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おまけガーデン。  作者: さんまぐ
アートの女神イロドリ。
18/19

エクサイトのまとめ。

金曜日の夜中、ジェイドとアートの再会は日曜のお昼になるようにジルツァークは時間制御をしつつアートと2人でジェイドの夢に赴いて姿を見せずに「グリアに来て」とだけ伝えた。


「3人の足なら4日くらいかかるから1日を3日くらいにすれば日曜日にはグリアに居るよ」

「ありがとうジルツァーク!」


勉強の一環で眠っていたアートの夢にジョマと入ったジルツァークがジェイドの夢にはしごして一言告げていた。


そのままジルツァークも「今日は寝ようかな」と言ってエクサイトの神の領域で寝たのは完全な悪手だった。



ジェイドは夜明けと共に目覚めると1人でブルアを後にしていて一昼夜走り続けた。


そんな訳でエクサイトの4日、日本で言う日曜日の思惑は見事に外れて土曜の朝にはグリアに着いてしまうジェイドだった。


ちなみに私は今回も大きくしたベッドでビリンさんに甘え倒して眠っていたらジョマに叩き起こされた。


時計の針は8時を少し過ぎていた。


「何!?どうしたの?」

「手違いでジェイドがグリアに着いてしまいました。今はジルツァークがグリアに行ってジェイドに少し待つように言ってます。

その他ではタカドラに急いでカナリーとエルムを準備させています」


「ジルツァークめぇ…。ジェイドの性格を深読みしてよ…。アートは?」

「アートも今起きて頑張って身支度をしています」


「土曜日の8時起きは辛いよね」

「はい。昨日も遅かったし夜中にジェイドの夢に行った事もあって船漕いでます。それで千歳様はどうされます?神の世界で皆とご覧になります?」


「ビリンさん居るからここで見る」

「わかりました。昨日は全てお見事でした。後はホワイトソースご馳走様でした」

ジョマの声が聞こえなくなったところでビリンさんが起きる。

多分ジョマが起きないように手を出していてくれた。



「ん〜、どしたチトセ?」

「ジルツァークとアートの手違いで起こされたの」

そしてジェイドがもうグリアに着いてしまった事を説明する。


「今から神の世界に行くのか?」

「やだよ。今日の私はビリンさんと離れたくないの。ここから映像見るから一緒にみようよ」

そう言って2人でうつ伏せになると目の前に映像を作る。


「おう」

「ほら、もっとくっついて」


ビリンさんがピッタリくっついてくれる。

思わず映像消して抱きつきたくなるのを我慢して映像を観る。

「まだアートの準備があるから少し前からの映像にするね」



映像の中でジェイドはグリアの崖にいた。


「来たぞ!イロドリ!」

ジェイドはがアートを呼ぶと「早すぎ〜」と言ってジルツァークが現れる。

お前が逆算間違ったんだってば…。



「ジル?」

「てっきりセレスト達と来ると思っていたから逆算して出発するように言ったのにこんなに早くに来るなんてもう…。あの子にはゆっくり準備しなさいって言っておいたわよ」

ああ、ジョマに叩き起こされたジルツァークがアートに時間稼ぎするからと言ったのね。


「ジル?イロドリと…」

「今回の事は私が悪いからあの子の罪を軽くしてほしくて天界まで行っていたの。

私も字を書けば軽くなるかと思ったら私の場合長文だったんだからね。「私、女神ジルツァークはこの度天界をお騒がせした事をここに反省いたします。

今後、女神として行き詰まった時には皆様方にご相談させていただきますので寛大な心でご指導ご鞭撻をよろしくお願いします」って二千回書かされたわよ」


「二千回?イロドリより多いのか?」

「違うわよ。あの子も二千回書いたんだって」


「何故だ?イロドリの両親は千回と…」

「選べないから仕方ない。お願いだから許してってずっとシクシクと泣きながら字を書くし、最後には泣きじゃくるのよあの子。

そこには私の責任もあるから一緒に字を書くしかないでしょ?」


キチンとジルツァークはルールを守って話している。

わかるようでわかりにくい説明。

神と人の会話はこんなもんでいいと思う。

大概は人間が深入りしてもいいことはない。



「俺にはよくわからないのだが…」

「もうすぐわかるわよ。まったく、皆容赦ないのよ?あんな小さな子供に沢山字を書かせてさ。神の力も時間制御も使わせないのよ」


「神の力?時間制御?」

「あー、時間制御はエグサイトの1日を神の世界で1時間にしたり、逆にエクサイトの1時間を神の世界の1日にしたりできるの。

そうしたらあっという間に字を書けるでしょ?

ジェイドが命を絶つ前にあの子は間に合うでしょ?

私が加護を与えてもジェイドが生への執着を手放したらちょっとの怪我で死ねちゃうんだからね」


「確かに…」

「だからあの子は急いでいたのよ。

それに神の力があれば筆記用具だっていらないでしょ?

でも神々はそれを禁止したからあの子は眠る時間も惜しんで小さな子なのに夜中まで延々と必死に字を書き続けたのよ。

「ジェイド、待っててね。死んじゃダメだよ。今行くからね」

ずっとそう言っていたわ。

だから私も罪を背負って罰を受けた」


「ジル…」

「…!準備出来たみたい。

まったく、ジェイドが焦るから寝起きで慌てて身支度を整えたのよあの子。

レディに何させているんだか。

私は少しやる事があるからタカドラの所に行くわ。また後でね」


ジルツァークが消えた場所にアートが立っていた。

寝起き15分とはとても思えない感じに見える。

でもジョマの事だから身支度は神の力にしても「アートがやれるならやりなさい」と突き放しただろうからアートには地獄の15分だろう。

アートは着物姿で黒髪だった。髪色をやり忘れているがまあこれも演出だ。

アートの顔は喜びと緊張でこわばっているがとても嬉しそうにしているのがわかる。



**********



「イロドリ?」

「そうだよ。お待たせジェイド。やっと逢えたね。お疲れ様」

アートははニコニコと笑ってそう言った。


「え…と、何を話そうか?慌てて来ちゃったから考えてた事が抜けちゃったよ〜」

アートは頭を押さえて恥ずかしそうに笑う。


ジェイドはきちんと気をつけをして「はじめましてイロドリ。俺はジェイド・グレオス・グリアだ」と言って右手を出すとアートと握手をする。



「なんかチトセから聞いていた通り真面目な奴だな」

「うん。きっとアートはジェイドだからここまで頑張れたんだよ」




「はじめまして。私の名前は別にあるんだけどママからもイロドリで居なさいって言われたからイロドリって名乗るね」


「ああ。今まで本当にありがとう。イロドリのお陰でここまでこられたよ」

「私は何もしてないよ〜。頑張ったのはジェイドとセレストとミリオンの勇者達。それとリュウさんとヘルケヴィーオとワタブシのオジちゃんだよ」


「そんな事はない。ありがとうイロドリ」

「えへへ。ジェイド、あそこの木の下で座ってもいい?」

イロドリは気を指さして言う。


「そうだな。立ち続けるのもなんだな」

ジェイドはイロドリと手を繋いで歩く。


「イロドリの服は歩きにくそうだ」

「ふふふ、これはね着物って言うんだよ」


「着物?」

「うん。私は今ね、パパの創った世界や神の世界じゃない所で暮らしていてね。その世界で成長のお祝いで着る服なんだよ。昔は皆来たんだけど動きにくいから別の服なんだよ。

私は女神の服を持っていなかったからジェイドの前に立つときにこの服にしたの。

これはお姉ちゃんが成長のお祝いで着たやつを貰ったんだよ」

アートがアセアセと頑張って話していて私は見てて微笑ましい気待ちになる。


「そうか、イロドリには姉がいるのか?」

「ううん、本当のお姉ちゃんじゃないけど私を祝福してくれたのがお姉ちゃん。

お姉ちゃんのお陰で今こうしてエクサイトを助けられたしここにも来られたり夢で会えたりしたんだよ」


「そうか。俺はその人に会う事はないからイロドリにお礼を頼んでもいいか?」

「うん。お姉ちゃんもずっとジェイドの戦いを見守ってくれてて、エクサイトを壊そうとしたジルツァークを怒ってくれて爆発で吹き飛ばしたり、メガネの男神が許せないってアー…、私と怒ってくれたんだよ。今も世界を見てくれているから見えるかもよ」

アートは私の視線を感じたのか空を見ながら私と目が合う。


「なに?ではお礼はどう言えばいい?」

「気分を出すなら上を見て言う感じかな?皆そうしてるよ」


「そうか」

ジェイドは天を仰ぐと「イロドリのお姉さん。ありがとうございます」と言う。



別にワガママで助けたからお礼いらないんだけどなぁ…。

そんな事を思っていると横のビリンさんが「チトセ、ここはどういたしましてだよ」と言う。


「むぅ…ビリンさんの癖に」

「チトセ酷え」




「ジェイド、それをもう少しやって貰ってもいい?」

「なに?」


「助けてくれたのはね、復讐神のおじちゃん2人と、戦いの神と友情の…うーん、お魚の神と、怪我を治してくれる神が2人と、時間の神と、かくれんぼの上手な神と、複製の神とね、後は偉い神と、看破の神と創出神と後はパパとママ、それと鳥さんが助けてくれたんだよ。神様以外は見てないから後でお礼を言っておくね」


