表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おまけガーデン。  作者: さんまぐ
アートのマジカルナース。
19/19

アートのマジカルナース。

先週、5歳の誕生日を迎えたアートが東さんとジョマからマジカルナース変身セットを買って貰っていた。


「ふぉぉぉぉっ!千歳!今日からアートはマジカルナースだよ!」

包装紙をビリビリに破いて中から出てきたマジカルナースの変身セットを見て大興奮のアート。


変身セットの服は白基調のヒラヒラフリフリのナース服で5人のマジカルナースに合わせて5色の差し色が入っている。

アートは青の差し色を選んで「ブルーナース」になっていた。


基本的にアートの持ち物はピンク系が多い。

ジョマのアートに対するイメージと私の祝福を受けている事、ガーデンでの私のイメージカラーを皆に聞くとサードでも何処でも赤なのでそれに合わせてピンクらしい。


「イメージカラーが赤って完全に見た目に釣られてないか?」


ちなみにアートはマジカルウェポンと言う専用武器は買って貰えなかった。

お父さんが「京子、東はケチだな。俺が誕生日で買ってやるよ」と言ったのだが「常継?職権濫用して査定を最低まで下げられたいかい?」と笑顔で睨まれていた。


お父さんが器用にも苦虫を噛みながら青い顔をする。


「お父さん、ダメだって。

アートは去年のマジカルハードレイバー変身セットでマジカルウェポンのマジカルつるはしも一緒に買って貰ったけど、ビリンさんの頭をフルスイングで殴打して取り上げられたでしょ?」


そう、その年の…4歳のアートは入園したての幼稚園で評判だったマジカルシリーズ最新作のマジカルハードレイバーを初めて見た。

アニメ自体はお正月明けから始まるらしく、入園式後に知って観た時は1話ではなくもう18話だったが、観た回は黄色いツナギのマジカルロードと言う道路工事専門のマジカルさんがメイン回で悪の組織が道路を滅茶苦茶にして各地で救急車や消防車が現場に駆けつけられなくて街が大混乱する話だったがマジカルロードの活躍で滅茶苦茶な道路はあっという間に元に戻って街の皆は助かった。

そしてその中で道路を直し、敵を倒したマジカルつるはしでのフルスイングに心惹かれたアートはお誕生日に黄色のつなぎとつるはしを買って貰っていた。

そして翌日にはウチにいたビリンさんに向かって「マジカル!クラッシュ!!」と言いながらつるはしを振った。

そしてつるはしは短い生涯を終えた。

アートの奴は無意識に神の力を上乗せしていやがった。

お前がやるとマジのマジカルだからダメだって話をしたら笑っていた。

ビリンさんは二の村仕込みの虐た…もとい、訓練を受けていて妙に頑丈だし、私が慌てて時を戻して怪我を無かったことにしたから助かった。

それでも「あー、死ぬかと思った」と笑顔で言うビリンさんを偉いなと思って当時ビリンさんがはまっていた私作のロールキャベツを山盛り食べさせてあげた。


「あ、そうだった。てかハードレイバーって重労働か?なんでそんなタイトルなんだよ?」

「なんか女の子の職業意識改革を狙って女の子があまり行かない肉体労働系の職種に絞ったんだって」


それもあってこの年の女の子達のなりたい職業ランキングに今まで圏外だった肉体労働が何個かノミネートされていた。アートも神の仕事がなかったら道路工事の人になりたいと言って居たほどだった。


「だからダメなんだよツネツギー」

アートが困り笑顔でお父さんに言う。


「お前、諦め早いな。千歳なら火がついたようにブチギレていたぞ?」

「お父さん!?」


「確かに千歳はそうだったわね」

「お母さん!?」


「へぇ、チトセってそんな子供だったんだ」

「ビリンさん!?違うよ!」


突然の黒歴史公開に私は思わず驚く。

それに思い返しても諦められないでみっともない感じで荒れた事なんてないぞ?


