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おまけガーデン。  作者: さんまぐ
アートの女神イロドリ。
14/19

おしおきの後。

映像の中でアートはエクサイトの死者の間に到着していた。

「うぅ、どうしよう」

アートは何か悩んでいる。

やり方がわからないのか?

何か他に気になる事があるのか?



「カナリー!エルム!出てきてお願い!時間がないの!」

そう言って探すとカナリー達を見つけるアート。


「居た!カナリー!」

「はい?あなたは?」


「私はイロドリ!女神イロドリ!時間がないの!ジェイドが死んじゃう!」

「女神様?」

「え?御守りの事を教えてくれた?」

横に居るエルムがまさかと言う顔でアートを見る。


「あれはお姉ちゃんだよ。私じゃないの!カナリーを生き返らせられるようにしたから早く生き返って!今のままだとジェイドが死んじゃうよ!」

「ジェイド様…」

「兄さん、やっぱり死ぬ事を諦めてないの?」

エルムもカナリーも思い当たる所があるのだろう。

凄い顔をしている。


アートの説得が通じればここでカナリーが生き返ると思ったのだが何故かカナリーが躊躇をする。生き返る事に罪悪感があるのだろうか?

だが少し違っていた。


「イロドリ様?何故私なんですか?エルム様ではなくて?」

カナリーは自分よりもジェイドにはエルムの方がふさわしいのではないかと言う事であった。


「いや、私だけじゃなくてお父さんやお母さんでもなくてですか?」

そしてエルムも自身より父母の方が良いのではないかと言っているので時間が無い中アートは必死になってカナリーとエルムに説明をする。


「4人の中で最後に死んだカナリーは助けるのがイメージできたんだよ!

ジェイドが死んじゃうからどちらか生き返って支えて」


「イロドリ様?ありがとうございます。ですがそれはエルム様にお譲りする事は出来ませんか?」

「カナリー?嫌なの?」

まさかの展開にアートが驚く。


「いえ、大変名誉な事です。ですがジェイド様を救えるのは私よりエルム様の方が適しています」

「そんな事ないよ!私よりカナリーさんの方がいいよ!神様が来てくれたんだから生き返ってよ!兄さんの事はお願い」

2人で生き返る権利を譲り合う。

これはまずい展開だ。


「そんな。なりません。エルム様こそ…」

「お願い時間がないの!」

困るアートの元に「見つけた」と言って怖い顔の東さんが現れる。


「パパ!?」

「手間取りすぎだ。折角のアドバンテージが台無しだよ」


「ち…お姉ちゃんは!?」

「倒したよ。これで丸裸だ」

そう言った東さんがアートの腕を掴む。


「お願い!ジェイドが死んじゃう!取りこぼしたくないの!身体が生き返っているんだから魂を身体に導かせて!カナリーだけでもジェイドの所に行かさせて!」

アートが必死になって懇願をするが東さんは聞かないフリをする。


「いいから来るんだ。カナリー、エルム…。娘が騒がせてしまったね。後で話させてくれないかい?」

「え?あ…はい」

「突然の事だから何が何だかわかりません」

突然の事で驚いたカナリーとエルムは2人で頷く事しか出来ない。


「そうだね。悪い事をしたね」

東さんはそう言って泣きじゃくるアートを連れて神の世界に戻る。


神の世界で広場に居たのは皆とジョマと地球の神様。

私と王様達は居なかった。

そこにアートを連れた東さんが戻ると皆は事態を察した。


アートは話もできないくらい泣きじゃくっている。

ずっと「ジェイドを助けたい」「取りこぼしたくない」「ジェイドが死んじゃう」と泣いている。



「戻りました」

「ふむ。ジョマが私を呼んだがどう言う事だ?」

地球の神様は正直関わりたくないと言う顔で東さんを見る。


「神の世界を騒がせました」

「昔から言っているが私は神々の小規模な衝突は不問にしている。わざわざ言うほどでもあるまい?」

だから関わらせるなと言う態度を取る。


「娘は禁じている人間の蘇生に手を染めました」

「それもお前達の家族の問題。言うなれば先程の戦いも家族喧嘩であろう?いちいち話を大きくするな」

やれやれと呆れながら東さんの顔を見る。


「そんな!千歳はともかくキヨロスは…」

「千歳の彼氏の父は家族であろう?家庭の問題に取りまとめとして私を巻き込むな。

先輩としての意見ならしてやれる」

もう何も受け付けませんと地球の神様が塩対応をする。


「そんな、地球の神様、京太郎は…」

「頭は十分に冷えたであろう?千歳に感謝をするのだな。あのままエクサイトに赴いていればお前達は間違いを犯した」

「…」


なにも言えないジョマ達を無視して地球の神様はアートに小さくウインクをする。

アートは泣きながら小さく頷いた。


「…じゃあ私達の裁量で罰を与えましょう」

「そうだね。その前にキチンと話そうジョマ」

東さんとジョマが怖い顔でアートに向かう。

アートは真っ青だ。


「アート、よく聞くんだ。もしエルムとカナリーが生き返っても亜人を殺した事を気に病んでジェイドが死を選んだり死にたかったりした時にアートはどうするんだい?」

「え?」


「エルムとカナリーを生き返らせた責任をどう取るの?」

「え?そんなこと…」


「リリオのように看破をしたのかい?まだアートにその力は無いよね」

「どうするの?」

「え?」


アートがそんなことまで考えているはずがない。

ジェイドを死なせたくない一心だったからそんな事は考えていない。

東さんの顔と自分が引き起こした状況に怯えたアートはまた泣き始める。



**********



「あまり泣かせるものではない」

戦神が前に出て東さんとジョマに一言言う。


「戦神…」

「それこそ家族の…」

東さんとジョマが戦神を煩わしそうに言うが戦神も止まらない。


「私はアートの友だ。そしてお前達の友である。見かねた友が口を挟むのは当然だ」

「家族であると言うなら俺とリリオは口出ししてもいいんだな」

「そうだよテッド!それよりも戦神は私のお父さんなんだから広義で家族なんだから口出していいよね」

テッドとリリオも東さんを恐れずに意見をする。


「創造神も装飾神も普段は優しいのに娘には厳しいよね」

「本当、アートならわかるもんね?」

「ここに千歳が居たらまた論破されちゃうわね」

時空お姉さん、ナースお姉さん、先輩お姉さんもちょっと引き気味だが意見をしてくれる。


「そうだね。とりあえずもう夜だから今日はこのまま帰るといい」

「複製神…」


「アート、あなたの中にカナリーはいるよね?」

「隠匿のお姉ちゃん?」

隠匿神さんがアートの前にでて質問をする。


「感じる?」

その言葉でアートが胸に手を置くと「…うん。生きてるよ」と答えた。


「じゃあ千歳とアートの勝ちだね」

「勝ち?」


「人殺しなんてアートのパパとママはやれないよ」

「本当?」


「それこそ、もしも創造神と装飾神が生き返ったカナリーを殺すと言うのなら、戦闘力では敵わなくても私達は千歳が見せたように最後まで歯を食いしばって創造神と装飾神に敵対しても止めるよ。アートのお姉ちゃんは格好良かったよ」

