があるの?」

「まずはエクサイトを見て欲しい」


「私、人の世界を覗くの好きじゃないんだけど」

「アートの為だ」


「…わかったよ」

出来ないとは言わない。

千歳は出来てしまう。

それは即ち神化した千歳の力を貰い受けたアートも出来ることになる。


「ちぃちゃん、座標を送るね」

「ありがとうりぃちゃん」


「千歳、隠匿する?」

「ありがとう隠匿神さん。でも平気かな。私はここから見るよ」

千歳が感謝をしつつ何とかなると言う。


「え?ちぃちゃんも長距離で追跡出来るの?」

「うん。少しならね。後は隠匿も使うよ。神如き力!長距離で追跡!隠匿!」

そうして千歳はエクサイトを見てきた。


「見たよ。あのシマシマがアートの気になる部分かな?」

「そうだ。理由を知るにはジルツァークに聞くか神の領域に入ってライブラリ参照をするしかない」


「そうだね。でもジルツァークに聞けるの?」

「無理だ。あの子はそういう子ではない。今は特に意固地になっていて他者との繋がりを絶っている」


「じゃあライブラリ参照だ。でも何が問題なの?」

「エクサイトはまだ500年になっていない世界だがその中で多くの人が死んでいる。

ガーデンはまだ人死が淡白な世界だ。

それはガーデンの神が死を嫌うから…」

東京太郎の世界は優しい世界。

ジョマが手を出したゼロガーデンの戦い、セカンドガーデンのイベントは残酷な死があったが東京太郎だけなら起きなかった事だ。

そしてサードガーデンは東とジョマ、そして2人の意見をまとめ上げた調停神として千歳の尽力がある為にまだそこまで残酷ではない。救いがあるのだ。


「じゃあエクサイトは?」

「残酷な死が蔓延している」


「見せたくないなぁ」

「私も同意だ」

それだけで千歳が「うへぇ」と言う顔をして地球の神も同調をする。


「でもアートは見たがるよね」

「だから千歳を呼んだのだ」

ようやく合点のいった顔で千歳が納得をする。


「…ふぅ。まずは私が神の領域でライブラリ参照するしかないね。

ジルツァークは何処にいるの?神の領域でかち合うのが1番キツいんだけど。

私の隠匿じゃ支配する神が居る神の領域では流石にバレかねないよ」

「問題ない。あの子は…ジルツァークは神の領域に入れない。場所も入り方もわからないのだ…」

だが地球の神の返答は千歳の想像を絶していた。


「は?何それ?」

「それがあの子が、ジルツァークが可愛そうな子の理由で私が気にかけているのだ」


「そこら辺はエクサイトに行けばわかるの?」

「いや、だが帰ってきてから説明しよう」


「了解。後はあれか、気にするのは世界の時間ってどうなってるの?」


「今は通常時間だ。先月頃まではこちらの1年を向こうの100年にしていたがな」

「変えるって事は何かあったって事だね」


「そうだ。千歳、済まないがよろしく頼む」

「おっけー。じゃあ隠匿神さん、りぃちゃん、行ってくるね!」


こうして千歳はエクサイトに飛んだ。



**********



エクサイトの神の間…神の領域は埃が積もっていて使っていないことがわかる。

本来は神が管理をする領域でゼロガーデンにもセカンドガーデンにもサードガーデンにもある。私は許可を貰っているのでちゃんと入ることが出来る。

そこに居た方のが世界の管理はやりやすい。

地上に顕現している時に管理を行うと言うのは一段階工程を踏んでいることになるので手間だし疲れるのだ。


それにしても家具なんかはソコソコオシャレでジルツァークではないとするとメガネの趣味だろう。

ただメガネからは似合わない雰囲気なのでメガネがジルツァークを意識して用意した感じだ。

でもジルツァークを知らないから何も言えないが随分とアダルトな感じと言えばいいのか、イヤらしい感じがする。


大人のと言っても格式高い大人のではなくもっと性アピールを前面に出すような大人の雰囲気だ。


まあいいや。

とりあえずライブラリ参照をしてしまおう。

長そうな気もするしその後も話があるって言っていた。

地球の神様の話だと追体験はあんまりしたくない。

わざわざグロい物を見たくない。


とりあえずエクサイトの成り立ちから読もう。

「ライブラリ。履歴の閲覧をするからリストを出して。時系列よりも小説風に改変して」

私が神如き力を使って命令を出すと目の前にモスグリーンと優しい桃色が合わさった変な表紙の本が出てくる。


「まあ500年くらいなら余裕でしょ」

お母さんも読書好きで得意なので私もそこは似た。


余裕をかましながら本を開く。

ジルツァークはメガネから受け取った世界に降り立つ。

てっきり東さんの天地創造と同じ流れかと思ったらメガネが天地創造を済ませていた。


わかりやすく言うとパソコンを買った時に初期設定、セットアップを済ませてある感じで、すぐに使えますよと言う奴だ。

メガネは何がしたいんだろ?

ジルツァークはなんでやらないんだろ?


それに履歴に対するセッティングも完全記録になっている。

完全記録は神の座に着いた神の記録すら残す状態だ。

東さんは気にしないでそのセッティングにしているが私はサードではそのセッティングは外している。

何故かと言えば簡単で、見過ごせない命、取りこぼしたくない命に出会った時に私は助けてしまう。

そうすると東さんやジョマがライブラリ参照をして簡単にバレるからだ。


まあ秘匿にしてもバレて怒られるけど…。

調べようはいくらでもある。

火事の記録を消さずに負傷者や死傷者が0人だと不自然で「千歳?またやったのかい?」と怒られる。



エクサイトに降り立ったジルツァークはエルフの街に降り立つ。

メガネは街も作っていたの?

それにエルフとドワーフとドラゴン?

少しの人数だが命を生み出していた。


なんだこれ?


神の座はドラゴンの住む神殿に用意されていた。

そこにたどり着いたジルツァークはドラゴンに挨拶をされる。


「貴方がジルツァークか?」

「そうよ。あなたがドラゴン?」


「そうです。私がタカドラ。後は数名のエルフとドワーフがあなたの創造のお手伝いをさせていただきます」

「そう。ありがとう。わかったわ」


「それでは神の座にお着きください」

ジルツァークが神の座に自身を置いてエクサイトの女神ジルツァークになる。


この神の座と言うのは世界を維持する動力源みたいな物だ。

神の座に神が居ない世界はあっという間に滅ぶ。

空気や水、大地なんかが腐って毒性を持つ。

そこで生きる命は神化以外に救われる事はない。


そして半神半人の身体では神の座には着けない。

そんな場所だ。


ジルツァークが神の座に自身を置いた所でタカドラは3人の人間を呼ぶ。


「ジルツァーク、こちらがエルフの2人とドワーフの1人になります。

これ以外にも数名のエルフとドワーフがおりますがまとめ役はこの3人です」


「はじめましてジルツァーク。私はエルフのヘルタヴォーグ。こちらが妹のヘルケヴィーオ」

「はじめまして」

「俺はドワーフのワタブシ」


「エルフ?ドワーフ?見た目に違いがないね」

「はい。そのように作られました」


「よくわからないね。まあいいや。あなた達はあなた達で頑張ってね」

「は?…はい。ジルツァークはどうされるんですか?」


「私?私は私の世界を作るのよ。じゃあね!」


…なんだこれ?

気持ち悪い。


私は致し方なく今のシーンを追体験する。


人ふたりくらいなら余裕で乗せられる大きさのドラゴンがタカドラ。

そして目の前にいる白くて露出の多い女神がジルツァーク。

…大きい。細い。ムカつく。

だがジルツァークを見て神の領域に置かれた家具の理由がわかった。

ジルツァークはとても性的魅力に溢れた見た目の女神。

一言で表現するならエロい。


なんと言うかメガネがどんな目でジルツァークを見ているのかよ〜くわかる。

きっとメガネにツッコミ入れても「僕は別に、いやまあそう見えたならそれでいいですけどね」とかスカした事抜かすんだろうな。ムッツリだ。


そして現れた3人はどうみても人間だ。

自称エルフとドワーフ。

確かに神の目で魂を見れば違いがわかるがパッと見は人間にしか見えない。

メガネは何がしたいんだ?



