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おまけガーデン。  作者: さんまぐ
アートの女神イロドリ。
12/19

半神半人vs神。

「千歳!ジェイドが死んじゃうよ!ジェイドはどうなったの!?」

アートが私に抱きつきながら必死になって聞いてくる。


私は見えている。

全て見えている。

だからアートを安心させたくて微笑む。


「大丈夫。ジェイドは死んでない。タカドラが力を弱めただけだし今はジルツァークが加護を使って更に防壁で溶けた壁や岩とかから守っているよ」

「本当?」


「うん。千歳には見えているから大丈夫だよ。

東さんもジョマも見えてるよね?

りぃちゃんは見えてる?」

東さん達にも声を書ける。


「うん…。ちぃちゃん見えるの?」

「千歳様、また成長されたんですか?」

驚くりぃちゃんとジョマ。


東さんはそれを見抜いていたようで驚かない。

「千歳、今の君なら全て見えているね?」

「うん。ジェイドは夢の中でエルムとカナリーに出会ってる」


「エルム?カナリー?」

「うん。そうだよ。アートも見る?」

私が手をかざして映像を作る。



映像の中で「兄さん!」と呼ばれたジェイドの前にはエルムが居た。

ジェイドは「エルム…、俺は死んだんだな」と決め付けている。

加護を外させ業火の中に居たのだからその考えは間違って居ない。

そして考えているジェイドにエルムが抱きつく。


「お疲れ様、兄さん!敵討ちしてくれてありがとう!」そう言う明るい笑顔のエルムと違ってジェイドの顔は暗い。


「だが亜人達はジルに操られていただけで罪らしい罪はなかった」

「それでもいいの。兄さんが納得するまで戦ってくれて勝てたのだからそれでいいの」

エルムは流石ジェイドの妹だ。ジェイドが傷つかないように言葉を選んでくれている。


「ありがとうエルム。じゃあ行こうか?」

エルムは自身を迎えに来てくれたんだと思ったジェイドがそう言う。

向こうに行ったらのんびり休むのもいいなとジェイドが思ったのだがエルムは違っていた。


「え?」

「え?」


「兄さんはどこに行くの?」

「俺は死んだんだからエルムと一緒に父さん達のところに行けるんじゃないのか?

それとも亜人を殺しすぎで俺だけ違う所なのかな?」


「何を言っているの?兄さんは死んでなんかないわよ」

「え?」

まさかの回答に驚くジェイド。


「なに?信じられないの?」

「あ…ああ」

加護もなくあの業火に焼かれれば生きている訳が無い。

そう思っている。



エルムがジェイドから離れると神妙な顔で質問をしてきた。

「亜人共を殺した事を悔やんでいるの?それなのに自分が生き残ったのが心苦しい?」

「え、いや…、少し。

憎い存在だが殺してよかったのかと言われると悩むんだ。

それにあの攻撃でジルが倒せたかも怪しい。

そうなると亜人共を殺す意味はあったのかもわからない」


「それでいいのよ。そうやって悩めるのも兄さんが壊れたままじゃない証明よ。カナリーさんに感謝してね」


「え?カナリー?なんでエルムがカナリーを知っているんだ?」

「やだ、生きている人間の常識で考えちゃダメだよ。ほら、兄さんの胸を見て思い出して」


「胸?」

ジェイドが胸を見ると緑色と黄色の光が出ている。

あれはお守りを使用した通り道。

これでエルムはジェイドに会いに来た。

当然何も知らないジェイドは胸から出る光を見て「何だこれは?何の光だ?」と言って驚く。


「あーあ、兄さんってば酷―い。ばあや泣いちゃうわよ?」

「何?」


「それはばあやのお守り。ばあやが兄さんの無事を願ってくれて、その思いがこもっていたから、それを使って私もここに来たし、カナリーさんも来てくれたんだよ?」


「エルム?お前はなにを?」

「お守りを使ってきたのはカナリーさんと私、もう1人の私は兄さんに復讐を委ねたら残りカスだから消えると思うって言っていたでしょ?