「まあ千歳の場合は欲しいのに遠慮して言わないんだよ。それをこっちが察して買ってやらないと機嫌が悪くなるんだよな。

それでその先が更に問題で「お前、何に不貞腐れてんだ?」って聞いたら「不貞腐れてない!」って火がついたようにブチギレんだよ」


お父さんの言葉に「ああ、今と変わらないと…」とビリンさんが私を見る。

…確かにそのイメージはある。


「そう言うことね。ビリン君には食べたい物をキチンと言うけど千歳はセカンドの時もギリギリまで常則の食べたい物に合わせて居たから常則は千歳の好きな食べ物すら最終戦まで知らなかったのよ?」


ここで皆が一斉に私を見て「やっぱりね」と言う。

「…くそぅ、居心地が悪い」


この後、東さんとジョマはわざわざスマホでアートの決めポーズを写真撮ってはホクホクしてアートを褒めちぎっていた。



**********



一通り写真撮影も済んだので私はアートを呼んで気になった事を聞く。

「アート」

「何千歳?」


「アンタなんで今年は青なの?」

「赤の赤井ちゃんもドジで格好いいんだけど…。

ほら、赤って千歳の色だしアートはお姉さんだから千歳に遠慮して我慢してあげたんだよぉ〜。だから千歳もレッドナースになっていいんだからね?」

アートがマジカルナースのイラストを持ってニヤニヤと迫ってくる。


「ならないわよ。服だって着れないわよ」

「服は大人用も売ってるよ?5万円だったかな?ママがすごい顔でスマホ見てたよ」


5万円?あり得ない金額に驚いた私は思わずジョマを見て「ジョマ、マジで?」と聞いてしまう。ジョマも呆れた顔で「ええ、皆さんお金持ちですよね」と言う。神の金銭感覚でも信じられないのね。


「なあアート、チトセにお似合いのドジで格好いい赤って何すんの?」

「赤井ちゃんはね。13歳でボクサー志望の女の子なんだけど、街で強盗を殴り倒した時に持っていたナイフで腕を切られてね。たまたまそこにいたマジカルイエローが傷の手当てをした時に共鳴した事でマジカルナースの才能に気付いてマジカル診療所に連れて行くんだよ。それで最初はボクサーになりたいから嫌だって拒むんだけど、最後にはお手伝いとして働く事になったんだよ」


13でボクサー志望?

街で強盗と戦って負傷?

そして働く?

無茶苦茶だなおい。


「それで他のマジカルナース達はナース志望の女の子達だから色々出来るけど、ボクサー志望の赤井ちゃんはね採血も失敗するし、カルテが読めなくてお薬間違えるし大変なんだけど、それでも真面目で明るい性格で頑張るんだよ!」

アートが鼻息荒く「ムッハー!」と言った感じでビリンさんに抱き着いて説明をする。

私と言えば聞きながら「い…医療ミスじゃないの?私が観ていたら医療ドラマだと大変な騒ぎになってたぞ?」とか大人げないつまらない事を考えてしまっていた。


「はほう。そいつは何を武器にして戦うんだ?」

「マジカルナックル!ベッドメイキングとか移送の得意なグリーンナースがマジカルベッドやマジカルストレッチャーにくくりつけた怪人の顔面に向かって「悪の病よ去れ!マジカルナックル!」って殴って倒すの。

本気で怒った時は「マジムカつく!マジカルラッシュだ!!」って言ってテレビでも延々2分間も怪人を殴り続けたよ」


それ、放送出来るのか?

いや、してるんだけど良いのか?


