表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おまけガーデン。  作者: さんまぐ
アートの女神イロドリ。
17/19

装飾神のお節介と調停神のお節介。

金曜日

サード ガーデン

深夜3時(日本では夕方5時)

「皆さん!退避してください!巨大な魔物の気配がします!」

千歳が女神チィトとしてスタッフやプレイヤーの前で陣頭指揮を取る。


脳内は…

「これで終わる!やっと終わる!イベントは日曜日までだけどもう知らない!

辛かったよ5日間!

もてなされて、お悔やみ申し上げて、感謝を申し上げて!

勤務態度の悪いスタッフを叱って…ってお父さんくらいの年齢のおじさんを怒るの嫌だったよ!

勤務態度の良いスタッフを褒めて!

でもその横で褒められなくてヤキモチ妬くスタッフをそれとなく宥めて!

本当は放っておいていいんだけどそう言う訳にもいかなくて世界中を監視して火事場泥棒を働く奴を捕まえて!

あー!これで終わる!絶対今日はグラタン作る!ビリンさん呼んで大鍋で作ったグラタンを沢山食べて貰うんだ!

私も浴びるようにホワイトソースを飲んでやる!」

だった。


「…千歳様…ホワイトソースを飲むのはどうかと」

「ストレスを溜めるのも良くないけど少しは女神として頑張って…」

流石に普段ならツッコミが入らない事でも心の声が大きすぎてジョマも東も突っ込んでしまう。

だが今回は千歳のストレスもかなりのものだったので「いいじゃん!さあ魔物を出して!街を守って傷ついた女神チィトは神の世界に帰るよ!」と言い返す。


「ふふ、装飾神の面目躍如ですよ千歳様」

「は?」

何を言っているんだ?と言う顔をする千歳に東が「いやー、ジョマが張り切っていてね」と言う。

そう言われて嫌な予感がした千歳の周りがざわめき出した。


「何だあれは!?」「巨人!?」「巨大な魔物!?」

そう驚くスタッフ達と…

「あれ!セカンドで見たぞ!」「10年前のイベント最終戦に出てた奴だ!」と言うプレイヤー。



千歳は遠くを見た時に顔が引きつってしまう。

久しく見ていなかったが忘れもしない巨大で真っ黒なフォルム。


「げ…、山田クロウ?」

山田クロウと言うのはVR端末を使用しないコントローラー式の端末でセカンドガーデンをメインに活躍するプレイヤー。

千歳とツネノリの10年前の戦いで最後まで立ちはだかった強敵である。


「はい!スペシャルゲストですよ!ただ彼、VRは嫌だと言うので特別にセカンドのコントローラーで来てくれたんです」

千歳は山田の為に特別処置したの?と思っていた。

そして山田クロウの後ろにまだ一緒に山を乗り越えてくる影に目が行く。


「…ジョマ?なんか後ろにいっぱい居るよ?」

「ハイ、山田さんは本名が久郎さんで文字ってクロウでさらにそれを文字って九郎と言う事にして一郎から八郎まで用意しました!」

そう言って続々と現れる巨大な悪魔は山田クロウを含めて9体居た。


「…嘘ぉぉぉ…回復力は?」

「勿論再現してありますよ!」

千歳は無尽蔵とも言えるエネルギーで身体を切断しようが頭を吹き飛ばそうが即座に回復した山田クロウの回復力を思い出しながらジョマに質問をする。


「エネルギー源は?」

「10年前と違ってアーティファクト・キャンセラーはありませんけどセカンドの最終戦の攻撃力で言えば1時間くらい痛めつけないと倒せません!」


「…ジョマ?何考えてるの?スタッフとプレイヤーじゃ勝てないよね?私にこれと戦えと?」

「はい!」


「1体なら余裕でも9体なんて私1人で戦ったら神化しちゃうよ!」

「はい!神の世界でお待ちしております!」


ここで千歳はあわよくば神化させる気だな…と悟った。



「ぐきぎぎぎ…」と唸る千歳に向かい山田クロウは「女ぁぁぁっ10年振りだなぁぁ!この世界の神になったと聞いたが関係ない!行くぞ【閃光】!」と叫んで極太の光線を千歳に向かって放つ。


「うわっ!?かわしたら街に被害が出る!光の盾!」

小さく「くそっ」と言った千歳は女神チィトとして「皆さん!あの悪魔は私が足止めをします!遠距離で戦えるものだけが私と戦ってください!それ以外の人は人食い鬼達から街と民を守ってください!」と言う。


周りでは僧侶達が「おのれ悪魔め!よくもチィト様を女等と不遜な呼び方をしおって!」と怒っている。

その間に千歳は光の盾に響く衝撃に驚いていた。


「くっ…、ジョマ…パワーアップしたの!?重い!」

重そうに踏ん張る千歳は女神口調になる。



「でも私の背後にはサルディニスの皆さんが居ます!やらせません!」

そう言いながら心の中では「ぐぎぎぎぎ、いいわよ!やってやるわよ!思い知りなさいよ山田クロウ!」と言っている。


「光の剣!行きなさい!」

千歳の剣が瞬間的に山田クロウを細切れにするがすぐに回復をして立ち上がる。


「ちっ、女ぁぁぁっ!10年で更にやるようになったなぁぁっ!一郎から八郎も女に向かって閃光を撃てぇぇぇっ!」



それを聞いた千歳は脳内で「はぁぁぁぁっ!?ふざけんじゃないわよ!くそっ神の力!時間停止!同時進行接続!」と言う。



**********



「皆!サードで一大事!助けに来て!今回は拒否不可!本気の奴なの!

ツネノリ来て!

お父さん見てるよね?来て!

ルルお母さん頼める!?千聖の事があれば召喚の光に入らないで!

マリオンさん!メリシアさん!マリーさんはすぐに鎧を装着して!

カムカさんカムオさんガリルさんは出てすぐ攻撃できるように本気でよろしく!

ビリンさん!アニスさんとヤグルさんと来て!レンカさんは王様と来れるなら助けて!

はい次!

ガクさん!アーイさん!ガイさん達と5人で来て!

ザンネさんゴメン!

カーイさんもお願い!

…マリクさんリンカさんお願い!

ネイ!サルディニスの危機なの来て!

テッドも来なさい!

テツイさんとパルマさんも!