**********



私は追体験をやめて履歴の閲覧に戻る。


ジルツァークはエルフの街から北の方角に行くと何故か大地を作り替えていた。

だが元の大地に比べると生気も何もない。

何がしたいんだろう?


そしてその大地に人間を8人生み出していた。

キチンと名前もつけて愛そうとしている事が窺える。


「一緒に頑張ろうね!」

「最初は果樹を植えたから果実を食べて!」

「家の素材を用意したよ。作り方を教えるから頑張って!」

「今度は家畜を生み出したから乳や卵を食べたりお肉を食べたりしましょう!」


あの手この手で手を尽くすがこの命は3年と保たずに皆死んでしまった。

あるものは冬の寒さに耐えきれず。

またあるものは夏の暑さに耐えきれず。

またあるものは食べても身体が食事を受け付けずに死んでしまった。


「なんで!?なんでよ!?どうして!!またダメだった!私が本物じゃないから?偽りの女神だからダメなの!?」


ジルツァークは最後に死んだ人間の亡骸を抱きながら泣き叫んでいた。


偽りの女神?

気になるフレーズが出た。

そんな神が居るのだろうか?

嘘をつくとか人を騙すとかそう言う神なのかな?

だがあの頑張りと涙を見て偽りとはとても思えなかった。



タカドラ達がジルツァークを気にしているが言いつけを守ってエルフの街から出ようとはしないでエルフの街をエルフとドワーフで増やして行く。

だが見た感じメガネがそう作ったのだろうが、上位種のエルフとドワーフ達は強靭な肉体と寿命の為に人間らしさ…、人間としての本能を犠牲にしている感じがした。

現にジルツァークの補助が目的のエルフ達はあまり個体を増やす感じではないし増える感じでも無い。

エルフ達すら変だ。

愛の概念が無い。

ただ欲望に忠実でパートナーを見つけて性交渉はするが子供が欲しくてと言う感じではない。だが生まれた命は巣立つまで責任を持つがそれ以外は淡白だった。


ジルツァークに視点を戻す。

ジルツァークは試行錯誤の末に亜人と言う種を作る事にした。


「見た目が人間と違っちゃうけどまずは生きてもらわなきゃ。

身体の頑丈さや筋肉、生命力なんかは多くしてあげて。

代わりに何か失うかな?見た目を変えたからバランスは取れたはず」

そう言って生み出された亜人の見た目は耳が尖っていて首から顔にかけてイレズミのような模様があった。


だがそれだけでは無かった。


生欲が殆どなく個体が増えなかった。

稀に性欲に目覚めた個体同士が性交渉をして子を成す事はあったがかなり貴重で仕方なくジルツァークが神の力で生み出し続けていた。


そしてジルツァークの指示に忠実な事もジルツァークを悲しませた。

普段、ある程度の自由さは持ち合わせていたがジルツァークが何かを言うとそれに疑問を持たない。


その事で一度自棄になったジルツァークが自殺を勧めたら亜人達は疑問に思わずに「わかりましたジルツァーク様」と言って次々に自殺をした。


その事で亜人ではなくまた人間の創造に走っていた。

今度は南の大地を作り替えてそこに人間を創造していた。

亜人は予備なのか滅ぼす事もなく北の大地でそれなりの生活をしていた。


ジルツァークは人間の創造に思いの外難航していた。

だが神の世界で地球の神様に質問をしてなんとかなっていた。


そしてジルツァークは人に目処が立つと今度は別のことが気になっていた。


多分必要とされたいのだ。

あの手この手で人に手を貸す女神。

だが生活が安定すればジルツァークに質問をする回数は減る。

頼る回数も減る。


そもそもジルツァーク自身が人間達を構いたいのだ。


私はこの段階で物凄く嫌な予感をしていた。

見たくなかった。

この先を読みたくない。


私の想像は外れてくれて欲しいとすら思っていた。



マッチポンプ。

簡単に言えばマッチポンプだ。

自分でつけた火を自分で消して感謝をされる。

それを喜びにし始めたのだ。


ああやはりかと私は悲しくなる。


北の大地に住む亜人達の目の前で姿を変える。

薄褐色の肌に水色の目、銀の長い髪の女神の姿になったジルツァークが「私はモビトゥーイ。これからは私の指示に従って生きなさい」と宣言をしたのだ。


そして賛同した亜人達に「南に住む人間達は敵なの。思いつく限り残虐で残酷に殺しなさい」と指示をする。

亜人達はモビトゥーイ=ジルツァークの指示に従って南下をして人間達を襲う。

だがここでもジルツァークの誤算があった。


人間達の能力以上に亜人達が強くてあっという間に人間達は全滅の危機に晒される。

そしてここは文章だけにした。


文章だけでも亜人のした事は酷いものだった。

亜人には性欲は無い。

なので女性が凌辱されるような事は無かった。

だが思いつく限りの悪虐を尽くす。

人間扱いされない。

まだ好意的に表現するとすれば男女平等だ。

男性も女性も無い。

全てが平等に惨殺される世界。

否定的に表現すれば人間の尊厳なんかない世界。

昔、子供の頃に見た地獄絵図で地獄の鬼たちが罪人たちを苦しめていたあの絵がピッタリだった。

だが人間達はジルツァークに生み出されただけで殺されていい存在ではない。


私は思わず力を使いたくなった。

介入と言う奴だ。

本来は世界を覗くだけで嫌なのに介入したくなる。

私なら5分もかからずにこの世界を守りながらジルツァークを血だるまに変えてしまえる。

力の限界を迎えても構わない。半神半人の限界を迎えたらビリンさんを呼んで私の力を受け取って貰う。逆に私がビリンさんの元に瞬間移動をしても構わない。

それほどまでに亜人達の行いは許せなかった。

いや、ジルツァークの行為が許せなかった。


愛らしい亜人の子供を人間の世界に送り込んで大暴れさせるなんて序の口だ。

3歳くらいの子供…私で言えば千聖と変わらない年頃の子供を人間の世界に送り込んで心配する人の優しさに付け込んで暴れる亜人の子供。


愛し合う夫婦をこれでもかと痛めつけて殺す亜人。

生まれたばかりの子供を親に向かって投げつける亜人も居た。

これ以外はここで言う事すら憚れる。


だが亜人に罪はない。

全てはジルツァークの指示でジルツァークに喜んでもらいたい一心なのだ。

本能なのだ。

どうしようもないのだ。


私は気分が悪くなってここで読むことをやめた。

ライブラリの年表は399年だった。



**********



私は見るのをやめる。

そのまま神の世界に戻ると地球の神様が残念そうな顔で私を見ている。


「何?文句ある?」

「…後1年見てくれないか?」

地球の神様の顔に「お願い」と書いてある。

最近、威厳を犠牲にしてユーモアに力を入れすぎてはいないか?

芸が細かい。

だが私にその気はない。


「なんで?やだ。気分悪いもん」

「うん、ちぃちゃんが嫌がる気持ちは分かりますよ。アレは無理ですよ」

りぃちゃんが援護射撃をしてくれるのだが何でわかるんだろう?

見たのかな?