「長いな。頑張るから聞いていて抜けた人が居たら教えてくれ」

「うん」

ジェイドが皆の名前を言う。

きっと神の世界では皆喜んでいるだろう。



「ビリンさんもゼロガーデンの防衛してくれたし私を支えてくれえありがとう」

「お安い御用だぜ?ご褒美はチトセ飯とチトセのキスかな」


「もう、そんなのはいくらだってするよぉ」

そう言いながら長めのキスをする。



皆に感謝を告げたジェイドはそのままアートを抱き抱えてしまう。


「わぁ!!?ジェイド?」

「木までまだある。その服で歩くのは疲れるだろう?嫌だったか?」


「ううん。ジェイドは大きいから高いねぇ」

ジェイドが肩にアートを座らせて歩く。

それに喜ぶアートを見てビリンさんがちょっとヤキモチを妬いている。


「ジェイド はカムオさんとカムカさんくらい背が高いから仕方ないって」

「うちは父さんと俺は小柄だからなぁ」



喜ぶアートの声でジェイドは嬉しそうだ。

そのままジェイドがアートに反省文の事で感謝を告げる。


「いいよぉ〜。照れるよ〜。私が余計な事をしちゃったんだって。だから怒られたんだよ。

あんなに怒ったパパとママを見たのは初めてで怖かったんだー」

アートは喜んだ顔から一転、東さんたちの顔を思い浮かべたのだろう。

この世の終わりみたいな顔をするし声も暗くなる。



「優しい顔の人たちなのにな」

「あ、そうだね。私の代わりに夢に来たんだよね。

ママがパパの見てない所でジェイドは素敵な人だから助けたくなるのも仕方ないって言ってくれたよ。

パパもママの見てない所でジェイドを助けられて良かったねって言ってくれたんだよ」


東さんもジョマも素直じゃない。

アートが悪ノリをしない為に厳しい事を言ったが6歳なのに神として他の世界を救って新しい力に目覚めた事は喜びたかったはずだ。



**********



ジェイドは木の根元に着くと横にあった岩に2人で腰掛ける。


「実はね。皆見てない所では良かったねって言ってくれたんだよ」

皆アートに優しかった。

カナリーとエルムをエルフの街に送り届けた後でアートの労をねぎらって結果を評価していた。


アートとジェイドは2人の約束の話になっていた。

約束と言ってもアートが覚えているだけでジェイドは何も覚えていなかった。

ジェイドが不満を口にしないのでアートが聞いてあげようとしていた事なのであまりジェイドは覚えてない。

少し不満げなアートがジェイドに気持ちを言ってと言うと

「あ、そうだった。忘れていたよ。

あっという間で疲れた。少し大変だった。だが上手くいって良かった」

とだけ言った。


たったそれだけだった事にアートが驚きを口にする。

だがその強さがジェイドなんだと思う。

つまらない話だがゼロガーデンの皆なら亜人の群れも亜人王もジルツァークを圧倒して完勝してしまう。そんな戦闘力は関係ない心の強さがジェイドにはある。

だが、そんなジェイドでも孤独や亜人達を殺した罪悪感で死を選んだ。

アートもそこについて聞いている。


「でもジェイドは死のうとしたんだよね?」

「ああ、この世界に俺の居場所は無いからな。亜人王を倒してジルを止めた時はその事しか考えていなかった。

そうだ、その為にイロドリが何かをしたから怒られたと聞いたんだ。

イロドリの両親は生き死にに手を出したと怒っていたがイロドリは夢で指示出しをしてくれただけで何もしていない。何があったんだ?」


アートは顔をこわばらせてからグッと息を飲んでから口を開く。


「ごめんね」

「何?」


「私はジェイドに生きてもらいたかったの。

パパとママは小さい時からずっと神として私に我慢するように割り切るように言っていたの。今までは守ったんだよ。でもそれが嫌だったからジェイドが死のうとした時にちょっとだけ神の力を使ったの」

アートが感極まって泣きそうな顔をする。

泣きそうなではなくもう泣く所だ。


「イロドリ?」

「ジェイドは私の事を嫌いになるかな?」

アートが不安げにジェイドに聞く。

東さんに言われた言葉が引っかかっている。

エルムとカナリーを生き返らせた事が迷惑だった場合を考えて怖くなっている顔だ。


「何のことだ?」

「それが正解かわからないけどジルツァークはジェイドから聞いてピンと来たって言って神の世界に来てくれてパパとママに謝ってくれてお願いしてくれて一緒に字を沢山書いたんだよ」


「だから何の話だイロドリ?」

「どちらが正解かわからないし、どちらも譲るタイプだし、どちらも私には決められなかったの。ジルツァークがそれを見て助けてくれたんだよ?」


アートは言う事が怖いからだろう。

言葉を選びながらも言わなければいけない事からは遠ざかっている。


「アートはチトセに似て言いたい事は言えないタイプだな」

「私が祝福したからかな?やっちまったなぁ」



アートはこの先を考えて、万一ジェイドに嫌われた時を考えて「ごめんねジェイド」と謝りながら泣き出す。


「大丈夫だ。俺はイロドリの両親にもキチンと告げた。

キチンと命を無駄にしないで寿命をまっとうする。だから泣くなイロドリ」

ジェイドの言葉でようやく落ち着いたアートが泣き止んでジェイドを見る。



「うん。ありがとうジェイド。

じゃあ教えるから目を瞑って?」


「こうか?」

「うん。行くよ」

アートは前もってジルツァークやタカドラと話をしていたのだろう。

エルムとカナリーがジェイドの前に現れる。




わけだが…

「バカアート!音が出る!神如き力!」

「チトセ?」


「もう、アートが隠匿の力を使わないからエルムとカナリーの息遣いとか気配でわかっちゃうから消したんだよぉ」

「何その徹底ぶり、ジョマみたい」

ビリンさんは「偉いぞチトセ」と言いながら頭を撫でてくれる。



音を消した効果もあってジェイドは気付かない。

カナリーとエルムは目の前で岩に腰掛けて目を瞑るジェイドを見て感極まって泣きそうな顔をしている。

私はお節介だが「泣き止みなさい!」と声をかけると2人は頑張って涙を堪える。


ジェイドはその間も目を瞑って待つ。

不安で「イロドリ?」と呼び掛けたりしているが話せば台無しになるので静かにさせる。


ジェイドが再度アートを呼ぶ。

アートが身振りでカナリーとエルムに指示を出す。



「兄さん!」

「ジェイド様!」



ジェイドは何があったのかわからない顔で「え?」と言う。

それでも目を開けないジェイドが凄い。

私ならソッコーで目を開ける。


「目を開けてジェイド」

アートが喜んでもらえるという期待で声をかける。

顔は笑顔でも緊張しているのがわかる。


ジェイドは目を開けるとそこにはアートとエルムとカナリーが並んで立っていて一瞬ビクッとなった後、震えている。


「え?なんだ?何故?ここは夢か?」

ジェイドがキョロキョロと周りを見る。


「違うよ兄さん!」

「イロドリ様のお陰ですよジェイド様」

エルムとカナリーが困った顔でジェイドに笑いかける。



**********



突然亡くなったはずの妹と戦友に声をかけられて困惑するジェイド。

だがエルムとカナリーはアートのおかげで生き返れたと説明をする。


「何?イロドリ?」

「ごめんね。あの時、死を意識したジェイドを見た時に我慢できなくて命を…生き返らせてしまったの。

でもそれはパパとママが1番嫌がることなの。

それで私は怒られたの」


「蘇生…、では目の前のエルムとカナリーは…本物?」

ジェイドが震える身体、震える声で恐る恐るアートに聞く。


「うん。ジェイドにどうしたら生きてくれるか聞かずにエルムかカナリーが居たらジェイドは死なないと言ってくれると思ってそれでまだ死んで日の浅いカナリーを助けようと力を使ったの。

でもそこをパパとママに止められたの、助ける瞬間にエクサイトの生きている人達の時間を止められて、それで私は必死にパパ達から逃げてエクサイトの死者の居る場所に行ってカナリーとエルムに会ったの。

最初はカナリーをって思っていたけどこうなったらと思って2人に「ジェイドが死んじゃうからどちらか生き返って支えて」ってお願いしたの。

そうしたら2人ともお互いに譲るんだよ。

困っていたら私はパパに捕まって神の世界に連れ戻されてお説教の後で罰として字を書いていたの。

そしたらジェイドから話を聞いたジルツァークが来て一緒にパパとママを説得してくれて、結局私はカナリーとエルムを選べないから2人とも助けたかったの」

アートも慌てていて途中途中聞いている方が、訳がわからなくなりそうな説明をしながら必死になって説明をする。



「それで怒られたのか?ジルの世界なのに生き死にに関わったからと?」

「うん、嫌だったかな?ダメだったかな?」

アートは話しながらどんどん不安になって泣きながら話す。


「パパとママに怒られたの。

もしエルムとカナリーが居ても亜人を殺した事を気に病んでジェイドが死を選んだり死にたかったりした時にエルムとカナリーを生き返らせた責任をどう取るんだって怒られたの」

泣きながら話すアートを見て慌ててエルムとカナリーがあやす。


ジェイドは跪くとアートの手を取って「ありがとうイロドリ。ありがとう。これで俺は1人じゃ無い」と泣きながら感謝を告げる。


「本当?」

「ああ、本当だありがとうイロドリ」

アートもジェイドも涙で震える声で話す。


「ジェイド、じゃあ嫌とかダメとか無い?」

「当たり前じゃないか!ありがとうイロドリ」


アートは「良かった」「良かったよぉ」と何べんも泣く。



「良かったねイロドリ」

そこにジルツァークがタカドラと現れる。

2人とも設定には準拠している感じだ。

間違ってもアートをアートと呼ばないようにしてもらいたい。


「ジルツァーク!あ、リュウさんも居る!」

アートがジルツァークとタカドラを見て喜ぶ。


「タカドラ、ジル…」

「感謝しなよねジェイド。やり過ぎでイロドリは怒られていたんだからね。

時間制御が出来ないから休めない中、早く字を書かないとジェイドが死んじゃうって必死になって眠いのに何日も頑張って字を書いてくれたんだし、そもそも今日だってもう少し寝たかったのにジェイドがあんなに早くグリアに着いたから頑張って起きてくれたんだよ」


「イロドリ様、ありがとうございます」

「リュウさんもありがとう。ジェイド達の為に頑張ってくれて感謝だよ〜」

アートはタカドラの頭に抱き着くと感謝を告げる。


「タカドラ?頑張った?」

「ああ、私達もお前のために頑張ったぞ。まずは…」

タカドラがそう言って広げた翼の後ろにジルツァークがセレストとミリオン、そしてリアンを呼ぶ。

この後はジルツァークも手伝ってカド、アプリ、フラン。レドアに行ったメイドの老婆、ヘルケヴィーオとワタブシが現れてジェイドにカナリーとエルムが蘇生した事に祝いの言葉を送る。