後は…黒さんも王様も来れる人は皆来て!」


皆あの千歳が頼る一大事という事で慌てて用意をする。

「ジョマ!東さん!やってやるわよ!!だからアドリブだけど合わせて!後は任せるからね!」


「楽しいです!わかりました!」

「本当、これだけやれるのに神にならないのかい?」

ジョマが輝く世界を見て喜び、東はこの結果なのに神化を拒む千歳を残念がる。


「ならないわよ。なってたまるもんか」そう言って笑う千歳。


「皆!準備いいよね?呼ぶからよろしくね!神の力!召喚の光を出すから飛び込んで!」

皆の前に召喚の光が現れる。

皆が顔を見合わせて頷いて光の中に飛び込んでいく。


「時間停止をやめる」

そして通常時間に戻った千歳は女神チィトとして振る舞う。


「やらせません!始まりの地から神話の英雄達を呼びます!皆さん!お願いします!」

チトセの呼び声で次々に仲間達がゼロガーデンから召喚されてくる。


交戦経験のあるツネノリ、メリシア、マリオン、カムカ、キヨロス達が9体の悪魔を見て千歳が呼び寄せた理由を納得する。


「へぇ…あの悪魔が相手なんだ。チトセ?どれくらい強いの?」

「チトセが呼ぶと言う事は1人じゃキツいんだよね?」

「王様、黒さん。セカンドで戦った時の攻撃力なら1時間切り刻まないと駄目だって」


キヨロスの質問に答えるとツネツギが恐ろしい顔で千歳を見る。

「何!?攻撃力はどうなんだ!?」

「お父さん、正直私も1本の光線を防いだけど重かったんだよ。1人で9本全部を同時に防ぐのは無理かな」


このやり取りで皆が危険を察知する。

正直18メートル近いサイズの化け物が9体も居るのだから洒落にならない。


「やるしかないな!一体は受け持つ!」

「ツネノリ、お願い!!」


「斬り刻む!【アーティファクト】!」

ツネノリは山田一郎の前に行くと24本の剣を出して斬り刻んで行く。



「あー!!ズルイ!私達も一体頂戴!行こうよ!メリシア!マリー!」

「ハイ!よろしくお願いします!」

「行くよマリオン!」

マリオン、メリシア、マリーの全身鎧3人が山田二郎に向かっていく。

「ごめんね。お願いね」



「んじゃあ俺とカムオとガリルで一体か?」

「うん。カムカさんごめんなさい」


「チトセさん、気にしないでいいよ。でも女神も大変そうだね?」

「うん」


「じゃあ俺達が頑張るよ!行こうお父さん!兄さん」

カムカ、カムオ、ガリルが山田三郎を狙う。



「流石に千歳1人には任せられんなアーイ」

「ああ、だが頼ってくれて嬉しいぞ!行くぞガク!遅れるなガイ!アン!ガル!」

「了解です」

「お任せください」

「やってやろうじゃん」

ガク、アーイ、ガイ、アン、ガルは山田四郎に向かっていく。



「千歳さん。ちゃんと呼んでくれたね?ありがとう」

「本当だな。俺達に任せるんだ」

「カーイさん、ザンネさん。怪我には気を付けてね」


「ザンネ!あまり褒められないがこの中の誰よりも先にあの悪魔を倒すぞ!」

「ふっ、それはいいな。行くぞカーイ!!」

ザンネとカーイが山田五郎へ。



「チィト、母さんがやりすぎたのか?」

「正解…。もう今ニッコニコだよ」


「すまないな。だがこの場は任せろ【エレメントソード・ファイヤ】!」

テッドが山田六郎を受け持つ。



「チトセさん。久しぶり」

「呼んでくれてありがとう」

「ううん。呼んでごめんね。マリクさん、リンカさん。元気?変わりない?」


「うん。変わりないよ」

「俺達が戦えばあの日の恩返しになるかな?」

「うん。本当に助かるよ。2人は周りから街を狙う魔物を受け持って貰えるかな?」

その声でマリクとリンカは人食い鬼やゴブリン退治に向かう。



「それなら僕もですね?」

「テツイさん、頼めますか?」


「はい。任せてください。ただざっと見た感じ怪我人が多いですね」

「大物に気を取られている間に皆混乱してしまっています」


「その為にですね?」

「はい。シエナさん、パルマさん、ネイ!」

「了解よ」

「何をすればいい?」

「チィト様!」


「シエナさんは「蜘蛛の意思」で50×50のマス目の中で僧兵達の大軍指揮とけが人の把握と避難誘導、それをパルマさん達に出して!

パルマさんは大変だけど怪我をした人の回復をお願い!