「え?りぃちゃんって長距離でライブラリの参照や閲覧までやれるの?」

「ううん。私はちぃちゃんの追体験をしたの」


ああ、私を監視して私が見たモノを見る感じにしたのね。


「なるほど、変則的に見たんだね。アレは酷いよね」

「うん!酷いよね!」

2人で盛り上がる。

元々地球に居るりぃちゃんと私は幼馴染。

なのでリリオとしてのりぃちゃんとも意見が合う。


「…千歳、リリオ。済まないが本当にもう少し見てくれないか?」

偉い地球の神様が苦虫をかみしめた顔でお願いをしてくる。


「やだ。なら先にジルツァークの問題点を教えてよ。なんでジルツァークは偽りの神なんて名乗っていてあんな事をするの?」


「ふぅ…、そうだな。その流れが正しいのだろう。隠匿神、千歳、リリオ…ここでの話は基本的に秘密にしてくれ」

「はい」

「おっけー」

「基本ですか?例外って?」


「キヨロス達は知りたがるだろう。言い換えれば先日のお魚パーティーに出た中でお前達が信頼する神には話しても仕方がない。

だがジルツァークの耳に入ることだけは防がなければなはらない」

「それなら了解です」


「ふむ。

先にここから言うか。

千歳よ、ジルツァークはかつてのジョマと同じ存在。

自分が何の神かを知らないのだ」


「は?でも偽りの神って…」

「欺くような神は確かにいるがジルツァークは全く違う。あの子はジョマに近い」

ジョマに近いってどういう事?


「装飾神なの?」

「そうではない。ジョマは初めて使った力が創造に酷似していて目の前に居た神に創造神と誤認された」


「そうだね。だからジョマは苦しんできたよ」

そう、ジョマは本能にあった装飾をしたい気持ちを理解できずに創造神として生きていた。

その歪みが多くの悲劇を生んだのだ。

そしてジョマは悪い神ではない。悲劇を生むたびに心に傷を負って苦しんでいた。

苦しんだ結果、周りの魔女と言う評価に合わせて魔女として振舞って自分を傷つけ追い込んでいった。


「そしてガーデンの神の苦しみを覚えているな?」

「東さんの苦しみ?そんなのは創造の全てを東さんと言うだけで否定や酷評をされた事と世界を面白半分に弄ばれて壊されて笑い物にされた事だよ」

「そう。ジルツァークはそのどちらにも近いのだ」


「なにそれ?どう言う事?」

私はさっきの閲覧でジルツァークに悪印象でどうしてもすんなりと言葉を受け入れられなくなっている。


「初めて世界を欲した時に失敗をした。それを必要以上に酷評され、本物に遠く及ばない偽りの世界しか作れない偽りの神と決めつけられたのだ」

それは確かに東さんとジョマを足して割ったような話だ。


「千歳よ。また頼めないだろうか?」

「…もしかして私にジルツァークが何の神か見破れと?」


「いや、出来る事ならそれがありがたいが今の千歳にそれは難しいだろう。

千歳やリリオには他の神々が何の神かを見破る何倍も難解だ。

ただこの行動がきっと好転すると思っている。

この件から手を引かずに見届けて、思うままに行動してくれないか?」


「…東さんとジョマって言われたら断りにくい。それにそうやって地球の神様が気遣うくらいにはいい神なのね?」

「そうだ。あの子の力は必ず人間の役に立てる」

人の役に…そうまで言われて断れる理由はない。


「…了解。じゃあもう一度行ってくるよ」



再度エクサイトの神の領域でライブラリを読む。

何で地球の神様が後1年と言ったかがよくわかった。

400年目にジルツァークは勇者ワイトと言う人間を生み出していた。

ワイトはいかにも良いところのお坊ちゃんって感じなのにとても強くそして冷酷無比に亜人共を倒していく戦闘用の人間と言った感じだ。


ワイトを見ていると、なんかこうジルツァークの創る存在の微妙さと言うか問題点が見えた気がする。

バランス調整がとにかく下手だ。

なんかこれを見ていたら中学の時、クラスメイトの佐藤、田中、鈴木達が自作のカードゲームを巡って喧嘩まで発展した事を思い出した。


「カードの発動条件が手持ちの魔物三体の死亡で攻撃内容が盤面の全てのカードを無条件破砕可能はやりすぎだよ鈴木君!」

「佐藤こそ完全な絶対防御?しかも10ターン?」


そんな事を言いながらお互いが「ぼくのかんがえたさいきょうのカード」のルールで殴り合いをし始めてリアルで喧嘩に発展する子供っぽい結果になっていた。


その点で見るとジルツァークって子供っぽい神様なのかな?



**********



ジルツァークに産み出されたワイトは人間の世界を抜けて亜人の世界の前にあるエルフ達の世界、上層界に足を踏み入れていた。

マッチポンプジルツァークは、夜は亜人達の女神モビトゥーイを演じる為に人間達から離れると言うルールを課していた。


そのルールの隙をついてタカドラが世界を管理する力を使ってワイトにエルフの街まで来るように指示をしていた。

風に乗って小さく聞こえてくるタカドラの声はワイトには認識不可能だったが暗示のようにエルフの街に導かれる。

そこでワイトは聖剣と聖鎧を授かるがどう見ても授かった聖剣と聖鎧に特別な力はない。

ワタブシが付与した魔法契約で扱いやすいだけの剣と鎧にしか見えない。


そして朝が来てそれを見たジルツァークはキレた。

明らかに不機嫌だ。

恐らく自分のシナリオにタカドラ達が参入する事は考えられていなかったのだ。


タカドラが呼び寄せた事も気づかないジルツァーク。

ライブラリ参照の知識や概念、考えがないからか…。


そしてここでようやくジルツァークの計画が見えた。


ジルツァークは不要になった亜人をワイトに始末させようとしていたのだ。

自分が産んだ命によくもまあそんなことができるなと私は思ってしまう。

ただ明確な敵を用意してそれを団結して倒す。

ジルツァークが導くというのは非常に効果的だ。

皆「ジルツァーク様いつもありがとうございます」と挨拶やお礼、お祈りなんかをしていた。


だがここでもまたジルツァークの創造の甘さが露呈する。

ワイトが戦闘用に生み出されたにも関わらず心優しい青年だったのだ。


亜人界の村にいた女子供の亜人、モビトゥーイ=ジルツァークの指示を受けていない多少ぎこちなさが残るが人間臭い顔と行動をする亜人を殺せないと言う。


ここでジルツァークはワイトの身体を操作して亜人達を虐殺した。

ワイトは必死になって拒絶をするがジルツァークの支配からは逃げられなかった。


そもそもジルツァークが用意した剣技も魔法も再生能力もジルツァークの支配の中でしか使えない限定的なものだ。

よく出来ている。そして技名も魔法の名前もちゃんと作ってある。

創造への熱量がそれだけでも読み取れる。

しかし、その支配下にあればジルツァークによって強制的に身体が動かされてしまう、ワイトには抗いようがなかった。


そしてジルツァーク自身もこの事態を否定的に捉えていた。

恐らく当初はこの機会に全ての亜人をワイトに殺させるつもりでいたのだが、こうも煮えきらないワイトではジルツァークの目指した結果にならないのだろう。

ワイトに亜人の街を見逃させたりして更にその隙に人間界に亜人を送り込んでいた。


何となくだがわかる。

きっとジルツァークはもう一度この計画を実行する。

明確な敵、亜人を人間達で討伐して絆を深めたいのだ。



ワイトの戦いは亜人の王を倒したところで終わりを迎える。

予めワイトを三つに分ける技を用意していたジルツァークがワイトを3人のワイトに分けた。

そして技を受けて前後不覚ワイトに言い聞かせるように「亜人王は倒せたわ、でもモビトゥーイとの戦いで剣のワイト、魔のワイト、体のワイトに分けられたの。モビトゥーイは相討ちよ。あの感じなら100年は手出ししてこないと思う」と言って信じ込ませながら人間界に連れ帰っていた。