ヘルケヴィーオとワタブシはジェイド達にも会いたいようだがアートにも会いたかったようで会わせてくれたタカドラにアートが感謝を告げる。



「これで大団円かな?」

「チトセ、映像の皆と同じ事を言ってるぜ?」


「むぅ…」

「ふふ。もう少し横になっていたいな」


「うん」

「今度は仰向けで映像見ないか?」


「良いけど大団円だから何も無いんじゃない?」

「そうか?わかんないぜ?」


「そっか、じゃあ手」

「あいよ」

私はビリンさんの腕枕で映像を観る。



**********



私はビリンさんの腕枕で天井を見ると映像をそちらに移す。

ジルツァーク達と反省文の事で雑談をしながら人間界も上層界の土なんかに変えた事をタカドラが告げる。


こうやってより良くなるのがこれからのエクサイトだろう。


そして良い機会だからとジェイドの考えを聞くセレスト達。

ジェイドはかつての防人の街があった場所に新たなるグリアを作ろうと思うと言う。



「ジェイドは凄えな。とても俺と同じ王子だなんて思えないぜ」

「まあビリンさんは2代目だからねぇ。ジェイドはもう何代も王族している分だけ重みが違うよね」



だがそこで怒ったのはエルムだ。

エルムの不満は街づくりをジェイドが1人でやる気になっていた事だった。

それは比喩でも何でもなく本気で大変だから1人でやると思っていたジェイドに皆が目を丸くして驚く。



「あ、俺のがまともかも」

「ビリンさんも1人で街作る?」


「やだよ。作るならチトセと暮らす家ならいいけど街なんてやだよ」




ジェイドは結局エルムの圧に負けて皆で街づくりをする事になる。


「ジェイド、こんなに皆が助けてくれるんだからいい街にしてよね」

ジルツァークがジェイドの肩に手を置いて言う。


「ジル、ジルは手伝わないのか?」

「え?私は女神でそんな一人の人間に肩入れなんて…」

嘘をつけ嘘を。

本当にジルツァークは人間臭くて面倒な奴だ。

だがジェイドにそんな言葉は通じない。


ジェイドは「そうか…。ではタカドラは?」と言いながらタカドラを見る。


「私も少しなら手を貸そう。ジルツァークは共感神として、まずは人間と一緒に街を作って何かを知った方が良いのかも知れないぞ?」

タカドラは優しいな。

ジルツァークが関わりやすい空気を作ってあげる。


「……じゃあそこまで言うなら手伝うよ」

ポーカーフェイスを装っていても紅潮して笑顔になりかけているジルツァークを見ると私は嬉しくなる。


そしてジェイドはアートを見ると「ありがとうジル。イロドリはたまには遊びに来てくれるだろ?」と聞く。


エクサイトに自分の居場所はないと思っていたアートは「え?いいの?」と嬉しそうに返事をする。


「ああ、イロドリの家も作るから遊びに来てくれ。イロドリに何かを頼む事はしないように言われたが呼んで会うくらいは許されないのか?」

「行くよ!パパとママにお願いするよ!!」

アートが紅潮した顔で目を輝かせて言う。



「よし、じゃあ今度は姉たちと来て…」

「駄目!絶対ダメ!!」

ジルツァークがジェイドの口を抑えながら駄目と言う。さすがは演技派女神、キチンと設定を守っている。


「ジル?」

「あのね、あんな凶悪な連中を私達のエクサイトに招くわけ無いでしょ!」


凶悪?

横でビリンさんがクスクスと笑っているのがわかる。


「そうなのか?」

「そうよ!イロドリが言ってなかった?怖い復讐神の事とか」

ジルツァークの目は涙目で血走っていて演技にしてもやりすぎで、とても演技に見えない。


「怖い?何も聞いていないぞ」

「あのね、あの復讐神は私を瞬殺したの、別では亜人王を見て「もっと本気で強い敵を作れない?作れるよね?作ったら僕を君の世界に招いて戦わせてよ」って嬉しそうに笑うのよ。イロドリの言う姉の女神はその怖い復讐神を正座させてお説教するのよ!」


「なんだその存在は…」

ジェイドは何を考えたんだ?

真っ青な顔をしてアートとジルツァークを交互に見る。



「ジェイドはアートを見ながら凶悪な姉をイメージしてるんだろうな」

「はぁぁぁっ?私は怖くないわよ!」

ビリンさんは笑いながら「ほら、続きみようぜ?」と言う。



「タカドラ、アンタだって復讐神に何か言われていたわよね!」

「ああ、「君、竜神になったんだね。うん見た感じ強そうだよね。ちょっと戦ってみようか?」と言われた。困ってしまったら周りの神々が必死になって止めてくださった」


「…イロドリ、イロドリだけでまずは来て貰えないだろうか?」

「うん。いいよぉ。パパとママにはちゃんとお泊り行ってくるって言うよぉ」

イロドリがニコニコとジェイドの手を取って「約束だよぉ~」と言う。


アートはレドアに連れて行ってもらって皆と食事をしてから帰宅をしていた。


私は映像を止めるとビリンさんに抱き着いてもう少しだけゆっくりさせてと言って抱き着く。

ビリンさんは私が喜ぶように頭を何回も撫でてくれる。


そしてしばらくしてビリンさんの腹の虫が鳴った所で諦めて起きるとグラパンを作った。

うん。すごく美味しい。仕方ない頑張ったアートにもお裾分けしてあげよう。


アートは「美味しいけどお腹いっぱいだよぉ」とボヤいていた。



**********



ジェイドの街づくりが始まって数ヶ月が過ぎた。

その間こっちも色々あって、まずはマリクさんとリンカさんが二の村に顔を出した。

この日に合わせてカリンさんとマリカさんは二の村に帰省して全員が顔を合わせた。

これは5年ぶりでマリオンさんは家族が全員揃った事を泣いて喜んだ。


行く行くはマリクさんとリンカさんが二の村に戻って、なんでかガリルさんが心を鍛える為にとウエストで一人暮らしをしてみる事になっていた。



私もルルお母さんと金色お父さんとの3人の1日をコピーハウスで過ごした。

私達が料理をして金色お父さんが楽しそうにお酒を飲む。

食休みにはルルお母さんと私で一緒に人工アーティファクトを作ったりした。

夜は恥ずかしいが私はルルお母さんと寝た。

たったそれだけだったが楽しかった。

後でお父さんにはヤキモチを妬かれたが、この1日は金色お父さんと私達だけの思い出にしたので記憶にロックをしてお父さんには追体験をさせなかった。


後、アートは夏の子なので本当の6歳になった。

今までは「今年6歳」と言うのを6歳と言っていた。

まあ、私も本当の24歳になった。

お誕生日はウチとゼロガーデンの家、後は東さんの家で3回やった。

アートはマジカルアイドル変身セットを東さんに買ってもらっていた。


「創造したいくらい欲しかったんだね」

「えへへ、見てた?」

そう言いながらアートは去年のマジカルナース変身セットとお別れをしてマジカルアイドルになって「私の歌はマジカル!!」と決めポーズを取っていた。


「なぁ、去年の「悪の心をマジカルケア!」も意味不明だったんだけど俺ってどう接してやればいいの?」

とビリンさんが困っていた。

ちなみに去年のマジカルナースは「マジカル採血!」と言ってダークインフルにさせられたビリンさんの腕に注射器を刺していた。

注射器の出どころは王様が手を回したナースお姉さんでビリンさんは死を覚悟していた。

黙って見守っていた東さん達にはお父さんと私で特大の雷を落としてお説教をしたしアートも成長したから平気だろう。


「平気平気、ビリンさんはアートの言う通りの台詞を言えば終わるから」

「おう、でもさ…アートって神の力を使ったら本物より本物だよな?」


「それ言うと本気でやりだすから言っちゃダメ」


ちなみに子供心と親の財布に優しいのかなんなのか、もう次のマジカルさんが決まっていて発表されていた。

来年はマジカルパティシエらしい。

「マジカルスイーツで悪を倒す」と言うキャッチフレーズとキービジュアルでアートは「ふおぉぉぉぉぉ!!千歳!千歳はどの子が好き!?」と鼻息荒く興奮していた。

正直、食べ物を食べさせて倒すとか調理の学校に通った私からすると受け入れにくい、そもそもマジカルナースの採血で倒すとか薬で倒すのもなんかなぁと思ったし、更にその前の年の重労働メインのマジカルさんもつるはしで敵を倒していたのもどうかと思った。


そしてアートは「フランとか千聖を日本に連れてきて見せてあげたいよぉ」と言い出した。

フランは10歳だからアウトだが千聖ならまあ喜ばない事は無いがいい事は無い。


「ルル婆ちゃん!マジカルグッズ作って!」

「おお、そうか。やってみるか。どうするのだ?ほほう、掛け声で衣装の変わるアーティファクトと、ほほう、泡だて器から泡の出るアーティファクトが欲しいのだな?」


…うん。見せちゃダメだ。


私はアートに「だから過度に異文化を与えちゃダメなの。守れないなら千歳が神如き力で土曜日の朝はアートが目覚めないようにするし動画配信も受信できなくするからね」と釘を刺しておいた。




