千歳とジルツァーク。
んー。私は甘いのかも知れない。だから皆から博愛の女神と呼ばれるのだろう。
宴もたけなわはとっくの昔に通り過ぎてアートと東さんとジョマは帰って行ったし王様と黒さんも「同時進行しすぎたからこの魚をお土産に帰るよ」「なんでか同時進行してるとリーンが見破ってきて無理しすぎって怒るんだよね。だから今日は同時進行をやめてこの魚で家族サービスをするよ」と言って帰って行った。
タカドラはエクサイトの時間制御が初めてなので力の維持が大変で早々にダウンしていた。
時空お姉さんが「気張りすぎだって。一時停止にしたら後は時の歯車につっかえ棒をする感覚で後は放置でいいんだよ」と笑っていたがまだタカドラには難しいだろう。
「隠匿神さん。お願い聞いてくれないかな?」
「千歳?どうしたの?」
お酒を飲んだ皆は酔い潰れていてチビチビと私の作った酒蒸しをつまみにお茶を飲んでいた隠匿神さんに声をかける。
私のお願いを聞いた隠匿神さんは少し嬉しそうな顔をして「いいよ」と言ってくれた。
2人で広場に向かう。中央に設置されたガラス小屋、私の命名では地獄の三畳間は夜も遅いわけで見物の神々は居なかった。
記録神さんも居なかったので隠匿神さんに聞いたら記録神さんならあの程度の出来事は寝ていても記録できるから早々に帰宅をしたそうだ。
「私、甘いかな?」
私の考えを聞いてくれた隠匿神さんに最後にもう一度確認をする。
「いいと思う。私に千歳と同じ力があれば同じ事を考えたよ」
隠匿神さんは微笑んでくれた。
私は隠匿神さんに頼んで地獄の三畳間は認識不能にして貰った。
ただそこにあるのはわかるからぶつかったりと言うのはない。
中に入るジルツァークに興味を持たないようにして貰った。
「千歳なら出来るよ?」
「ううん。私なんてまだまだだよ。隠匿神さんにお願いした方が安心だもん。昼間の時間介入だって時空お姉さんと東さんが居てくれたから安心してやれたんだよ」
そう言うと隠匿神さんが笑いながら「優しいね」と言ってくれた。
んー、本心なんだけどね。
私はガラス小屋を見ると覗きの神は目をギラつかせてジルツァークを見ているし。
ジルツァークは身体を縮こませて何とか覗きの神に見える面積を減らしていた。
目は泣きはらしていて痛々しい。
「うひゃ!もう眠いよね?寝ていいんだよ?寝顔見せてよ?ウヒャヒャヒャ!ウヒャヒャヒャ!ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
「見ないで!気持ち悪い!やだ!」
ジルツァークは昼間の刺々しい感じではなくか弱い女の子にしか見えない。
そうなるとやはり見ていられない。
「隠匿神さん、皆は怒るかな?」
「いいよ。やりなよ。皆千歳の好きにって言ってくれるよ」
「ありがとう。神如き力!」
私は髪を赤く染め上げて力を使うとパタリと覗きの神が倒れる。
「え?」
突然の事にジルツァークが驚く。
「奴の周りの酸素濃度を滅茶苦茶薄めたの。酸欠で気絶したんだよ」
「アンタ!」
私を見たジルツァークが怖い顔をする。
「シーっ、静かにして。流石に起きちゃうよ」
「…何よ。笑いに来たの?」
「違うよ。ご飯、持ってきたから食べて」
私は好評だったサンマの蒲焼丼を出す。
「こんな事したって私は懐柔されないわよ」
「ほら、良いから食べてよ。後さ隠匿神さんに頼んでこの小屋を認識不能にしたから周りの目は気にしないでいいよ。そりゃあ地球の神様や隠匿神さんの力を知る神には見破られるから完全じゃないけど大分気持ち違うよね?」
「…」
ジルツァークは顔を背けると蒲焼丼を食べてくれる。
隠匿神さんは「ちょっと離れているね。私が居るとジルツァークが素直になれないかも」と言って少し離れてくれる。
あっという間に食べ終わると「ご馳走様」とだけ言いにくそうに言う。
「お粗末様。後さ、夜の間だけ、アンタの設定を真似した毛布を作ったから使ってよ。日の光を浴びたら溶けるから皆にはバレないしさ。大きくしてあるから中に包まれば夜中に覗きの神が目を覚ましても身体見られないからさ」
そう言って毛布を中に入れる。
「瞬間移動?」
「へ?うん」
「何で出来るの?私は逃げたくて瞬間移動を試みたけどダメだったのに」
「そうなの?何でだろ?その手枷とかかな?」
それとも私もその中に入ると力が使えなくなるのかな?