向こうで見ていてそれは嫌だから迎えにきたんだよ。だから私は復讐者じゃない方の私だよ」


エルムは私との約束を守ってどうしてその方法を知ったかなどの話はしない。


「もう…もう1人の私は回収したからね。私の中にいる私もこの結果に満足しているよ。形はどうあれ亜人が全滅したからもう良いって言ってる」

「本当か?」


「うん。ありがとう兄さん」

もう一度エルムが抱きつく。



「千歳、ジェイドが嬉しそうだよ」

「そうだね」

だがジェイドは今も生きている事がどんどん辛くなっているはずだ。




「さ、挨拶しなよ」

「え?」


「ばあやのお守りは私とカナリーさんと兄さんの分しかないからお父さんとお母さんは来られないけど「良くやった。お前は自慢の息子だ」「これからは復讐を忘れて生きなさい」って伝えてと言っていたよ」

「父さん、母さん…」

ジェイドは目を潤ませる。


「ほら、それは後でもできるから。今はこっち」と言って手をかざすとその先には聖女が居た。


「カナリー…?」

「ジェイド様」

笑顔を向けてジェイドの元に駆けよってくる。


「来てくれたのか?」

「戦友ですもの。応援もしていましたし逢える機会があれば逢いに来ますよ」


「まさかジルツァーク様が黒幕だとは思いませんでしたよ」

「本当だな。だがイロドリ達のおかげで気づけて良かったよ」


「はい。ジェイド様、ありがとうございました」

「いや、俺もやり遂げられて良かったよ。

これでフランもアプリ達も使命から解放出来たよな?

壁なんかに命を使う必要も無いし、望まない出産で聖女を産み増やす必要も無いよな」


「はい。きっと喜んでいますよ。皆を救ったのですからフランや姉さんはジェイド様に恋をしてしまうかも知れませんね」

「何?」


そうやって話進めていく。

ジェイドの顔はとても幸せそうだ。


話の中で生まれ変わりの話が出る。

ゼロガーデンでもガクさんのお兄さん達、ガイさんとガルさんは東さんの誘いで生まれ変わってガクさんの子供になっている。

世界の基本設定が同じなら生まれ変わりは可能だ。


だが2人が生まれ変わって恋をするのは気の遠くなる程の時間が必要だ。

ジェイドとカナリーが出逢うのは神にとってはあっという間の事でも人間には遠い未来の話。

私はジェイドとカナリーにビリンさんと私を重ねてしまう。

…離れ離れになんてなりたくない。

世界の理を無視してやり直したいと思った。



その後も3人で話す。

ジェイドは死にそうなカナリーではなく元気なカナリーを見て嬉しそうにする。

エルムが冷やかしてジェイドが嬉しそうに怒る。


この時私の中には良くない感情が芽生えて居た。

さっきも思ったがより強い気持ち。

人としては当たり前でも神としては許されない考え。


「ジェイド様…恥ずかしいです。でもありがとうございます。

生まれ変わり、楽しみにその日を待ちます。

そしてその日には必ず再会をしましょう」

カナリーがジェイドの手を握ったまま祈りを捧げエルムがジェイドの横にやってきてニコニコと嬉しそうにしている。



「兄さん、それはここだけにしなよ〜。

誰とお付き合いして誰と結婚するかは知らないけどさ、カナリーさんと比べられたら皆勝てないからね?可哀想だよ。

でも生まれ変わりっていいね。

私もまた兄さんの妹になりたい。

そう思えるくらい兄さんの妹でよかったよ私!」

エルムは泣いていた。

泣きながら笑っている。



「カナリー、エルム…。やはり俺はこのまま死ぬ事は許されないのか?2人と共に逝きたい」

ジェイドは泣きながらこのまま死にたいと言った。


「千歳!ジェイドが死にたいって言った!ダメだよ!死んじゃダメだよ!」

「アート…」

アートは幼い時に小鳥を助けられなかった、助けたかったのに止められた日の顔をしている。


「アート、映像を見なさい。カナリーとエルムがジェイドを止めてるよ」

「…でも」


「ほら、ジルツァークが必死にタカドラに助けを求めてる」

私の映像を止めてりぃちゃんが用意してくれている映像を見せる。



「何でジェイドは目覚めないのよ!タカドラ!そっちからも何とかしなさいよ!