ネイ!サルディニスの危機だから誰よりも本気で皆を救って!」


「やるわ!【アーティファクト】」

「シエナ!怪我人の所に導いて!先生、私達を守ってね」

「チィト様!パルマ様と行動を共にします!」



「よし、ここで更にやる。

皆のもの聞きなさい!今ここにサルディニスから始まりの地に導かれた伝説のシスターネイが居ます!僧達は彼女に追従しなさい!」

兵達はネイを見て歓喜した。

信じないわけではないが伝説のシスターが降臨した事実に沸き立っていた。



「チトセ?」

「うん。ビリンさんはちょっと余剰の力を貰ってもらうから待機。アニスさんとヤグルさんは手薄な所を回って、レンカさんもシエナさんを守って!」

「了解」

「任せてチトセさん」

「僕もレンカ姉様とパルマ姉様を守るよ」

「チトセ!任せてよね!」

アニスはマリクとリンカの後を追い、ヤグルとレンカはテツイと連携を取る。



**********



「チトセ、僕は?」

「王様はどうしたい?黒さんと張り合いたい?」


「へぇ…いいね」

「僕は負けないよ?」

キヨロスと黒いキヨロスがお互いを見てニヤリと笑う。


「人間性は捨てないでよね」

「わかっているよ。それにしてもなんなのこれ?」


「ジョマと東さん…、と言うか神の世界の皆が私の神化を望んでて…」

「ああ、運悪く神化しても神の世界の皆が喜ぶんだ」

「ご愁傷様、それで大軍を用意されたんだね」


それを聞いていたツネツギが目を三角にして怒る。

「何!?東の野朗。この前から千歳に結婚やら神化やら勧めやがって。ルル、雑魚どもを吹き飛ばしたら俺たちもあの悪魔を蹴散らすぞ!」

「…ふむ。少し試したくなった。千歳、私達を分けよ。今はビリンがおるから多少の無理も出来るな?」


突然ルルが千歳に提案をする。

「へ?」

「ノレノレはルノレと私で抑える。ノレルはツネツギと戦線に投入した方が良かろう?」


ルルは自身の中に居るノレル、ルノレ、ノレノレを出して1人で戦うのではなく4人で戦うと言う。


「やるの?」

「当然だ。可愛い大切な娘を本人が嫌がる神になどさせてなるものか」


「ありがとうルルお母さん」

「気にするな。さあ、女神として号令をせよ」

ルルが千歳を安心させる為に微笑む。


「うん。その前に力逃がさせて」

「おう、おいでチトセ」

千歳はビリンに抱きつく。

少し離れた僧兵が驚きの表情で千歳とビリンを見る。

千歳は神の力で僧に聞こえるように話す。


「気になさらないでください。この方は私の最愛の方です」

千歳はハッキリとビリンを最愛と言う。

力をビリンに逃がした千歳がルルを見る。


「ルルお母さん、分けるね」

「ああ、やってくれ」

そして現れたノレル、ルノレ、ノレノレ。


「千歳、安心なさい。私がツネツギと魔物を蹴散らしてくるわ」

「千歳ちゃん。お母さんに任せなさい!」

「母ちゃん本気だよ!「創世の光」を放った後は全部殴ってあげるからね!」

「お母さん達、ありがとう」



「ノレル!」

「何ルル?」

「これを持て」

ルルがノレルの手を取って何かを渡す。「これ…」と言って手のひらを見るノレルの手を一緒に見た千歳が「あ!?増幅の指輪!?」と言って驚く。

6年前に千歳の力で作った「増幅」の力を持った人工アーティファクトだった。


「封印していたとっておきだ。千歳が我らを呼び出すくらいだから使ってしまおう。遅れをとるなよノレル?」

「任せなさい。ルルはいいの?」


「構わぬ。適材適所だ」

ルルはルノレとノレノレを連れて動く。

ノレノレが「創世の光」の発射に適した位置をシエナに聞いている。



「王様!黒さん!!2人の実力で皆の度肝を抜いてやって!あの2体の悪魔に復活の暇も与えずに倒しちゃって!」

「ふふ、いいね。どっちが早く倒すかやろうよ」

「僕は負けないよ」

2人のキヨロスは山田七郎と八郎を受け持つ。



この掛け声で見守っていたジョマが「うふふふふ。これじゃあ足りないですね。思いっきり増量しますよ!」と声をだす。


「はぁぁぁっ?」

驚く千歳達の前に新たに現れたのはかつて視覚神が送り込んできた赤い人食い鬼の群だった。


「ちっ、奴は俺とノレルでやる!千歳とビリンで悪魔を狩れ。やれるな?」

「やれるよ」


「よし、ビリン。千歳は任せたからな」

「はい!」


「ビリン、私の世界をよろしくね。千歳、心配はしていないんだけど気を付けてね」

「ノレルさん任せてください」

「ノレルお母さん。ありがとう!」

ツネツギとノレルが魔物の群れに向かって走って行く。



山田クロウはこのやり取りの間、ジョマの指示があったのだろう。既に戦闘が始まっていた他の山田たちの援護をしていた。

おかげで千歳は皆に指示出しも出来ていた。

千歳自身、これはジョマが手を回している事を理解していたので慌てずに準備を進める。

横に居るビリンを見るとビリンも千歳を見つめる。


「ビリンさん。手を繋いでくれる?」

「ああ、常に俺に力を流し続けろ。暴れようぜ?」

千歳が右手を出してビリンが左手を出すと手を繋ぐ。



「うん。行くよ!神如き力!」

「おう!行くぜ!神如き力!」

そう言って12本ずつの剣を出すとジョマの指示で山田クロウが千歳とビリンを見る。


「女ぁぁぁぁっ!1人では勝てないからと援軍を呼んだか!!新入りの男共々蹴散らしてやる!!」

「言ってなさい!蹴散らすのは私よ!」

「チトセ、俺も居るって」


千歳とビリンは手を繋ぎながら光の剣を飛ばして山田クロウを狙う。

千歳が高威力の剣を放つと体内に余剰の力が溜まってしまうがそれは瞬時にビリンに移っていく。

そしてその力を貰っているビリンは高威力の剣を放つことが出来る。


「ガァぁぁぁっ!?」

山田クロウは攻撃を喰らうたびに身じろぐがすぐに再生して襲いかかってくる。


「ったく、すげぇ回復力」

「本当だよね」

その後も少しの間斬り刻む。


「ビリンさん吹き飛ばすよ」

「おう。爆発力じゃ敵わないが今の俺はチトセと繋がっているわけで無尽蔵。なので一個試すぜ」


千歳の出した12本の剣は刺さるたびに爆発をしていたが山田クロウの攻撃に合わせて爆発する盾に切り替える。

代わりにビリンは爆発する光の剣の量を増やす為に生産速度を引き上げる。


「おお、やるねぇ」

「だろ?」



**********



千歳は周りに目を向ける。

ツネノリは「お前の動きは全て知っている!諦めろ!」と言いながら手足を輪切りにしていく。


「やっぱりこれ楽しい!」

「はい!やりごたえ十分です!」

「マリオン!邪魔な右手を切り落として!胴体に一撃入れたい!」

マリオンは目一杯の力で斬り刻み、メリシアは師匠の後を追う。

漆黒の鎧に身を包むマリーは肉弾戦で山田二郎の腹を切り開いて体内に入り込むと再生力に抗いながら内部破壊をしていた。



「唸れ筋肉!」

「行くよ筋肉!」

「凍りつけ!」

カムカは大振りの一撃で殴りつけてきた山田三郎の拳を打ち返し、カムオはその隙に頭部に登って強烈な蹴りを当てる。

ガリルは身動きを取らせない為にも軸足を殴りつけながら凍りつかせていた。



「ようやく千歳に呼んでもらえたなアーイ!」

「ああ、これまでも呼ばれなかった事の恥辱と言ったらなかった。結果を示すぞガク!」



ノレノレは魔物の群れに向かって「創世の光」を放つ。

「ぬぁっ!重い」

「ルルちゃん、これ、ツネツギに頼めばよかったね〜」

「ツネツギのが安心して撃てるから楽だよ」

母達は軽口を叩きながら魔物の群れを焼き払っていく。



ここで山田四郎が閃光(千歳命名:山田ビーム)を放つ。

「ガイ!」

「兄上!」


「やってみる。アン!風の力で俺を飛ばせ!「守りの腕輪」よ!【アーティファクト】!」

「はい!【アーティファクト】!」


アンが防御壁を展開したガイを上空に飛ばすが今1つ高さが足りない。



よくみると反撃可能だった山田達は全て街を狙っていた。

ツネノリは光の盾で数秒威力を抑えている間に光の剣で山田一郎の首を落とす。


マリオン、メリシア、マリーの3人は3人で胴体を駆け上がると光の盾を同時に展開して大きな盾にした所でメリシアが雷の力で盾を強化して防ぐがあまり芳しくない。

残りのメンバーも自身に向けられた閃光なら防げるが18メートルの巨体が街を狙って放つ閃光に対しては芳しくない。



「ビリンさん!イメージ拾って!私と同じ盾を作って!フルパワー。

限界突破するくらいの奴を張るから合わせて!」

「おう!任せろチトセ!光の盾!!」

ビリンは千歳盾そっくりの盾を街の前に張る。


「お父さんもお願い!」

「ったく、東とジョマめ!」

ツネツギは瞬間移動で街の前に行くと千歳とビリンの盾の前に巨大な光の盾を展開する。


「王様!黒さん!」

千歳がキヨロス達にも光の盾を頼む。

正直、千歳、ツネツギ、キヨロスが居れば問題ない。

だがキヨロスは違っていた。


キヨロスは山田七郎と八郎を斬り刻みながら千歳の前に現れると感謝を告げる。

「チトセ、僕達は別の方法を取るよ」

「うん。全ては君のおかげだ」


「へ?」

驚く千歳を無視してキヨロス達は「「いいよね?呼ぶよ!フィルさん!!」」と言う。


その瞬間、千歳達の盾、ツネツギの張った盾の前にキヨロスの妻、フィルが紫色の全身鎧に身を包み、左腕には絶対防御を司る「紫水晶の盾」が装着されていた。


「「ありがとうキョロくん!頼ってくれてありがとう!!ムラサキさん!!」」

「「やりますよ!フィル!!」」


「「【アーティファクト】!!」」

「紫水晶の盾」、本来の持ち主であるフィルが千歳とツネツギの光の盾の前に紫色の光の壁を作り出す。

フィルの光の壁は昔のような優しい紫色の光ではなくキヨロスや息子のヤグルが使う色に近い。


「フィルさん?」

「フィル母さん!?」

「おまっ…キヨロス!?フィルさんを呼んだのか!?」

突然の出来事に千歳、ビリン、ツネツギが驚く。



「そうだよ。フィルさんは僕が守る」

「だからこの場に来てもなんの問題もないだろ?」

キヨロスはそう言ってフィルの横に行くと腰を抱く。



「…うわぁ、全身鎧まで着てきてる」

「フィル母さん、意地でスタイル維持していたからなぁ…」

千歳が鎧姿のフィルを見て驚き、ビリンが今までの努力を口にする。


「また現れたのか新しい奴ぅぅぅっ!フルパワーだ!一郎から八郎までも何がなんでも発射をしろ!街を滅ぼすぞ!」

山田クロウが目の色を変えて残りの山田達に声をかける。


「まずい!山田クロウが諦めない!攻撃をやめさせなきゃ!」

「そんな必要はないわチトセさん!」

「私達に任せて!キョロくん!ヤグルを呼んで!」


「了解だよフィルさん」

「くるんだヤグル!」

この声でキヨロスとフィルの息子のヤグルも4人の前に現れる。

ヤグルも突然の展開に驚いている。


「母様!」

「ヤグル、手伝ってください」

「ふふ、こっちのヤグルは4年でこんなに立派になるのね。助けてくれるわね?」


「ああ、僕はやるよ。父様!僕と母様の負担を全て取り除いてください!!」

「ああ!やろう!「究極の腕輪」【アーティファクト】」


「ヤグル!力の維持は私達がやります」

「反射をやりなさい!」

「了解!「紫水晶の鎧」【アーティファクト】!」

ヤグルの紫色の壁もフィル達の壁と同化をする。



**********



「フィル母さんもヤグル兄さんも張り切ってんなー」

ビリンが家族5人の不思議な光景を見て感想を口にする。


「ヤキモチ妬く?」

「んにゃ、俺にはチトセが居てくれて、こうして手を繋ぎながら戦ってくれてるから何も思わないさ」

ビリンが全く気にする素振りも無く笑う。


「うん…。ビリンさん。私ね。こんな時に言う事じゃないけど最近思ったの」

「ん?どした?俺の良さを再認識したか?」


「うん。ビリンさん大好き。愛してる。この気持ちは愛だと思うの。やっとわかったの。これからもずっと一緒に居てね」

「おう。ずっと一緒だ」

ビリンが嬉しさから千歳の手を握る力が強くなる。

それが嬉しさからだとわかっている千歳も嬉しさから手に力が入る。


「ありがとう。ヤグルさんが反射をしたら一斉攻撃で倒そう。

皆!ヤグルさんが隙を作るから全員が全力で撃ち込んで!

倒しきれない人のところには私達が援護するね!

シエナさん!こっちに意識を回して!タイミングの指示をお願い!

テッド、身体そろそろ辛いよね?りぃちゃん呼んで、一瞬力を貰って!りぃちゃんはコピーガーデンで力を貯めてくれてるよ!

ヤグルさん!シエナさんのタイミングに合わせて!お願い!

王様!黒さん!ツネノリ!山田に山田ビーム撃たせて!」


この声で動きが変わる。


「チトセ!見えていると思うけど情報を送るわ!テッドの元にリリオが来た!パパと黒パパ、ツネノリの3人も悪魔に閃光を使わせた!

9体全てがフィルママ達とヤグルの後ろの街を狙ってる!