「お姉ちゃん…千歳…」

アートが涙を流しながら嬉しそうに私の名前を呼ぶ。


「凄かったよ。負けるのがわかっていても最後までアートのお姉ちゃんとして意地を通したんだよ」

「まったくだ。あれで半神半人なのだから見事だ」

「魔王と黒魔王もやりきってたよ」


「そうなの?」

「ああ。だからアートも意地を見せろ」


「うん」

アートが嬉しそうに力強くうなずく。



「…わかった。今日は帰って続きは明日にしよう」

皆に言われて手出しが難しくなった東さん達はそう言って帰って行った。



「俺が見聞きしたのはここまで。この後で夜中に城に来たジョマが映像を見せてくれて俺はここでチトセと一緒に居た」

「そっか、ありがとうジョマ、ありがとうビリンさん」


「まったく、私と京太郎が悪者になってしまいましたからね?」

「あはは。だって映像のジョマと東さん怖い顔だったよ。ビリンさんもそう思うよね?」

「怖かったな。でもさジョマも神様もチトセもアートもだけどさ皆良い仲間がいて良かったよ。俺は神の世界に行けないから、どうしても心配してしまうけどいい人達ばかりで安心したよ」


「この後も見れる?」

「はい」


ジョマが出してくれた続きの映像を観る。

この日のアートは神の世界の東さんの家に泊められていた。

トキタマ君が「バブちゃん。大丈夫ですよー。僕達皆バブちゃんの味方ですよー」と眠るまで横にいてくれた。

翌朝、朝食を食べたアートは広場に連れて行かれる。

皆朝から広場に居てくれた。


「一晩考えたか?」

戦神が年長者の顔で東さんに質問をする。


「ああ。考えたよ。アート、僕とママの言いつけを破った罰は受けてもらう」

「…」

アートは何も言えずに黙っているとジョマが前に出る。


「返事をしなさい」

「はい」



戦神がそのやり取りを心配そうに見ると「何をさせるつもりだ?」と聞く。

ジョマは「これよ」と言って手をかざすと広場に一段高い処刑台のような見せしめ台みたいな一段高い場所に机とペラペラの座布団が現れた。


「机?」

「アート、今からここで正座をしたまま千回「はんせい」「がまん」「ごめんなさい。もうしません。つぎからはみんなにそうだんします」と言う言葉を書いてもらうわ」


「ええぇぇぇ…」

アートが小さく苦しみの声を出す。


「アートは今度小学生になるお姉さんだからね。字の練習にもなって、一石二鳥だね。

紙と鉛筆はパパが沢山創造したから頑張って書いてね」

「…せ…千回も書いたらアート死んじゃうよ」

アートが震えながら東さんの顔を見る。


「死なないわよ。字を書いたらカナリーの事も許すしエクサイトに行く事も許してあげる」

ジョマが後ろからアートの肩に手を置いて冷たく言い放った後で微笑む。


…鬼だな。

正直6歳であの課題は地獄だ。

私なら暴れる。

鬼の笑顔でアートに罰を決める東さんとジョマ。


「ええぇぇぇ、アートが終わるまでカナリーもあのままなの!?」

「そうよ」


「その間にジェイドが死んじゃうよ!」

「そうしたらアートのせいね。頑張りなさい」


「そんな!先に助けてあげてよ!」

「ダメよ。ほら、話している間に何文字書けたかしら?」

ジョマがうふふと笑いながら机を指差す。


「うぅ…千歳ぇ…」

「あ、千歳様も罰を受けてますからね」

「助けには来れないよ」

アートの希望を打ち砕くように華麗に相槌を打つジョマと東さん。


「ち…千歳は何してるの?」

「力を封じて軟禁よ」

「ビリンに付き合って貰っているから2人でただのんびりと仲睦まじく過ごして貰っているよ」


ニコリと笑うと「ほら、早く終わらないとジェイドが大変よ?」とジョマが言う。

アートは「うぅ…酷いよ!」と言っている。その顔はもう半ベソだ。



**********



アートは泣きながら字を書く。

手が痛くても足が痺れても止まらない。

ずっと「ジェイド」とジェイドの名前を呼びながら字を書く。

途中で少し休もうとするとジョマと東さんがこれみよがしに圧を出す。

正直子供にやる態度じゃない。


「…やりすきだ。アートが萎縮しておる。この場は私達が居るからお前達は帰るなりエクサイトに行ってジェイドの夢に出るなりしてくるが良い」

「そうだね。アートが頑張ってるからジェイドは死ぬんじゃないって言ってきてあげなよ」

「戦神、時空お姉ちゃん」


「それこそ最悪が起きたら君達こそ苦しむだろう?」

「うん。それにジェイドに会えば千歳やアートみたいに助けたくなるかも」

複製神さんと隠匿神さんもうまく話を合わせてくれる。


「…ジョマ」

「ええ、京太郎」


そう言うと2人はアイコンタクトで何かを決める。

この状況だとエクサイトに行く事だと思う。


「皆、それでは少し席を外すよ」

「アートがご迷惑をおかけします」


「いいよ。行ってきて。それでもしジェイドがいい子なら死なないように釘を刺してあげてきてよね」

「別に私達の意見を汲んで行くだけだもんね。創造神も装飾神も優しいよね」

「だから少しだけ優しくなってあげてね」

皆がこれでもかと東さんとジョマを説得する。

上から押し付けるような説得ではなく気持ちよく行ってこれるようにしてくれる説得だ。


「もう…」