私!?やったわよ!それでも起きないから心配してんでしょ!ジェイドが起きないならエクサイトを壊すわよ!」

「ジルツァーク様、落ち着いてください!」

「反動で気絶しただけですよ」


「ほらね」

「…うん」


そうしている間にジェイドが目覚めた。

ジェイドは自身に何があったかをジルツァークに聞かされると「そうか。ありがとう」と感謝を告げる。


だが今の私にはわかる。

あの顔は命を、生きる事を諦めている顔だ。



**********



「ほら、終わったからもういいよねアート」

映像を見ながら私はアートを説得する。


「千歳?どうしたの?なんで終わろうとしてるの?」

アートは鋭い。

特に私の変化は見逃さない。


「そんな事ないよ。ほら、ジルツァークがジェイドの共存を受け入れたよ?」

映像の中で1からやり直すと言うジルツァーク。

そんな会話の中で「ああ。そうだジル、生まれ変わりってあるのか?」とジェイドが聞く。


「ほら、生まれ変わりまで聞いてる」

「…うん」


この会話に少しアートが落ち着く。

だが実際は早く命を終えて共に生まれ直そうとしていてその事を聞きたいのだろう。

私が目配せするとりぃちゃんは頷く。

りぃちゃんもジェイドを看破している。


この後でジェイドがジルツァークは共感神だと伝える。

それはアートからジェイドに伝えられて居たものだった。

ジェイドはそれがあったからジルツァークを最後まで信じて居た。

共存できると信じて居たのだ。



自身を知ったジルツァークと共存を願った人間達は手を取り合って平和になったエクサイトで皆幸せに暮らしました。めでたしめでたし。


とは行かない。



ジェイドは休まずにジルツァークとセレスト達を連れてエルフの街に向かって歩き始めた。

こうなればタカドラにはエクサイトに帰って貰う必要がある。


「タカドラ、実践はまだだけど教えたから次元移動出来るよね?」

「はい」


「じゃあエクサイトに戻ってジェイド達を待ってあげてヘルケヴィーオに終わった事を教えてあげなさい」

「はい。ありがとうございますお姉様」


「いいんだよ。ほらアート。タカドラが行っちゃうからまたねをしなさい」

私の所からタカドラの前に行ったアートがタカドラに挨拶をする。


「うん。リュウさん。またね」

「はい。イロドリ様のお陰でエクサイトが救われました」


「ううん。私は何にもしてないよ」

「色々伺いたいこともありますのですぐにまた来ます」


そう言ってタカドラが消えた。

…ここはこのままさっさと帰った方が良い。


「さあアート、おしまいだから帰ろう?」

「千歳?なんか変だよ。なんで早く帰ろうとしてるの?」

アートが不安げな顔で私を見る。


「そんな事ないよ」

「あるよ!なんかアートにエクサイトを見せないようにしようとした時の千歳の顔だよ!」


「アート…」

「…まさか……ジェイドが死んじゃうの?」

アートが物凄い顔になる。


…私は答えられなかった。

このまま何もなければ早晩ジェイドは加護を逆手に取って死ぬかタカドラとジルツァークに加護外しをさせて死を選ぶと思う。

予知や予測でもない直感だ。


「ねえ千歳!!答えて!」

黙っているとアートはジョマと東さんに聞く。


「パパ!ママ!教えて!」

だが2人は答えない。

平気だといえば嘘になる。

死ぬといえばアートは止まらなくなる。


アートは走ってりぃちゃんの前に行くと手を取って必死に質問をする。

「リリオ!看破して予測して!平気だって言ってよ!」

りぃちゃんはジョマと東さんと私を見て困った顔をする。


その後、アートは神々を見て近づいて声をかけるが誰も何も言えない。

そして最後に王様と黒さんの前に行く。


「キヨおじちゃん!黒キヨおじちゃん!」

「…アート、今皆が黙っているのが答えだ」

「君の問いに答えられない。平気だと言えば嘘になる。それが答えだ」