そう思っていたら私の表情から心を読んだのだろう。

東さんが「千歳、きっかけ作りだよ。これでナースに興味を持つ女の子が現れたら皆の為になるだろ?」と教えてくれた。



「んで、アートの青いのは何すんだ?」

「ふっふっふ…あ!今度教えてあげるよ!ママ!ナースお姉ちゃんにこの服見せたい!」

アートが急にナースお姉さんの名前を出す。

まあ、治癒神であるナースお姉さんは神の世界でナース服を着ているので見せて盛り上がりたいのだろうが…なんか引っかかる。


ジョマはそんな事に気付かずに「お誕生日会が終わったら行きなさい」とニコニコとしている。まあ、親としては可愛い娘を皆に披露したいのだろう。

アートは気持ちのいい「はーい!」と言う返事をしているが急にいたずらの顔になったのが気になった。

まあ真名を知る私なら最悪の時は止められるから良いや。

その日はご馳走を食べ尽くして少しして解散になった。


アートは翌日の日曜日にはウチにマジカルナース変身セットを持ってきていそいそと変身する。

朝早すぎて皆寝間着だ。

アートの場合、ウチに来るのは瞬間移動を家主のお父さんに許されているので寝起き5秒でウチに来る事とかもある。

私は仕方なくアートに取り置きの服を着替えさせながら「アンタ朝ごはんは?」と聞くと「まだ!ビリンとマジカルナースごっこしたくてきちゃったんだよぉ〜」と言う。

ビリンさんはウチにお泊まりをしたので確かに居るが寝起きでアートのごっこ遊びはキツい。

正に寝耳に水なビリンさんは「へ?俺?」と言うのだが…。


「現れたな!ダークインフル!!」

アートはもう役にハマっていてビリンさんと会話が成立していない。

当然ビリンさんは「へ?」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔でアートを見る。


「違うよー、ビリンは「現れたなブルーナース!」って言うんだよ」

アートが頬を膨らませながらビリンさんに意見をする。

ビリンさんは面倒見のいい方なので不満は言わずにアートを見ると「ええぇぇぇ…、あ…現れたなブルーナース」と言った。


「よくも伊加利家の皆を強毒性のインフルエンザにしたわね!許せない!」

怖い設定だなマジカルナース…。

普通のインフルエンザじゃダメだったのか?


ここでアートがブルーナースからアートに戻って私達の方を見て「皆が寝間着の時じゃないと出来ないから助かったよぉ」と言ってニコニコとする。

まあ、可愛い。アートは今日も可愛い。

うん。仕方ない。

そして何で早朝に襲撃してきたのかはこれで理解できた。寝込んだ設定なのね。それで朝イチでやって来たと…。


アートはブルーナースに戻ると「とぉっ!」と言いながら飛び蹴りを放つ。

ビリンさんは避けずに受け止める。


「違うよ!避けるんだよぉ」

アートがすかさず演技指導に入る。

忙しいな。


「うぇっ!?」と驚きながらもアートの演技指導を受け入れるビリンさん。

その後数回かわした所でアートの奴がやりやがった。



「くっ、私だけではダメだわ!グリーンナース!奴をマジカルストレッチャーに縛り付けて!」


「へ?」

「え?」

「何!?」

「まぁ!」


我が家のリビングに即座に現れた緑色のストレッチャーにビリンさんが磔られた。



**********



「何あれ!?どこであんなものを手に入れたの?」と思わず慌てる私の耳に信じられない言葉が聞こえてくる。


「お…おい!これおかしいぞ全力出しても外れねえ!」

達人のビリンさんが全力で振り切れないストレッチャーってなんだよ?


「ええぇぇぇ?アート、これどうしたの?」

「ナースお姉ちゃんがお誕生日だから貸してくれたの」


本物の使う本物かよ…。

冷静になって神の目で見ると確かに神の気配がする。


「アート?」

「今はブルーナース!!」

さっきまで「アート」で反応したくせに急に役に戻りやがったな。


「はいはい。ブルーナースさん?」

「何!?インフルエンザが苦しいのね!今すぐ助けるわ!」


妙に設定に忠実だなぁ。

そしてここでちょっとだけ嫌な予感がするのでアートに聞いてみる事にする。


「いや…ナースお姉さんは貸してくれてもここまでしないよね?一応聞くけどグリーンナースさんって、もしかして男の人じゃない?」

「うん!キヨおじちゃんが一緒に遊んでくれているんだよ!」


おぃぃぃぃぃっ!

やっぱりだよ!

何やってんだよ王様!


王様の名前が出た途端ビリンさんは必死だ。

「おい!アート、ヤバいって!やめろって!父さん出てきたら俺死んじゃうよ!」

リビングの床がストレッチャーのタイヤで傷だらけになってもビリンさんは必死でもがく。

文字通り必死だ。

そしてローンこそ完済しているが、ケチツ…もとい物を大事にするお父さんは床を見て青い顔をしている。


「くっ…まだ反省の無い悪い言葉を使うのね!イエローナース!マジカル包帯でダークインフルを黙らせて!

ピンクナースはマジカルお薬で眠らせて!

その間に私が必殺のマジカル採血と奥義のマジカル点滴で始末するわ!