皆!指示出しまで30秒。息を整えて必殺の一撃の用意!」



「シエナさん!お願い!」

千歳が全員に聞こえるようにシエナに指示を出す。


「ヤグル!」

「ああ!反射!【アーティファクト】」

ヤグルが紫色の壁で受け止めていた9体分の閃光を反射させると閃光の全てがそれぞれの山田に跳ね返ると綺麗に胸元を焼かれる。

山田達は「ガァぁぁぁっ!!?」と言って苦しむ。



「今よ!一斉攻撃!チトセのパパ!メリシア達の所に援護!チトセのママはウエストの所!テツイさん!テッドの援護!」


「おう!マリオン!メリシア!マリー!合わせてくれ!俺が真上からマリオンとマリーは邪魔な両腕!メリシアは最大火力で焼き尽くせ!」

ツネツギが光の盾を解除して瞬間移動をしながら指示を出す。


「ガクとアーイは目一杯切り裂きなさい。子供達はガクとアーイのタイミングに合わせて。私は千歳に貰った増幅の指輪で頭を焼き尽くすわ【増幅・アーティファクト】」

ノレルが走りながらガク達に指示出しをする。


「テッド君、久しぶりに合体攻撃をしましょう。僕が火炎竜巻を起こします!テッド君はその中で火の剣を高速で飛ばして焼き尽くしましょう!【アーティファクト】」

テツイが風の力で山田を拘束しながらテッドの横に立つ。



ツネノリは閃光で焼けただれた部分から剣を差し入れて内部から破壊し尽くす。


火力面で少し劣るマリオン達はツネツギが頭から真っ二つに斬り裂くタイミングに合わせてマリオンが二の腕から、マリーが肘から切断をしてメリシアが全弾解放のアーティファクト砲を撃ち込む。