人間の世界は亜人によって壊滅的だった。

唯一残ったアルガベの城も陥落し、アルガベに居た3人の姫をそれぞれ娶ったレドア・ワイト、グリア・ワイト、ブルア・ワイトはジルツァークの指示で3人とも離れた土地で新たに国を興した。


…多分3つの国を離したのは戦力の分散が目的だ。

ワイト達に100年と言ったのも時間稼ぎ。

そして戦力の分散は先制攻撃を防ぐ為…。

やはりジルツァークは計画の遂行を諦めない。


今度こそ人間達で亜人を倒して女神と人間が力を合わせた世界を用意したいのだ。


その後、80年は動きらしい動きがなかった。

一度ブルアの元勇者がジルツァークを訝しんで殺されていた。

これによりブルアからワイトの手記や剣技、魔法の知識が失われた。


そして495年目に事件が起きた。

グリアがジルツァークの手で滅んだ。

恐らく周到に備えようとしていたグリアはジルツァークの計画を逸脱して反感を買ったのだ。

それにジルツァークのシナリオでは追い込まれた人間達が団結してジルツァークと共に亜人界に赴き全ての亜人を殺す事になっていたのだろう。その為には犠牲が必要だ。丁度逸脱をしていたグリアはその為の生贄に選ばれた。


体の勇者としての力、不死身の肉体を授かったグリアの王子ジェイドは死ぬ事も叶わずにひたすら拷問を受け続ける日々になる。

それを復讐の二文字だけで耐え抜く。


目を背けたくなる拷問。

文字情報でこれなのだ、映像化や追体験は耐えられない。

私なら追体験をした瞬間、ジェイドの怒りに感化して全てを破壊する。


もう脳内で何べんも対ジルツァーク、対亜人の戦いをしている。

圧勝、完勝…言い換えれば蹂躙する自信がある。



499年目、もう500年に近づいた。

ここでジェイドの元に剣の勇者セレストと魔の勇者ミリオンが助けに来た。

復讐者のジェイドは的確に容赦のない攻撃で自分が囚われていた街ごと吹き飛ばして高笑いをしていた。


ライブラリの参照はここで終わった。

印象的だったのは495年以降ジルツァークが嬉しそうに登場人物として振る舞っていた事だった。



**********



「見てきたわよ」

「済まないな」

今度の地球の神様は申し訳なさそうに感謝している。


「で、これをアートに見せるの?無理でしょ?」

「では千歳はアートを諦めさせる事が出来るのか?」


そう、そもそもこれはアートをどうするかと言う話だったのだ。


「ぐっ…」

「だから何か良い案が欲しくて見て貰った。後はジルツァークの事だな」


「良い案って…まあ考えついたからやるわよ。ジルツァークの事ってどうすればいいの?ぶん殴って言うこと聞かせられたら楽だけど違うわよね?」


「千歳はエクサイトを見てどう思った?」

「へ?危うい世界だよね。ジルツァークが好き勝手に暴れているのになす術がなくて…、それなのにジルツァーク自身は未熟な神でとにかく始末が悪い」


「そうだな。では次はジルツァークと創造神の経緯や会話を見てもらおう」

そうして見た映像は神の世界で、メガネがエクサイトを作っていたところだった。


「ふふ、ジルツァークさんは大人びた雰囲気だから神の領域の家具は家具神の所で見てきたAdventure[アバンチュール]シリーズにしてあげて…。

休憩用のベッドは…怪しまれると損だしいいねが貰えなくなるな」


キモいなぁ。

ニヤニヤとエクサイトに向かって呟き微笑む姿は気持ち悪い。


「あー、ジルツァークさんには本物を体験してもらわないとな。土壌は土壌神、海水は海洋神から買ってあげよう」


ん?買う?


私は地球の神様を見る。

「何を驚く?千歳もカレーライスを作る際に毎度毎度ルーから作るか?畜産をするか?農業をするか?水を汲み取りに行くか?

ルーや野菜に肉に米をスーパーマーケットで購入をして作るであろう?

神の世界で人間、大地や土壌、草木に水なんかはオープンな情報になっている。

その中でも素晴らしいものはそれぞれを司る神々がセッティングやベースなんかを販売しているのだ」


「あー、そうなんだ。知らなかったよ。東さん達も?」

「いや、ガーデンの神は作り方、そうだなセッティングだけは土壌神や海洋神に聞いて参考にさせてもらい自身で用意しておる」


やっぱり東さんは凄いな。


「それに途中でジルツァークが私に人間の相談に来ただろう?あれも人間の基本セッティングを授けたのだ。ジルツァークは人間も大地も草木も水も全て自分で創造したかったのだ」


「創造神でもないのに?」

「ああ、それがジルツァークなのだ」


…益々わからなくなるな。

ジルツァークは何の神で何がしたいのだろう。


「映像に戻ろう」

「うん」


映像に目を戻すとメガネが自慢気にメガネの言う「本物」だけで世界を創っていく。

だからエクサイトの空は気持ちいいのだろう。

だがガーデンは東さんの手作りでもっと気持ちのいい空だ。私は見ているだけで泣けてしまう日もある。


そして丁度そこに奴が現れた。

もう一人の創造神崩れ。

メガネが先輩と言って呼ぶ神だ。

先輩創造神崩れが何をしているのかとメガネに聞く。メガネは馬鹿正直に世界を創造している事を伝えると、東さんに散々言った言葉「まだお前は創造なんてやってんのか?暇だな」を告げる。そのバカにした顔は筆舌にしがたい。まさかの言葉に顔色を変えるメガネ。

恐らくメガネは東さん抜きでこういう話をしていなかったのだろう。自分が言われるなんて思いもよらなかった。

そして驚くメガネをよそに先輩創造神崩れはバカにしたまま去って行った。


これは最悪の流れなんじゃないか?



その予想は見事に的中した。

メガネは承認欲求と損得勘定、そして怠惰の神になりつつある創造神崩れ。

崇拝している先輩に認められなかった事で承認欲求の観点、損得勘定で損と思ってしまった事。そして怠惰の神だから世界創造と言う作業が嫌だった。


最初はヘルケヴィーオ達、エルフを産み出した時には「ジルツァークさんに認められるような名前にしよう」って張り切っていたのだが、ヘルタヴォーグと数名のエルフの名前まで付けた所で、「ダルい。やめた」と言ってしまう。


まさかの状況に私は驚いてしまう。


その後はドワーフのワタブシを創造しようとした所で「姿変えるのダルいな。いいやこのままで」と言って人間の姿のままだった。

名前に関してもエルフ達ほど真剣に考えていなかった。


そしてタカドラ。

タカドラを創造する時には何もかもが面倒になっていた。

面倒だから、高い場所に鎮座するためのドラゴンでタカドラとなっていた。


だったら生み出すなよ。

創造なめんな。


私は思わず悪態をつく。

だがメガネはタカドラに世界の管理を任せていた。

エクサイトの木々が生い茂るのも水が流れて風が吹くのもタカドラが神殿に居る事で実現している。


ジルツァークには出来ない事をメガネはさせていた。



**********



「何でメガネはタカドラを産み出したの?」

「それはジルツァークにエクサイトを渡した日を見ればわかるだろう」

そう言って地球の神様が影像を出す。

私と隠匿神さんとりぃちゃんは映像に食い入る。


メガネは手にエクサイトを持ったままジルツァークの所に行く。

ジルツァークはメガネに気付くと嬉しそうに手を振る。

余程ジルツァークはエクサイトが欲しいようだ。


手を振られたメガネは嬉しそうにヘラヘラしたが慌てて斜に構える。

隠匿神さんが「コイツ、気持ち悪い」とボソッと言う。



「ジルツァークさん、作りましたよ。私はこの世界をエクサイトと言う名前にしました。意味ですか?実験場の【エクスペリメンタル】から取りました。いえ、そんなに喜んで貰えて嬉しいです」

メガネ…ジルツァークの前だと私になるの?