王様と黒さんは皆が言えなかった事を言ってしまった。

私は慌てて2人を止める。


「王様!黒さん!」

「アートは利発な子だ」

「それにこのままで誤魔化し切れるの?」


だが王様たちは間違っているのは私達だと言わんばかりの言い振りで反論してくる。

王様と黒さんの厳しい顔。

その通りだ。

誤魔化し切れる話ではない。

この場の皆が何も言えずに居る。


皆で困っているとジョマが前に出てアートの手を取るとしゃがんでアートと同じ目線になる。

「ママ…」

「アート、前に小鳥を助けたかったのを我慢したわよね?」

あの日の話をしてアートを説得しようとしている。


「ママ?ジェイドは小鳥じゃないよ?ジェイドだよ?」

「ジェイドも小鳥も命よ。ひとつの命として見なさい。あなたは神なの。神だからって好き勝手して許される訳はないのよ?」


そう。

これが東さんとジョマの教育。

神の子供としての教育。

生死に関わってはいけないと言う教育だ。


これでわかるだろう。

諦めてくれるだろう。

そうして神として慣れていくのだろう。


だがアートは違っていた。

「やだ…」

「アート…」

困惑するジョマの手を振り払ったアートが私の前に来る。


「千歳は?千歳はジェイドが死んじゃっても我慢出来るの?いつも見ていられないって言って命を助けちゃうってパパとママが困ってたよ?」

「…」


今回、アートが居てくれて良かった。

最年少が私なら我慢してない。

きっと皆の制止を振り切ってしまう。

もう既に行動をしていただろう。


「千歳!」

「アート?皆を困らせないで?」


「やだ!」

「アート…」


そう言って下を向いて泣き始めるアート。

皆どうするべきか悩んだ。

どう言ってアートを納得させるべきか悩んだ。


だがアートは止まっていなかった。

「イメージ…」


それは小さな声で聞き取れなかった。

だが確実にアートは動いていた。



**********



「イメージ…時の力。時間に介入して時が止められるなら戻せるはず。ジルツァークとリュウさんに見られないように止めつつカナリーの時間だけを戻す。

身体に力を注いで元気になってもらう。

命を呼び戻す」

「アート?ブツブツ言ってどうしたの?」

私はしゃがんでアートの顔を見ようとする。

アートは私の顔を見ずに「アートの0と1の間に居てもらう」と言って力を使っていた。


ここでジョマがハッとしてアートを見る。

「アート!?あなたまさか!京太郎!」


「アート!やめるんだ!!」

東さんが激昂した。

いや、激怒した。

アートはこの一瞬の間に長距離でエクサイトに介入して全体の時を止めてカナリーの時間だけを戻して死にかけた身体に力を補填していた。


慌ててアートの手を取ってやめさせた東さんの顔はとても怖かった。


「アート!なんて事をしてしまったんだ!」

「ひっ…」

アートは東さんの顔を見て恐怖で動けなかった。


東さんは慌てて今エクサイトを探っているジョマに声を書ける。

「手遅れよ京太郎。アートの中でカナリーがほぼ蘇生可能になってる。魂を呼び戻せば生き返ってしまう…。ああ…なんて事をしたのアート!?」

「ま…ママ」

アートは取り乱した感じのジョマの顔を見て自分がしてしまった事に気付いて困惑してしまっている。


「アート!命に…生き死にに関わるなと教えたはずだ!なんでこんな事をしてしまったんだ!!」

東さんの怒号。


東さんのここまでの怒号を初めて聞いた。

私で初めてなんだ、アートも初めてだろう。

アートは震えて泣いてしまう。


だが私とアートは違っていた。

私ならここで委縮してしまうがアートは「助けたいの!命を取りこぼしたくないよ!」と言ってまた力を使った。



東さんが慌てて「アート!」と言った時には既に手遅れだった。ジョマは「なんてこと!?完全に蘇生可能…と言うか魂がないだけで身体が生きてしまっている…」と状況を口にしていた。