カムカが全身を炎で包みながら殴り続ける。

カムオはカムカの攻撃の威力が増すように反対側からタイミング良く蹴りつける。

ガリルは下半身を凍りつかせて威力が逃げないようにする。


ガクとアーイが全身を切り刻む。

アンは風の力を利用して飛び上がり上半身を切り刻む。

ガルは水の力で身体を駆け上がって切り刻む。

ガイはガクとアーイの隙間を埋めるように切り刻む。

そしてノレルが本気で増幅した火の攻撃で頭を焼き払う。


ザンネとカーイは肩まで駆け上がると飛び降りながら全身をこれでもかと斬り刻む。


テツイが火炎竜巻で悪魔の身体を焼く。

テッドはリリオに力を貰ってフルパワーで出した火のエレメントソードで切り裂きながら傷口を焼き付けていく。


キヨロスと黒いキヨロスは千歳の宣言通り山田七郎と八郎に反射された閃光の邪魔をせず再生の隙すら与えないように頭部と腕部を切り刻み続ける。



「おぉぅ、皆すげえやる気だな」

「本当助かるよね」

千歳とビリンが感嘆の声をあげる。


「ジョマに感謝だな」

「うん。わかってる。フィルさんの事も王様の事もマリクさんとリンカさんの事もだよね」

千歳は万一神化してしまったらそれはそれでジョマの狙いになるが、先日打ち明けたフィルの苦悩の話とジョマなりの解決策。

そしてわだかまりが残ったまま数年が過ぎたマリクとリンカがマリオン達と共闘せざるを得ない場面。

それを装飾で解決しようとしたのだと思っていた。


「後はチトセの事もだろ?」

「うん」

今回の事で結婚の事と家族の事。色々と年相応に悩んで変な壁を作ってしまっていた事がエクサイトの事で少し解決した事。様々な事に気付けたと思っていた。



「ほら!ビリンとチトセもいい雰囲気で話してないで攻撃してよ」

「あらら、悪いシエナ姉さん!行くぞチトセ!」

「うん!私に合わせて!」


「「神如き力!」」

千歳の剣が先行するのをビリンが必死になって追いかける。

ビリンは修行を欠かしていないが流石に千歳には敵わない。

千歳が剣を刺して爆破した箇所に新たに剣を突き立てて爆破をする。

3回ほど繰り返すと山田クロウは再生不可能になって霧散していた。


山田クロウを倒したからか、はたまた同時だったからか他の一郎から八郎までの山田シリーズも霧散をし、魔物の群れも街から遠ざかって行った。



千歳は皆を先にゼロガーデンに帰すと僧兵の前に行く。

そして「イィト、ジィマ」と東とジョマを呼びつけると「私は今の戦いで疲弊してしまいました。まだ百鬼夜行は続きますが後は2人にお願いしたいの」と言う。


「勿論さチィト。君のおかげで我々は温存させて貰ったよ」

「また同じ敵が現れてもまた神話の英雄達を呼びますからチィトは安心して休みなさい」


それを聞いた千歳は「あ…?またやるな」と悟っていたが何も言わずに身を引く。



先に書くが山田クロウは懲りずにと言うべきかジョマから仕事として頼まれていてその後土曜日と日曜日もイベントに登場をした。

土曜日はコピーガーデンの面々。

日曜日はゼロガーデンとコピーガーデンの中から出たい人だけをより集めて戦っていた。



**********



神殿に帰った千歳は皆にお礼を告げる。

特にサードガーデンの話だからと1人だけコピーガーデンから呼んでしまったネイには「私から皆に謝るね!」と声をかけていた。


「いえ、テッドさんとリリオさんも居るから平気ですよチィト様」

「皆には俺から伝えておくからチィトは安心してくれ」

「うん。ちぃちゃんの分まで皆に説明するよ」


ここでマリオンが「チトセ!このお疲れ会はしないの!?ツネツギにお店探させようよ!」と言う。

だがその顔は普段と少し違う。

無理をしているのがわかる顔だ。

千歳もあえてそこには触れずに断りを入れる。


「あはは、今日はなしだよー」

「何で?頑張ったよ私達?」

お疲れ会を否定しない千歳に断られたマリオンが驚く。


「違うよ。私はここまでだけど山田クロウは明日も明後日もサードに現れるっぽいから全部終わったらお疲れ会を東さんとジョマに頼もうよ」

「え!明日も戦えるの!?」

強敵と戦いたいマリオンが普通に嬉しそうな顔をする。


「多分、もしかしたら明日はコピーガーデンの皆かも知れないからジョマから連絡が来たらよろしくね」

どこか他人事の言い方に「チトセは?」とマリオンは聞いてしまう。


「私は行かないよぉ。女神チィトは今日の戦いで疲れたんだもん。それに毎日毎日今週はずっと女神チィトをして疲れたんだよぉ」

「あらら、珍しくチトセがイライラしてるからサードはジョマに呼ばれたらにするしお疲れ会は全部終わったら神様とジョマに頼むよ」


「うん。そうして。

テッド、黒さん、明日はきっとコピーガーデンだけで代わりに山田の数も少ないと思うからよろしくね」

「うん。チトセは僕達に任せてゆっくり休んで」

「チィト、父さんと母さんにはやり過ぎないように言っておく。もし大変でもメリアもフル装備で戦うのは久しぶりだから喜ぶ事だろう」


「うん。あ…ちとせはジョマに任せるけど無理はさせないでよね」

「わかってるよ」



「よし、皆1人ずつチトセから感謝の言葉をもらって解散しよう」

珍しくキヨロスが解散を促すと皆が納得をする。



千歳が皆の前まで行く。

「ツネノリ、メリシアさん」

「千歳」

「千歳様」


「2人ともありがとう。千聖の事ごめんね。大丈夫だったかな?」

「アートが来てくれたからな」

「ジョマ様がキチンと手を回してくれました」

千歳はここに居ない姪の千聖を心配したがジョマがアートを手配してくれていて安心する。


「そっか。それなら良かった。私はまだまだ未熟だからこれからも頼っちゃうけどよろしくね」

「ああ。任せるんだ」

「ふふ、右手と左手はいつだって千歳様を助けますからね」

ツネノリとメリシアを帰すと次はツネツギの所に行く。



「お父さん。助かったよ」

「おう。まったく困ったもんだ。ジョマと東には俺からも文句を言っておいてやるからな」

ツネツギが千歳の頭に手を置いて言う。


「うん」

「今晩はどうすんだ?」


「ウチでもいいかな?」

「ああ、千明に言っておく」

ツネツギは手を上げて皆に別れを告げるとルルの前に行ってルル達とキスを交わしてログアウトをしてツネジロウになる。

千歳は一緒に動いてルル達に話しかける。



「ルルお母さん、ノレルお母さん、ルノレお母さん、ノレノレお母さん。大変だったよね?ありがとう」

「いや、子を助けるのは親の務めだ。いつでも頼るが良い」

「本当よ。今日は頼って貰って嬉しかったわ」

「いつでも言うんだよ!千歳ちゃんを望まない神化なんてさせないからね!」

「本当だよ!母ちゃんに任せるんだよ!」

4人の母達が力いっぱいに千歳を元気づける。


「うん。いつもありがとう。あと…ここの所行く回数減ってたからこれからはまた増えるからよろしくね」

「勿論だ」

「ふふ、楽しみだわ。千歳が来たら私が外に出てくるわね」

「私だって出たいよ!」

「皆出たいよね!」

元々ルルの身体と言う事でルルが身体を独占しているのでこの手の話題になるとノレル達は相変わらず外に出たいと言う。

千歳が笑いながら3人をルルの身体に戻すとルルとツネジロウ帰す。

そのまま一番近くに居たテツイとパルマの所に行く。



「テツイさん、パルマさん。急にごめんね」

「いえ、千歳さんの助けになれて良かったですよ」

「本当、先生と私ならいつでも来るから遠慮しないのよ?」


「うん。ありがとう」

「千歳さんの顔が変わりましたね」

「本当、昔みたいにキラキラしているわよ」


「そうかな?嬉しいな。ありがとう」

千歳は自分の表情の変化は自覚していないがキラキラしていると言われて嫌な気はしない。

ニコニコとテツイとパルマを送り返してガク達の所に行く。



「ガクさん、アーイさん。いつもは王様とお妃さまが忙しいから遠慮してたのに今回は頼っちゃったよ」

「何言ってんだよ。俺達はずっと呼んでもらえるの待っていたんだからな」

「まったくだ、呼ばれぬ力不足を嘆いていたのだぞ?これからは遠慮なく呼んでくれ」


「うん。ガイさん、アンさん、ガルさんもありがとう」

「いいんだよ。千歳さんを守るための力なんだ。いつでも呼んで」

「本当です。また最近ご無沙汰ですからお茶でもなんでも良いんですからいらしてください」

「へへ、俺達も役に立つでしょ?これからも困った時は優先して呼んでくれていいんだからね」

3人は笑顔で話すと千歳が喜ぶのを知っているので笑顔で伝える。


「うん。皆ありがとう。アーイさん。今度行くね。少し話したいんだ。アンさんと3人でまたお茶してくれる?」

「ああ。いつでも来てくれ」

そのまま5人をウエストに送ると次に近いザンネ達の所に行く。



**********



「ザンネさん、シエナさん。助けに来てくれてありがとう」

「千歳、ちゃんと皆を呼べたね?これからも困った時は頼るんだよ?」

「本当、頼ってくれてありがとう。後は気持ちがわかって良かったわね」

シエナが嬉しそうに千歳に言う。

シエナのフィールド内で話していた事はシエナには筒抜けだ。

だが千歳はわざと聞かれている事をわかっているのに「あわわわわ!聞かれてた!?」と言って慌ててみせる。


「それは私の「蜘蛛の意志」の中で話してるんだもん。仕方ないわよー」

「千歳にもそう言う相手が出来てくれて俺も嬉しいよ」

そう言って微笑んでくれるザンネとシエナに別れを告げてノースに送るとカーイの所に行く。



「カーイさん、助かったよぉ」

「千歳さん。キチンと頼ってくれて嬉しかったよ。今回はさすがに千歳さんとビリン君だけじゃ厳しい相手だったね」


「さすがに山田の群れは無理あるよね」

「ふふ、でもきっとジョマのことだからコレにも意味があったんだね?」


「うん。フィルさんの事とか」

「そうだね。キヨロスさんが大切にしてる奥さんを呼び出すなんて思ってなかったよ」

千歳は「本当だね」と言った後で「カリンさんとマリカさんによろしくね」と言うとカーイは「もう一つの方も期待していいかい?」と言う。

「うん、なるべく頑張るね」と言ってからカーイを帰す。

そして少しだけ動いてマリーの前に行く。



「マリーさん。急にごめんね。手が足りなくてさ」

「本当凄かったね。役立てたならマリオンとキヨロス君も良かったんじゃないかな?やっとこの鎧も役だったしね」

マリーは自分が着ている漆黒の全身鎧を触りながら言う。


「本当、勝手に作ってって怒れなくなっちゃったよ」

「ふふ。本当だね。チトセちゃん、マリオンの事、お願いね」

マリーが少し困った顔でマリオン達を見る。


「うん。ジョマのおかげだから頑張るね。マリーさんは?」

「うん。少し…声だけかけてきたよ。気持ちはあの日に見たからね」

千歳は「わかったよ。またね」と言ってマリーを送るとレンカ達の所に行く。



「レンカさん、ヤグルさん。ありがとう」

「呼んでくれて良かったよチトセさん。母様も嬉しそうで僕も嬉しいよ」

「本当、こうやって話すのも久しぶりだからジョマに感謝だね」

ヤグルとレンカの嬉しそうな笑顔で千歳もホッとする。


「うん。私も色々モヤモヤしてて人との付き合い方がわからなくなってたみたい」

「うん。顔が明るいよ」

「チトセ!ご褒美でギュッとして?」

レンカが甘えた声を出して千歳にお願いをする。


「恥ずかしいなぁ。レンカさんは私よりお姉さんなのに。はい」

千歳がレンカを深く抱きしめて頭に手を置いて「ありがとう」と言うとレンカが嬉しそうな顔でニコニコと喜ぶ。


「チトセが照れながらもしてくれた!」

「本当だね。良かったねレンカ姉様」

千歳はレンカとヤグルを送らずに待たせるとその横のアニスに声を書ける。



「アニスさん。ありがとう」

「いや、困った時はいつでも呼んでねチトセさん」

アニスはいつもの笑顔で千歳に微笑む。


「うん。今度ウエスト行くけど付いてくる?」

「…いいかな?」