そのメガネは斜に構えながら手の中にあったエクサイトを渡す仕草をする。


エクサイトをジルツァークに渡したメガネは聞いても居ない事をベラベラ煩い。

流石は承認欲求と損得勘定の神だと思う。


「ちぃちゃん、メガネウザいね」

「本当、聞いても居ない事をベラベラ煩いよね」

「私も思う」

3人でガールズトークになってしまう。

ここにお菓子とお茶があれば1時間は軽い。



「ジルツァークさん!エクサイトの中には私が最初に用意してあるエルフやドワーフなんかが居ますよ。活用してください!エルフやドワーフには「女神ジルツァークの世界創造に付き合うように」と命じてあります。

後はエルフもドワーフたちも有名創造神の世界からセッティングを買い取っておいたので優秀ですよ!」

そうか、メガネはエルフ達のセッティングも買い取っていたのか…。

本物にこだわるからこそメガネは自作なんて出来ないのだろう。

そのメガネの顔には「どうです?凄いでしょ?承認していいんですよ?」と書いてある。


当のジルツァークは「うん、どうも」と張り付いた笑顔で答えるがメガネは気づかない。

いるよなー、こうやって自慢だけして相手の顔を見ない奴。


「ジルツァークさん!大地も土壌神からデータを買い取って使いました!いい作物が育ちますよ!」

「ジルツァークさん!海水は海洋神から買いました。きっと魚の進化も捗りますし、綺麗な景色になって皆がいいねって言ってくれますよ」


必死になってアピールをするメガネ。

承認欲求がそうさせているのだろう。後はジルツァークに気に入られたい一心と言った感じだ。だがその時メガネがある言葉を口にした。


「やっぱり本物は違いますよね~、ジルツァークさんもそう思いますよね?」

その言葉を言った瞬間、ジルツァークの顔が強張り険しくなるのだがメガネは気づかないで自慢をつづけた。


そして最後には「この前言っていたお礼のご飯、どこで食べますか?奢りじゃなくても良いですよ。良いお店皆が褒めていたお店を知っていますよ」等と言い始めていた。


私は映像から視線を戻して地球の神様を見る。

「ナニコレ?」

「ふむ、創造神はジルツァークに世界の創造を頼まれた時に「お礼にご飯を奢るからお願い」と言われていたのだ」


「はぁぁぁぁぁぁ?じゃあ何?世界を欲したジルツァークの事情は知らないけどメガネは創造の力が弱まることが嫌で世界を作ろうとしたときに承認欲求を満たしたくて損得でジルツァークと居る事で得したくて世界を創ったの?しかもその得ってご飯デートって事?」

「そうだ」


「ジルツァークがエロい雰囲気の女神で一緒にご飯いったら周りから羨望の眼差しで見られるとかそう言うしょうもない損得勘定でしょ?」

「さすがは千歳だな」


「そんなの誰だってわかるわよ!ってか何?その為に作られた命たちはジルツァークの為に無残に散って行ったの?」

「…そうなるな」


あー。だめだ。

ムカつく。

なんだコイツら。


「あったまきた!超頭きた!」

普段なら怒った私は止まらないのだが、りぃちゃんが「ちぃちゃん、映像が進むよ」と教えてくれたのでなんとか我慢をして映像に戻る。


映像ではジルツァークがメガネのご飯デートを断っていた。

「ごめんなさい。今はこの世界に集中したいから落ち着いたらでいいかしら?」

…これ、ジルツァークもそもそもメガネとご飯に行く気なんかほぼほぼないだろ?


「あー…、そうですよね。でも大丈夫ですよ。世界の管理には唯一のドラゴンを用意しましたから」

メガネがタカドラの存在をジルツァークに知らせるとジルツァークは「は?」と言って凄い顔をするが今回もメガネは気づかない、気にしないのか?


それどころかメガネは興味を持って貰えたと誤認したのか嬉々として話し始める。

「このドラゴンが本能的に世界を管理しますから、もしご飯に行きたくなった日にはドラゴンに任せても平気ですからね。それに500年生きたドラゴンは神化するように設定しましたから長期の不在も問題ないですからね。それにドラゴンの補佐をエルフとドワーフにするようにも言いつけてあります。ちなみにドラゴンは万一死んでしまってもタマゴで残してあるのでそちらを台座に乗せればまた世界は正常になりますからね」


…え?タカドラが生み出された理由ってジルツァークとご飯デートがしたいからなの?

マジで意味が分からない。

私の表情を察したりぃちゃんが「多分、このメガネって全部自分に好意的に捉えるんだと思うよ。だから自分との時間を楽しむために用意しました。本当は行きたいんですよね?だったら大丈夫ですって感じなんだよ」と教えてくれる。

…ああ、それなら合点がいくよ。


当のジルツァークは勝手なメガネの振る舞いにご立腹だ。

自分が貰った世界に余計な命が用意されていてそれが自分とご飯デートの為に用意されたお節介だとわかれば面白くない。


「え?何勝手な事をしているの?」

「え?私とご飯に行く時に世界はもって来れないですよね?」


ジルツァークとメガネの会話はとにかくかみ合わない。

だがメガネはその事はなにもわからずにとにかく自分の欲求を満たす事ばかりを考えていた。

その態度にジルツァークが遂にキレた。


「あああああ、もういい。どうもありがとう!今は集中したいから全部落ち着いたりわからない点が出てきたら連絡するから!またね!!」

そう言ってジルツァークはエクサイトを持って行ってしまった。


「これが理由だ。大体わかっただろう?」

地球の神様が半ば呆れながら私に聞いてくる。


「ええ、よーくわかったわよ。メガネがどうしようも無いって事と、ジルツァークがどうかしてるって事はよく分かったわよ」

私も呆れながら返した。



**********



とりあえずメガネの作ったエクサイトという世界。

そのエクサイトが作られた理由とエクサイトを欲した女神ジルツァーク。

ジルツァークが女神と人間が手を取り合う世界を作りたいという思いで暴走している事はわかった。


そして予定外に色々見たのでモヤモヤしてしまう。

まだ木曜日なのだがちょっと無茶をしたくなる。


「千歳…」

「わかってるよ。アートの事もエクサイト…ジルツァークの事も私なりで少し手伝うよ」

地球の神様が疲れた私の顔を見て少し申し訳なさそうにしている。

この人は神のとりまとめ役なのでこういう苦労は多いのだろう。


「助かる」

「じゃあ帰るよ。ジルツァークの事とか、わかったり話したくなったらまた来るからね」


「わかった。気をつけて帰るのだ」

「りぃちゃん、隠匿神さんまたね」

「またねちぃちゃん」

「千歳、バイバイ」


私は瞬間移動で開発室に帰る。

ジョマはお母さんとはまた別の特別非常勤で、お母さんは週に数回午後だけガーデンに入りに会社に来るがジョマは月曜日から金曜日の10時から15時で会社に居る。


私が開発室に戻ると東さんは私の顔つきで何かあった事を察してくれる。

そもそも今日は先日残業をした件の延長で、サードで食材が変化した事で起きたケィの問題点が他のシィア等で起きていないかをのんびり視察していた所を地球の神様に呼び出されたのを東さんも見ただろう。