ジルツァークとタカドラは数日おきに神の世界にくるとジョマ達から色々なものを教わっている。

そしてエクサイトに戻ると人々の為に神として力を奮っている。



ジェイドの凄いところは疲労が無い身体を活用して黙々と1人で朝早くから夜遅くまで家造り、街づくりをしている事だ。

お陰で新しいグリアはとてつもない速度で作られていく。

王としての器なのだろう。

その姿に皆が感動してついて行く。



そして季節が秋になった時、ようやく一つの事が結実した。


私達は神の世界からそれを見ていた。

俯瞰で見ているとこれからの出来事は見えてしまう訳で面白くはない。

「なんかサプライズ感はないね」

「まあ仕方ないよ。神だもん」

私がぼやくと時空お姉さんが笑う。


「うぅ、半神半人なのに」

「千歳の場合は最早神でしょ?諦めて皆で神化して世界作るなりして住めばいいのに」


「そうだよ」

「そうね」

「それがいいよ」

「住もうよ」

「三食お魚付きだゼーッ!」


「やだよ」


こんな話をしていると幼稚園の終わったアートが「ただいま〜!」とやってくる。

アートは街づくりを毎日気にしていていつ自分がエクサイトに呼ばれるかを心待ちにしている。


家造りの為に材料になる木を伐採しているジェイドの所にカナリーが呼びにくるとジェイドは突然の状況に訝しみながら帰宅をする。


家ではエルムと老婆が待っていてジェイドにグリアのコスモスを渡した。

ジェイドはカナリーに見せたかったグリアのコスモスを見てもらい、カナリーが喜ぶと嬉しそうだった。


そしてそれだけでは終わらずにエルムが口を挟む。

エルムはジェイドとカナリーの仲が気になっていた。

正直他の女性がジェイドに気があるのは見てわかってはいたが共に死者の間で過ごした時間、ジェイドへの気持ち、そしてジェイドがカナリーに抱いている気持ち。

それを見れば黙って居られなかったのだろう。


エルムがジェイドに「あのね、ある日突然街が出来たからさあ結婚しようなんてダメなのよ?」と忠告をする。


「いや、だが俺にはそう言う気持ちがまだないし、変に先走っても良い事は無い…」

確かにジェイドは防人の街で受けた拷問の日々、同じ人間からの責め苦で心を病んでしまい恋愛感情が壊れている。

夢の中でカナリーに会った時なんかは恋愛対象として見えていたので治る日は来るだろうがまだその日は来ていない。


だがエルムは待った無しでジェイドにあれこれ言う。


「あーあ、聖女の監視塔やブルアやレドアから来た人たちがカナリーさんの事を変な目で見てたなぁ…。兄さんが治る頃までカナリーさんは無事なのかなぁ、待っていてくれるのかなぁ」



そう言われた時のジェイドの顔は復讐者以上に怖い顔で思わず映像を見ていた私達も「わ、怖っ」「ひぇっ」「もうその顔が答えなんじゃないの?」「うむ、鬼神のような顔付きだな」と感想を口にする。



「何?どいつだ?エルム、言うんだ」

「さあね。兄さんが早くハッキリさせればいいだけでしょ?」

エルムはジェイドをこれでもかと煽る。

荒療治だがこれで治ってくれればと思ったのだろう。


「くっ…どうすれば治るんだ!?ジル!!ジルーっ!!」

そう言ってジェイドは街に設置したジルツァークとタカドラとアートが祀られている祭壇に向かって「ジル!今すぐ来てくれ!」と声を荒げる。


「そんなに慌ててどうしたの?」

ジルツァークが現れるとジルツァークの肩を掴んで「俺の心を治してくれ!今すぐにだ!」と言う。


「ちょ…どうしたの?」

「他の男どもがカナリーに変な目を向けていると言うんだ。それも俺が治らないからだとエルムに言われた」

ジルツァークは少し悩んだ後で困った顔をしながら「んー…。ごめんねジェイド。私にはどうしたらいいかわからないや」と言った。


「そんな!ジル!」

ジェイドは諦めずに何度もジルツァークに頼み込むがジルツァークは困ったままため息をついている。



**********



「うわー、可愛そう」

「ナースお姉さん、ジルツァークがジェイドの心を治せるように力を教えてあげてくれないかな?」


「無理よ。ジルツァークが心を癒す力に目覚めるのとジェイドが自力で治るのは同じくらい時間かかるわよ」

残酷な治癒神の見立てに思わず「ええぇぇぇ」と言ってしまう。


「ジルツァークってどちらかと言うと攻撃的な神だから癒しの力は苦手なのよ。それに共感神だからなのか心を治すとかイメージもつかないはずよ」

「だから困った顔をしていたでしょ?何も思いつかなかったのよ」

先輩お姉さんまでダメ出しをしてくる訳だが可哀想で諦めきれない私は「タカドラは?」と聞く。


「それも無理。可哀想だけどタカドラの産みの親は誰?」

「あ……メガネだ」

…なんだかんだその世界の命は生みの親の影響を受ける。

メガネの生み出した命のタカドラには申し訳ないが期待できない。


「エクサイトに居るエルフとドワーフの恋愛感は覚えてる?」

「…メガネの生み出した命だから損得勘定で物事を考えたり独善的な性欲があるんだっけ?」

正直見たくはないが見えてしまったエルフとドワーフの性交渉は独善的で獣のようなものだった。たまたま性欲が合致したカップルが子を成すようなそんな感じ。

あの普段のヘルケヴィーオ達からは想像もつかない姿だ。


「そうよ。勿論今はエクサイトも育ったし、メガネとの繋がりも薄まったから徐々に損得勘定や性欲だけじゃない愛情も生まれるだろうけど今のままなら100年くらいかかるんじゃない?」

「ええぇぇぇ…。ジェイドもカナリーも死んじゃうって」


困った私に向かって「千歳、何とかしてあげて」とアートが言う。


「アート?」

「千歳なら出来るよね?」

アートが縋るように私を見る。

…と、言うかアートの前で何と言う話をしてしまったのだろう?

まあ、6歳なので大丈夫だろう。


「ええぇぇぇ?千歳じゃなくてナースお姉さんと先輩お姉さんに頼もうよぉ」

私は身振り手振りでナースお姉さんと先輩お姉さんを指名する。

だがアートの考えは違っていた。


「違うよ。パパとママを説得して」

「…マジで?」


「そうだね。千歳からジョマ達に言えばいいんだよ」

「それがいいわね」

「千歳、頑張ってね」

「うむ。名案だな」

「良かったねチトセ。これで彼も安泰だね」

「千歳、ファイト」

「ファイトだゼーッ!」

無責任な事を…。なんか私なら何とでもなると思っていないか?


「ぐ…ぐぎぎぎぎ。やるわよ!やってやるわよ!やればいいんでしょやれば!ジョマ来て!東さん付きね!」

東さんとジョマは同時進行をしないで普通に日本に居たので呼び寄せる。


「やれやれ」と現れた東さんとジョマ。

ジョマに至っては出会い頭に「ジェイドの事はしませんよ?」と言いやがった。

後ろでアートが「千歳ファイト!」と隠匿神さんとやってやがる。

何なんだいったい。


「えぇ、しないって何?」

「もうエクサイトはジルツァークとタカドラに任せましたよね?我々外野はお節介をしないんですよ?それは…確かにジェイドは可哀想ですけど…」

ジョマが困った顔で言う。

なんだかんだ助けてあげたいのだ。

だから私はそこに導くことにする。


「そう言うと思ったよ。でもジョマと東さんはジェイドにお礼した?」

「は?」

「え?」


「お礼だよお礼。今回のアートができた経験って貴重じゃないの?今回だけでアートはたくさんの経験をしたよ?それなのにお礼もしないなんてないよね?」

「うっ…」

「そうきたか…」

ジョマと東さんは反論が難しい展開を突きつけられて困ってしまう。


「ほら、アートだってお父さんお母さんからお礼して欲しいよね?」

「うん!そうだよ!アートもお礼して欲しいよ。お願い!パパとママ!」

「アート…」

「ええぇぇぇ」

よし、あと一歩だ。

そう思った時、皆にも意見を求める。


「そうだよね皆!」

「そうだな。創造神とジョマなら気持ちよく心を治す事を礼とするだろうな」

「うん。皆の手前やりにくいだけだけど皆に言われた今は気持ちよくやれるよね?」

「これでやれるわね」

「やり方はわかるわよね?」

「我々も彼を助けたいので代表として頼めるかい?」

「よろしく」

「やってくれヨー!」


こう言われてしまってからNOとは言えないし言わない東さんとジョマ。

そこにとどめを刺す。


「ジョマ、装飾神としてバッチリ決めてね!」

「もう、千歳様にはかないません」

ようやくジョマが了承したのでこれでジェイドの心は治る。


「やれやれ。では治すタイミングはジョマに任せるけどアートはパパと1つ約束だよ」

「何?」


「ジェイドに心を治す事は内緒だよ。千歳、君も秘密にするんだよ?」

「はーい!」

「おっけー」



私は解散した後でコッソリと心の治し方を聞いてみたを

ナースお姉さんと先輩お姉さんは優しい日差しのような神の力で心を温めて解きほぐすイメージと教えてくれた。

「壊れた、傷ついたと言ってもそう捉えなければいいのよ」

「癒しの力で照らしてあげるの。そうすれば治せるわよ。まあ創造神達がどの方法なのかはわからないけど」

私は感謝を告げてからその足で東さんとジョマの所に行って「興味があるから教えてよぉ」と言って聞き出した。


「まったく、勝手にジェイドを治しちゃダメだよ?」

「治癒神達に聞いたのにまだ知りたいんですか?」


「いつかサードで困った人や心に傷を負った人が居たら助けてあげたいんだもん。

沢山聞くのは自分に合ったやり方を知りたいからだよ」


「やれやれ、僕のやり方は治癒神達とは違う。

夢の中を0と1の間にして目覚めさせない中で、僕の力で心の時を何倍速にもして進めてあげるんだ。自己再生が始まって元に戻るまで本人の治癒力に任せてあげるんだよ」

「私の場合は途中まで京太郎と同じですが、傷付く前…ジェイドの場合なら4年前に恋愛に関する心の時間を戻してあげてから一気に加速して今までの経験を心にさせてあげます」