「毛布ありがとう」
「いいよ。同じ女の子だもん。変態に見られて眠るのは嫌だよね?それに女の子がそんな薄着はダメだよ。長居すると良くないから帰るね」
「…うん」
「お説教とかお節介とかじゃないけど、出来たらジェイド達と話し合いをして欲しいかな。
せめて神の世界からエクサイトを壊すのはやめて欲しいの」
つい言ってしまったが良くなかったのだろう。冷たい声のジルツァークに「なんだ、結局それか…。消えて」と言われてしまった。
「…ごめんね。おやすみ」
そう言ってその場を離れた私の顔を見た隠匿神さんが近寄ってきてくれる。
「千歳」
「ありがとう隠匿神さん。帰ったら戦神の家片して解散しよ」
「片さなくても隠匿の力で認識できなくする?」
「あはは、ダメだって」
**********
翌朝、私は夜だけ神の世界にジルツァークを見に行きがてらお弁当を差し入れた。
アートは力を使いすぎた反動でジルツァークが罪を認めるまでジョマが家で面倒を見る事になった。
流石にやりすぎでこれ以上無理をすると熱が出るかもしれないんだと東さんが教えてくれた。
日中、追体験をすると朝一番に現れた王様がガラス小屋を見て「チトセ…」とため息をついた後で「どう?反省した?」とジルツァークに聞く。
ジルツァークは懲りずに「嫌よ!出しなさいよ!」と言うと「じゃあ次に聞くのは明日だ。覗き変態趣味の神!お前の頑張りが足りないからジルツァークが素直にならないだろ!痛めつけられないと本気になれないのか?全身桂剥きにするぞ!」と怒鳴りつけると覗き変態趣味の神が目の色を変えてジルツァークを言葉でアレコレ言っていた。
見ていて1番キツかったのは「はぁっはぁっ、この部屋もジルたんのいい匂いで満たされたね!」と覗きの神が言い出して。ジルツァークが「何処がよ!アンタの臭い臭いで吐きそうよ!」と怒鳴ると「ウヒャ!吐くの!吐いて吐いて!うっひゃー!」と覗きの神が喜んで小躍りした事だ。
王様と黒さんの責めは本当にエゲツなくてジルツァーク達の食事にしてもわざと焼いた塊肉を1つ投げ込んだりする。
手で毟る訳だがジルツァークは覗きの神がベタベタと触った肉はアウトだし逆にジルツァークが触った肉は「ウヒャ!ジルたんの味がするよ!」と喜ぶので辛い。
「食べないの?まあ神は食べなくても死なないから良いけどね」
そう言って王様と黒さんは見捨てるのだがあの肉はジチさんが焼いたお肉なので美味しくない訳がない。
正直そこまでやるか?と思ってしまった。
夜、ジルツァークは精神的にも限界なんだろう。
認識不能にしていても広場には神々が来る。
そうすれば見られている気にもなる。
そして食事も満足に食べられない。
飲み水も水筒一本を覗きの神とシェアさせられている。
目は血走っていて恐怖からか辺りをキョロキョロしながら震えている。
私はまた覗きの神を気絶させるとジルツァークに近づく。
気絶した覗きの神にすらビクつくジルツァークは私を見ると涙ぐんでしまったがすぐに慌てて生意気な表情に戻る。
「ジルツァーク」
「…」
「お弁当、持ってきたから食べて?」
私はコロッケサンドをジルツァークの為に一から作った。
それを差し入れる。
「足りる?」
「甘いものとか食べたい?」
「お茶にする?スープも用意できるよ?」
色々聞きながら次々に渡していく。
ひと口食べてくれたジルツァークがちょっと困ったような困惑の表情で私を見る。
「…何できてくれたの?来ないと思った」
「へ?なんで?」
「昨日最後に消えてって言ったから」
「あはは、仕方ないよ。でもご飯食べてないでしょ?食べなよ。残り物とかじゃなくてわざわざ作ったんだよ」
「え?」
「だからジルツァークの為に作ったんだから食べなさいよ」
「…なんで?そうやってご飯でジェイド達と話し合わせようとしてるの?」
「違うって…違くないけど違うよ。私の願いはエクサイトを壊さずにジェイド達と共存の話し合いをして欲しい。でもそのご飯は別。食べて欲しくて持ってきたんだよ」
「わかんない」
「え?」
「アンタの言ってる事がよくわかんないの」
「そっか。じゃあ今は時間があるから何がわからないかとか私が何を伝えたいのかを考えてみてよ。後さ、昨日の魚美味しかった?美味しかったらあの自称友情神に美味しかったって言ってあげてよ。アイツ皆に食べて貰うのが本当に好きで毎日漁に出てるんだよ」
「うん…わかった。でも神界の神々と殆ど交流が無いの」
「え?そうなの?」
「うん。私は偽りの女神だから付き合いとか苦手だから」