カナリーは蘇生してしまっている。

魂がないだけで生きている。


「どうする…ジョマ」

「この時間自体を切り取って無かったことにしてしまうか…。でも命を…」

ジョマも生き返った命を再び殺す真似はしたくないはずだ。

困惑が混乱に近くなってきている。


「いや、今はとりあえずアートだ、力を封じてでもやめさせないと」

東さんが怖い顔で再びアートの手を取る。


「来るんだアート!」

ここでこの先を察したアートが「やだ」と言って拒む。


「来なさい!」

ジョマもムキになってアートを押さえつける。


「やだよ!やめてよパパ!ママ!」そう言っても東さんとジョマに引きずられるアート。

これは見ていて辛い。

でも親子の問題で神としての話なら私は我慢するしかない。

アートが皆に声をかける。

私の事も「千歳」と呼んでいる。

そんな時に声がした。


「チトセはアートの家族じゃないの?」

「チトセはアートを守るんだろう?」

「チトセはこの結果でいいの?」

「チトセはアートが間違っていると思う?」

「チトセは神なら我慢も仕方ないと思うの?」

「チトセは半神半人だろ?人間で神ではないだろ?」

「チトセはそもそもそんな事を気にするの?」

「チトセは悩んで身動が取れなくなる前に行動するだろう?」

「チトセは自由が持ち味だろう?」

「チトセはどうしたいんだい?もうわかっているだろう?」


王様と黒さんの声が交互に聞こえる。

私は…私は…。自分の中で大人としての自分、半神半人としての自分。様々な自分がせめぎ合っているのがわかる。


この時、アートの声がした。



「助けてよお姉ちゃん!!」



……アートが私をお姉ちゃんって呼んだ?


日本で外出をする時の取り決め、誤魔化すときの呼び方。

タカドラに説明する時には使ったけど…このお姉ちゃんは…お姉ちゃんと言って慕ってくれている上司の娘さんと言う意味のお姉ちゃんだと思っていた。


でも今アートの言ったお姉ちゃんは姉に対してだと聞こえた。

私がアートのお姉ちゃん?