「東さん、話があるの」

「千歳、その顔は大変な話だね。何処で話をする?」

東さんが優しい面持ちで聞いてくれると私は少し安心する。


「お父さん達も呼びたいからここが良い」

私は時計を見ると15時を少し回った所でジョマはまだ会社に居るだろう。


「ジョマも呼ぶよ」

私は心の声でジョマを呼ぶ。


「話があるの。アートにバレなければ同時進行して、バレそうならアートに残業になったって伝えて」

「千歳様?わかりました。今は開発室ですね?行きます」


「ジョマは呼んだよ。次はお父さんを呼ぶよ。

お父さん?ごめんね。千聖とルルお母さんには申し訳ないんだけど話をしたいから開発室まで来て」

お父さんは私の声色で察してくれて即座に帰ってくる。


「千明は呼ぶかい?」

東さんが申し訳なさそうにお母さんの名前を出す。

「…うん。そうだね。私が呼ぶよ。お母さん?今平気?うん。ちょっと話したいんだ。開発室に呼びたい。着替えたら呼びかけて」


そうしてガーデンの開発メンバーが開発室に集まる。

年に一度あるかの事で基本的にこんな事はない。

だが私が呼んだ事で事の重大さ、重要さ、面倒臭さは伝わったと思う。

全員5分もせずに揃う。


「千歳、どうした?」

「何かあったのね?」

「千歳様?平気ですか?」

私の顔を見てお父さんもお母さんもジョマも心配してくれる。


「うん。皆ごめんね。とりあえず今地球の神様に呼び出されて行ってきたからその話がしたいの」


そうして私はアートがメガネの作った世界、エクサイトを見たがっている事、万一見たくてトキタマ君を頼った日にはトキタマ君に助けてあげて欲しいとお願いした事を説明した。

そしてトキタマ君を頼っていたのは地球の神様も一緒だった事も言う。


「地球の神様はこの前のトラブルもトキタマ君に頼んで見守ってくれていたんだよ」


「京子のトラブルってこの前の金曜日に創造神崩れとゴロツキに絡まれた件だな?」

「京子ちゃんの為に千歳達が創造神達に話をつけたのよね?それでその時にエクサイトを知って見たくなったのね?」

お父さんとお母さんは情報の整理をしながら確認をしてくる。

私は相槌を打ちながらそうだよと言う。



「アート…ダメだって言ったのに…」ジョマが悲しげな顔をする。


「まあ京子の気持ちもわからんではないだろ?」

「常継?」

お父さんがアートの気持ちを察した事に東さんが驚いた目をする。


「お前達の見た目は人間だが中身は神だからわからんと思うが、子供ってのは親にダメ出しされて納得なんて無理なんだよ。我慢できなくなるんだ。

簡単な話なら中学生の坊主共なんてダメだって言われれば言われる程にエロ本を隠れて読むぜ?」

「…確かにそうよね」

お父さんの意見にお母さんも同調する。



「常継、今はスマホでそういうサイトかもね」

「うるせー、俺の時代は本だったんだよ。先輩とかから回ってきたやつを皆で河原とかで読んだりしたもんだ」

お父さんが懐かしむ表情で説明をする。

それにしても河原で回し読みすんの?

何なのそれ?男子中学生の生態はわからない。


…例えはおかしいがお父さんが言うと不思議と東さんもジョマも納得をする。

アートの地球での名前もお父さんの鶴の一声で決まってしまった程だ。

アートと名付けた私は地球での名前も「東 亜子」や「東 亜都」と思っていたのに「バカか?京太郎と道子の娘なんだから京子にしておけ」と言って東さんとジョマは「確かに」と受け入れてしまう。


今もお父さんを呼んだのはまとめ役になるからで、万一お父さんがおかしな事を言った時のためにお母さんにも来てもらった。



**********



「千歳、この話をすると言うことは、京子ちゃんはエクサイトを見たのね」

「うん。地球の神様の前でりぃちゃんと隠匿神さんの力を借りて見たらしいよ。らしいと言うのは私が呼ばれたのはその後なんだよね」


「それで千歳はここに僕たちを集めてどうしたいんだい?」

…東さんも余裕がない。

私の心を読もうとしていない。


私は読まれたらわかるように防壁を張っておいたが防壁は無傷だ。


「バカヤロウ。お前達の顔が険しくて2対1が嫌だから俺たちを呼んでんだよ。東、俺の娘に凄むな」

お父さんが東さんに釘を刺してくれると少し東さんの空気が軽くなる。

こういう時のお父さんは本当に頼りになる。


「エクサイトは重い世界だったよ。

作ったメガネの動機もとんでもないもので出自も無茶苦茶、受け取ったジルツァークって女神も無茶苦茶なの。そしてその世界は悲惨で陰惨で凄惨な救われない命ばかりの世界。

私は危うく感化しかけてジルツァークもメガネもエクサイトを泣かせる存在を圧倒したくなった程だよ。

でもだからってお父さんが言ったみたいに「やめなさい」でアートが納得する訳はない。

危険を冒してでも見に行くと思う。

止めても下手をしたらジルツァークを探してしまうと思うの」

そう、地球の神様もそれが心配だから私を呼んだ。


「千歳…」

「だから私はアートに追体験をさせてもライブラリ閲覧をしても平気になるようなアート専用のアーティファクトを作りたいと思う」

これはエクサイトを見てアートが見たがった時、私の制止を振り切る事を容易に想像できたから考えていた。


「アーティファクトを作るのかい?」

「それはどんな物ですか?」

東さんとジョマが心配そうに私を見る。

やはりアートの事になると2人に余裕がなくなる。


「表現がマイルドになる伊達メガネのアーティファクト。レンズは汚れるから付けない予定。

そのメガネをかけるとライブラリ閲覧は絵本を読む感じになるの。

追体験はアートが休日に観ている魔法少女のアニメや実写の戦隊モノみたいな感じになるようにするよ。

それなら人々が蹂躙される残酷描写も幼児番組レベルまで緩和出来る」


「良いじゃないか」

「千歳、あなたそれだけじゃないわね?」

お父さんが賛成してくれてお母さんはその先がある事を見抜く。


「うん。後はアートがエクサイトを見る時は私も陰でバックアップに入るよ」


「千歳」

「千歳様」

そう言うと心配と申し訳なさが合い混じった顔で東さんとジョマが私を見る。


「やっぱり俺と千明を呼んで正解だな。

千歳、東達は考えが回ってない。

なんでそこまでする?