…正直偽りの女神なんかではない事を教えてあげたい。
共感神なんだと言ってあげたいがきっと今ではないしそれを言うのは私ではない。
「そっか。じゃあ今度お魚さんの所に連れて行くから美味しかったからまた食べたいって言いなよ」
「え?」
ジルツァークが凄く驚いた顔をする。
「ね。後さコレ」
そう言って私はジルツァークの所に花を入れる。
「セカンドガーデンから持ってきた花だよ。その部屋臭いんでしょ?朝には消えちゃうようにしたから今のうちに匂い嗅いでよ」
「うん…いい匂い」
ジルツァークが白いユリみたいな花の匂いを嗅いで嬉しそうにする。
「良かったよぉ」
「え?」
「花の匂い嫌いかと思ったからさ」
「そんな事ないよ」
驚いた顔で私を見るジルツァーク。
「そっか。あのさ、嫌じゃなかったら今度ジョマの装飾を受けてみない?」
「え?でもやっても私のエクサイトは良くならないよ…」
「なるよ!信じられないなら今度戦神のフナルナに行こうよ!」
「え?なんで?」
私はフナルナがそこの覗きの神に複製されてしまった事から複製されたフナルナの精度が甘くて直さなきゃいけなかった事。
その時にジョマに装飾をして貰って複製されたフナルナは食文化に目覚めた世界になった事を教える。
「嘘…戦神の世界なのに?」
「ご飯が美味しいんだよ。行ってみてご飯を食べて興味を持ったらジョマに相談してみようよ!」
「…」
「あ、ごめん。フナルナは考える事が終わってからでいいからね。私帰るね」
また踏み込みすぎたかもしれないと思って私は慌てて身を引く。
「…ご馳走様」
「いいえ。お粗末様でした」
昨日と違ってジルツァークが私の目を見て「ご馳走様」と言ってくれた。
「…明日も来てくれる?」
「え?いいけど明日も反省しないつもり?」
嘘でも「もうしません」と言うかと思ったのだがそのつもりはないらしい。
やはり人間に近い共感神ならではだと思った。
「だってまだ言いたい事とかわかんないんだもの」
「そっか。明日はお肉にするよ」
まだ食べて貰える機会があるならやりたい事がある。
「あなたのご飯美味しいから楽しみにする」
「うん。いいよ」
「おやすみ……ごめん。名前もう一度聞いていい?」
「うん。千歳って呼んで」
「おやすみ千歳。ありがとう」
「いいよ。またね」
何となくだけどジルツァークの声が初めてきちんと私に届いた気がした。
**********
ジルツァークの3日目はひたすら泣きながら出来る限り黙って考えていた。
塩対応をされてつまらなそうな覗きの神はネチネチとコレでもかと言葉責めをしている。
卑猥な言葉を投げかけ続けられて悔しいジルツァークは大粒の涙を流し続ける。
なんかこうやってみると巨乳でグラマラスも大変なんだなって思う。
でもジルツァークは心折れずに必死に昨日私と話した内容について考えてくれている。
私はその事が嬉しくなって午後はビッグベアと高速イノシシを狩って王様の所に持っていく。
「はぁ…甘いんだよチトセは」
中庭に置かれた肉と神如き力で出した調理器具、そして私の顔を見て呆れる王様だが関係ない。
「何のこと?知らないもーん。ジチさん!一緒にハンバーグ作ろうよ!」
「はいはい。お姉さんとで良いのかい?」
王様は何だかんだ言ってわかっているのでジチさんと来てくれる。
「うん!ジチさんとがいいの。昨日から王様に言われて塊肉を焼いたのジチさんだよね?」
「そうだよ」
「王様が意地悪して美味しいジチさんのお肉を食べられない子が居るから食べさせてあげたいんだよぉ」
「嬉しい事ばっかり言うんだから。じゃあやるかね」
ジチさんが腕まくりして楽しそうに言う。
「うん。ほら王様、さっさと解体してよねハンバーグだからね作りやすく切ってよ」
「まったく…甘いんだよなぁ。それでこんなに山のように狩ってきて全部ハンバーグにするのかい?」
まあ、狩りすぎたとは思うがそれはそれだ。
「そうだよ。だってジチさんのハンバーグだから皆も食べたがるしね。数作らなきゃ。アートも喜ぶもん。あ、常泰にもあげようかな」
「じゃあお姉さんも気合い入れなきゃね。リーンちゃんとフィルも呼ぼうか?」
確かに肉の量と人数が見合っていない。だがそれではダメなのだ。
「ごめんね。2人でやりたいんだよ。ダメかな?」
「おやおや?何か訳あり?」
きっとジチさんは理由を知っているけど追求しないでくれている。
「うん。私とジチさんの料理って事に意味があるの」
「よし!じゃあやるよチトセ!」
「ありがとう!ほら王様、私たちを待たせないでよね」