驚く私はアートを見る。

泣きじゃくって必死に東さんとジョマから逃れようとしている。

目が合うともう一度「お姉ちゃん助けて!ジェイドが死んじゃうよ!」と言った。


正直答えは決まっている。

でも大人としての自分がブレーキになっている。

私は少し困って皆を見る。

王様

黒さん

りぃちゃん

テッド

戦神

ナースお姉さん

先輩お姉さん

時空お姉さん

複製神さん

隠匿神さん

お魚さん

皆私と目が合っても誰も首を横に振らない。

皆が優しい微笑みで頷いてくれた。

私にやれと言ってくれている。


「待ってよ東さん!ジョマ!」

「千歳…」

「千歳様…」


急に止められた2人が私を見る。

2対1でもやり切るしかない。



**********



「なんで助けたらダメなの?ここまでやったんだったら仕方ないよ。ジルツァークとタカドラに頭を下げて許してもらおうよ?」

「そう言う問題ではない。この子は許されない事をしたんだ!」

「生き死にに関わってはダメだとあんなに教えたのに!」

ダメだ。2人に冷静さがない。

生き返った命の話の前にアートが生き死にに関わった事がショックでならないんだ。

完全無欠に思える2人もアートのことになると冷静ではいられない。


「落ち着いてよ?分けて考えなよ」

「出来るか!」

「そう言う問題じゃありません。それにこれは家族の問題です」

…言うと思った。

今の東さんもジョマも話し合いが邪魔で2人でなんとか事態を収拾しようとしている。


「アートは私をお姉ちゃんって呼んだ。だから家族として口を出してるの」

「千歳…」

「千歳様、でもこれは神としての心構えの話で」


「それは後で教えなよ。生き返ったカナリーをもう一度殺すの?別の魂を入れてサードで引き取るの?それこそ私は神の立場、調停神チィトとして認められない」

この回答で2人は何も言えなくなる。

東さんに至っては悔しそうに「くっ…千歳!」と言って睨んでくる。



私は前に出て東さんの手からアートを離す。

東さんの手は強くアートを掴んではいなかった。

恐らく真名で支配していたんだ。

でも同じく真名を知る私には通用しない。

簡単に手が離れた事でアートが驚いて私を見る。


「行きなさいアート!助け方はわかるわね?まずはカナリーを迎えに行くの!そうしたら夢を使って!カナリーをアートの夢の中で身体に戻してあげなさい!」

「お姉ちゃん…千歳!」


アートの嬉しそうな笑顔、肯定された事による笑顔が私を見る。

ったく、お母さんの気持ちがよくわかるわよ。時折名前だけじゃなくてお母さんってツネノリに呼ばれると甘くなるって言ってたな。


「行きなさい!後で千歳も一緒に謝ってあげるわよ!」

「うん!ありがとう!!」

アートが瞬間移動で消える。

後を追うと無事にエクサイトに辿り着いていた。


すぐに行動に出たのはジョマだ。

「行かせないわアート!千歳様!邪魔しないで!神如き力キャンセラーで動きを封じる」


ジョマならそうすると思った。

ここでこそ隠し玉を出す。

「させないよジョマ!キャンセラーキャンセラー」

「え?」


ジョマの驚く声。

「悪いけど神如き力キャンセラーは私が考えたんだ。だから打ち破れるの」

「くっ!用意周到なんだから!京太郎!2人がかりで千歳様を止めてアートの元に行くわよ!」


ジョマは臨戦態勢で光の剣を出すと私を見る。

東さんも一歩前に出た。

「させないよ!ごめんねジョマ。神の力キャンセラー」

「え?」

私が力を使うとジョマの光の剣をはすぐに掻き消えた。

今ジョマの周りには淡い光が覆っている。

まだジョマを抑える程の出力で無色透明化は出来ていない。


「嘘…神の力が…」

「千歳、君はそこまでやっていたのかい?」

驚きの声を出すジョマと東さん。

流石に自分たちが丸裸にされる事は想定外だったのだろう。


「別に対神戦を意識していたわけじゃない。でももしもはいつだってあるから」

そう言って2人を見る。

この力は正直辛い。長時間は張れないしそもそもジョマ1人で手一杯だ。

東さんはそれを見抜いていた。


「だが長時間は張れないし流石の千歳でもジョマごと僕は止められないだろ?」

「そうだね。ジョマ1人で手一杯だよ」


「なら僕は行動をする。アートを追う事もできるし千歳からジョマを解放する事も可能だ」

東さんが普段見せない冷たい目で私を見る。


だがこの状況で頼れる存在が私には居る。

「私は1人じゃないもん。王様!黒さん!助けて!手が足りない!目の前の東さんは2人が本気を出しても勝てないかもしれないけどアートの為に…、私の為に助けて!」

「千歳!?」

そう、この状況で神様達に助けを求めるのは問題だが同じ半神半人で絶対私の味方になってくれる人が居る。

王様と黒さんだ。


「やっぱりチトセはサイコーだね」

「そうだね。僕はどこかでこの展開を待ち望んでいたのかも知れない」

嬉しそうに高揚した顔で一歩ずつ前に出てくる王様と黒さん。


「やれるよね僕?」

「僕こそやれるよね?」

2人してどちらが強いかを競うように威圧し合っている。


「ちっ、キヨロス!」

東さんが厄介そうに王様と黒さんを見る。


「お説教は後で聞くよ」

「僕はチトセとアートを守るよ」

そう言って腰にさした「革命の剣」を抜いた。



**********



「最初から本気だ」

「恐らく神様は最強だからね」

「それじゃあ僕が援軍ですよー」