レッドナース抜きでも私達ならやれる!」


おい。

始末って言ったろ。

1人何役も頼まれてノリノリの王様は手だけ瞬間移動させてくると始末と聞こえてより一層必死になって「やめろって」「殺される」と騒ぐビリンさんの口に何かの薬を3錠放り込む。

私はとても不安になって神の世界のナースお姉さんに聞く。


「あー…本当はプラシーボって言う偽薬をあげるつもりだったんだけどツワモノさんが「そんなの子供騙しだよ」って言って神すら昏睡する睡眠薬を欲しがったのよね」

子供が使うんだから子供だましで十分なんだよ。

何やってんだよ王様は…。


「嘘でしょ?3錠飲まされたよ?」

「まあ普通の人間なら死ぬけど千歳の彼なら3年は寝たままくらいかな?あはは…」

ナースお姉さんはアートと王様と私に挟まれた感じで困ってしまっているのだろう。

乾いた笑いをする。


笑えねぇ!

神如き力!ビリンさんのお腹の中から薬を回収!そのまま時の力で薬を飲む前に戻す!


そうしてる間にも包帯が出てきてビリンさんをぐるぐる巻きにして行く。


リビング中に王様の「よし!動かなくなったからトドメだよブルー!」と言うノリノリの声が聞こえてくる。


「王様ぁぁぁっ!やり過ぎでしょ!」

「ふふふ、なら止めてみなよ。アートを喜ばせたまま止められるかな?」

くっ、それが狙いか。


くそっ、うちの中だけ時間制御するしかない。

「ナースお姉さん!アートに渡した点滴って何?」

「一応、栄養剤だけど神専用だから人間に使ったら身体爆発するかも?」

ありえん。

何で人間側の王様が神側に立って自分の息子を追い込んでんだよ。


「くそっ、王様!今日はどこにいるの?」

「僕かい?同時進行で城でリーン達と団欒しつつと神の世界で支払いしながらマジカルナース中さ。治癒神も横に居るよ」


この野郎。私を支払いに参加させるつもりだな。何か策を講じてやり返そうかと思ったけど仕方ない。

アートには聞こえないように心で王様に話しかける。


「支払いに使わせるつもりでしょ?」

「わかる?」


「わかるわよ!使うからね!」

「いいよ。さっき取り上げた薬も僕に返してよ」


「じゃあ渡すわよ。神如き力!隠匿の力!アートにはビリンさんの腕に見えるけど実は覗きの神の腕!」

私は時空をねじ曲げてビリンさんの腕を隠して代わりに覗きの神の腕にする。


その間もブルーナースの活躍は止まらない。


「悪の心をマジカルケアー!!

必殺!マジカル採血!!

奥義!マジカル点滴!!」


アートが決めポーズを取った後でポケットから極太注射器を出す。

「ナースお姉ちゃん!針!」


「おぃぃぃぃぃっアート!やめろって!やめろって!」

包帯でグルグル巻きにされて何も見えない中で「針!」と聞こえたビリンさんの恐怖は半端ないだろう。

更に恐怖を倍増させる「王様」と言う要素もある。


口は塞がれていて話せないので「千歳の力」に溜めてある神如き力を使って私達に必死に呼びかけている。


まあ迫真の演技が得られてアートはホクホクだ。


「マジカル採血で悪の心を抜き取ってあげる!最初は怖いけど我慢して!力を抜いてね!」

後でアートに録画したアニメを見せて貰ったが本当にそう言って怪人の腕に注射器を突き刺して悪の心を抜き取っていた。

アニメでは注射器の中身は紺と黒と紫色のマーブル模様に見える悪の心だが、今それを知らない私からすれば、生身の腕に注射器をさせば赤い血が出る。


きっとアートはドン引きで注射器を落とすかもしれない?

家の床に覗きの神の血が飛び散るのはごめんだ。

奴の血と言うだけで嫌だが、そもそも腐っても神だから何が起きるかならない。


それには備えながら先回りするか…。


私はアートに向かって「ブルーナース!先に怪人を点滴で弱らせて!」と言うとアートが「千歳!マジカルナースを知ってるの!そうなんだよ!ここで悪の心で悪あがきする怪人をナースブルーはマジカル点滴で弱らせるんだよ!」と嬉しそうに説明をする。

偶然だが正解を選んでいたようだ。


「マジカル点滴!」

そう言うとアートは小さな針のついた点滴を覗きの神の腕に刺す。

中身は栄養剤らしいが大丈夫か?