私はわざと狩りすぎたお肉たちを指差して王様に言う。
「へぇ、本気の解体速度にチトセがついてこれるのかな?僕は解体する先からそこの台に肉を乗せるよ。乗せられなくなったらチトセの負けだよ」
「ふん、ジチさんと私のドリームチームなら負けないもん。2人で「まだー?」って言ってやるんだから」
そう言って作ったハンバーグは恐ろしい数になった。
お店で売る量ですか?何をするんですか?と言った感じで腱鞘炎になるかと思った。
まああり得ないとは思うがズルだけどバカ売れして足りない分が出たら複製をしよう。
王様と私のハンバーグ勝負は見事に泥仕合いになってしまって最後はジチさんがバカ笑いをして終わらせてくれた。
「あはは。どっちも大人気なさすぎだよ」
「そうかな?」
「チトセは手が足りないからって「光の腕輪」で光の包丁を作って空を飛ばすし、キヨロスくんも光の剣を飛ばして解体するしさ」
「アレはチトセが」
「はぁ?最初に光の剣を出したのは王様でしょ?」
負けず嫌いの王様は一歩も引かない。
私も引く気はない。
「ほらほら、キヨロスくんはお姉さんのハンバーグを食べて」
口にハンバーグを放り込まれた王様は美味しそうに食べながら「美味しいけど…ジチさん今日調子悪いの?何か味付けと火加減がいつもと違くない?」と言う。
ジチさんがそれを聞いた瞬間に顔を嬉しそうに紅潮させると王様に抱きつく。
私は思わず「え?」と言ってしまう。
「凄いねぇキヨロスくん!ありがとう!」
「あ、もしかして」
「そうだよチトセのハンバーグを食べさせてみたんだよ」
「じゃあコレがビリンの好みの味か」
「王様、私のハンバーグとジチさんのハンバーグはそんなに違うのがわかるの?」
「うん。チトセとの違いじゃなくて普段のジチさんとの違いかな?ジチさんのハンバーグも頂戴」
「はい!アーンしてよ」
こらこら。
王様もニコニコと食べるし。
見ていて照れる。
あ…なんか背中がヒヤッとした。これはフィルさんの殺気だ。
私は視線の先に居る超絶美魔女に向かってゴメンねとやるとフィルさんは前に教えた神如き力がなくても話しかけてくる方法を使う。
「もう。今度は私とキョロくんとチトセさんが仲良く出来る日を作ってよね」
「うん。今回はゴメンね」
「チトセさんには義理母が6人いるんだから平等に仲良くしてよね」
「うん。今度旅行行こうよ」
「楽しみにしてるわ」
「約束」
こんなやりとりをしている間、ハンバーグをニコニコ顔で食べた王様。
「うん。いつものジチさんの味だね。チトセのハンバーグよりスパイスが効いていて塩気が強くて、それに僕の好みにあわせて硬めに焼き上げてくれるんだよ。
いつも美味しいご飯をありがとうジチさん」
「もう!そんなこと言われたら抱きつきたくなっちゃうってば」
ジチさんが嬉しそうに王様に抱きつく。
「さあ、チトセはコレでやる事があるんだよね?いくつ持って行くんだい?」
「んー、とりあえず0と1の間に格納した分は足りなければ複製の力で増やすけど神の世界はまあ1人4個ずつでいいでしょう?
コピーガーデンのウチと日本のウチとゼロガーデンのウチと後はアートの所だから…足りるかな?」
「ビリンの分は?」
「ジチさん達の方から渡してあげてよ。今回ビリンさんの好みで作ってないから手渡してもヤキモチ妬きそうだしさ」
そう言って帰ったら夕方「疲れているのか?なんか味が違う」と言ってビリンさんから連絡が来た。
凄いな。
そしてジチさんの気持ちがよくわかった。
これはかなり嬉しい。
目の前にいたら抱きつくかも知れない。
「一般向けに作ったからだよぉ。ビリンさん用はいつもお肉の味付けから焼き方まで変えてるから違うんだよ」
「そうなのか?へへ、嬉しいな。今度俺用の奴を山盛り作ってくれないか?」
「うん。食べてね」
「おう。今は忙しいと思うけど無理はするなよな?」
「ありがとう」
**********
その後もジルツァークを見ると必死に耐えていた。罪の度合いからすれば致し方ない事だがやはり見ていられない。
覗きの神は嬉しそうに「ジルたん、ジルたん」と名前を呼ぶ。
ジルツァークの胸の大きさに言及しながら左右の細かな違いを指摘してウヒャウヒャ喜ぶ。
「触れたらもっと詳しく見られるのになぁ」
「うるさい!考えが乱れる!」
「ウヒャ!怒ったジルたん可愛い〜!ウヒャヒャヒャヒャ!」
その声で泣きそうになるジルツァーク。
「泣く?やった!ウヒャヒャヒャヒャ!泣く!泣いて!ウッヒャーーヒャヒャヒャ!!」
泣くな!堪えろジルツァーク!