6年前、数回のデートを失敗してぎくしゃくしてしまいアンとは空中分解に近い状態になっている。

ガクもアーイもキヨロスも3人の母達も…勿論アンも気にしすぎだと思っているのだがアニス自体が遠慮がちになってしまっていた。


「真面目なのも素敵だけど諦めるの早すぎだよ。デートがうまく行かないのも個性だよ」

「…そこも含めて話してみるよ」

ヤグルとレンカとアニスをまとめて送る千歳はキヨロス達の所に行く。



「王様、黒さん、フィルさん。ありがとう助かったよ」

「いや、ジョマに感謝だね」

「本当、フィルさんと戦える機会がこんなに早く巡ってくるとは思わなかったよ」

「チトセさん、私達も戦いの場にいられたわ」

「これもこの前チトセさんがキョロくんに言ってくれたからよ」


「ちゃんと話し合ったんだね」

「ああ。君のおかげさチトセ」

「チトセさん。今度は私ともお酒を飲みましょう?」

コピーガーデンのフィルがニコニコと千歳に飲酒をしようと誘う。

黒いキヨロスと遠くで聞いていたビリンが強張り千歳自身も「え゛?」と言う。


「フィルさん、やめた方がいいよ」

「何で?」

私だって一緒に飲みたいと言うフィルを黒いキヨロスが頑張って説得する。

その間にゼロガーデンのフィルが「ふふ。チトセさんには義理の母が沢山だから頑張ってね」と声をかけてくる。千歳は「うん」と返事をする。



「チトセ、この残り方はアレだね」

「うん。ジョマが機会をくれたから一歩進めるよ」


「すまないね。僕も気にはかけていたけど何も出来ていなかったよ」

「良いって。またね。あ、ビリンさんは今晩ウチだから」

「うん、いつも言っているけど五体満足で殺さなきゃ好きにしていいよ」と言ってキヨロスはフィルを連れて帰って行く。

黒いキヨロスとコピーガーデンのフィルは「またね」と言って帰って行った。

次はテッドとリリオの所に向かう。



「テッド、りぃちゃん。ありがとう」

「いや、サルディニスの事だ。遠慮なく呼んでくれ」

「本当、ちぃちゃんはあんなのと戦って偉すぎだよ。1人じゃ大変な時はちゃんと呼んでね」


「チィト…母さん達の事は…その…任せて良いか?」

「うん、そのつもりだよ」

ここで言う「母さん」はゼロガーデンのマリオンの事、テッドの母は両方のマリオンとジョマなので知らない人が聞くと勘違いをするだろう。


「ちぃちゃん。でも無理しちゃダメだよ?」

「うん。ありがとう」

このままテッドとリリオを待たせてネイの元に行く。



「ネイ。ありがとう。急にごめんね」

「いえ。チィト様。いつもありがとうございます。この先もお願い出来ますか?」

ネイもテッドから聞いて心配していたし、それを聞いたコピーガーデンのカムオ達も心配している。


「うん。やるよ。ネイからもカムオさん達に安心するように言ってね」

ネイは「はい」と言って微笑んだ所でテッドとリリオがコピーガーデンに連れ帰ってくれた。

千歳はここからが正念場だと気合を入れなおしてカムオ達の所に行く。



**********



「カムオさん、ガリルさん。助かったよ」

「チトセさんを助けられて良かったよ」

「本当、あんなデカブツは俺達が居ないと大変だよね」

そう話すカムオとガリルも表情が硬い。

千歳は「うん」と言って安心させようとする。


「チトセさんありがとう。おかげでマリクとリンカを久しぶりに見られたよ」

「元気そうで安心したよ」


「うん。カムオさんとガリルさんはマリクさん達と話した?」

「挨拶だけね」

「俺も「今も鍛えてるか?」とだけ聞いたよ」


「そっか。話しにくい?」

「ううん。お父さんとお母さんの手前遠慮してるだけ」

「俺も、どっちの気持ちも理解してるからさ」

それが普通のやり取りだろう。

千歳はゆっくりと目を瞑って頷く。


「じゃあ先帰って貰ってていいかな?」

「うん。ありがとうチトセさん」

「また呼んでね」

そう言ってカムオとガリルを帰す。


この場に残ったのはカムカとマリオン。

そしてマリクとリンカ。

後はチトセとビリンになった。


「チトセ、次は俺達だな」

「無理。疲れた。ビリンさんに力流すから待ってて」

カムカが自分達から歩いてきたのだが千歳が疲労を理由に待つように言う。


「えぇ?チトセならこれくらい余…」

「やだ!もう今週はずっと女神チィトしてて疲れたの!ビリンさんに抱きついて力流してスッキリするまでやんないの!」

マリオンが驚いた声を出すがそれすら今の千歳は認めない。


「じゃあビリンに…あれ?」

「トイレだって」

マリオンが周りを見てビリンを探すが居ない。

ビリンも千歳とグルなのでこの場に居る訳が無い。


「えぇ…」

「トイレくらい行かせてあげてよね」


キツ目に言う千歳にマリオンが何も言えなくなるとカムカが千歳の頭に手を置いて「チトセもストレスが酷そうだな」と聞くと「そうだよ」と応える。


そのやり取りに呆れたマリオンが「チトセがこんなにワガママ言うの珍しいね」と言う。

正直今週の疲れもあるがこの状況になっても壁を厚く高く構えてお互いに見ようとしないカムカ達とマリク達にもイライラしている千歳。


「それにモヤモヤすんの。マリクさんとリンカさんもこっち!ビリンさんがトイレから戻ってくるまで時間あるんだから挨拶くらいしなさい!」

千歳がカムカ達の目の前を指さして来るように言うと壁際に2人で俯いていたマリクとリンカが驚いた顔で千歳の顔を見る。


そして気まずいのはマリク達だけではなくマリオンも気まずい。

「チトセ…」

「何?私だってモヤモヤしてるんだから少しくらいスッキリさせて!」


「酒飲んだ?」

「シラフだよ!ほらリンカさん来て!」

千歳がわざとマリクではなくリンカを呼ぶ。

リンカは身体をビクつかせるとオドオドと歩いてくるとゆっくりと口を開く。

そしてそのリンカを守るようにマリクも付いて来た。


「…久しぶりです。お父…カムカさん、マリオンさん」

「ああ、久し振りだな。元気そうだし戦いも見ていた。キチンと鍛えていたな」

「うん。ちゃんと訓練はやめてない。教えて貰った事は守ってる」

マリオンは顔を背けると少し離れてしまう。

それを見たリンカは顔を暗くする。


「おう。偉いぞ。ウエストの暮らしはどうだ?」

「え?」


「約束したろ?お互いに干渉しないって。だから俺は気になってもキヨロスにもチトセにもガク達にもカリン達にも聞いてないんだよ」

「てっきり隠れて見たり聞いてるかと思った…」

「うん。俺もてっきり見てるかと思った」

リンカとマリクが驚いてカムカの顔を見る。

目が合ったカムカは嬉しそうにニカっと笑う。


「んな事しないさ。心配でもお前達の判断に任せたんだ。我慢するさ。国境の街に居るんだろ?」

「姉さん達は自分たちが居るからノース側に住めって言ってくれたけどチトセさんがウエストを勧めてくれたんだ。ガクさんとアーイさんに話も通してくれたよ」


「そこまでは知るべき親の義務ってチトセが教えてくれたよ」

「親の義務…」

リンカが繰り返す。


「当たり前だろ?それで?」

「ガイとガルが気を遣ってくれて月に一回、視察って言いながら街に来て、お土産持ってウチに寄って行きながら仕事をくれているよ」

「兵士たちの訓練の仕事をくれたり兵士達の手に負えない魔物退治とかしてる」

それを聞いたカムカが目を瞑って嬉しそうに頷く。



「もう5年だもんな。偉いぞ」

そう言ってカムカは愛おしそうに2人の元子供達を見ながら話す。

少しでも時間が惜しいと3人ともアレコレと話す。



それを傍目に見ているマリオンの所に千歳が近づく。



**********



「マリオンさん?」

「何」

マリオンは不機嫌そうに千歳の顔を見る。

この状況を快くは思っていない。


「ジョマのくれた機会だよ?」

「私は感覚強化で全部聞こえてるから知ってるよ」


「それくらい知ってる。今話さないと次はいつになるの?」

「知らないよ。それに何を話すの?」


「話したい事を話しなよ。ずっとモヤモヤしてたでしょ?」

「リンカは…あの子の見た目は私の娘でももう違うんでしょ?」

マリオンが声を荒げないように注意しながら千歳に言う。

その事がネックでマリオンはリンカに…リンカを選んだマリクに壁を作っていた。

それを言われることを察していた千歳は優しく微笑む。


「違うよ。リンカさんは今もカムカさんとマリオンさんの子供だよ」

「は?だってチトセが!」


「私が起こした奇跡は、その日が来ても失敗しないようにズルをしただけ。でもあの日にそれを言ってマリオンさんは受け入れられた?」

「…」

マリオンは何も言えずに千歳を見る。

千歳はそれを察して話を続ける。


「身体も魂も全部カムカさんとマリオンさんの娘だよ。後はマリオンさんがこの事実を受け入れてリンカさんを元娘ではなくて娘って受け入れて話せば終わり。仲直りしてくれたら今の話も皆に伝えるよ」

「チトセ…」


「それに私もずっとモヤモヤしてたしゼロガーデンに顔出しにくいし!

ウエストに行けば気になるし、ノースにはカリンさんとマリカさん居るし!二の村行けば気になるし!」

「それはチトセの…」


「いつも神様扱いしてアレコレとお願いしてくるのはマリオンさんだけど?」

「ぐっ…、今日はキツ目に言い返すんだね」


「うん。私も大人になったしね」

「そうだね。チトセもやっと気持ちに気づいたみたいだしね」


「そうだよ。私はビリンさんを愛してるんだよ」

「あれ?さっきはシエナとザンネに照れたのに照れないの?」


「別に、あれはわざと「蜘蛛の意思」の中で話しただけだし本当の事だもん」

「ったく…、チトセが怖いから仕方ないな」


そう言ったマリオンが嬉しそうに3人の元に歩いていく。

それを見た千歳はビリンの元に瞬間移動をする。

ビリンは屋上でのんびりと空を見ていた。


「よう、チトセ。お疲れ様」

「うん。早く帰りたいよね。ごめんね?」

千歳は巻き込んでごめんねと謝る。

ビリンは笑顔で「いや、これも大事な事さ」と言ってくれるので千歳は素直に「ありがとう」と言う。


「それとも、ここは父さんに任せて帰るか?」

「やだよ。これは私の仕事だよー。帰ってからだから遅くなるけど今日はグラタン作るよ。

ホワイトソースをがぶ飲みするんだよー」

2人で寄り添いながらダラダラと話す。



マリオンは目の前で談笑をする3人を見ながらゆっくりと歩く。

カムカはかつてウエストで戦争に参加した時、何を食べたとかそんな話をしてリンカとマリクがカムカの食べていない名産品を教える。

マリオンはその全てが聞こえていた。

聞こえながら何と言って話しかけようかと悩んでいた。



「アンタ達、お母さんに挨拶は?」

「マリオン…来たな」


「…え?」

「おか…」

一番言われないと思った言葉が出てきてマリクとリンカが驚いてマリオンの顔を見る。


「何でお父さんとばかり話してお母さんを放っておくかな?」

「マリオンが勝手に離れて勿体ぶっただけだろ?」

カムカが呆れながらマリオンを見る。


「あー!カムカまで酷い!」

マリオンはぎこちなく普段通りを必死に思い出しながら心がけて話す。

こうしていれば5年前と何も変わらない。

マリオンはそう思っていた。


リンカは震える声で「マリオン…さん…久し振り…です」と小さく言う。


「違うでしょリンカ?お母さんって呼びなさいよ」

マリオンが腰に手を当てて息を吐きながら言う。


「え?だってもう子供じゃないって…。

それをチトセさんに願って、チトセさんが力を使ってくれて…。

親子じゃなくなったって…。

見た目は親子でも親子じゃ…」

「うん。だから俺達はウエストに…」

動揺するリンカとマリク。


「違うんだってさ」

「違う?」

カムカも寝耳に水でキョトンとする。


「チトセってばズルをしたって、リンカを私たちの子供から外す事でマリクと結ばれても問題を無いようにしたって言ってたけど、ズルをしただけだからリンカはずっと変わらずに私たちの子供だって」