「皆、ありがとう」

こうして東さんとジョマが消えると皆はアートを励ましてくれる。


「ジュース飲みなよ!」

「足は崩すと怒られるけど休憩はしなよ」

「お魚食べようゼーッ」

「タコ焼きならすぐに焼けるぞ?」


「うん。ありがとう。でも頑張るよ。アートが頑張らないとジェイドが死んじゃうよ!」

アートは涙を拭いながらこれでもかと字を書く。

涙を拭った右手は鉛筆で汚れていたのだろう。アートの右頬が真っ黒になってそれがまた哀愁を誘う。



暫くするとジョマと東さんが満足そうに帰ってきた。

その顔を見て私はピンときて横に居るジョマに質問をする。


「ジェイドに会ったの?」

「ええ」


「どうだった?」

「ふふ。やはりすごくいい子ですね。アートの為にも死なないと言ってくれました」


「最初からジョマ達だってジェイド達を助けたかったでしょ?アートが生き死にに関わったから取り乱しただけじゃない」

「もう。千歳様は看破の力も使わないのにお見通しすぎです」

ジョマが照れるのを見てジェイドに会ってくれて良かったと思えた。

その時、隣のビリンさんが「そっか、良かったなチトセ」と言ってくれた。


「へ?」

「顔が落ち着いたぞ?」


「え?そうかな?私の中ではうまく行くと思っていたんだけどな」

「そうか?なんかジョマと神様がジェイドと話したのが嬉しいのかと思ったよ」


「むぅ、ビリンさんのくせに」

「チトセ酷え」



アートは夜になっても字を書いていた。

神と言っても6歳の子供。

更にここ数日は神の力を普段以上に使って疲れている。

でも眠そうに船を漕いでも決して諦めない。


そうしたらそんなアートを見ているジョマと東さんの前にジルツァークが現れた。

「ジルツァーク?」

「ええ、彼女は私達がジェイドの夢に行っている間にも神の世界に来てアートが泣きながら字を書いていたのを遠目に見ていたし、地球の神様に会っていたんですよ」


「え?何で?…って生まれ変わりを聞く為だね」

「はい。正解です。ジェイドが死ぬ気がしていたのでしょう。ジルツァークは生まれ変わりについて地球の神様を頼っていました」

ジルツァークもジェイドを殺したくない。

その思いが彼女を動かしたと思うと嬉しい気持ちになる。



広場に現れたジルツァークは皆に挨拶をするとアートを見てアートに聞こえない声量で「まったく…ありがとう」と言ってから東さんとジョマを見た。


「ジェイドに会ったのね?」

「ああ、ジェイドから聞いたんだね」

「本当にジェイドはいい子ね」


「ジェイドが気にしていたわ。

イロドリ…アートは生き死にに関わっていないのに千回も反省文を書かされているって気にしていたわ」

「そうだね」

「アートは罪を犯したから罰を受けるのは当然よ」


「…私、ジェイドの話を聞いていて一つの結論に至ったの。それを聞きたくてここに来たの。

創造神と装飾神にも聞きたいけどアートと話をさせて」

「…いいよ。アート、ジルツァークがアートと話をしたいって言っているから休憩をしながらこちらにおいで」


アートは「…はい」と言って手を止めてジルツァークの前に来る。


「アート、アンタまさかとは思うけど誰を生き返らせたの?生き死にに関わって誰も殺してないのにこんなに怒られるなんてそれしか考えられないのよ」

質問をするジルツァークにアートは「…ごめんなさいジルツァーク」と謝る。



**********



「何で謝るの?」

「エクサイトは…ジルツァークの世界なのに勝手に生き死にに関わったから謝らなきゃいけないって…。でもジェイドが死んじゃうって思ったからアートはジェイドに死んで欲しくなかったの」

アートは肩を震わせてメソメソと泣きながらジルツァークに説明をする。


「バカね。私だってジェイドに死んで欲しくないわよ。だから泣いて謝る事ないわよ」

「本当?」


「ええ。それでアートは誰を生き返らせたの?」

「カナリー…。カナリーが1番最後に死んでいたから助けるイメージがすぐに出来たの」


「…そっか。それでカナリーは?」

「身体はアートの中に居るよ。もう生きているの。後は魂を連れてきて戻してあげるだけ」


「なんで中途半端なの?」

「お姉ちゃん…千歳がパパとママを足止めしてくれている間に死者の間に言ってカナリーに会ったんだけどカナリーはエルムの方が良いんじゃないかとか言うし、エルムもカナリーに譲ったりグリア王とかお妃様の方が良くないかって話し込んでしまっている間にパパに追いつかれたの…」


「あ…なんとなくわかる。カナリーなら言いそうだしエルムも遠慮しそうだね」

そう言ったジルツァークが東さんとジョマをもう一度キチンとみて背筋を正して目を見る。


「創造神、装飾神。お願いとかがあるの。話を聞いてくれる?」

「なんだい?」

「言って」


「私もジェイドの為に蘇生をしたい」

「…それで?」

「だからアートは悪くないと?」

東さんとジョマが必要以上に圧を出して冷たい顔と声になる。


「…うまく言えない。私は世界を持つにはまだ未熟なの。だから神の力で何が出来るかわからない。死者の間の話をアートがしていても場所も分からなければ死者と話せる事も理解が追いつかないの。だから教えてください」