見ていられない頭きた。
予定ではもう少し後で行くつもりだったが今すぐ行く。
私は怒った事で髪の毛は真っ赤に染め上がるし放電もする。
夜なのでさぞや目立つ事だろう。
一気に酸素を奪って覗きの神を気絶させると光のメスで目潰しをする。
仮に目が覚めても目が再生するまではこのままだ。
お前はもうジルツァークを見るな!
「ジルツァーク!」
「千歳…?千歳ええぇぇぇ」
ジルツァークはもう我慢せずに私を見て泣く。
「泣かないで!頑張ったね!偉いよ!凄いよ!」
「凄い?そうかな?そうかな?」
少し待って落ち着いたジルツァークにハンバーグを1つずつ差し入れる。
「ハンバーグ」
「うん。
作ったのは私ともう1人はジチさんって人なんだよ」
「食べてみて」
「2つとも一緒?」
「ううん。2人で作ったけど別々に作ったから片方が私のハンバーグでもう片方がジチさんのハンバーグ」
それを聞いたジルツァークが両方食べてから「美味しい」と言った。
「沢山あるからいっぱい食べて!」
「いいの?」
「いいんだよ!ジルツァークの為に沢山使ったんだよ」
「…そうなの?ありがとう…」
そう言ってからジルツァークは沢山食べてくれる。
お行儀悪いが食べながら話もしてしまう。
「ジルツァークはどっちが好き?」
「どっちも好き。でも両方混ぜたらもっと好きかも」
「そっか、それがジルツァークの好みなんだね」
「混ぜる…もっと良くなる…」
ぶつぶつと考えている。
常に時間があれば昨日のわからないをわかろうとしてくれている。
「ジルツァーク?」
「ううん。なんでもない。ジチさんって人にお礼頼んでいい?」
「うん。ジルツァークは嫌かも知れないけどジチさんはこの部屋を作った王様の奥さんの1人なんだよ」
王様の名前を聞いて嫌そうな顔で「え?」と言うジルツァーク。
「王様が意地悪して塊肉を入れたでしょ?」
「千歳、見えたの?」
「うん。ジチさんのお肉は美味しいからジルツァークにもちゃんと食べてほしくてさ。
頼みに行ったんだよ」
そう言われると嫌そうな顔から一転嬉しそうな顔をするジルツァーク。
「そっか…ありがとう千歳」
「どういたしまして」
「さっき…」
「え?」
「千歳、さっき髪の毛真っ赤だったね」
「うん。覗きの神ってムカつくし気持ち悪いから見てられなかったんだよね」
「でもこれは私の罰だって…」
「んー…それはそれだよ。やっぱりワイトやグリア、亜人なんかにしてきた事は許せないけど目の前で泣いているジルツァークを見るのは嫌だったんだもん。割り切れないよ」
「だから止めるの?」
「うん。ジルツァークはエクサイトの神様だから仕方ない部分もあるけど、エクサイトの中で命に向き合って欲しいの」
怒らないギリギリまで話をして行きたい。
何とか心を柔らかくして共存の道を模索して欲しい。
そう思っていた。
「千歳、忙しい?」
「何で?」
「少し聞いてくれる?」
「いいよ。あ、ちょっと待ってね。覗きの神が起きないようにもう一度酸欠にしちゃうから」
そう言って覗きの神の周りの空気をもう一度奪って酸欠にする。
「昔ねエクサイトの前に世界を作ったの。でもすぐに失敗した。千歳はエクサイトの全てを見てきたの?」
「うん」
「凄いね。私はそう言うやり方も知らないんだ。でもそうしたら私が最初に生み出した命が死んだのも見た?」
「うん」
その声で暗い顔になって泣きそうになるジルツァーク。
「悲しかった。私は皆と生きたいの。導きたいし助けたいの。でも皆死んでしまった」
「うん」
「だからね。この前、創造神と装飾神が申し出てくれた時嬉しかったけど怖かったの。自分の世界で人間も生かせない…そんな私に手を差し伸べて嫌にならないかな?」
「ならないよ。
ジルツァーク、私だって昔はよく料理なんて出来なかったんだよ。
最初はコロッケだって後は揚げるだけのを買って揚げる練習からしたし、ハンバーグだって最初はタネだけ作って焼くのはお母さんやジチさんにお願いした日もあったし、逆にお店で出来たのを買ってきて焼く練習をしたんだよ」
揚げ油の恐ろしいこと、襲い掛かってくるんじゃないかと思って怯えたあの日、光の盾を用意して挑んだ事を思い出しながら話す。
「そうなの?最初からできないの?話聞いて出来るようにならないの?」