「なるほど。皆それぞれのやり方だね。うん。参考になったよ。ありがとう」

正直ジョマのやり方がエゲツないけど治療の対価を受け取らないのなら間違ってないと思う。



**********



あのコスモスの話から1ヶ月くらいが過ぎた頃、お鍋が美味しい季節になりかけた頃に遂にジェイドがアートの家を完成させていた。


「…わざわざアートの家を作るの?」

客間を作るのではなく家を一軒作り出した時には驚いたがアートはとても喜んだ。


そしてジェイドは完成したその日にアートを招きよった。

正直、「家が出来たので都合のいい日に招きたい」くらい言えないのか?と思った。

ジェイドは家具を運び込んで完璧に家が完成した瞬間に祭壇に行くと「イロドリ!聞こえているか!?イロドリの家が出来た!今すぐ是非来てくれ!!」と言った。

まあ幸いに土曜日で明日は休みなのでアートはお泊まりをする事になった。


「アート、わがままはダメよ?」

「言わないよぉ」

ジョマがアートの手を取って注意をする。

私も一緒になってアートの頭に手を置いて「神の力を無闇に使ってはダメだよ?」と言った。

アートは「……大丈夫だよぉ」と少し間を開けて言う。


「何、今の間は?」

「えへへ、大丈夫だよ千歳」

すっかりアートはジェイドの心の事は忘れていて呼ばれた喜びでいそいそとイロドリ装備になるとエクサイトに飛び立った。



私達は映像を出すと祭壇に降り立ったアートは女神みたいだった。


「イロドリ!」

「ジェイド!」


「来てくれたか!見て欲しいものがある!」

「わぁっ!?」


余程見せたかったのだろう。ジェイドはアートを抱きかかえるとジェイドの家のそばに建てたアートの家まで走る。



「イロドリ、どうだろうか?」

「うわぁぁ、凄い綺麗なお家だね!ベッドもある!!」

アートは小走りで家の中に入ると用意されていたベッドに飛び込んで喜ぶ。

演技ではない喜び方に気を良くしたジェイドも嬉しそうだ。


「良かった。今日はここでゆっくりして欲しい」


何?

ジェイドはアートを大人扱いし過ぎだぞ?

案の定アートはキョロキョロと周りを見て暗い顔になる。

その顔つきを察したジェイドが「イロドリ?」と質問する。


「…ジェイド、ここで他の人は誰が寝るの?」

アートは女神の威厳を損なわないように頑張って質問をする。


「何?」

「私まだ6歳だから一人で寝るの怖いよぉ」


「何?イロドリは女神だろう?怖いモノなんてあるのか?」

「あ!また偏見!!ダメだよ!」



アートはなんとかジェイドに意見をする。

言い換えれば強がってないと不安でたまらない。

そして泣き言を言って強制送還だけは避けねばならないと思っている。


…あ。

「ジョマ?お化けの演出とかそう言う装飾はダメだよ?」

「え?……やですよ千歳様。やりませんよ」


「何、今の間?」

「千歳ナイスだね」

「アートはお姉ちゃんに感謝だね」

「流石は千歳だな」

皆もヤバいと思ったのだろう。

口々にジョマに言う。



「ふむ、ではイロドリの両親に聞いてくれ。誰がイロドリと眠ればいい?」

ジェイドがアートに質問をする。


ふむ。この場合は1人しか居ないだろう。


「東さん?」

「ジョマ、時間制御だ。しっかりと誰にするか決めよう」

「そうね京太郎」

東さんとジョマの顔は真剣そのものだ。


おいぃぃぃぃっ!?

そこまで悩むか?


「千歳様はご意見ありますか?」

「ご意見と言うかジェイド一択だよね?」


「…まあタカドラよりかはいいね」

「東さん?タカドラは500歳のお友達だから平気だよ?」

いつまで東さんとジョマはタカドラを危険視するんだろうか?


「いいえ!千歳様は男をわかっていません!あんな可愛いアートと居て豹変されたらどうするんですか!?

もしもアートに何かあったら私はエクサイトを滅ぼします!」

「だからその点ではジェイドならまだ心が壊れて居るんだから安心だよね?」


「そうか…そうなるね。でもそれなら年の近いフランや面倒見のいいカナリーでもいいかも知れないね?」

「はいダメー」

言うと思ったんだよね。同性の方が危険だ。


「千歳?」

「あのね。フランもリアンもカナリーもアプリもジェイドが好きでしょ?

寝る前のガールズトークで万一相談されたら何するかわからないよ?」


「千歳様?それではセレストやミリオンは…」

「仮にセレストの大きさが議題にあがって「大きくしてあげればいいの?大丈夫だと思うよ!髪の毛を赤にするのと一緒だよぉ〜」ってなってもいいの?見ないとわからないんだよ?」


「ダメだよ」

「ダメです」

まあ、そうだよね。20歳近い男性の局部の問題を振られて良いと思う親は居ない。



「ならジェイドだよ。メイドのお婆さんを若返らせても困るでしょ?」

「そうだね」

「ありがとうございます千歳様」


ここで時間を戻すとアートの声が聞こえてくる。



**********



「うん、パパー…」

「見ていたよアート」

見たどころかちょっとした大騒ぎだったよね。


「パパとママはジェイドがいいと思っているよ」

おいぃぃぃぃっ、私の意見だぞそれは?

なに手柄を奪ってんだよ。


「えぇ、恥ずかしいよぉ?」

「大丈夫だよ。フランとも一緒に寝てあげていたしジェイドは優しいよ。

それにカナリー達と寝て仲良くなって何か頼まれたら断れないよね?

だからタカドラよりもジェイドにしなさい」

「そうよアート、タカドラよりジェイドよ!」

今タカドラ関係ないって…。


「フランの事も優しくしてたの?」

アートは恥ずかしさで赤面しながら。ジェイドを見る。


「イロドリ?」

「パパとママはジェイドが良いって」


「何?」

「エルムやカナリーとか女の子達は私が仲良くなりすぎてまた力を使ったら駄目だから駄目だって」


「…それで俺なのか?」

「うん。パパはリュウさんよりジェイドが良いって言ってる」


「ふむ。それでは…」

ジェイドは天を仰ぐと深呼吸をする。


「イロドリのご両親!このジェイド・グレオス・グリアにお任せください!」


「やっぱりジェイドにして良かったね」

「本当ね京太郎」

…コイツら…。

呆れる私は周りを見ると皆も呆れていた。



「アート、ジェイドによろしく言っておいてね」


ジェイドはアートを見て「どうだろうか?」と聞く。

「うん、パパがよろしくって言ってるよ」


「東さん、ジョマ?子離れできるように頑張ってよね?」

「本当、今のままだと心配になるわね」

「うん」

「思春期に反抗的になりそうだな」

「アートは君たちを凌ぐかも知れないんだから気をつけてくれよ?」



その後、合流しようとしたタカドラとジルツァークを神の世界に呼び寄せる東さんとジョマ。


「君達には申し訳ないが娘の事をよろしく頼むよ」

「くれぐれも怪我など無いようにお願いするわね」

やりやがったよこのモンスターペアレントは…。

凄く怖い顔で「お願い」をする東さんとジョマ。

ストレートに言えば威圧をしている。


「え…」

「はぁ…」

ジルツァークとタカドラが驚きつつ怯えている。


「はい、モンスターペアレントは無視してと。タカドラとジルツァーク、ごめんね。くれぐれも勝手に創造とか人助けとかし始めないように見てくれないかな?」

「そう言う事なら!」

「お任せくださいお姉様」

安心したジルツァークとタカドラはエクサイトに降りて行く。


「千歳?」

「千歳様?」

もっと言い聞かせたかった、言い足りないと言った表情の東さんとジョマ。


「過保護すぎ。次やったらアートとフナルナに住み着くからね。戦神!その時は防壁張って東さん達を入れさせないでよね!」

「無理を言うな!そもそも私を巻き込むな!」



アートは皆と食べる夕ご飯にニコニコだった。

最初はジェイドのそばに居て次がタカドラでその次がジルツァークだったのだが、いつの間にかフランやアプリの子供達と遊んだりご飯を食べたりしている。


「皆はいつも何して遊ぶの?」

「イロドリ様は何で遊ぶの?」

質問に質問で返されたアートが「ん?」と困ってから「お絵かきとかボール遊びとかかな」と言う。

まあ娯楽の少ないエクサイトで説明できる遊びは少ない。


「ボール遊びはご飯があるからお姉ちゃん達に怒られちゃうなぁ」

フランがつまらなそうに言う。

まあ宴会なんて子供には退屈で飽きているのだろう。


「怒られないのならお手玉かな?」

アートがそう言ったが生憎エクサイトのお手玉は神の世界や地球やガーデンのお手玉とは違っていて木の実や簡単なモノでやっていたしこの場には無かった。


「そっか、じゃあ出してあげるよ!」

おい待て!


「バカアート!」

私はエクサイトに介入しようかと思ったところで気づいたジェイド、タカドラ、ジルツァークに止められていた。



「危なかったよぉ」

照れながら笑うアートを見てジルツァークがやれやれと言った顔をする。


「アンタ、何をするつもりだったの?」

「えぇ、お手玉を出して遊びたかったの」


「…創造しようとしたと…」

「ごめんねジルツァーク」


「いいわよ私が出すから」

ジルツァークがお手玉を作るとキチンと子供達の数だけ用意して渡す。


子供達は「ありがとうジルツァーク様!」と喜んで貰うとアートに遊び方を聞いて皆でお手玉遊びをする。

アートが格好つけて神の力でズルをしようとしたので使わせなかったら介入に気付いて睨まれた。



**********



宴会の後は街の浴場に女性陣と一緒に入るアート。

聖女の監視塔やブルアやレドアから来た女性陣も一緒に入ると結構な人数だ。


「いつもこうなの?」

アートは横で温まるリアンに質問をする。


「え?何がですか?」

「この街は男の人が片付けをしている間に女の人がお風呂に入るの?」


「いえ、今日はそう言う日なだけです。

明日は男性陣が食事を作って片付けの時には先にお風呂に入ったりしますよ?