京子の為だけか?」


「お父さんは本当に他人の時は鈍感男じゃなくなるね。私はエクサイトとジルツァークも救うの」

少しだけと地球の神様には言ったがそう言う訳にはもう行かない。

私は見てしまった。知ってしまった。関わってしまった。


「千歳?なんでだい?」

「千歳様?見てしまったからですか?」


「それも少しだけある。

でも地球の神様に頼まれたし、その時の言葉を聞いたら私は我慢できなくなったの。

地球の神様からジルツァークはジョマと東さんを合わせたような存在だって言われたの。

自身が何の神か知らずにいる。

初めて行った世界の創造を必要以上に酷評されて偽りの神と決めつけられた存在。

エクサイトは無茶苦茶だったしジルツァークも訳わからないけどアイツが自分の生み出した存在と仲良く手を取り合っていきたいから頑張っているのはわかった。

方法が間違っていて許されるやり方ではないけど必死さは伝わったの。

だから救いたい」

私は東さんとジョマの目を見て言う。


「博愛の女神の本領発揮だな」

「お父さん?」


「だがやり過ぎるなよ。そして人間でやり遂げろよな」

「わかってるよぉ」



「千歳様…、千歳様がそこまで…」

「ジョマ、良いんだよ。ただお願いはアートを見守ってあげて。

本当にダメな時は止めて良いけどそれ以外はアートの頑張りを認めてあげてね」


「はい」

「ありがとう千歳」


「ううん」

私は良いんだよと言う顔で首を振る。

これでひとまず出来る事はした。



「千歳、ツネノリが「千歳が最近ベッドに潜り込まない」って心配してたぞ?」

「千聖がいるからやれないよぉ。千聖に心配されちゃうもん」

私はモヤモヤするとツネノリのベッドでくっ付いて寝る事で心を安定させる癖がある。

だが奥さんのメリシアさんは許してくれても娘の千聖はそれを知らないから心配するだろう。


「急に行かなくなるから心配されるのよ」

お母さんが笑いながら言う。


「ツネノリのくせに。でもモヤモヤしてはいるからこのまま直帰してもいいかな?」

私が上司である4人を見ながら言う。


「その感じだと夕飯もいらんな?」

「うん」


「泊まる?帰ってくる?」

「わかんないけど帰ると思うよ。今日はまだ木曜日だもん」

お父さんとお母さんは分かってくれているので話が早い。


「千歳様、本当にありがとうございます」

「いいよぉ。あ、でもエクサイトで手が離せない時はサードの事を頼んでもいいかな?」


「千歳、同時進行は苦手かい?」

「あはは、やっぱり私には向いていないのかも、疲れるんだよね」

本当に10年も経つと私と王様の違いが明らかになっていく。

最初は似ていた神如き力だが私は家を創ったりする事は得意だが同時進行は苦手だ。

王様はその反対だ。


「わかりました。お任せくださいね」

「千明は僕が送っておくから気にしないでいいよ」


「千歳、ビリン君によろしくね」

「千歳、ビリンをあんまり困らせんなよな」


「わかってるよ」



**********



私はそのままビリンさんの所に行く。

今はジョマがビリンさんに授けた「千歳の力」があるので何処にいるかを確認しないでも指輪に照準をつければ瞬間移動は可能だ。

そして出現位置をある程度曖昧にする事でお風呂やトイレなんかに出くわさないで済むようにしている。


瞬間移動をした先、ビリンさんは何でかお城に帰ってきていて自室に居た。

この時間にお城に居るのは珍しい。目の前に居るビリンさんは訓練していたようでお風呂上がりだ。


「お帰りチトセ」

「あれ?今日はお城で訓練してたの?」


「んにゃ、ハズレ」

「へ?でもまだ4時前だよ?」


ちょうどその時部屋の扉が開く。

「お待たせ〜」

「ジチさん?」


王様の3人の奥さんの1人、料理上手のジチさんがお皿を持ってビリンさんの部屋に入ってくる。


「チトセが来るのを知っていたからお姉さんはお肉を焼いて待っていたんだよ〜。さあお疲れ様、食べなさい」


「うん」

私にフォークを渡してくれるので私はそのままジチさんのお皿からお肉をひと切れ取って口に入れる。しつこくない程よい油が美味しさを引き立てている。

ジチさんの焼いてくれたお肉はいつもながら美味しい。


「美味しい?」

「うん。いつもと同じなのにいつもこの前より美味しいって感じるのが凄いよね」

自分で料理をするようになって本当にジチさんの凄さがわかるようになった。


「でしょ?そこはお姉さんご飯だからね~。

チトセも料理の学校に行ったから上手だけど、だからこそ人のご飯の美味しさってわかるでしょ?」

「うん。でもビリンさんがお城に返されていてお肉がタイミングよく出てくるってことは…」

私はこの間の良さを訝しむとジチさんの後ろから「そうだよ。僕だよ」と声がする。

その声は王様だ。


「王様、タイミング良すぎだよね」

「そうかな?普通さ」

王様がふてぶてしい笑顔で言う。


「普通は半神半人がゼロガーデンの管理の他に神の世界まで見張らないからね?」

「僕はゼロガーデンとゼロガーデンの人間以外ではアートとチトセしか見守らないよ。黒い僕も同じだけどね」

…まったくこの2人はもう。


だがそれならこっちも先に進めよう。

「王様はどこまで見たの?」

「え?ただアートがトキタマを頼ってエクサイトを見た事と、チトセが地球の神に呼ばれてモヤモヤしたところだけさ」


「じゃあエクサイトは見てないんだね」

「見たほうがいい?」

王様がちょっと楽しそうに聞いてくる。


「微妙。ジルツァークが悪い奴で救いが無ければ別だけどそんなに嫌な奴じゃなさそうなんだよ。本当に微妙でさ、やっている事は悪い事なんだけどジルツァーク自身はまだよくわからないの」

「成る程ね。じゃあ後でリリオから伝達してもらおう」


「…見るんだ」

「チトセでも良いんだけどさ。ビリンがヤキモチ妬いてふてくされてるからチトセは解放してあげるよ」

ビリンさんが笑いながらビリンさんを指さすとビリンさんの顔が険しいのがわかる。

本当に面白くなさそうだ。


「ええぇぇぇ、普通父親にヤキモチ妬く?」

「本当、キヨロスくんはお姉さん達にメロメロだからチトセは補欠の4番目だよ?」

…補欠外でいいんですけど?

4番目ってすぐに順番来そうで困るんですけど…。


「わかってるけど面白くない」

ビリンさんは25歳になっても昔と変わらない顔でふてくされる。


「ふふ、まったくもう。ほら今日は私がモヤモヤしてるんだからファーストに行こうよ」

「おう。んじゃ父さんとジチ母さん。行ってくるよ」

いつもの顔に戻ったビリンさんが王様たちに出かける事を言う。


「はいはい。楽しんでおいで」

「チトセ、ビリンの事をよろしくね」

私達は見送られながらファーストガーデンに瞬間移動をした。



**********



「チトセは何の気分?」

「お肉」

お魚はこの前パーティしたから今日は絶対に肉だ。


「だよな〜。なのにファーストなのか?」

「この時間に泊まれるホテルはファーストの方が綺麗なんだもん」


「まあセカンドは冒険メインだから仕方ないよ。24時間いつでも開いている宿屋はどうしても冒険者用になるもんな」

「うーん、宿はファーストでご飯はセカンドにする?」


「構わないよ。チトセの好きにして」

「ふぇ、また喋り方」

私が赤くなる余所行きの王子様モードの話し方になるビリンさん。


「チトセがお疲れならこっちで優しくしようかなと思ってさ」

「むぅ。ありがとう」


「いや、じゃあ24時間営業の焼肉屋にするかい?」

「うん。ホテルはセンターシティで取るから先に行こう」


センターシティのお高いホテルに泊まってスタッフさんには「ちよっとセカンドまで24時間営業の焼肉屋さんに行ってきます。部屋には勝手に戻るから気にしないでくださいね」と言うと「かしこまりました千歳様」と返事をくれる。

こういう時に開発側で神をしていると助かる。


お金は私も毎月ガーデンで使う用に支給されているので気兼ねなく使う。

…まあ同時進行で稼いでもいいけどビリンさんは「足りなくなったら稼げって」と笑うので今日は稼がない。


「焼肉は何時間食べるんだい?」

「話し方、元に戻してよぉ」

流石に続くと照れてしまうし私の方も変なスイッチが入りそうだ。


「あ、そうか?んで?どれくらい食べるんだ?」

「別にそんなに食べないよぉ」


笑いながら焼肉屋さんに行ったが結局は3時間くらいこれでもかと食べてしまった。


「食べたなぁ」

「本当、スッキリしたよ」

2人で外に出ると笑ってしまう。


「そりゃ良かった」

「ほら、帰ってゆっくりしようよ」


「おう」

2人でホテルに戻る。

ものすごく広い部屋。

1番お高いホテルの良い部屋にしてしまったので下手なマンションみたいに大きい。

窓からはファーストの綺麗な景色が一望できる。


「お風呂入ろうよ」

「おう」


そう言って2人で大きいお風呂に入った時、初めて2人でここに泊まって2人で赤面した事を思い出して笑う。


「チトセも思い出した?」

「うん。あの時は照れたよね」

私達は顔を赤くしながら笑ってしまう。


「本当だぜ。まさかこの部屋でカーイさん達がハッスルしたとは思わなかったもんな」

「ジョマがわざと装飾なんて言ってテーブルに写真を置いていってね」


そう。

かつてカーイさんはカリンさんとマリカさんと結婚にふさわしい相手かを確認する為にここで3人一緒に一晩中そう言う事をしていた。


ジョマはわざとそう言う写真じゃなくて3人でお酒とおつまみを並べてニコニコとしている写真を置いて行った。

だが3人の凄まじさを知ってしまっていた私たちはその写真を前に冷静では居られずに「まさかこの後ここで?」「いや、すでに事後か!?」と写真からアレコレを想像してしまい赤面してしまった。