「ならないよぉ。出来る人に色々教わって試行錯誤したんだもん。だからジルツァークの生み出した人間達だって出来る人に聞けば強くなるって。それにジェイド達は強いよね?どうやったの?」
知っていても知らない風に聞く。
「地球の神様に聞きに行ったの」
「そうなんだ。それで?」
「初めからうまく出来る神はいない。皆セッティングを使って用意するし最適解が見つかれば販売する神もいるって教えてくれたの」
「そっか、じゃあジェイドはそのセッティングなんだね」
ここでジルツァークの表情が一気に暗くなる。
何があったかはすぐにわかった。
**********
神として人をどう創りだしたかと話しているとここでジルツァークの表情が一気に暗くなった。
「軽蔑した?」
「なんで?」
「全部1人でやれないから…」
「ならないよぉ。今日食べたハンバーグだって中に入ってる玉ねぎや調味料は買ったし、お肉だって王様に捌いて貰ったもん。
逆に王様はお肉の用意が出来たってハンバーグ作ってもきっと美味しくないよ」
「え?」
「え?」
ジルツァークが物凄く驚いた表情で私の顔を見る。
「それは千歳やあの男が半神半人…」
「違うよぉ〜。あのお魚の友情神だって魚は獲ってこれても料理は出来ないよ?やってもお刺身と焼くとかだけじゃないかな?料理なら私のほうが上手だよぉ」
「…………嘘…」
「本当だよ?」
「神なのに?」
「ジルツァークは意識が高いんだよ」
そう、だから理想と現実の乖離に悩まされるんだ。
「神だからちゃんとやれなきゃって…」
「誰かに言われたの?」
「うん。昔、初めて世界を創るときに側にいた男神に言われたの。
そもそもその男神に「世界を創ってみろ」って言われて…それで私は世界を創ってみたの。
人間も作った。
地表も海も全部言われたから創ったの」
「何それ?作り方は?セッティングは教えてもらったの?」
「ううん、普通ならやれば出来るもんだって言われて…、わからないのは普通じゃないって…だから見よう見まねで創ったの」
「そんなの出来るわけないじゃん!」
ジルツァークの声は震えている。
辛い過去を思い出しているからなのか、真実に行き着いた衝撃なのかはわからない。
でも無茶苦茶な話だ。
「それで失敗した私にソイツが「あーあ、出来ないなんてやはりお前が本物じゃない偽物だからだな」って言ったの。だから自分が何者か知らなかった私は偽りの神なんだって気付いたの」
「はぁぁぁっ!?何それ!違うってジルツァーク!皆セッティングを教えて貰ったり買ったりするんだよ!エクサイトだってメガネが様々な神様から世界の部品やセッティングを買ったでしょ?
アイツの手作りなんてエクサイトにはないよ!」
「え?あ…あれ?」
「ガーデンを作った東さんは凄いから全部自作だけど創造神崩れだって一から作らないのを創造神でもないジルツァークに初めてで全部誰にも頼らずにやれっておかしな話だよ!」
「うそ…」
「本当だよ!騙されたんじゃないの?」
「そんな…、じゃあ私の時間や悩みはなんだったの?」
「ジルツァーク…」
ジルツァークがボロボロと涙をこぼしながら首を振る。
「それにどうしよう千歳?」
「どうしたの?」
「昼間、タカドラと時空神達が来てくれて説得をしてくれたのに、私はバカにしてるって思って酷い事を言っちゃったの。
私、そうだって知っていたらあんな事言わなかったよ」
真っ青な顔でオロオロとするジルツァーク。
「時空お姉さん?後誰が来たの?」
「複製神とか魚の神とか戦神とか、他にも治癒神とか居たの」
…皆だな、それなら問題ない。
「なんだ、大丈夫だよ。皆優しいもん。ジルツァークが騙されていたって話しておくし、多分この話も見てるのが居るからその人が取り持ってくれるよ」
どうせ地球の神様か王様達が見て居るだろうし、私もその前提で動いている。
「え?」
「その為に山盛りハンバーグ作ってきたから大丈夫だって」
だから安心しなさいとばかりにハンバーグを出し入れしてみせる。
「神々ってそんな協力とかしないのに?」
「え?そうなの?皆色々助けてくれるよ?ジルツァークは困った時に困ったって言った方がいいよ。そうしたら皆助けてくれるよ」
「私なんかの為に?」
「なんかって禁止。なんかって嫌いなの」
顔が怖かったかな?