ジルツァークが深々と頭を下げて東さんとジョマに教えてと言う。


「教えるのは構わないよ」

「でも聞いただけでは実践は無理よ。初めてで成功させるのは奇跡に近いの」

少しだけ態度を軟化させた東さん達が説明をする。


「え?アートはやったよ?」

「アートは僕とジョマの娘で千歳の力があるからだよ。それでも2度目は失敗もあり得る」


「私もアートの字を書く手伝いをするからアートの罪を軽くして。そして死者の蘇生を教えてください」

「ジルツァーク!」

ジルツァークの提案が嬉しかったのだろう。アートが嬉しそうにジルツァークの顔を見る。


「…足りないよ。アートがカナリーを助けたのはアートの罪だ。ジルツァークが肩代わり出来るものではない」

「そうね。だからジルツァークもアートの横で字を書きなさい」


顔は厳しいがジョマは嬉しそうだ。そして手をかざすとアートの横に同じ高さの台が設置されて机とペラペラ座布団が用意される。


「く…やるわよ」

「ちなみにジルツァークの文章はこれよ」

そう言って例文がジルツァークの前に現れる。


「はぁ?長文じゃない!」

「ジルツァーク?」


「「私、女神ジルツァークはこの度天界をお騒がせした事をここに反省いたします。

今後、女神として行き詰まった時には皆様方にご相談させていただきますので寛大な心でご指導ご鞭撻をよろしくお願いします」だって…長すぎ」

「あら、ジルツァークにあわせて年齢と文字量を比例させたのよ?」

「生き死にに関わるならそれくらいやらなきゃね」

ジョマがふふんと楽しそうに言う。

ここまで正直読み通りに話が動いたようでジョマは嬉しそうだ。


「鬼!」

「ジルツァーク…パパとママに教わるんだから大人しくしなよ…」


「アンタも言いなって、大変だよコレ」

「ほらほら、じゃあアートが仕上げるのを見なさい。それでやり方を詳しく教えるわよ」


「…足りないの」

「なんだい?」


「アートがカナリーを助けるのなら私はエルムを蘇生させたいの」

「…2000回だね」

「そうね」


「増えるの!?」

「そうだよ。それに条件としてジェイドの為にグリア王達を生き返らせないというのも飲んでもらう」


「なんで!?」

「理由は別にもあるが、死者が蘇って増えてもいい事ないからよ」

「行動には責任が付いてくる。それも覚えるんだよジルツァーク」



うわぁ…。

辟易とした私を察したジョマが嬉しそうに「千歳様が居るとアートとジルツァークを助けそうなので軟禁しておいて大正解でした」と言う。

「確かに私が居たら「いいよジルツァーク、私が教える。蘇生も手伝う」って言うよ…」



そしてジョマと東さんの指示でアートとジルツァークはアートの0と1の間に連れて行かれた。



**********



0と1の間で横たわるカナリーは生前より血色もよく元気そうだ。


「ジルツァーク、アートがやった方法を教えるよ」

「他のやり方はそれこそ神の世界で他の神に聞いてみなさい」

「わかったわ」


「僕の後に付いてくるんだ」と東さんがいつもの調子で言うとジルツァークが困惑しながら「え?」と言う。


「京太郎、千歳様と同じペースは可哀想よ」

「…おっと」


「…千歳はなんであんなに色々やれるの?」

「千歳は想像力、創意工夫、そして自身が人間で出来ない事も神ならなんでも出来ると思っていて「出来ない」と思わないからさ。だからなんでも悩んで組み合わせてみている。

そして身体の成長に合わせて力が追いつこうとしているんだ」


「創意工夫…」

「そうだよ。ジルツァークも自身の限界なんかを決めつけずにやり切ることを守るんだ」


「じゃあ今は京太郎ではなくて私が教えるわ。言われた通りにイメージしなさい。追従が甘い部分は京太郎が教えてくれるわ」

「わかった」

ジョマが東さんの前に出てジルツァークに教えてくれる。


「海に沈んだグリア城を探しなさい」

「ここから?」


「やれなければグリア城に行ってきてもいいよ」

東さんが優しく言う。

だが実際アートにできて自分に出来ないとは認めたくない。


「アートはやれたのよね?」

「やれたよ!」

アートが嬉しそうに手を挙げる。


「やるわよ!……見えた気もするけど自信ない」

少ししてジルツァークが困った声を出す。


「パパ、フォローしてあげてよ。千歳ならフォローしてくれるよ?」

「仕方ないな。ジルツァーク、僕のイメージを受け取って」


「…見えた」

「これが今のグリア城だ。ジェイドの部屋はわかるね?」


「進んで行っていい?」

「構わないよ。大事なのはイメージをする事とそのイメージを崩さない事だ」


少し歩いたのだろう。

ジェイドの部屋に着いたジルツァークが「見つけた。エルムが居たわ」と言う。


「よし、瞬間移動でここに呼ぶんだ。水は呼ばないようにね」

ジルツァークはエルムを無事に呼び出せていた。

後は時の力を使って時を戻すのだが…


「時の流れが見えない」

「感じる事も難しいかい?」


「うん」

「ジルツァーク、アートは見えるからアートと手を繋いで」


そうしてアートの少し怪しい説明でもわかったジルツァークがなんとかエルムの亡骸を4年前の姿に戻す。

正直今のジルツァークにはギリギリで限界が近いのがわかる。

これ以上の時間を跳ぶのは無理だ。


「ジルツァーク?身体の損壊はわかる?」

「なんとなく」


「じゃあ神の力を注いで補填してあげなさい。

でもやり過ぎるとステップアップしてしまって生前のエルムではなくなってしまうから注意して」

ジョマのアドバイス通りエルムに力を注いで何とかエルムは魂のないままに蘇生をした。



「これで終わりだよ」

「ありがとう創造神、装飾神」


「いや、だが先に言おう。今のジルツァークにはこれ以上の蘇生は難しい。くれぐれも勝手に蘇生を行わない事だ」

「うん。時の流れを自分で見つけられないとダメだね」


「そうよ。そして、もしそれを来年やれるようになったら今度は5年の時を1人で遡る必要が出てくる。今の4年でもギリギリなのに5年は失敗するわ」

「…わかってる。だからもう無理なのね」


「そうよ。そしてその事で共感神のあなたは命の尊さを人と共感できるようになる。無闇矢鱈に命を呼び戻そうなんて思わなくなるわ」

「さあ、仕上げをしよう。死者の間の場所を教える。カナリーとエルムを蘇らせよう」


東さんはそのまま止まらなかった。

ジルツァークに問題の質問をした。


「だがジルツァーク。僕は今わざと言う。エルムは蘇生を願ったのかい?」

「え?」


「エルムは生き返りたかったのかい?」

「…え?だって家族が居ればジェイドは1人じゃないって…」

ジルツァークは混乱している。


「それはジェイドの目線の話よね?それでもジェイドの望みは死で家族の待つ死者の間で生まれ変わる日まで平穏に過ごす事じゃないの?」

「ジルツァーク、エルムが生き返った時、エルムが蘇生を願わずに居て、ジェイドが死を望んでいたら君はエクサイトの神としてどう責任取る?いや…責任は取れるのかい?」


東さんとジョマの厳しい顔。

神の先輩としての顔。

ジルツァークは何も言えない。


「生き死にに関わると言うことはそう言うことだよ。

済まないが僕たちはエクサイトを見てきた。

仮にジェイドが死ななかった時、ジェイドを支える者がセレストの妹リアンたったのにそこにカナリーが居たらどうなる?

確かにジェイドはカナリーに悪い印象はない。

生き返れば喜ぶだろう。

だがリアンはどうだい?

アート、君はリアンの気持ちになれたかい?

あの時、リアンの事を考えたかい?」

「…ごめんなさい。考えてなかったよ」

アートが一段と暗い顔で東さんに言う。


「ジルツァーク?あなたはどう?考えた?」

「考えていなかった」


「生き返らせるリスク。そして生を願うのか?周りの者は願うのか?」

「そのリスク全てを考えてそれでも蘇生を願うかい?」


「…ジルツァーク…」

「アート…」

2人は顔を見合わせてどうしようと言う顔をする。

東さんとジョマが求めていたのはこの顔だ。


「そこまでわかれば良いかな」

「ええ。2人とも仕上げをしに行くわよ」



**********



東さん達は死者の間に向かう。

そしてエルムとカナリー、グリア王とお妃様を見つけてこの前アートが突然来たことなんかを謝る。


「いえ、それに今日はジルツァーク様も一緒なんですか?」

「ジルツァークは自分のした事をちゃんと反省してくれてこれからはジェイド達とエクサイトをよくしてくれる約束をしてくれました」


ジョマがグリア王に話すと皆が嬉しそうにする。

それは本当にジルツァークが皆とうまく行っていた証だと思う。


「今から僕と妻は一度席を外す。娘とジルツァークの話を聞いてくれないかな?」



東さんとジョマは不可視になっただけで席を外したわけではない。

でもアートもジルツァークもそれは見抜けない。


「…」

アートがもぞもぞと言いにくそうにしてジルツァークが前に出る。


「ごめんなさい」

そしてアートが続くように謝る。


「ジルツァーク様?」

「イロドリ様?」

4人は頭を下げた2人を見て驚く。


「…ごめんなさい。私、カナリーの気持ちも考えないでジェイドの為だけに身体を蘇らせてしまったの」

「イロドリ様…」


「さっきもパパに怒られたけど、カナリーはこっちでの暮らしが良くて生き返りたくなかったのに生き返れらされて嫌かな?