ビリンさんは必死にもがく。

「わかんねぇ!何されてるかもわかんねぇよ!俺どうなってんだ!?大丈夫か!?怖えよ!本当に怖えよチトセ!なんで点滴とか勧めてんだよ!?」


まあ、腕はビリンさんの腕じゃないから痛みも何も無いのに話が進めば怖いよね。

アートを喜ばすリアリティの為だ。

我慢してくれ…。


「さあ!ダークインフル!覚悟しなさい!」

そう言うとアートは長い針が付いた極太の注射器をビリンさんと誤認している腕に思いっきり突き刺した。


「マジカルーッ!採血!!」



**********



マジカル採血はエゲツない技だった。

怪人に宿った悪の心が無くなるまで採血で抜き取ると言うものだった。


「グリーンナース!お願い!マジカルバケツを出して!」と言ったアートの為にノリノリの王様が「お待たせブルー!」と言いながらアートの横にバケツを置いた。


そこにアートが突き刺した注射器から本気で採血をした血をバケツに捨てる。

そして注射器が空になるとまた腕に突き刺して採血をする。注射器が満杯になるとバケツに中身を捨ててまた腕に刺して抜き取る。それを何回も繰り返す。


アートがなんでドン引きしないのかと思ってアートの視点になったら王様だろう、隠匿の力でアートの注射器に溜まるのは覗きの神の血ではなくマーブル模様のモヤみたいなモノだった。


「まだ悪い心があるわね!全部なくなるまで抜いてあげるから頑張って我慢して!」

アートは鼻息荒く必死にマジカルナースを頑張っている。


「俺は血を抜かれてるのか!?どんだけ抜かれてんだ!?痛みもねえ、抜かれている感じもしねえ!死にたくねえ!こんな事で死にたくねえよチトセ!助けてくれよ!俺もっとチトセと居たいんだよ!」

ビリンさんはパニックだ。


そのうち「もうチトセと居られないのか?チトセ…今までありがとうな幸せになってくれよな…」と悲痛な叫びになって見ていられなかったので、真っ青な顔で惨状を見ていたお父さんとあらあらまあまあとにこやかなお母さんに協力して貰って「ありがとうブルーナース!なんだか治ったみたい!身体の調子がよくなったよ!」「本当!さっきまでの不調が嘘みたい」「助かったぞマジカルナース!」とアートをヨイショして満足をして貰った。


「皆!ダークインフルを倒したから治ったのね!良かった!でもちゃんと栄養を摂取してよく寝てよく食べて手洗いうがいを徹底してね!