ジルツァークが「…ごめん」って謝ってきた。
「ジルツァークは困った時は困ったって言うんだよ?」と言うと嬉しそうな顔になった直後に申し訳無さそうな顔をする。
「何も返せないけど言ってもいいのかな?」
「いいんだよ。ジルツァークが得意な事とか自分で自分が分からなくても仮に「これしてくれない?」って言われたら助けてあげればいいの。それならお返しできるでしょ?」
「私に何か出来るかな?」
「出来るよ!ジェイド達の心がキチンと育ったのはジルツァークが神としてキチンとしてるからだよ?うちのテッド…創出神は東さんとゼロガーデンの人間が用意した素体に覗きの神が作った心なんだけどバグだからしっかり心があったんだよ。普通だったら心も何もないんだよ」
「え…?」
「だから自信持ちなよ!」
「…うん。千歳…お願いしてもいいかな?」
「皆の所に行く時1人が嫌なのかな?いいよ。私やアートが一緒に行くよ」
「アート?」
「うん。その代わりジルツァークもアートが安心して神の世界に居られるように見守ってよ」
よし、これでWIN-WINだ。
ジルツァークが条件を飲んでくれればまた一歩、アートが安心して神の世界に来れるようになる。
「…いいけど、あの子どうかしたの?」
「うん。そもそもエクサイトを知った原因なんだけどね、アートが散歩してたらメガネに絡まれたの、メガネは粗暴の神2人と居て、でもメガネは粗暴の神が苦手だからアートを生贄みたいにする事で誤魔化したの」
「なにそれ!それで?」
「アートはお魚さんや戦神と時空お姉さんに助けて貰ったけど、まだ6歳だから怖くて嫌な思いをしたせいで塞ぎ込んでしまったの。私はその事を知って許せなかったからメガネに思い知らせたんだよ」
「…それで?」
「それでメガネの謝罪の中にエクサイトの事があったからアートがどうしても見たくなって我慢できなくなったの」
「なんで?」
「え?」
「なんで人の創った世界を見たかったの?あの子の親は凄い創造神と装飾神じゃない」
…想定外の質問が出てきた。
**********
「…ジルツァーク、もしかしてだけど東さんとジョマの話ってあまり知らない人?」
「…知らない。なんか地球の神様が身元を預かっていて悪口とか手出しは許さないって言われたけど関わる気すらなかったから何も調べていないし。何も知らないよ」
「覗きの神が6年前…10年前からやらかしたことは?」
「それも良く知らない。でも6年前は地球の神様に言われた通り避難して次元の途中であの創造神と装飾神に力を渡したよ」
「あ、力を渡してくれたんだ!ありがとうジルツァーク!そのおかげで私は半神半人に戻れたしテッドも助かったんだよ!」
「そうなの?」
「うん」
「そっか…、なんだか良くわからなかったけど千歳の役に立てて良かったよ」
ジルツァークが目を瞑って嬉しそうに言ってくれる。
徐々にだけど心がほぐれてきているのがわかる。
このまま先のステップに進みたい。
「ジルツァーク、ちょっと待ってね」
「え?」
「東さん…、ジョマ…、今いいかな?
どういたしまして。ハンバーグは喜んで貰えて嬉しいよ。
うん。ごめんね。
ジルツァークに東さん達の話をしてもいいかな?