後はカナリーが居てもジェイドが死にたかったらジェイドにも悪いよね?」

しゃくり上げながら泣くアートの前にカナリーが出て土下座に近い格好で跪くとアートの手を取る。


「イロドリ様、神様のなさることに私は異論を唱えません。全てはジェイド様の為、エクサイトの為にしてくださったことです」

「カナリー…」


「え…と…。私もごめんなさい」

ジルツァークが深々ともう一度頭を下げる。


「私もアー…、この子.イロドリと同じで深く考えずにジェイドの為にってエルムの身体を生き返らせてしまったの」

「ジルツァーク様!?」


「今、この子が言った言葉と全く一緒なの。

エルムの気持ちもジェイドの気持ちも考えずにジェイドに死んで欲しくない一心で蘇生を教えてもらったの。だからごめんなさい」


この言葉でエルムがカナリーと手を取り合って泣いた。

「ありがとうございますジルツァーク様!」

「良かったですねエルム様」


この裏で東さんとジョマはグリア王達に話をしていた。

本来許されない蘇生を行ってしまったことに対する先輩神としての謝罪。

アートの親として死後の世界を騒がせた事への謝罪。

そして特例は今だけでグリア王とお妃様は生き返れない事を謝罪した。


東さんならグリア全体の時間を4年前に戻して荒れた大地も亡くなった人々を元に戻す事も余裕だがしない。


もし…ジョマと私にも装飾神と調停神として力を貸してくれ、共に罪を背負ってくれと言ってくれたら喜んで力を尽くすが東さんは頼む事なく頭を下げた。


横のジョマが辛そうでついジョマを見てしまう。

ジョマは東さんのパートナーとしてキチンと東さんを支えている。

グリア王達は神の行動にあれこれ言う気持ちも無いし感謝しかないと言ってくれた。



「話はいいかな?」

「エルム、お父様とお母様にお別れを告げなさい」

東さんとジョマが姿を現す。


「はい。お父さん、お母さん。なんかうまく言えないけど兄さんの事は私に任せてね」

「ああ、済まないが頼むぞ」

「いつまでもこちらで見守るから頑張って生きなさい」


「私、自分が生き返れる事で喜んでしまっていたけどごめんね」

「気にすることはない。私は十分に生きた。お前達が生まれてくれて満足のいく生涯だったと思っている」

「そうよ。私も同じ。あなたの幸せを見つけなさい。エルムの笑顔と元気は皆を元気にしてくれるのだからいつも笑顔でいなさい」


エルムは自身のみが生き返る事の意味をここで察したのだろう。

父母にはもう会えない。

その重さにハッとした顔の後で涙を溜めると一気に爆発した。


「お父さん!お母さん!」

「ははは、よしよし。私達は居なくてもジェイドやジェイドの仲間の皆さんにカナリー。ジルツァーク様が居てくれる。エルムは寂しくはないね?」

「楽しい事を考えて。ジルツァーク様、エルムをよろしくお願いします」


「…うん。任せて」

ジルツァークはまた一つ罪を知って顔を曇らせながらエルムを守ると誓う。


「カナリーはお母様に会わないの?」

「居るのでしょうか?気にはしたのですが気配を感じられなかったので」


「そう言えば居ないね」

「ふふ、生まれ変わられたのね。きっと今のカナリーなら何処かで気付くかもしれないわ」



「ジョマ?」

「ふふ。聖女は凄いですね。

10年の日々が鍛えてくれるのか想定外の行動をしますね」


「え?」

「千歳様、神如き力はもう使えますよ。カナリーの魂を追ってください。

そう、数十年分追えば千歳様ならわかりますよ」


私は言われた通りカナリーの魂を追う。

カナリー自体はとんでもない所にいたが今はそうじゃない。

カナリーの魂にマーキングして過去に遡る。

ジョマの言い方が気になった。

カナリーは20歳、生まれる前に遡る。

30年前。

40年前。


ここで私は規則性に辿り着いた。


「お帰りなさい千歳様。見たわね?」

「うん。聖女達…あの監視塔の女性達は凄いね」


足りなくて新たに生まれた命もあったが、皆が皆、亡くなった後で死者の間に留まらずに聖女を授かる為に生まれてくる女性に生まれ変わっていた。


カナリーの前世は40年前の聖女だった。

カナリーのお母さんはアプリの娘になっていた。


「カナリーは2回連続の聖女だからあんなに凄いんだね」

「ふふ、千歳様の不可視を無意識に見抜くなんて凄いわよね」



「さあ、後少しだから続きを見てしまって」

「うん」



私は映像に目を戻す。

エルムは一生懸命笑顔になって父母を心配させないように振る舞う。


それは両親もわかっていて。

「偉いぞ。その笑顔を絶やすな」

「大変な日々も楽しみなさい。それが生きる事よ」

そう言って言葉を送る。

そして3人で深く抱きしめあってから別れを告げる。



**********



カナリーとエルムは生き返った身体のあるアートの0と1の間に連れてこられた。


「私…」

「息してる」


2人は身体を見て驚いている。


東さんがアートに向かって質問をする。

「アート、千歳はなんて言っていたか覚えているかい?」

「私の夢の中で身体に戻してあげてって言ってたよ」


「意味はわかる?」

「…わかんない」


マジか。

私の愕然とした顔を見てジョマが満足そうに笑う。


「千歳様、アートはまだ6歳ですよ。フワッとした説明じゃ無理ですよ。

あのまま逃げ切っていても0と1の間で詰んでました」

「マジかぁ…。勝ったかと思ったけど私の負けだね」

負けを認めるとジョマが嬉しそうに笑う。

勝ったのが嬉しいのではなくて私が勝ちに固執していない事が嬉しい。

そう言う顔だ。


映像に戻ると東さんがアートとジルツァークに説明をする。

「身体に入ることはカナリーにもできる。

でもまだ身体と魂が安定しないから安定するまでアートの力で覆ってあげるんだ」

「ジルツァークもエルムを助け切るのなら理解をしなさい」


東さんとジョマが指示をして2人が息を飲む。

そして何とかやり方を聞いて2人の蘇生は完了した。


「千歳様ならこの後どうします?」

「安定まで時の流れを加速して終わらせるかな」


「正解です」

「へ?その言い方だとアートはなんかやったの?」



「ふふ」と笑うジョマが答えはここにと言わんばかりに映像を見る。


「さあ、この後は魂が安定するまで大人しくしてもらうけど、丁度と言うかこの2人はこの後罰を受けて貰うから退屈かもしれないけどここでカナリーとエルムの2人には過ごしてもらうよ」

「え?ジェイドの所に連れて行ってあげないの!?」

アートが驚いた表情で東さんを見る。


「なんで有耶無耶にするの?アートはパパとママから渡された罰が終わってないでしょ?」

「ジルツァークも罰を終わらせないとね」


「ええぇぇぇ!パパ!急がないとジェイドが死んじゃうよ!」

「それならアートが頑張らないとね」


「冗談じゃないわよ。助けてあげてよ」

「やる事をやりなさい」


「千回も書いたらアート死んじゃうよぉ」

「じやあカナリーもエルムもこのままね」


「あんた達鬼だわ」

「ジルツァークも書かないと終わらないからね」


交互に文句を言って交互に言い伏せられていく。

カナリーとエルムはポカーンとそれを見守る。


「わかってるわよ。アート…イロドリ、時間制御できるわよね?エクサイトの時間を遅らせて書き切るわよ」

ジルツァークが苦し紛れに時間制御を提案するがそんなものが通用するほどジョマも東さんも甘くない。


「やらせる訳ないわよ?言い換えればアートとジルツァークの力が私と京太郎を上回ればやっていいけど?」

ジョマが「ふふん」と言いながら挑発する。


「ママとパパになんて勝てないよぉ。千歳ぇ…」

「ふふ、千歳様は軟禁中でしょ?」

「え?千歳どうしたの?」


「アートを逃す為に私と京太郎に喧嘩を売って返り討ちよ」

「…返り討ち……、諦めて書こうかアート」

私にすら勝てないジルツァークはここで一気に諦めた。

肩を落としてアートにさっさと罰を終わらせてしまおうと言う。


「うん。頑張るねカナリー、待っててねエルム」

「はい」

「待ってます」


そうして神の世界に帰ったアートとジルツァークは広場で正座をしながら字を書く。


「エルムの分も含めて二千回ですからね?」

「アートも!?」

「連帯責任だよ」


「ほらほら早く書かないとジェイドが大変よ?」

ジョマが楽しそうに2人を焚き付ける。


こうしてまた反省文作りが始まる。

また泣きながら字を書くアート。

口を開けばずっとジェイドの事を呼ぶ。


「ジェイド、待っててね。死んじゃダメだよ。今行くからね」

それはきっとアートの中で待っているカナリーとエルムを感じているからだろう。

とんでもないところとさっき思ったのはアートの心に近い場所に2人を置いてしまっているのだ。影響を受けかねないと心配したら案の定だ。


必死なアートに向けて自分も辛いのにジルツァークは頑張って励ます。


「この罰って有り得ないよね」

「酷くない?」

「もう少しだから頑張ろう」


そんな事を言って2人で文字を書く。


「はい。ご飯ですよ」

そう言ってジョマが持ってきたのは麻婆豆腐、麻婆茄子、麻婆春雨と餃子だった。



「あ!」

「ふふ、千歳様が作ってくださった料理は美味しいですね」


作る先から複製していたのか…。


「美味しいアート?」とジョマが聞くと一口食べたアートが「…千歳の味がする」と言う。


「ふふ、正解。千歳様が作ったご飯よ。ジルツァークはどう?美味しい?」

「美味しいわよ。千歳って何?料理する罰とかなの?」


「違うわよ。ここに居たら助けに来るし私達千歳様には敵わないから罰が軽くなっちゃうので軟禁中なのよ。それで彼氏と2人きりで仲良く料理を作って食べて貰ってをして貰っているからお裾分けして貰ったのよ」