まあ男性陣は遅くまで重たい荷物を持って街づくりをしてくれていますから出来たら全部女性陣で街の事はやりたいのですが…」


「が?」

「ジェイド様が皆も服や布団なんかを織ったり縫ったり色々やってくれているのだから手伝わせてくれと…」


「ああ…ジェイドらしいね」

「本当、困ってしまいます。ジェイド様は肉体の傷も疲労も関係無いのでつい働きすぎてしまうんです」


リアンの話を聞きながら何かを考えたアートに慌てて「そう言うところだよ。お節介禁止」と言うと「そうだったよぉ。ありがとう千歳」と心で返事をしてきた。


そこにエルムも来て「イロドリ様、本当にありがとうございます!私達は幸せですよ」とアートにお礼を言う。

それにつられるようにお風呂場に居た女性陣皆から感謝されたアートは混乱してしまって「何にもしてないよぉ〜」と言いながらフランに助けを求めていた。

まあ聖女の監視塔に居た女性陣達からすればモビトゥーイを倒せる力を授けてくれて壁や聖女の犠牲にならないで済むようになったのだから感謝しかないはずだ。

それ以外の女性陣も今があるのはアートやジェイド達のおかげだから感謝を伝えるだろう。



湯上りにのんびりと過ごしたアートはジェイドの部屋で眠る事にした。

「いいのか?」

「うん、あのお家は私が1人でお泊りが出来るようになったら使うね」

アートが困り顔で言うとジェイドは優しく微笑んで「そうか」と言う。


「ジェイド、ごめんね」

「何がだ?家の事なら気にする必要はない」


「違うよ、生き返らせたのがエルムとカナリーだけだった事、ジェイドのお父さんとお母さんにも会ったんだけどね、お父さんとお母さんは私にエルムとカナリーをお願いって言ってくれたの。そして終わった後で一度謝ったの」

「何故だ?」


「パパとママに注意されたからもう生き返らせないって謝りに行ったの」

「そんな事必要ないだろ?」

ジェイドがアートの顔を見て驚いている。

アートはキチンと謝りたかったのだ。


「でも、もし期待していたら悪いと思ったの。それで行ったら「いいんですよ女神様」「私達はエルムとカナリーが生き返ってくれてジェイドの横に居てくれるだけで十分です」って言ってくれてさ」

「父さんと母さんらしいな」

ジェイドが嬉しそうにテーブルに置かれた両親の遺品を見ながら言う。


「だからごめんねって言いたかったの」

「そんな謝る必要は無いさ。イロドリ、来てくれてありがとう。またいつでも来てくれよな」


「うん」

「よし、もうフランも寝る時間だからイロドリも寝るか」


「おやすみなさいジェイド」

「おやすみイロドリ」


ジェイドは優しくアートに腕枕をしながら背中をさするとアートはすぐに眠ってしまった。

さてと、本番はこれからだ。


「ジョマ、装飾をよろしくね」

「はい!」


ジェイドの心を治すのはジョマの仕事になった。

まあ私に言わせれば悪ノリだ。東さんがやってあげればいいのにジョマ式なのは悪乗りだ。


ジョマのやり方で心を癒すのでジェイドは一時的に女性の魅力を一身に受け取る事になる。


正直かわいそうな気もする訳だが治らないよりかは治った方がいいから賛成も反対もしなかった。



ジョマはニコニコと「じゃあ千歳様、行ってきますね」と言って東さんと一緒にジェイドの夢に行く。

夢の中でアートが成長出来たお礼をする話をする。

ジョマ達も全てを正確に話さずにわざと嘘ではないがわかりにくく本当の事を混ぜて説明する。


そしてアートが帰ったらお礼が起きる説明をしてからジェイドの夢を後にするとジョマは悪い笑顔で「神の力を使う!私の中に0と1の間を形成、そこにカナリー、リアン、アプリ、フランを呼ぶわ!」と言った。



**********



「ええぇぇぇ、そこまでするの?」

思わず映像に向かって言うと何のことだか今ひとつわからない戦神達が疑問を口にする。


「ジョマの悪ノリだよ。あーあ…ジェイド可哀想」

「千歳?」


「見てればわかるよ。同情したくなるはずだよ」

私は呆れながら映像に目をやる。


突然真っ暗な場所に呼び出されたカナリー、リアン、フラン、アプリはお互いを見て驚くがカナリーとフランはこの世界にきた事があるのでまだ落ち着いている。


現れたジョマが「こんばんは。私はイロドリの母」と自己紹介をする。

東さんは不可視モードで遠くからそれを見ている。

多分男神とは言えここに男性が居る事を避けたかったのだろう。


「イロドリ様のお母様?」

「はじめまして」

「リアンです」

カナリーははじめましてではないので挨拶に困って会釈をする。


「ふふ。緊張しないで。カナリーとフランはここが何処かはわかるわよね?」

「はい。夢の世界です」

フランがアプリを安心させたくて食い気味に答える。



「そう。カナリーも夢の世界には馴染みがあるわよね?」

「…はい」

カナリーがどこまで知っている感じを出していいのか探りながら話す。

その気遣いがジョマを喜ばせる。


「偉いわ。ちゃんと私達との約束を守ろうとしたわね」


「あの…これは?」

カナリーが不安げにジョマの顔をみて質問をする。


「神のお節介よ。平気、ジルツァークにもタカドラにも許可は取ってあるから気にしないでね」

ジョマが明るく話す。


「イロドリ様のお母様?」

「アプリ、今私の事はジィマでいいわよ。起きた後はイロドリの母で通してね」


「はい」

「ジィマ様」

「それでこの場は?」


「ふふ。今回、事態の解決に神々が手を貸した事は少しなら知っているわね?」

「はい」

「最低限ですが…」

「…」


「もう、カナリーはもう少し打ち解けて平気よ。誰も困る事はないわ」

「はい」

カナリーは私達の事まで気を使っている。なんかこうなると可哀そうな気もする。


「それでジェイドの事なんだけど」

ジョマが意地悪くボカした言い方をするとカナリー達が目の色を変えてジョマに詰め寄る。


「ジェイド様!?何かあったんですか?」

「まさか無理がたたってお身体に問題が?」

「よくない事?外敵とか?」

「まさか旅立つとか…」


「あらあら、モテモテねジェイド」

「ジィマ様!」

カナリーがジョマに詰め寄る。

こういう時に言うのはリアンかと思ったが会話した経験のあるカナリーの方がジョマに詰め寄った。


「ふふ、違うわよ。カナリー、コスモスの日の話は覚えてるわね?」

「…はい」


「あの日、ジェイドはどうだったかしら?」

「え?コスモスを見せてくれた後、エルム様がジェイド様に街の男性が私を変な目で見ていると冗談を言って…」


「そう。それで目の色を変えたジェイドは心が壊れている事に危機感を覚えてジルツァークに治してくれと言いに行ったの」

「はい。でもジルツァーク様には治せないって…」

ジェイドはエルムに言ってそれがカナリーの耳に入っていた。


「ふふ。だから神々がジェイドを治してあげてと私に言うのよね」

「え?」

「ジェイドの心が治るんですか?」

「じゃあ女性の興味が?」

「恋人を作ろうとしたりするんですか?」


「ふふふ。そうなるわね。でもね。私が行う処置はジェイドの心を4年前に戻して傷のない状態にしてから一気に今日までの体験をさせるわ」


「体験ですか?」


「そうよ。リアンに慰められた夜、4年ぶりに優しくされて手を握りながら眠った経験。

カナリーを抱きしめながら旅立ちを見送った経験。

フランに懐かれながら過ごした経験。

カナリーを失った夜に話し、目的や生きる意味を見失った時にアプリと話した経験。

それらを一気に体験するわ」


それを聞いた4人は目を輝かせながらも周りを見る。


「でもね。私からは1つの事を言わせてもらう。ジェイドに気持ちのない女性はその場に居ないで貰いたいの」

ジョマが冷たい目で4人を見る。



**********



「何故ですか?」

「一気に体験した後は徐々に本来のジェイドに戻るから、それまではジェイドに気持ちのある女性しか会わせたくないの。

無論、対象外の女性なんかは会ってもらって構わない。

セレストと言うパートナーのいるミリオン、家族であるエルムとメイドの老婆。後はジルツァークも問題無いわね」


「気持ち…」

「そう。明日、娘のイロドリが朝食後に帰るわ。娘がエクサイトを旅立った瞬間にジェイドに異変が起きる。

そうなったジェイドは孵化したひな鳥と一緒。

ひな鳥は卵から孵化して最初に見た生き物を親だと認識する。

そんな大事な時だからジェイドに気持ちのない女性には遠慮してもらいたいの」


「…」

「…」

「…」

「…」


カナリー達は皆黙ってしまう。

この場に呼ばれた事でジェイドに気がある事はバレてしまっているが口にしなければ秘めた想いで押し通せる。


アプリに至っては望まぬ出産を2度もしていて歳もジェイドより6歳も上な事を気にしている。


カナリーは生き返らせてもらった上に恋心を伝えるなんて図々しい事は願えないと思っている。そして皆の気持ちを聖女の力で感じているだけに何も言えない。


フランは10も年下な事、姉達の気持ちを知っていて何も言えない事。


リアンは聖女の監視塔の女性達のように感謝と覚悟が足りないのではないかと思う部分もあった。


「あら、チャンスは一度よ?これは神の気まぐれでお節介なの。遠慮をした方が損をするわ」

ジョマがキツい言い方で追い込んでいく。



「私は立候補します!」

カナリーが前に出た。


「ええ、そうしなさい。お姉さんや妹、傷付いたジェイドを照らした女性に遠慮は不要よ」



「私も立候補します!」

リアンだ。


「ええ。それが良いわね。あなた自身、感謝を表したいだけかもと思っている。でも何も間違っていないわ。決める。動く。とても大切よ?」


「決める?」

「動く?」

「あら、フランとアプリはまだ躊躇するの?歳の差なんてどうでも良いじゃない。ジェイドは気にする?」


「…わからないです」

「私はしないと思います」


「ふふ。アプリは子供達のこともあって気にしているけどジェイドはそんな狭量かしら?逆にアプリ以外の3人が気にすべきよね。

ジェイドならこの新グリアにいる人達全てを家族と思っているわよ。

あなた達はそんな家族に入れ込むジェイドにヤキモチ妬かないかしら?」


「大丈夫です!」

「私も問題ありません!むしろ王族として立派だと尊敬します!」


「ふふ。なら明日はカナリーとリアンで決まりかしら?」

ジョマが挑発を続けるとフランとアプリがついに動く。


「私も!」

「私も立候補します!」


「ふふ。良かった。

じゃあ明日目が覚めたら4人で話しかける順番を決めなさい。

後は安心しなさい。

今このタイミングでジルツァークが人間達に夢の中で通達を出しているしタカドラがエルフとドワーフに通達を出しているから娘の見送りに邪魔はしないわ」


ジョマが言いたいだけ言って夢を後にする。

神の世界で待つ私達の前に現れたジョマはニコニコとしている。


「ふふ。千歳様、私の装飾はどうでしたか?」

「100点満点で78点」

ここで甘やかしてはだめだ遠慮なくキツ目の採点をする。


「…えぇ…低いです」

「挑発の仕方が意地悪すぎ。

1人ずつに会って気持ちを聞いてあげていたら満点に近いのに。わざわざ4人集めたのが意地悪なんだよ」


「精進します」

「よろしい」



「千歳」

「何?ナースお姉さん」


「明日の朝って来れる?ジルツァークに許可を取っても介入するなら千歳がいいよね?」

「へ?」


「ジョマのやり方だと短時間で4年分の刺激が襲うんだから負荷に負けて脳出血だってありえるわよ?」

「ええぇぇぇ!?」

そこまで危険な治し方をするのか?