「なんだよ、じゃあリンカは今も俺たちの娘かよ!」

物凄い速度でカムカが嬉しそうにリンカを抱きしめる。


「カ…お父さん?」

「おう。気を遣って我慢してたけどお前も俺の娘だ!」

カムカが嬉しそうにそう言いながらリンカを抱きしめる。

みるみる涙が溜まって泣きだしたリンカもカムカを抱きしめる。


「お父さん!」

「おう」


「お父さん!」

「おう」

リンカは何回もカムカを「お父さん」と呼びカムカも何回も「おう」と応える。

それはしばらく続く。

5年分を一気に取り戻すように続いた。


「もう呼べないと思ってた!マリクにも辛い思いさせたと思ってて苦しかったよ!」

「そうだな。でもマリクは不満なんて言わなかっただろ?」


「言わないでくれたよ」

「さすがは俺の息子だな」

カムカは「良かったな」と言ってリンカの頭を撫でる。



**********



「リンカ」

「マリク?」


「待たせると大変だよ」

マリクがマリオンを指さす。


「そうだな。俺ばかりだとヤキモチ妬かれるな」

カムカがリンカを抱きしめる手を離すとリンカがマリオンの方を見る。

マリオンは「別に…私は…」と言って顔を背けるが「お母さん!!」と言ってリンカはマリオンに飛びつくと力一杯抱きしめてワンワンと泣く。

その声でマリオンもワンワンと泣く。


「リンカ!」

「お母さん!!」


「リンカ!!」

「お母さん!!」


マリオンもリンカを抱きしめて更にワンワンと泣く。

お互いに止まらない。


「まったく…。マリオンは普段なら何でもワガママ言えるんだから、辛いならキヨロスやチトセに言えばいいのにな」

「本当だよね」

カムカが呆れてマリクが相槌を打つ。

このやり取りが嬉しかったカムカが笑顔でマリクを見るとマリクもカムカを見て笑顔になる。


「でもよくリンカを支えたな」

「その覚悟が無ければあの決断はしないよ」


「そっか…。そうだな」

カムカが嬉しそうにマリクを見る。

5年で気苦労や苦労も沢山あっただろう。

男としてリンカを支えようと努力をし続けたのだろう。

子供の顔からすっかり男の顔になったと思っていた。


マリクは黒い全身鎧に身を包んだマリーが暴走して暴れた時、瀕死になったリンカを千歳に救って貰った。


その時千歳は「マリクさん!今すぐ決めて!きょうだいとして生きるのならこのままリンカさんを助ける!そうじゃなくてリンカさんのパートナーとして生きたいと言うのなら助けながら身体と魂を変える。カムカさんとマリオンさんの子供ではなく別の人にする!今すぐ選びなさい!」と言った。


マリクはリンカの気持ちを汲み取った。

周りの制止を振り切ったマリクは「チトセさん。お願いだ。俺はリンカと生きるよ」と、そう言うと千歳は「わかった!神如き力!」そう言ってリンカを助けながら力を使っていた。


そして怪我が治った後で勘当されウエストに住む事になった。

5年も前の話。


その日をカムカもマリオンも鮮明に覚えている。


「あの日、チトセからアンタが私の娘じゃなくなったって聞いて辛かったんだからね!」

そう言ってさらに力を籠める。


「あの時だって止めたかったのに全部勝手に決めて動いたアンタ達を止められなくて苦しかったんだ」

マリオンは一瞬マリクを見て言う。


「ごめんなさい!でも私!私!」

「わかってるよ!でも良かった。アンタは私の娘だった。別の人間になってなかった!!」

マリオンとリンカは再び抱きしめ合いながらワンワンと泣く。


「終わらないな。とりあえずまた…、前とは違ってもマシになったんだからまた会えるだろ?今日は帰ろうぜ?」

「うん。本当だね。チトセさんを呼ぼう」


そして呼ばれた千歳とビリンは目の前のマリオンとリンカを見て「本当に終わりにして平気?」と困る。


「別に今日でお別れじゃないからな。マリク、明日とか明後日とかでまたサードに呼ばれたら来るだろ?」

「うん。行くよ」


「ほらマリオン、リンカもその時来るから今日は終わらそうぜ?」

「やだ。連れて帰って一緒に寝たい」

マリオンがリンカから離れないで言う。


「お母さん、今日は帰るよ。まだマリン達にどの顔で会えば良いのかわからないよ」

「あー、そうだな。いきなり連れ帰っても皆が困惑するか。でも今度帰って来いよ。あ、ウエストの暮らしがあるから強要は出来ないけど、まずは顔を出しに来いよ。

それにさ、お前達やカリン達の言う通りウチの双子は壊れているって言葉が本当ならウチにはまだカリカとカンムが居るから見てやってくれよ」


5年前、リンカがマリクを異性として見た時、取り乱したマリオンにカリンとマリカが「ウチの双子って何処か壊れているんだよ」「うん。だから私達は私達をいっぺんに愛してくれる人としか一緒になれなかったんだ」と言った。

そしてカムカに「お父さん、ごめんね。壊れてるって嫌だよね」「ごめんね。でも嘘はついてないんだ」と謝っていた。



「うん。カリカとカンムは姉さん達みたいに同性の双子だから俺たちみたいにはならないけど一度会って話を聞くよ。あれ?成人の儀はやったの?」

「ああ、カリカが「炎の腕輪」でカンムが「氷の腕輪」だよ」


「そっか、模擬戦が楽しみだよ」

「本当に帰るの?マリクもウチが良くない?」

マリオンが鼻声でマリクを見る。


「お母さん、わがまま言わないで。今はチトセさんにお礼を言って」

マリクにそう言われて何も言えなくなったマリオンは不服そうに千歳の前に出ると笑顔になって「チトセ、ありがとう」と言う。


「私こそ今日はありがとう。助かったよ」

「お安い御用だよ。それにいつも呼んでくれればいいのに」


「あはは、頼もしいね」

千歳がマリオンに微笑む。



**********



「チトセ」

「カムカさん?」


「本当にありがとう。なんて感謝していいかわからない。俺たちには時間が必要だったんだな」

「うん。でも私じゃないよ。会えるように私を追い込んだジョマに言ってよ」

何度感謝されても慣れない千歳が困り顔で笑う。


「それでもリンカを娘のままズルをしたって言うのはチトセだろ?」

「うん。マリオンさんに相談された時にこの方法しか思いつかなかったんだ」

千歳が思い出すような、懐かしむような仕草で遠くを見る。


「チトセ?そう言えばズルってリンカの身体に何をしたんだ?」

「うん。実はね、本気で一緒になりたいって結ばれた時は血が濃くなり過ぎてトラブルにならないように他人同士の濃さにしかならないようにリンカさんの身体に手を出したの」


「そんな事をしてくれたの?」

「うん。マリオンさんに相談された時、血が濃くなる2人の子供の事を真っ先に考えたの。

それに普段のマリオンさんなら「そこを何とかしてよ」って言われると思ったのに言われなかったから驚いたよ」

千歳がマリオンの顔を見て笑う。


「余裕無かったんだよ」

「うん。後一つは私のお節介。カムカさんの忠告を台無しにしちゃった」

千歳はカムカの顔を見て笑う。


「チトセ?」

「マリクさん、リンカさん。ウエストで変な事言われた?きょうだいなのにとか双子なのにとか怪しいとか、そう言う嫌な気持ちになる変な事とかさ」

千歳が今度はマリクとリンカを見る。


「あ…」

「言われてない…」

マリクとリンカはお互いの顔を見合わせて5年の日々を思い出す。

思い出したが誰からも何も言われなかった。


「カムカさんごめんね。5年前にマリクさん達に周りの目は厳しいのにそれでも2人は2人を選ぶのか?って言ったよね」

「ああ。決して楽な道じゃないからな」

カムカが真面目な顔で千歳を見る。


「それを台無しにしたんだよね」

「チトセ…お前」

カムカが何かに気付いて「まさか」と言うが千歳が遮って話してしまう。


「隠匿の力を応用して今までを知らない人たちにマリクさんとリンカさんの2人をきょうだいや双子って認識できなくしていたの。

だからウエストの人達からすればサウスから流れ着いた恋人同士にしか見えなかったんだよ」


驚いた顔のマリクが「なんで…?」と千歳に聞く。

「え?何でって、そう言うの嫌なんだよ。知った事じゃない第三者のくだらない言葉に惑わされて欲しくなかったの。好き同士ならそれでいいのに余計な言葉で自信がなくなったり仲が悪くなったら嫌なんだよ。それにもうカムカさんとマリオンさんにあれだけ怒られたら十分でしょ?だからお節介したの」