ジョマが遠目で私達を見ているのだろう。嬉しそうに言う。

きっとこの時の私はモリモリとご飯を食べてくれるビリンさんを見て幸せを感じている。


「敵わないって…だってさっきは返り討ちにしたって…」

「ふふ、戦闘力なら人間と神のスペック差があるから私でも勝てるけど神化されたら勝ち目なんかないし、そもそも千歳様の心の強さに比べたら私なんて足元にも及ばないわ」


そう言われてもジルツァークには意味が分からないから素直に「わかんない…」と言っている。


「そのうちわかるようになるわ。それを食べたら今日は終わりにしなさい。1日で終わらない量よ」

ジョマに言われて食後に終わりにしようとしたジルツァークだったが横のアートは船を漕ぎながら諦めないで「ジェイド…、アートが頑張るからね」とずっとそんな事を言う。


ジルツァークは帰るに帰れなくて「まったく!子供が大人より無茶すんじゃないわよ!」と言って続けていた。



**********



翌日はお昼ご飯が山盛りハンバーグで夜ご飯がお酒のおつまみ等などの私が作った料理の数々だった。


「あれ?じゃあ私の拘留期間は2日?」

「ええ、2日間くらいアートと千歳様を離せばあの子も諦めますしね。現に昨日も千歳様に助けを求めてましたよ」


「え?知らないよ」

「仕方ありませんよ。神如き力を封じていたんですから聞こえません」


ここで静かだったビリンさんが「…ジョマならきっとチトセが何をしていたか見せたんじゃね?」と言う。

ジョマもジョマで「あら、流石はビリン様。見ます?」と言ってその映像を出す。



「うぅ…千歳ぇ…」

「千歳様はまだ軟禁中よ」


「装飾神、一応聞くけど千歳が居たらどうなってたの?」

「きっと「もういいじゃん。千回で十分だよ。なんで二千回なの?アート、もういいよ。おしまい。千歳が東さんとジョマに言ってあげる」って言われて私達は何にも言い返せずに強制終了です」


「それなのになんで助けに来れないの?」

「能力を封じてますし。まあ本気出されたら封印も破られますけど千歳様もそこまでの悪あがきはしないし、後は出来ないように手を回してるのよ」

ジョマが「ふふふ」と笑うと察したジルツァークが「彼氏?」と聞く。


「ええ。千歳様は彼氏とラブラブですから。でもそろそろ悪あがきしそうなので手を打ったのよ」

そう言ってタイミングよく運ばれてくる宴会メニューをジルツァークの後ろで皆が食べては舌鼓を打つ。


「何であんなにご馳走出てくるの?」

「ふふ、これよ」


そう言ってフィルさんと王様が来ている映像と酒瓶の山を見せる。



「こいつ、あの半神半人…」

「今は全能力を封じていて3人のうち1人の奥様と静養中よ。まあ千歳様の義理の父母になる予定の人よ」


映像をチラ見したアートが「あああっ」と絶望の声を出す。


「アート?」

「お酒とフィルおばちゃんが居たら千歳は来れないよぉ…」

アートも6年もゼロガーデンに行き来していればフィルさんの泥酔を一度くらいは見ている。

どうしようもない事は知っているのだ。


「え?」

「あの2人はお酒飲んじゃダメな人なの…」

アートが鉛筆から手を離して絶望の顔をする。

きっと心のどこかで私が来ることを期待していたのだろう。


「あら、フィル様も千歳様もストレスが無ければおかしくならないわよ」

まあ後は今さっき見た映像通り壊れた私の痴態がアートとジルツァークに披露されてしまった。


映像の中でジルツァークが私のストレスを気にした。


「装飾神?」

「なに?」


「千歳のストレスって何?」

「人でありながら神である事よ」

ジョマが遠回しで含みのある言い方をする。


「え?それは…半神半人は皆負うの?あの男も?」

「彼はまた違うわよ。彼も特異ね。人のまま神になる。それか彼の目指す場所」


王様の目指す場所はきっとそうだ。

あの姿を見ると人でありながら神と等しい存在になろうとしている。


「何それ?」

「彼は人の身で神化しないギリギリに身を置いて彼が生まれた世界を守るの。

彼ね、この前ウチの京太郎と戦った日も同時進行をしていた。

私や京太郎が居るのに生まれた世界と千歳様とアートを心配してくれて休む事なく世界を見守るのよ」

…やっぱりゼロガーデン、フィルさんやリーンさん、ジチさん達から目は逸らしていなかったんだ。王様はコピーガーデンの件から更に世界を見守り続けていた。


「そんな事…」

「やり切っているのよ。

かつて視覚神に世界を複製されて自分以外の人達が皆殺された後悔を2度としない為にも自身を追い込んでいる。だから並の神には出来ないことでもやり切るの。

そして人を捨てないと言って人間性を犠牲にしてギリギリで生きている」


「…」

「ジルツァーク?」


「私、今までそこまで努力をした事あったかな?人間が人間性を犠牲にしているのに私は何を犠牲に努力をしただろう?それこそ生み出した命を犠牲にしただけで自分をすり減らすような努力をしてこなかったわ」

「ふふ、そこに気付いて人に共感出来るのならあなたが共感神として成長した証拠よ」


「…頑張る。私、神として頑張る」

「ええ、期待しているわ」

ジルツァークの顔を見てジョマが嬉しそうにする。

きっと今の状況はジョマの装飾の一部でそれを受けてジルツァークが変わった事が嬉しくてたまらないのだ。


「千歳のストレスも聞いていい?」

「ええ、千歳様は人から神になった身、そしてまた人に戻った身。その経験と持って生まれた博愛の心が全てのストレスよ」


「博愛?」

「ええ、千歳様は怒っていたジルツァークにすら味方したでしょ?下手をしたら憎んで嫌悪している視覚神すら許してしまうのよ。そしてそれは神もそうだけど人に向かっても同じ…もっとかしら?」


「…」

「千歳様にはサードガーデンの神をしてもらっているわ」


「聞いたから知ってる」

「そうね。それも私達を救いたい気持ちから受けてくれた。そして千歳様はサードの人々の為に何度も神化の危険を犯して人々を救うの。その先…遂には複製されたゼロガーデンを救う為に神化をしてしまったわ」


私はジョマの言葉を聞きながら6年前のあの日を思い出した。

復讐神となった黒さんを止める為、超神と名乗った覗きの神を止める為、無理矢理作られたプラスタであるテッドを助ける為、調停神としてサードの皆を助ける為、そして助けられずに私を呼びながら死んでいった複製されたゼロガーデンの皆を助けたい一心で神化をしたあの日。