「ふふ。大丈夫ですよ治癒神、千歳様」

「何で?ってそっか、ジェイドは自動再生するから何とかなるのか…」


「はい。そうじゃなきゃもう少し時間を延ばしますよ」

「まあ何にせよ明日だね」


「朝はいらっしゃいますか?」

「んー、眠いからなぁ」

正直布団でウトウトしながら見たいのだが…。


「獲れたてのお魚が素敵なモーニングコール!!」

「…来る」

お魚さんがお魚で私を誘ってきやがった。

きっと獲れたての魚は美味しい。

もう断れない。


「はい。お待ちしております」

「ふむ。千歳丼が食べられるなら朝は食べずに待つかな」

「友情神、私アジが食べたい」

「私は白身魚!」

「ワカメのお味噌汁飲みたい」

「ブリは獲れるかい?」

「…アサリ」


とりあえず先輩お姉さんは味噌汁付きを所望していて隠匿神さんはアサリブームなのがわかった。


「今から行ってくるゼーッ!」

「はぁぁぁっ?早すぎ。寝なよ。多すぎても困るからね?」


「お裾分けすればオールOK!yeah!」

そう言ってお魚さんは駆け出して行く。


「ツネノリに朝練やめさせてお魚捌かせようっと…」



**********



アートの帰還は大体9時だ。

それを観ながら海鮮丼を食べればいいのに張り切ったお魚さんに呼び出された私は7時から神の世界でお味噌汁を作ることになった。


「休みの日なのに。バカじゃないの?」

ブツクサと文句を言う訳だが戦神が割烹着姿で「そう言うな、皆千歳のご飯が好きなのだ」と言いながら野菜を切っている。


「ふむ。野菜が足りないな」

と言っておひたしを用意したり浅漬けを準備する姿はオカンだ。


とりあえず獲れたてのアジを数匹ツネノリに送って「お父さんの焼き魚になるからね」と言うと綺麗な開きになって帰ってきた。


コピーガーデンで私が渡さない限り基本お魚に縁のないお父さん達にも差し入れると大喜びだ。まあ例外で石をルルお母さんの黄色い水に漬け込めば魚の切り身に変わるから何とかはなる。

余談だがあの水にもキチンと名前をつけていたルルお母さんだったが誰も名前を聞いてこないと言って名乗らないままもう半世紀くらい経つ。

そしてそれ以来作った人工アーティファクトに殆ど名前をつけなくなった。



「うわ…まだマグロと鯛が居るよ」

お魚さんは沢山獲って皆にお裾分けしたかったんだろう。

正直本気で丼から溢れる海鮮丼を作っても残ってしまうと困る。

ここで一つやってみたくなった私はコピーガーデンにマグロ、ゼロガーデンに鯛を送り込んで「舟盛りよろしく」と言う。


ツネノリは舟盛りをタツキアでやった事があるので船の器は創造して渡すと綺麗に盛り付けられてきた。


それを見たお魚さんが大喜びで「千歳!写真撮ってくれヨー!」と言ってきた。

お魚さんと舟盛りのツーショット写真は宝物にするそうだ。

まあ、引き伸ばして等身大ポスターにしたのでお魚代金の代わりになったら嬉しい。


アートの方は寝起きにジェイドからジョマ達の話を聞いて困った顔をしていた。

それを見たジョマが「アートってば装飾の素晴らしさがわかっていないのね」と言う。


「アートの方が常識ありそうだよね」

「本当だよね」

ナースお姉さんと時空お姉さんが思った事を言う。


ジョマは言われると思っていなかったのでショックで「皆さん酷い!」と言う。

だが「よかったねジョマ、甘やかさない皆に感謝だね」と言ってジョマを納得させる。

私はフォローも忘れない。


そしてそんな中でもお説教もする。


「ああ、アジの開きが美味しかったのね。

良かったねお父さん。で…なんでこの前のツネノリやリーンさんみたいに神の世界に通信出来るの?

刺身?後で持って帰る…今すぐ食べたい?

何で?はぁぁぁぁっ?朝からお酒を飲ませろだとぉぉぉぉ?

バカじゃないの!

少しは肝臓に優しくなりなさいよ!

病気になったらどうすんの!?

わ…私に治せと?

はい無理。お刺身は夜ね」


「お前!今もルルの端末を使ってツネジロウが自慢してくんだよ!俺だって食べたいぞ!」

そんな断末魔みたいな声が聞こえてきたが知らない。


「ヘイ!」

「却下」


「NOぉぉぉ、俺はまだ何も言ってないゼーッ?」

「わかるもん。また漁に行くから食べさせてあげてくれよって言うよね?」


「オーゥ、看破神も真っ青だゼーッ」

「バレバレよ」

私が呆れていると呆れながらナースお姉さん達が口を開く。


「でも千歳はもう少しワガママになっていいのよ?いつも人の為にしかワガママにならないじゃない」

「ナースお姉さん…」


「そうね。過去の半神半人達は皆自制出来ないくらいワガママになって行ったわよ?」

「それ聞いたら余計出来ないよ!」


皆「言うと思った」と言って笑顔になる。

そんな所に王様と黒さんが来る。

「監視していたらツネノリが魚を捌いていたから来たよ」

「神の世界に来るとチトセのご飯があると思ったんだ」


そしてそんな事を言いながら海鮮丼を食べた王様はお父さんに刺身を横流ししやがった。


「何すんのよ!」

「別にツネツギが病気になったら僕は治してやるつもりだよ」

…くそ…甘やかすなよ。


「自制しなさいよ自制」

「し過ぎているさ」

「チトセには僕達の苦悩がわからないみたいだね」

王様と黒さんが手を組むと面倒な事この上ない。


「わかりたくないわよ」

まったく、またちょっと人間性が無くなってないか?

今度またアーティファクトを取り上げてやる。



王様とのやり取りに集中していてアートの事がおろそかになっていた私に隠匿神さんが「ほら、アートが動くよ」と声をかけてくれる。「ありがとう隠匿神さん」と言って私は映像に目を向ける。

アートは見送りの少なさに何か皆の気を悪くさせたかと気にして暗い顔をするのだがエルムがアートに抱きついてそっと耳打ちをする。

「イロドリ様のお母様が兄さんの心を治してくれる事になりました。

イロドリ様が帰ると兄さんの心が治り始めて一時的に女性の魅力に敏感になるから今は皆隠れています。神様の世界で兄さんを見守ってくださいね」


それを聞いたアートは嬉しそうにニヤニヤと笑うと「ママってば~」と言うと怪しいまでにアッサリと帰ってしまう。



**********



「ただいま〜!」

「お帰りアート」


両手を広げて帰ってきたアートに手を伸ばして抱っこをすると「千歳!映像!映像見なきゃ!」と言う。


「ふふ、大丈夫よアート。ママがエクサイトの時間を止めてあげましたからね」

「ママ!ありがとう!」


…エクサイトに手出ししないって言いながら時間を止めるってのもなぁ…。私はつい「悪ノリが過ぎるなぁ」と言ってしまうとナースお姉さん達も「うんうん」と言って頷く。



「ふふ。さてと…ジェイドの心を4年前まで遡ってとグリア陥落の前日にして、このまま傷を負わないままにセレストとミリオンに会って…心には体験をさせてあげましょう」

そう言うとジョマが指を出してアレコレと操作をする。少ししてジョマが「出来上がり、すぐにジェイドが覚醒するわよ」そう言いながらジョマがエクサイトの時間を動かす。


時間が動いた途端にひどい立ちくらみで倒れ込むジェイド。

いつの間にかりぃちゃんも来ていて興味深くジェイドを見る。


「りぃちゃん?」

「我慢できなくて来ちゃったよぉ。わぁ。ジェイドがミリオンの魅力に気付いて困ってるよアート!」

「本当リリオ?」


アートもりぃちゃんもニヤニヤとジェイドを見ている。



「さぁ、ここからが本番よ!」

ジョマがウキウキと実況をする。


「まずはアプリよ!」

アプリがおかしくなったジェイドに近寄ると大人の色香に慌てふためくジェイド。

ジェイドは見えていないがセレスト達は大盛り上がりでニヤニヤとしている。


「ジルツァークも悪いなぁ。映像化して皆で見てる」

「流石に皆やり過ぎじゃない?」

ナースお姉さんと先輩お姉さんが別視点で映像を観て呆れている。


「千歳様、千歳様はジェイドが誰を選ぶと思います?」

「今の状況じゃ判別不能だよ。それこそアプリ1人で、このまま抱きつかれたらジェイドは1発KOだよ」



「まあそうですね。ですが次がリアンですからどうでしょう?」

リアンがジェイドを心配そうに見つめるがリアンの心配は一番手を勝ち取ったアプリに一目惚れをしていないかばかりでジェイドの心配ではないし、自身を救ってくれたジェイドがもしかしたら自分に惚れるかも知れないという期待で目が潤んでいる。