カーイさん達はエテと言う秘境宿に泊まった時に一晩中し倒していて女将さんからクレームが入った。

勇者をしているツネノリが苦虫を頬張ったような顔で注意に行くと3人にやり返されていた。これは興味があったので追体験をしてツネノリ視点ではなく俯瞰で見てみたが哀れの一言だった。


当時、そんな事を知らない私はエテに泊まりに行く日にお父さんから聞いて慌てたのだ。

そんな訳で写真一枚から私達はとんでもない事になっていた。


「チトセ…追体験するなよな。感化して欲しくないし、なんか見て欲しくない」

「私だって映像化したくないよ。カリンさんとマリカさんは私より大きくて細いんだよ」


あの日は何をするにもぎこちなかった。

折角だからと2人で高級ホテルに泊まってイチャイチャするつもりだったのが出鼻をくじかれる。

お風呂に入ってもベッドで寝てもあの3人の痴態が目に物浮かんでくるのだ。

それで寝不足になってしまい、帰ったらルルお母さんから「まさか千歳!?その目の下のクマは……ふしだらな事があったと言うのか!?」と騒がれた。

ビリンさんもリーンさん達3母からイジられていた。


「あれは参ったよねー」

「本当だな」

そう言いながらお風呂の淵に後頭部を乗せて力を抜く。


「あー、伸び伸びと入れるお風呂っていいねー」

「本当だなー」

うちのお風呂も小さくはないがやはりこういう風にはいかない。


「ビリンさんはお城の大きいお風呂でしょ?」

「まあな。でもチトセと入るとなんか違うんだよな」

一瞬「出汁でも出てる?」とボケてみようかと思ったが何となく今の気分はそうじゃない。イチャイチャ気分だ。


「嬉しい?」

「ああ、サイコーだ」

そう言ってこっちを見た顔にキュンとなった私は「私も!」と言って浴槽で抱きつくとビリンさんが滑って溺れて死にかけた。


「あー、死ぬかと思った」

「あはは、ごめんね」

ビリンさんは怒るのではなく嬉しそうに笑っている。

死にそうになった事すら嬉しんでくれる。

本当に幸せな気持ちにしてくれる人だ。



**********



「もう遅いから寝るか」

「そうだね」

ベッドに入って私が「う」と言ったところで腕が出てくる。


「流石」

「だろ?」

そう言って腕にくっついて横になるとビリンさんが少しだけ笑う。


「ん?どしたの?」

何か笑われるような事ってあったっけ?


「さあチトセ、溜め込んでる事を言うんだ。また言いたい事がなかなか言えないチトセになってたぞ?」

ビリンさんがわざと余所行きの顔と声で言ってくれる。


「むぅ。ビリンさんのくせに」

「そりゃあ俺だからな」



「りぃちゃん達も見ていたんだけどね」と前置きをしてから今日の出来事を話す。


ジルツァークにムカムカしたりモヤモヤしたりメガネに気持ち悪くなったことなんかを伝えるとビリンさんがウンウンと頷きながら聞いてくれる。


「あれだな。ジルツァークって人間臭い神様なんだな」

「へ?」


「いや、俺の感想なんだけどさ。神って初めから得意分野とかってセンスは養えないにしても本能でやれそうじゃね?」

「ん?」


「だから覗きの神なら教わらなくても簡単な所なら覗けそうって事。酒の神なら教わらなくても美味しい酒をお店で見破ったりとかさ」

「んん?」


「チトセ?」

ビリンさんが私の相槌を訝しむ。


「続けて!なんかピンとくる気がする」

そう、何かピンと来ているからビリンさんの話がもっと聞きたい。


「へへ、俺役に立ってる?嬉しいぜ。だからさ何回も試行錯誤してって人間臭いなって感じたんだよ。

黒父さんに勝つ為に頑張った時に「きっと父さんやチトセなら2度目には対処するんだろうなぁ」ってぼやきながら訓練したしさ、他の奴なら諦めて嫌になるのに諦めないなんて俺はチトセが大好きなんだなって思ったんだよ」


「試行錯誤…、そうだよ。

ビリンさん!答えて!夢の中で黒さんに扮した王様に痛めつけられていたよね?」

ビリンさんが黒さんに勝つために訓練をしていた時、夢の世界で王様がビリンさんを鍛えてくれていた。

やり方はアレだったが為にはなっている。


「あ?あれか…ムカつくよな。

後でチトセから聞いた日には感謝しつつも腹立ったんだよな」


「違うって。そうなんだけど訓練中に王様はルルお母さんが作った「暴風の腕輪」を本物の神が作ったS級アーティファクトには敵わないって言って高速移動の訓練でビリンさんを痛めつけたの!」

「あ?あったな。それがどうしたんだ?」


「後は東さんにも聞いたよ!ビリンさんが求めれば私の為にどんなアーティファクトでも授けたって。その時に「瞬きの靴」を欲しくならなかったの?」


「ああ、神様が何かくれるって言ってくれたんだよな。あ、俺結局なんも貰ってないや」

ビリンさんが「忘れてた」と言って笑う。


「笑うなって、そうじゃないよ。その時どう思った?」

「あれか?俺にもS級があればって思ったかって?いや、俺は自力でなんとかしてやるよ!って思ったぜ。自分の力でやり遂げてチトセの涙を止めたかったんだ」


「じゃあもし黒さんの方が私を守れるって言われた時に諦める?」

「んな訳無いだろ?俺の方がやれるさ。今はダメでも努力するさ」


「後もしさ、将来ウチの千聖がサウスで成人の儀を受けてB級アーティファクトを授かって、シエナさんとザンネさんのサエナがS級を授かって、その事に千聖が落ち込んでいたらビリンさんならなんて言うの?」


「そんなもん努力すれば何とかなるって言うさ。俺は努力をしてS級でガチガチに固めた黒父さんに勝った男だぜ?」

「それだ…」


来た。

何となくだけど答えに行きついた気がする。


「はぁ?」

「それだよビリンさん。ジルツァークは神なのに人間なんだよ!」

私は布団の中で抱き合いながら興奮して声が大きくなってしまう。


「半神半人なのか?」

「ううん。そうじゃないよ。さっき言ってくれたことが答えだったんだよ。

試行錯誤を繰り返す神、神ならあっという間に出来る事でもジルツァークは何回も悩むでしょ?」


「そうだな。じゃあジルツァークは何の神なんだ?」

「恐らくだけど、努力の神なんじゃないかな?努力をする必要がある神。可能性の神とかそういう人間みたいな神なんだよ」


「なるほどな。可能性の神が正解かもな。努力次第でどの神よりも凄い結果になるとかな」

「そうだよ。だから地球の神は私やりぃちゃんは答えに行きつきにくいって言ったんだ…。努力なんて人間には当たり前のことだもん」


「そこはチトセの為に血を吐く思いをして努力をした俺が居るから何とかなったな」

ビリンさんが笑いながら言う。


「そうだね。ビリンさんのお陰だよ。ありがとう」

「へへ、良かったぜ」

そう言ったビリンさんが少しだけモジモジする。


「何?ご褒美欲しいの?」

「あ、わかる?近くでテンション高いチトセを見ていたら滅茶苦茶可愛くてさ、思い切りキスしたくなったんだ」


「いいよ。私も滅茶苦茶キスしたいんだ」

「モヤモヤしてる顔だもんな。キスで吹き飛ばそうぜ」


そう言って私達はこの滅茶苦茶キスをした。

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