横に居るビリンさんは私を助けられなかった事を心の底…ううん。魂の奥深くから悔やんで叫んでくれた。

思い返すと申し訳ない気持ちになる。



**********



私が神化してしまった話を聞いていたジルツァークは「それも聞いた」と答えた。


「ええ。千歳様は人の為にならその身を平気で差し出せてしまうのよ。千歳様は許せない事なんかには何があっても立ち向かうのよ。見ていなさい」


丁度映像は私がフィルさんの事で王様に怒った時の映像だった。

時間の流れが違うからある程度ジョマの好きに映像が流れていく感じだ。


「怒ってる…」

「そうよ。人を案じて人の為には怒れるの。でも怒ってばかりではダメでしょ?だからそれを溜め込んでしまうのよ」


「でも今の人たちはゼロガーデンって言われた世界の話でしょ?千歳がなんで?」

「人だから、関わってしまった全ての人を取りこぼせないのよ。だからその千歳様の力を貰ったアートも似たんでしょう?助けたい取りこぼしたくないって言ってエクサイトに関わったのよ。

千歳様がここに居たら間違いなく無茶してしまうわ。だからそれもあって軟禁したのよ」


「無茶?」

「全力で人々を救うかもしれない。グリアの人々を残さず助けて亜人を助けてジルツァークからの呪縛を外して心を与えるわ」


「そんな事…」

出来る訳ない。そう言う顔をしている。

想像が足りないだけ、どうしたら救えるか、その部分から目を背けているだけだ。


「千歳様ならやるわ。でも並の神にも出来ない事。いくら千歳様でも人間に出せる出力じゃない。だから神化をしても助けようとしてしまう。そうさせない為にも軟禁するの。少し頭を冷やして貰う。そしてその間にアートやジルツァークが罪と罰に向き合って居れば千歳様は冷静になる」

このやり取りでジルツァークはまた何か気がついた顔をしている。


そして今私は正直横を見るのが怖い。

「チトセ?こっち向け?」

ビリンさんの優しい声。

だがその声が怖い。


「…向きたくないって言ったら怒る?」

「自覚があるだけマシだけどさ、そこまでするのか?そこまでしなきゃダメなのか?」

優しい声が一転呆れ声になる。


「…頭に血が上ると我慢が出来ないと申しますか…」

「ちゃんと言う事は?」


「ジョマありがとう」

「はい。どういたしまして」


「後は?」

「ビリンさん、ごめんなさい」


「おう。神化するにしてももう少し冷静になろうな」

ビリンさんに言われている所で映像が終わった。

映像の感じだとまだアートはジルツァークと一緒に反省文を作成中だ。


「さあ千歳様。一度帰って怒られてから神の世界に来てくださいね。ビリン様もありがとうございました」

「んにゃ、すごく楽しかったし助かったよ。あんがとジョマ」


私はビリンさんに別れを告げて家に帰る。

土曜日に東さんと戦って2日の軟禁を終えたので今日は火曜日だった。

日本では東さんとジョマ、地球の神様のアレコレな計らいで私の不在は有給休暇ではなく急遽決まった全社リフレッシュ休暇と言うことで公休になっていて休みを怪しまれていなかった。

急に仕事が休みになっているお父さん達はリビングでのんびりしていた。


「お前が東に喧嘩売ったって聞いて肝を冷やしたぞ?しかもそのせいで2日も仕事が休みになってしまった」

「まったく、京子ちゃんの為に千歳がそこまでやるなんて思わなかったわよ。でも道子さんも東さんも千歳に感謝していたわよ」

お父さんが呆れた表情でお母さんが仕方ないって顔で出迎えてくれる。


「それにジョマに映像見させてもらったけど、お前一対一ならジョマに勝てるんじゃないか?」

「無理だよー。神と人じゃスペック差があるからジリ貧で最後は神化するかボロ負けだよ」

きっとお父さんの言いたい事は違うのだけど私はこんな感じの返事をする。


「映像って言えば、フィルさんもストレス溜まっていたみたいだけど千歳も溜めちゃだめよ」

「まったくだ、泥酔しやがって。後はアレな。俺は向こうに行けてないから神の世界に行く前にルルの所にも行ってやれよ」

やっぱり泥酔映像はお父さんとお母さんにも出回っていたか…。

まあ反論は出来ないので素直に「うん。行ってくるね」と言ってゼロガーデンに向かう前に部屋に行こうとする。


「あ」

「何?」


「魚料理はウチにもよろしくな」

「あはは、多分作るから送るよ。戦神のタコ焼きも送るね」



私はさっさと着替えるとゼロガーデンに向かう。



**********



「千歳!」

「千聖!」

ゼロガーデンに着いて玄関に出現をすると外遊びをしていた千聖が私に気付いて飛びついてくる。


「今日は何してたの?」

「千歳ごっこ」

千尋が可愛い笑顔で妙な遊びを口にする。


「へ?」

「この前の夢で見たやつをやってみたの。でも出なかったよ」


「あはは、千歳抜きじゃ無理だって。ルルお母さん居る?」

「激おこだよ」


は?

いきなり何でゼロガーデンの人間が激おこなんて知ってんだ?

まだファーストやセカンドは日本のプレイヤー達が使う言葉をスタッフ達が面白がって使うからあり得ない事も無いがゼロガーデンに来る日本人は私達が呼ばない限り居ない。


「激おこ?あんたなんでそんな言葉知ってるの?」

「ジロ爺ちゃんが教えてくれた。千歳が来たらそう言えってさ」

千聖も偉いのが、お父さんが来ている時や居ない時、差別化の必要が無い時は全部爺ちゃんで済ますが差別化が必要な時は今みたいにツネジロウをジロ爺ちゃんと呼ぶ。


「まったく…。じゃあ千歳は怒られてくるから千聖はお外で訓練頑張ってね」

「うん!」


千聖に手を振って中に入ってリビングへ向かいながら「ただいま〜」と言うと奥から「バカ者!」と怒号が飛んできた。


「ひぇっ」

「アートの為とは言え神様とジョマに喧嘩を売るとはまったく何を考えておる」

ルルお母さんが腰に手を当てて私を怒鳴りつける。

この前の24歳のルルお母さん綺麗だったなとかつい余計な事を考えてしまう。


「ごめんなさい」

「だが良く意地を通した。ジョマが見せてくれたぞ、流石は私の娘だ」

ルルお母さんが頭を撫でてくれる。


「全部見た?」

「見たぞ。ツネノリ達と青くなった」

そこにお父さんとツネノリとメリシアさんが現れる。


「東に喧嘩を売るとかよくやるよ。まったく」

「ごめんね」

金色お父さんはさっき日本で会ったお父さんと同じなんだけど違う表情で呆れている。


「だがやはり千歳はああでなければな」

「本当、千歳様はああじゃないと」

ツネノリとメリシアさんが笑ってくれるので私は「ありがとう」と返事をした。



「今日は?これからどうすんだ?」

「神の世界に行ってくるよ。アートはまだ罰で二千回の反省文だから、終わりそうなら励ますけど終わらなそうならもうおしまいって言って終わらせちゃうよ」


「そんなだから軟禁されんだぞ?」

「あはは」

懲りない奴って顔に書いてあるお父さんが更に呆れる。


「ちなみにさっき神様から通達があった。キヨロスはリーン達の申し出で刑期延長だそうだ」

「あらら」

ダメだったかー。まあアーティファクト無し、神如き力無しの王様はレアだからもう少し独占したくなったかな?