じゃあ私はマジカル診療所に帰るから!悪の心をマジカルケア!バイバーイ!」

アートは決めポーズを取って言うことだけ言うとさっさと瞬間移動で帰って行った。




片付けもせずにだ。



日曜朝の我が家のリビングには傷だらけになった床の上に置かれたストレッチャーに磔られて包帯ぐるぐる巻きで死ぬと思って泣いているビリンさん。

怪しいバケツにたっぷりの覗きの神の血と注射器。


清々しい日曜日はどうやっても取り返せない。


「お父さん」

「ああ、どうすればいい?」

私は最後まで言わないがお父さんは分かってくれている。


「肩に手を置いて?いい?」

「ああ」

お父さんもこれ以上の言葉はいらないと私の肩に手を置く。

その前に一応お母さんに頼んでおこう。


「お母さん?ビリンさんを助けられたら助けて。ダメならスマホでジョマを呼んでね」

「もう、京子ちゃんのごっこ遊びだったんだから大目に…」

菩薩か?私以上の女神か?半神半人で女神をしている娘より女神なお母さんは穏便にと言うオーラを出している。


だが済ます訳はない。


「絶対やだ」

「絶対ダメだ」


「行くよお父さん?」

「やってくれ千歳」


「せーの…東さん!今すぐ来る!」

「東!!今すぐ来い!」

そう、子供の不始末は親に責任を取って貰う。

神とか人とか関係ない。

私とお父さんは怒鳴りながら東さんを呼ぶ。


「やあ、おはよう」

「おはようございます千歳様、皆さん」

お母さんはビリンさんの救出を断念してジョマを呼んでいた。

現れた東さんとジョマはニコニコと現れる。

きっと全部見ていて嬉しかったのだろう。

俗に言う親バカと言う奴だ。


「笑って済むレベルじゃないからね?」

「お前達、全部見てて楽しんだろ?」


「アートが片付けをしないで帰ったからね?」

「お前達が責任を持ってかたせよな」


「時の力でアートが来る前のリビングに戻してよね」

「ストレッチャーの跡がついたフローリングとかありえんからな」


「覗きの神の血もそこら辺に流さないで持って帰ってよね」

「この件は高くつくからな」


私とお父さんは怒涛の勢いで文句を言う。私達は父娘なのでテンポもいい。

流石にここまで怒られると東さんとジョマも平謝りでリビングを片付けて覗きの神の血やナースお姉さんの私物を持って帰った。


今回は流石のビリンさんでも「あー、死ぬかと思った」ではなく「父さんが関わった時はダメな奴だよ。止めてくれよジョマ」と言うくらい怖かったらしい。


リビングも元に戻った。

フローリングの傷もない。

血の匂いもしない。

でももう清々しい朝はここにはない。


一番ダメージが大きかったのはビリンさんで「ツネツギさん。チアキさん…。ちょっと辛いんで今日はチトセとファーストに行ってきても良いですか?」と談判していた。


「…ああ、静かな砂浜で波を見てくると良い」

「千歳、いつも以上に優しくしてあげなさいね」


私はわかってるよと言いながらビリンさんのお許しを得て王様が昔ナックさんとリーンさんのお風呂場を覗いた今の時間には存在しない時の姿を写真にしてリーンさんと一の村の王様のお父さん達にプレゼントしておいた。

写真の裏にはビリンさんが「よくもやってくれたな懲りろクソオヤジ」と書いていた。


こうして散々な目に遭った訳だが、この裏側を知らないアートは後で「マジカルナースごっこ遊びに付き合ってくれてありがとう」と私とビリンさんとお父さんお母さん、後は王様とナースお姉さんにお礼の手紙を書いていた。

この事で私もビリンさんもお父さんもアートを許してしまった。

くそっ、可愛くて許してしまう辺りが甘いよな。


ああ、そうだ。

後日、仔細を聞きに神の世界に行った。

注射針も点滴もナースお姉さんは本物を貸すのは嫌だと拒否をしたけど王様が押し通したと言うのでお城まで行って王様にお小言を言った。


そうしたら「チトセはわかってないなぁ。本気でやるから遊びは楽しいんだよ?アートのあの笑顔を見てもわかんないなんてね…はぁ、やれやれ。ビリンとチトセの孫の顔を見るのは当分先かな?」と言い返された。


「王様?来なかったあの日の写真をゼロガーデン中に配っていい?お城で映像化してレンカさん達と鑑賞会してもいい?王様の神如き力を封じた中でやってもいい?」と言ったら王様には拒否されたがリーンさんには「チトセちゃん!写真欲しい!お願い!」とお仕置きのつもりが頼まれてしまった。


ここまでして、ようやく王様がビリンさんに「怖かったんだね、悪かったよ」と謝っていた。


とりあえず「千歳!来年はマジカルアイドルだって!」とアートが玩具屋で見かけたチラシを持って飛び込んで来て来年もあるのかと私とビリンさんは「あはは、楽しみだねアート」と言った後で顔を見合わせて肩を落とした。



**********



あとがき。

ご無沙汰しております。

これを書いている今は「器用貧乏(名称未定)」が、まだ第三章で主人公のミチト君はダンジョンアタックも仕掛けていません。

2021年GWの息抜きにアートのマジカルナースを書いています。

器用貧乏の方がまだ大筋しか決まっていないし、主人公らしく過酷な人生を歩んでもらいましょう的にミチトが過酷な人生の部分と、ヒロインAに当たる年上お姉さんのリナとの甘口な生活をしっかり書いてしまっているせいでテンポは良くなかったりします。

今の所真面目になってしまっているので今回のアートの話はいい感じに息抜きになりました。


マジカルナースも何かアートの会話にちょいちょい混ぜられるように設定なんかを考えていましたが、結局ブルーナースの名前も蒼井葵さんって考えましたけど出ませんでした。


この先のおまけガーデンはガリルがウエストに移住した話を先に書くか、長くなるけどマリオンとマリーとマリクとリンカの話を書いてしまうべきか悩んでいます。


何であれ、これからもお付き合いいただけたら幸いです。

おまけガーデンではあまり長く後書きを書かないので次のおまけガーデンでまたお会いできたら幸いです。

2021年5月5日

さんまぐ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