そう言って降り立ったトキタマ君は東さんを見て「僕はバブちゃんを助けるように言われてるんでこっちですー」と笑う。

地球の神様のお願いか。

確かにありがたい。勝ち目がなくても時間稼ぎにはなる。


「トキタマが居れば百人力だ」

「そうだね。よろしく頼むよトキタマ」

「はいですー」

この状況でも東さんは黙っている。


「行くぞ!「革命の剣」【アーティファクト】!」

「トキタマ!僕たちの目になるんだ!僕も光の剣を出す【アーティファクト】!」


王様と黒さんの光の剣は私ですら目で追うのがギリギリの速度で東さんを襲うがどれも当たらない。紙一重で東さんが全てを回避してしまう。


「やめるんだキヨロス。君たちの実力では僕には敵わない」

東さんは余裕の表情で王様と黒さんを止める。


「それでやめるか!」

「今も僕は進化し続ける!当ててみせる!!」

王様と黒さんの光の剣は今も飛び交い続ける。

本気の速度なのに東さんには当たらない。


実力的にどうしても4年の差がある黒さんがしびれを切らした。

「フィルさん聞こえる!ムラサキさんを貸して!来るんだムラサキさん!」

そうして左腕に装着をした「紫水晶の盾」ムラサキさんは状況を見て驚く。


「ここは神の世界?神様?これはどういう状況ですかキヨロス?」

「チトセに頼まれた!アートの為に時間を稼ぐんだ!頼むよムラサキさん!力を貸して!」


ムラサキさんは承認の必要なアーティファクトで承認なくして絶対防御は得られない。

黒さんはムラサキさんに頼み込む。

本来なら創造主の東さんに歯向かうなんてことはあってはならない。

ムラサキさんが断らないように黒さんは必死だ。


「「紫水晶の盾」…君が居ても構わない。力を貸してやるといいよ」

「…わかりました」

東さんが余裕の表情のままムラサキさんに承認をするように伝える。


「お父さんも黒さんみたいにババアを呼んでください!」

「くっ、仕方ない!」

こうして王様もムラサキさんを呼ぶ。

その時に私の横で神の力キャンセラーで無力化されているジョマがこっちを見た。



「千歳様?」

「ジョマ…苦しい?少しだから我慢して」

もしかすると神から神の力を奪い取るのは魚から水を取り上げるようなものなのかも知れない。だから確認をする。


「ふふ、苦しいのは千歳様でしょう?今は敵同士みたいな感じだから手は抜かない。千歳様の力が衰えた瞬間に私はこの力を打ち破って外に出るわ」

「お見通しか…。ここまでの出力は初めてだから辛いんだよね」

私は八の字眉毛でジョマに言う。

昔からジョマと戦っても殺し合いにはならない。

競い合いの感じでこうして談笑も出来る仲だ。



「もう、仕方のない子。でもアートの為にありがとう」

ジョマの空気が変わった。少し冷静になれたのだろう。


「家族喧嘩みたいなものだよ。出来がいいのにワガママな妹の為に家族が巻き込まれて喧嘩したみたいな感じ」

私は笑い飛ばすように言う。

かつて私が神化して神になった時、ジョマと東さんは娘として迎え入れてくれようとした。あの日に人に戻る道を選ばなかったら本当に家族だったのかも知れない。


「千歳様、いつもありがとう。あなたはずっと私の太陽です」

「私こそありがとう。ジョマは心から尊敬する大好きな人だよ」

お互いに10年の付き合いだがこれは変わらない。

ジョマは私を太陽と呼んでくれるし。私はジョマを尊敬しているし大好きだ。


「ふふふ。ところでもう終わるわよ。京太郎が勝つわ」

「だとしてもアートはやり切る。そうしたら私の勝ち」


「千歳様はなんでそんなに頑張れるのですか?」

「なんでだろう?とにかくジルツァークの事もアートの事もジェイドの事も取りこぼしたくないんだよ」


取りこぼしたくない。

そう、それがすべてだと思う。

手が出せるのに出さないで事態を見守るなんて幼い私には無理だ。


「本当博愛の女神なんですから」

「ワガママの女神なら納得だけどね」


皆博愛の女神と私を呼ぶがそんなもんじゃない。

百歩譲って東さんとジョマの仲を取り持つ調停神がいい所だ。

理想はワガママの神とかあればそれがいい。


「ふふ、さあ京太郎が動くわよ」

それに合わせて前を向く。

王様もムラサキさんを装備している。

確かに東さんの攻撃力は未知数だ。

完全武装したくなる気持ちもわかる。


「お父さん!黒さん!僕の指示に合わせてください!」

トキタマ君が上空を飛びながら指示を出す。


「確かにこれしかないか…」

「殺傷力は落ちるがやるしかない」


「やるがいい。僕には時間がないからね。君達を退けてアートを止める」

東さんが怖い顔をしている。

余裕ではあるが並の神なら秒殺できる王様と黒さんを前に遊んではいられない感じだ。


「行くぞ!頼むぞ12匹の鬼達よ!」

「「革命の剣」よ僕の全てを使え!」


「「【アーティファクト】!!」」

王様と黒さんは仕切り直して革命の剣から再度光の剣を出して向かわせる。

東さんは直線的に向かってくる剣を紙一重で全て回避する。

数回のやり取りの後トキタマ君が「今です!」と声をかける。


そしてトキタマ君の声に合わせて剣が不規則な動きをする。

これなら直撃コースだ。



**********



「神様は紙一重でかわすから直前で剣をブレさせました!」

トキタマ君が得意げに言うが剣は当たらない。


東さんが出した24本の光の剣が王様の剣を砕いていた。

直撃の瞬間に剣を出してしかも砕くの?