「アーティファクトを取り上げて能力封じをしたら随分と気性が落ち着いたらしい」

「あれ?そう言えば「支配の王錫」ってどうしたんだろ?」


「特例でレンカが装備しておる」

「あはは、流石はレンカさんだ」

そう言いながらジチさん似の美女であるレンカさんが王錫を構える姿は格好いいだろうなと想像してしまう。



こんなやり取りをした所でツネノリが怖い顔で私を見る。

「どしたの?」

「千歳…、千聖になにをした?」

顔が怖い。

冗談の通じない顔をしている。

「へ?」としか返事が出来なかった私にメリシアさんが「急に千歳様ごっこをし始めて千歳様に訓練を受けたいって言い出したんですよ?」と教えてくれた。



「あはは、あれかぁ…。ハンバーグを届けた日にお願いされて夢の中でちょっとね」

「…それは何年だ?」

夢の中でちょっとと言ったのが良くなかった。

子供のツネノリは東さんにちょっと連れていかれて0と1の間で40年も修行の日々だった。

まあ、そのお陰で今はこんなに強いのだが自分の娘に同じ思いはさせたくないだろう。

私だって可愛い姪にそんな事はしたくない。


「ないない。ツネノリがされたみたいな事は無いよ。本当15分くらいだよ。見る?いいよねメリシアさん?」


「そうね。実際に見ればツネノリ様も安心ね」

そう言って先日の夢で見た映像を出す。

千聖が皆を守りたいから力が欲しいと言っていた姿にツネノリは感涙していた。

その後でテーブルを分けたりする力も欲しがっていたのだけどツネノリの耳には届いていない。


「くっ…、父さんと母さんはこんな気持ちだったのか…」

「良かったねー。おめでとー」

これは長くなるのでカットだカット。


正直カットしたかったのだがツネノリを遮るようにメリシアさんが「千歳様、もう少しだけお時間くれません?」と言ってきた。もうこうなると断れないから「へ?いいよ」と言う。まあアートが心配だが仕方ない。



**********



メリシアさんが外で絶賛千歳ごっこの千聖を呼ぶ。「千聖ー!」と言うとすぐに「なにお母さん?」と言って千聖が息を切らせて帰ってくる。


「ちょっとだけ千歳様にお願いしたから訓練させて貰えるわよ」

「本当!?やった!ありがとう千歳!」


「え?やるの?」

「うふふ。直接見てみたいです」


「じゃあ外行こうか」

「うん!」

外に出てこの前みたいに手を繋ぐ。


「見ててね!神如き力!」

千聖の掛け声に合わせて力を渡す。


髪の毛が赤紫になるだけでツネノリ達は感動している。

私の髪が赤くなると困っていた10年前とは大違いだねと言いたかったが、まあ私の髪色は人に戻れなくなる危険信号も含まれているから仕方ない。



「お父さん、千聖の為に光の盾を張ってあげてよ」

「何ぃ!?俺かよ?」


「ツネノリだろいい加減」とブツクサと文句を言いながらも配置につくお父さんは青い光の盾を張る。


「よし、千聖。光の剣は2本ね」

「なんで?この前は3本だったよね?」


「あれは夢の中だから。今日は生身だから無理したら疲れて熱出ちゃうよ」

「そっか…光の剣!」


千聖の掛け声で剣が出て「おぉ」と皆が驚く。


「行け!【アーティファクト】」

その掛け声でなかなかの速度で剣がお父さんを襲う。


「くそっ、子供の剣って舐めてかかれない重さじゃねぇか!」

お父さんは事もなく防ぐがまあ思ったよりかは強いだろう。

そして必要以上に泣き言を言うお父さんのリアクションは今の千聖に丁度いい。

千聖は嬉しそうにウキウキとしている。

「良かったね、お爺ちゃん驚いていたね」と言うと千聖は「うん!」と喜ぶ。



「よし。千聖、1本にして空高くに剣を飛ばしてみなよ」

「…うん」

その掛け声で剣が上空に向かって飛んでいく。


「千歳様?」

「離れると維持がキツくなるはずなんだよね。いい機会だから練習だよ」


思った通り千聖の剣は目視可能な高さまでしか飛ばなかった。

そんな時、「【アーティファクト】!」と言って光の剣を飛ばすツネノリ。


「ちょっと?何すんの?」

「親とはこんなに子供の成長が嬉しいものなんだな。千聖、お前の剣から俺の剣が見えるか?」

「見えるよお父さん」


「よし、ついて来い!」

ツネノリが剣を加速させて千聖を呼ぶ。

千聖も頑張って追いつこうとするがツネノリはそれをさせない動きで翻弄する。


そんなことをすればあっという間に千聖の限界は来る。

辛そうな息遣いでツネノリを追いかけるがこれ以上はダメだ。


「はいここまで」

「何!?」

「…うん。ありがとう千歳」

千聖は限界を察していたので「もっと」とは言わずにありがとうとしか言えない。



「バカツネノリ。あんな動きに付き合わされたら千聖が熱出しちゃうわよ」

「あ…、嬉しくてつい」

横のメリシアさんが「本当仕方のない人」と愛おしそうにツネノリを見る。


「大丈夫千聖?」

「ありがとう千歳。また今度いい?」

正直これで嫌になると思っていたのだが千聖はまたやりたいと言う。


「いいよ。…そうだ。ルルお母さん。ちょっといいかな?」

「なんだ?」

私はルルお母さんと手を繋いで用件を2個伝える。


「これは飛行型の光の剣の人工アーティファクトの基礎理論か?」

「うん。最終的にはツネノリみたいに普通のアーティファクトから出せるようになるんだろうけど最初に専用のアーティファクトがあった方がいいと思って、この前夢の中で千聖に教えた日にね…少し考えたの。私抜きで練習できないと可哀そうだしさ。きっとルルお母さんも考えてくれると思うけど私の考えも見てもらいたくてさ」


「まったく、千歳はいつも全力だな。少しは休むのだぞ?」

「うん。ごめんね」

「それ、ルルが言うのかよ」

「本当、母さんは休まないからね」

皆がルルお母さんを見て笑うとルルお母さんは「うるさい」と一蹴する。

その後で私の目を見て微笑んでくれた。


「千歳、もう1つも了解だ。私もずっと待ちわびていた。千歳が私と同じ気持ちでいてくれて嬉しいぞ」

「本当?」


「ああ、あの日の再現を…あの日以上の1日にしよう。頃合いを見て言う」

「うん。ありがとうルルお母さん」

もう1つは今回コピーハウスに行った事で10年前の日々を思い出してまた3人の1日をしたくなった事を伝えた。

皆の前では流石に恥ずかしくて言えない。

頃合いに関しても千聖に光の剣の人工アーティファクトを授けたらトレーニングの名目でタツキアに泊まりに行ってもらう日が良いだろう。


「ルル?」

「母さん?」

「お母様?」

「ツネジロウには後で言う。ツネノリとメリシアには不要な話だ」

それだけで詮索はしないでくれるツネノリとメリシアさんは優しい。


「千歳様、ありがとうございました」

「ううん。これくらいはね。後は前払いだし」


「は?」

「多分神の世界に行くとお疲れの宴会になると思うんだよね。お魚が待っているからツネノリに働いてもらわないと。ちゃんと複製してもらうから半分はまた食べてよ」


「あら、それは皆喜びます。魚神様のお魚は本当に美味しいですよね」

「それ、お魚さんが喜ぶから伝えておくね。後は戦神がたこ焼きにハマっているから焼いてもらったら届けるよ」


「千聖が喜びます」

「良かった。じゃあ行くよ」


私は5人に別れを告げて神の世界に向かう。

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