「リアンって可愛いよねちぃちゃん」

「うん。ジェイドを選ばなきゃ凄くモテて困る感じだよね」


ジェイドはリアンの切れ長の目と長いまつ毛を見つめて固まっている。


「千歳!ジェイドが凄いことになってるよ」

「アート、喜びすぎだよ」


「だって嬉しいんだもん」

「まあそうだね」

今は加速度状態にあるけれどジェイドが混乱すると言う事は心が治った証拠なので嬉しい。

ジェイドはリアンに見惚れていたらセレストに日頃の仕返しとばかりにいじられてタジタジになる。



「さあ!次はフランですよ」

「大穴だね」

「いやいや、治癒神は甘いなぁ。案外あの明るさが勝利を勝ち取るかもよ?」


「治癒神と時空神は、それらしいコメントをするけどパートナーいないじゃないか」

「そうだよ、はやく子供を産んでよ」


「黒さん?王様?何回も言ったけど神様の赤ちゃんはアンタ達のパワーアップの助けじゃないのよ!」

まったく、これは東さんに勝つことを意識しているとしか思えない。

怒ろうかと思った所でアートが「あ!フランがジェイドに触ったら倒れたよ!」と言う。

私は思わず「マジか!?」と言って映像に目を戻す。


「ちぃちゃん、なんか可哀想になってきたよ」

りぃちゃんがなんか見てらんないって感じで言う。

まあ、ジェイドの心を見てしまったんだろう。見ると感化されちゃうよね。


フランは3番手のハンデを埋める為にも天真爛漫さを前に出してボディタッチをしたらジェイドは倒れてしまう。


あまりの事にエルムとセレストとミリオンが驚いている。


「純情なのねジェイドは」

「ジョマ?やり過ぎだからね」

もう、りぃちゃんではないが楽しみ過ぎていてちょっと可哀想だ。


「千歳様、ついに大本命のカナリーですよ?」

「ヤバ!目が離せない!」


「千歳…やり過ぎと言っておったのにそれか?」

戦神が呆れている。


カナリーは4番手も何も気にせずに倒れたジェイドを心配して駆け寄ると膝枕をして顔の汗を拭ってあげる。


「わぁ…これまでの3人は下心あったのにカナリーにはそれが無いね。本心でジェイドを心配してる」

「本当だね」


「ふふ」

ジョマが嬉しそうに笑う。


「ジョマ?」

「3…2…1…」

ジョマが私の質問に返事をせずに不吉なカウントダウンをするとゼロのタイミングで映像のジェイドが「が!!?」と言って鼻血を噴出して気絶してしまった。



**********


「あらあら、やはりジェイドも大本命の膝枕は刺激が強過ぎたのね」

「ママ?大本命って?」

アートが大本命の意味を不思議がってジョマに聞く。


「うふふ。千歳様に聞いてみたら?」

マジか、こっちに振るなよ。


「千歳?」

「りぃちゃんがいいかな〜?看破神様だし」

私は横に居るりぃちゃんに振る。


「え!?ちぃちゃん酷い!」

「千歳?リリオ?」

アートがポカンとした感じで私達を見る。

正直なぁ、わかっていると言う事は心を見てしまったと言う事でちょっと申し訳ないのだ。

そんな時に戦神が「ふむ。大本命と言うのはジョマの期待値の話ではなくジェイドの心の中を言ったのだな」と言ってKYおじさんの感じで鋭い説明をしてくれる。

ありがとう戦神。今は助かる。



「え?ジェイドはカナリーが1番なの?」

アートが嬉しそうに驚いた顔で映像を見る。

映像の中では隠れていた皆が出てきて楽しそうに笑っている。


そう。

私達…私とりぃちゃんとジョマ、後は東さんと地球の神様もだがジェイドの恋心は見えてしまっている。

私とりぃちゃんは申し訳ないなと思っている。なんか勝手に自分たちが一つ上の存在みたいで実は好きじゃない。



ジェイドはカナリーに特別な感情がある。

戦友に向けるような気持ちと、最後の命を燃やして自分の傷を取り除いてくれた異性に向ける気持ち。だからこそエルムの挑発に鬼神のような顔をしたのだ。


だがジェイドにその自覚はない。

身体が人間をまだ疑っている。嫌っている恐怖している。

だから魂同士で出会った時、夢の中では素直にカナリーに気持ちを伝えられたのだ。



「ふふ。でもそれは今のジェイドの気持ちでこれから先はわからないわ。

もしかしたらジェイドに何か辛い事があった日にジェイドの顔付きに1番に気付いたのがアプリで前に2人で悩みを打ち明けあったみたいに話せばジェイドはアプリに恋をするかも知れない。

自分から前に出られないカナリーを差し置いてリアンがグイグイと前に出たらリアンが1番になるかも知れない。

フランだってそうよ?初めは兄と妹みたいでも気がつけばって事もあるのよ」

ジョマがとても6歳に聞かせる話でもないのにしてしまう。

まあ、心の年齢は12歳くらいなのでわかるのかもしれない。


「じゃあジェイドがジルツァークに恋をして神様になる事もあるの?」

なんて質問をぶち込むんだ!?

まあだがそれは無理だ。


「それは無理よ」

「何で?」


「ジェイドじゃ神の世界に来ても神化できないからよ。千歳様と王様達が珍しいだけなのよ?」

そう。ジェイドは一般人、常人なのだ。



身体も魂も神化の可能性はない。


「まあ神々がズルでもしなきゃならないから、仮にジルツァークがジェイドに惚れ込んで神化して欲しくて皆に頭でも下げれば出来ないことはないけどそれはないわよ」

でも何故だろう、そんな日が来ないと言い切れない気もするんだよなぁ。

ジルツァークは人間臭いから気も多そうだし…王様と黒さんに上手くいかなかったらジェイドって言うのもなぁ。


まあ、アートにそこまで説明する必要は無いので余計な事を言わなかったら「そっかー」と納得したので私は「ほら、もういいでしょ?海鮮丼あるから食べなよ」と言う。


「わーい!千歳とお魚さんありがとう!!」

「アート、これで解決したから今度お肉弁当やってあげるね」

「わーい!!」


「アート、ママも作りますからね!」

「やったー!!」

ようやく約束のお肉弁当を作れそうで良かった。

アートはジョマと私のお肉弁当を想像してニコニコと喜ぶ。



「ヘイ!」

「無理」


「NOぉぉぉ!何でだヨー!?」

「アートが食べたいのはお肉弁当でお魚弁当じゃないからよ」


そう断った時、私の耳に「千歳!お魚弁当は作るべきだ!」と言うお父さんの声が聞こえた。


「お父さん!?」と言って驚いた私に東さんが「面白そうだからツネツギに聞かせてみたんだよ」と言ってイタズラをした時の顔で笑う。


「いやぁ、それにしてもツネツギの魚に対する執念は凄いね」

「笑えないから」

そんなやり取りの中、アートはもう一度エクサイトを見ていた。


意識を取り戻したジェイドがカナリーにハンカチを汚してしまった事を照れながら謝っている。

一時的に加速状態にあった恋心は落ち着いていてジェイドは普通にカナリーの顔を見ながら話が出来ている。


「すまない…。何だったんだあれは…」

「いいんですよジェイド様」

カナリーがジェイドの無事を喜んで微笑む。


「いや、今晩ハンカチを縫うから受け取ってくれ」

「働き過ぎですよ?」

ジェイドは自分でハンカチを縫うと言う。

ビリンさんは同じ王子だが縫えるのだろうか?

今度聞いてみよう。


「だが申し訳が…」

「ふふふ、ジェイド様、今度一緒に雨の日に縫いましょうか?」


カナリーに言われて嬉しそうな顔をした後で焦るジェイドを見たアートは「良かったねジェイド。幸せになってね。また遊びに行くね」と言って海鮮丼を食べた。


「アンタこそ良かったねアート」

私は海鮮丼に顔がとろけているアートを見ながらつぶやいた。



**********



さてさて、度々ご無沙汰しております。

今回は「三分の一の勇者は不死身なので何をしても勝つ。」の裏側、イロドリことアート側のおまけガーデンを書きました。サードから6年の月日が流れているので赤ん坊だったアートも頑張って女神をしています。


当初はアート視点にしようかと思ったのですが数話書いてみて何も知らないアート視点は説明とかアートがそれを知る部分が必要で長くなるのがわかったので千歳視点にしてしまいました。


後はポロポロと以降の年代は前後するもののおまけガーデンの種は撒いておきました。


正直出すか悩むのは次の世代の子供達。

会話の流れで致し方なく出したザンネとシエナの子供のサエナやコピーガーデンのツネノリの息子の常泰。

そこまで書き始めると次のガーデン書かなきゃダメかなとなってしまうので極力書きませんでした。


結婚や将来、後は人間関係に悩んであまりゼロガーデンに立ち入らなかった千歳はこの先はもう少し顔を出すようになると思います。


後はこの先も書くのなら「千歳とちとせ」を書いてちとせは別人格にしてあげてもいいかなと思いました。


まだ未定で書いてませんがコピーガーデンのちとせは別にビリンと付き合わなくても良いんだよなと思っていますが、それだと同期時に千歳は別の彼氏との追体験をしてしまうので20歳彼氏無しなのかな?とかとか考えてます。


サードの後書きで書いた、黒いマリーとマリクとリンカの話は統合して脳内にある程度は出来ているので次作の後にでも書き出しても良いかなと思っています。

後はマリクとリンカが帰ってきた後のウエストでガリル視点の話とか載せてあげてもいいなと思ってます。


この先で言うと「第167話 それ言うと本気でやりだすから言っちゃダメ。」で書いたアートが5歳の時に起こしたちょっとしたトラブルを書いてありますので次回作の後にするか連休の息抜きに載せるかも知れませんのでその時はお付き合いください。


今回はあまり長く後書きを書かないので次回作でまたお会いできたら幸いです。

2021年4月18日

さんまぐ。

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