千歳がふふんと言う顔でマリクとリンカを見て笑う。


「チトセ!」

「わっ!?」

マリオンが感極まって千歳に抱き着く。


「ありがとうチトセ。マリクとリンカの為にありがとう!」

「いいよぉ。あの時はビリンさんも居てくれたから多少無理しても力を逃がせたし問題ないよ」


「チトセ」

「だからごめんねカムカさん」


「んにゃ。助かったよ。ありがとう。お前達もチトセに感謝しろよ?」

カムカが親の顔でマリクとリンカに言う。


「チトセさん…本当にありがとう」

「それで5年間も見守ってくれてたの?」


「私は何もしてないよ。まあ今度皆に会ったら私の分まで謝っておいてよ。確かにこの5年はあまりゼロガーデンをうろつけなかったのは確かだしね。

皆私に会うとマリクさんとリンカさんの事を聞きたくなっちゃうしさ。聞かれても困るしさ」

千歳が思い出したようにマリクとリンカに言う。


「だからモヤモヤしてたもんなチトセは」

「ビリンさんうっさい!」

このやり取りでようやく皆が笑う。



「チトセ、帰るのか?何かお礼とかせめて飯とか?」

「今日はダメ。絶対にダメ。私はずっとビリンさんの為にグラタンを大鍋で作って2人でお腹いっぱい食べるって決めてたんだよね」

有無を言わせない千歳の表情にカムカ達は何も言えずに諦める。


「そっか。じゃあまた今度だな」

「うん。アートが関わったエクサイトももうすぐハッピーエンドだからまたすぐ会えるよ。

じゃあ送るね!」


千歳はカムカとマリオンを二の村に送りつける。


「チトセさん。ありがとう」

「ありがとう。また困ったら呼んでね」

マリクとリンカはお礼の言葉を言いながら送られていた。


広い神殿に千歳とビリンの2人が残った。

シンとした神殿でビリンが優しい眼差しを千歳に向ける。


「お疲れさん。じゃあ行こうか?」

「その前にギュッとして」

千歳は両手を広げてビリンを見る。


「ああ」

ビリンが千歳を抱き寄せるとそのまましばらくキスをする。



「よし!とりあえず復活!帰ってグラタン作るよ!」

離れた千歳が張り切って瞬間移動をした。



**********



「ただいま!」

「お邪魔します」

私が帰るとお母さんとお父さんはご飯を食べずに待ってくれていた。


「おう、遅かったな。カムカ達とマリク達か?」

お父さんもこの5年間聞こうとはしなかったが気にはしてい居た。

そしてあのメンバーが残っていれば私が行動する事はわかっていたのだろう。


「うん。無事解決」

私はそう言いながら家の中で流れる時間を遅らせてグラタンを作り始める。


「ホワイトソース飲むぞー!」

「何だその恐ろしい発言」

お父さんがうげぇと言う顔で私を見る。


「ずっと決めてたんだよぉ〜」

色々片付いた事で私のテンションは高い。


「んで?カムカ達だがリンカは身体を変えてしまったんだろ?戻したのか?」

「やってないよ?」

5年前のことは誰にも言わなかった。

勿論ビリンさんにも言ってない。

それなのにビリンさんが神殿で驚かないのは私のやる事をわかっていたのかな?

後で聞いてみよう。


「何?」

「私がやったのは2つ。1つは近親婚になって子供の血が濃くならないように手を出したの」

「後は知らない人間がマリク達を見た時に双子って認識できなくしたんですって」

補足するようにお父さんにビールを注ぎながらビリンさんも説明をする。



「マジか…、まったくよく考えたな」

「まあね〜。グラタンは千聖とアートと常泰食べるかな?お裾分けしてあげようかなぁ〜。

今日のホワイトソースは美味しいぞ〜」

私は自分でも美味しくできたホワイトソースを沢山作らずに時短代わりに複製しながら言う。


お母さんがおつまみをお父さんとビリンさんに出しながら「あらあらご機嫌ね」と言う。


「うん!女神チィトの五日間は辛かったよぉ〜。でも無事終わったよぉ〜!」

「でもその様子だと京子ちゃんと千聖のアレコレは見てないのね?」


……

「へ?お母さん?」

何だその不穏な予感のするワードは?

私は複製の手を止めてお母さんの顔を見てしまう。


「道子さんから映像が来たのよ?あなたスマートフォンで見る?映像出す?」

お母さんがポケットからスマホを出して聞いてくる。


「…お父さん見た?」

「見てない」


「チトセ、俺も見たい」

「うぅ…映像出すよ」


映像の中ではサードの戦闘中、2人で仲良くお絵かきをしていたアートと千聖。

お姉さんのアートはキチンと千聖の相手をしてくれる。


「千聖は何の絵書いたの?」

「見る!?」

そう言って千聖がアートに見せたのは私と神如き力の練習をした絵だった。


「この手を繋いでるのは千歳と千聖?」

「うん!千歳と手を繋ぐと千聖も髪を赤くして光の剣が出せるんだよ!」

千聖が自慢気にニコニコとアートに説明をする。


あ…やな予感。

そしてそれは現実のものとなる。


「ツネノリ達にはおうちに居なさいって言われたけどお外でアートとやろうよ!」

「え?」


「アートも千聖と手を繋げば千聖も剣が出せると思うよ!」

「本当!?」

千聖のマイブームは神如き力の練習なのだろう。顔をパァっと明るく輝かせるとアートを見る。


「うん!きっと千歳がびっくりするよ!」

もうこの段階でビックリだからやめておくれよ。


そして外に出たアートと千聖は手を繋ぐ。

「いいかな?」

「いいよー」


「神如き力!」

千聖がそう言ったが変化はない。

あ、やっぱりダメだ。



私は映像から目を逸らしてビリンさんとお父さんを見て「やっぱりダメだ失敗する」と言う。


そもそもアートに力を補助するイメージが無い。

あるのは髪を染め上げる事で千聖がやるのではなくてアートが千聖の声に合わせてやってあげているだけだ。


「あれ?なんか千歳とやった時と違うなぁ」

「そうなの?アートも今度の為に練習するね」


当然光の剣も出せないわけで悶々とするが「アートとなら爆発なのかもよ千聖!」と言いやがったアートは千聖の声に合わせて爆発を起こしていた。


千聖は「格好いい!千歳みたい!」と言って喜んでいる。

私はそこまで乱暴者ではないはずだ。



「見なきゃ良かったよ」

「京子のやつ…」

「放っておくとセカンドに魔物狩りに行きそうだな」


私は「縁起でもないからやめてよね」と言いながら料理を再開する。

マカロニと少量の野菜を入れた基本的なホワイトソースを複製して千聖、常泰、アートにメモと一緒に送りつける。

メモには「好きな具材を足してチーズをかけて食べてね。お肉は油が出てしまうので可能なら油の少ない具材にしてね」と書いておいた。


アートだけはメモに返事を書いてよこしてきた。

「エビとホタテをおさかなさんにもらったよ。

ちひろとあそんだけどうまくいかなかったからやりかたおしえてね」

うん。シーフードグラタンは美味いよね。

…教えてねはスルーしたいぞ。


「お魚さん、後3軒分エビとホタテを貰えるかな?」と言うとキチンと届いたのでお礼にホワイトソースを山盛り送っておいた。

まあ、お魚さんの事だから一人前を食べたら残りは「千歳からの差し入れだゼーッ!」と言って戦神達に振舞うだろう。

多分割り当てが届かない地球の神様は複製神さんに複製を頼む。

…まあ、今日も神の世界は平和だ。



そんな事を思いながら最初の分はパン粉をかけて神如き力で焼き上げてしまう。

4人で熱々のグラタンを頬張る。

うん。

シーフードグラタンは美味い。


その後でポテトグラタンとブロッコリーのグラタンも食べた。

ホワイトソースが美味しくて宣言通り飲んでしまった。


ビリンさんは「チトセ、これまだある?」と聞いてきたので何事かと思ったらグラパンをやって欲しいと言う。


「…それ明日の朝食べようよ。私も食べたい。おっきいの作って2人でシェアしようよ」

「おう、今からすっげぇ楽しみ」


ビリンさんはニコニコ顔でお父さんにビールを注いでいた。

お父さんも「いつも言っているがウチに来て俺の酒に付き合うと千歳飯が食えて幸せだろ?」と聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