恐らく時空の力を併用して千分の一秒に介入しないとあんな芸当出来ない。

神の基本スペックなら脳がその瞬間でも剣の軌道を読み取って対応できるんだと思う。

一度神化した時に思ったが神の身体は凄かった。


「くそっ!舐めんな!遅れるな俺!」

「当たり前だ!俺こそ追いつけ!」

剣を砕かれた事でトキタマモードになった王様達がもう一度剣を出す。


「トキタマ!もう一度だ!」

「合わせろ!」

「はいです!」


「何度やっても同じだ」

さっきと同じタイミングで剣がブレたが動きはまた違う。

東さんには対応可能だ。

だが王様たちもただやり直した訳ではない。


「「万能の鎧」の付与機能を全て自動防御から身体強化に変更」

「俺も同じだ。この強化された状態の今…全力で撃ち込んでやる」


「「【アーティファクト】!!」


東さんの光の剣が王様たちの光の剣を折った瞬間に王様と黒さんは「兵士の剣」で覚えた振り下ろしの技で東さんに斬り込む。


本気の一撃。

下手をすれば城一つ破壊出来てしまう威力の剣。

それが左右から繰り広げられる。

確かに剣を出している東さんに隠し球が無ければ有効打になる。


轟音が響き土埃が舞う。

その中から東さんの声がした。


「くっ…よくもここまでやる」

東さんはそれにすら対応していた。

ジルツァークのように掌を光らせて片手ずつで王様と黒さんの剣を受け止めていた。


多少痛みはあったのだろうがダメージなんてほぼゼロだろう。

東さんは「もう寝ろ!」と言って王様と黒さんを睨み付けただけで超重力を生み出した。

王様と黒さんをその場に押し潰してしまう。


「ざけんな…」

「まだ…だ…」

何とか立ち上がろうとする王様と黒さん。


「これでも沈まないのか。キヨロス、黒いキヨロス。君たちは神化のギリギリ手前まで来ている。リーンが不安がっていたのがその証拠だ。君たちは人間性を犠牲に神化の際にいる。休息をして人に戻れ!神如き力キャンセラー!アーティファクト・キャンセラー!」


…そうか。無茶な同時進行も圧倒的な攻撃力も全部人間性を犠牲にして成長し続けていた弊害たったのか…。危ない真似をする。神化のギリギリ手前まで試すように力を使っていて万一があったら神になってしまうのに…。


神如き力とアーティファクトを封じられた王様と黒さんはあっという間に気絶をした。

東さんは困った顔で私の前まで歩いてくる。


「詰んだね千歳」

「そうだね東さん」

まるでお互いに何事も無い日常会話のように話す。


「ジョマを解放してくれ」

「やだよ。東さんが外から破壊すればいいよ」


「千歳、君にならわかるだろう?そのジョマを覆った力は「光の腕輪」やアーティファクトをベースに構築したね?だから破壊の際に激痛が走るよ?」

「そうだね」

それは理解している。

アーティファクトの剣や「光の腕輪」で出した剣は破壊されると自身が傷ついたと脳が誤認してダメージを与えてくる。


「知っていてもやめないのかい?」

「うん。私はアートのお姉ちゃんだからね。今もアートが頑張っているのにお姉ちゃんが先に諦めるなんてダメだよ」

私は東さんから目を逸らさずに言う。

家族としての言葉。

東さんに届いたと思う。


「まったく…。それに半神半人の限界が近いよね?千歳は人で居たいんだろう?」

呆れながら私を見て人で居たいのだろうと聞いてくる。


「うん。私は人間・伊加利千歳としてビリンさんのお嫁さんになって2人でお爺ちゃんとお婆ちゃんになって死ぬの」

躊躇なく言う。

神が嫌なんじゃない。人で居たい。


「わかった。痛いよ?」

「優しいなぁ東さんは…やって」

その瞬間、東さんが右手を振った。

ブォンと言う風切音の後でパリンと言う音と共に激しい痛みが私を襲う。

痛みで意識を失う中、東さんとジョマの声が聞こえていた。


「僕はアートを追ってエクサイトの死者の間に行く。ジョマは3人を処置したらアートの夢に行ってくれ」

「わかった。3人の処遇は囚われながら決めていたから任せて」


ジョマに任せるの?

怖いなぁ…何をされるんだろう?

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