ありがとう。そんな事まで私に任せてくれて嬉しいよ。
うん。アートには今度アート用にアートの好きなミートボールも作るって言っておいて。
うん。またね」
東さん達の許可は貰った。
これで先のステップに進める。
「ジルツァーク、東さんとジョマの許可は貰ったから話聞いてくれる?」
「…うん」
そして私は東さんに起きた話をした。
かつて創造神として力を振るいたくて切磋琢磨だと思って言われる必要のない批判をおかしくなるまで受け入れ続けた事。
粗暴の神達が示威行為や東さんを嬲りものにしたいと言う悪い気持ちだけで世界を壊され続けた事。
それすらも自分が悪い、自分の創造が悪いとして受け入れて壊れてしまった事。
そして地球の神様の所に身を寄せた事。
それらを話す。
「ごめんねジルツァーク。私はそれをキチンと知らないからどれだけの期間やられたとかはわからないの」
「…そんな事があったの?」
そして次はジョマの話。
自身の存在に気付いた時、目の前にいた神の勘違いで創造神と言われたジョマ。
でも本質は装飾神だから違和感でおかしくなっていく。
そして周りと創造をしようとしたり周りに手を出して行くけど創造神として育ってしまって装飾神としてのセンスが足りないから皆を悲しませる結果にしかならなかった事。
そしてそれがジョマ自身を傷つけ続けた事。
傷付けられた皆はジョマを魔女と呼んだ事。
ジョマは自身を魔女と偽る事で心の傷を誤魔化し続けた事。
そして遂に心の傷のせいでおかしくなったジョマは地球の神様に言われて地球に身を寄せた。
「装飾神も?凄い神なのに順風満帆じゃなかったの?」
「うん。2人とも地球で出会ったんだよ」
地球で人間「東京太郎」として生きる東さんと「北海道子」として生きるジョマが同時期に同じ場所に居た事。
創造を忘れられない創造神と装飾をしたいけど創造神と誤認している装飾神は歪な関係だけど出会った事。
そして東さんはジョマに言われて地球で仕事に使うパソコンの中にサンドボックス環境を構築して最初のガーデンを作った事。
そしてジョマは東さんのガーデンを見て本気で装飾を受け止めて貰えると思ってガーデンを輝かせる事ができると思ってパラダイスと言う世界を用意した事。
でもパラダイスは魔物が闊歩して人間達を本気で殺しに来る世界で東さんの目指した世界とは違うからジョマの装飾は全て拒絶された事。
その結果ジョマが怒ってジョマの使いにガーデンを滅茶苦茶にするように言って去って行った事を伝えた。
「…装飾神はガーデンを離れてどこに行ったの?」
「自身と自信を取り戻したと思い込んで神の世界に装飾をしに戻ったの。でもセンスもない装飾神、自身を創造神と誤認したジョマは沢山の世界を壊してしまった」
「壊すってどう言う事?」
「簡単に言えば神の望まない相手の尺度に合わせられない装飾をしたんだよ。
戦神のフナルナには「平和」と「癒し」を持ち込んで戦いから目を背けさせた。
それ自体は間違いじゃない。緩急やスパイスのような考え方で間違っていないけど戦い一筋の戦神やフナルナは極端な装飾に耐えられなくて混乱したの」
「続けて、聞きたい」
「うん」
ジルツァークの目が違う。
今までの目とはまったく違う目をしていた。
そして東さんはジョマの居なくなったガーデンを自分の用意した神の使いに任せてガーデンを離れた事。
ガーデンに希望を託していた事。
人々の心と神の力がより良いものである事を信じたかった事を伝える。
「…どう言う事?」
「東さんも昔作った世界ではジルツァークみたいに直接的に人に関わって人を助けてきたの。
でも助けて貰った人は助けて貰って当たり前、もっとして貰って当然って思うような人達で東さんは傷ついたの。
だからガーデンは東さんが表立たないで「アーティファクト」と言う神の力を切り取った遺物を用意して人々に授けたんだよ」
「…それで人が正しく力を使えるか見たかったの?」
「そうだよ。一個聞いていい?ジルツァークは仮にジェイド達やその子供が東さんの世界の子供達みたいに神様は人のために尽くして当然、当たり前って思うような人になったらどうするの?願いを叶え続けるの?」
**********
「私の世界の人たちはどうせならないよ」
「なるよ。んで…どうせって言わないで」
なんか強気と卑屈が行ったり来たりを繰り返している。
何かこう育っていない感じだ。
「え?」
「あれだけ心の育つ世界だもん。きっとジェイド達がまだでも次の世代やその次の世代は多様な心を持った人間が現れるよ。その中にはきっとそういう考えの人が現れる」
「そうかな?」
「うん。じゃあ質問はやめて話を戻すね」
そして東さんの見ていない間にガーデンに置かれたジョマの使いがガーデンを滅茶苦茶にした事。
人々は使いに乗せられて戦争をさせられたりジョマの用意したアーティファクトで悪魔になった人や大破壊で滅んだ国が出た事。
そしてその中で「時のタマゴ」を授かった王様、「勇者の腕輪」に導かれて偶然地球からガーデンに行ってしまった私のお父さんとかの事。
そして平和になった世界と地球を行き来する私のお父さんの事を知らずに14年間育った私は兄がいる事を知ってお父さんを軽蔑した事。
ジョマが知る機会をくれた事。
それを知って今に至った事を話す。
「大変だったね」
「あはは、まあ神如き力にも目覚めちゃったのは困ったけど喉元過ぎちゃえばだよ。
それにそのお陰でジョマが何の神様か見つけたんだよ」
「千歳がみつけたの?」
「うん。その代わりに私の望む完全解決をさせて貰ったの」
「完全解決?」
「うん。うちのお父さんの考えがダメダメでさぁ、ジョマの能力を地球の神様に剥奪してもらうなんて言ってたんだよ。
でもそうじゃない。ジョマには装飾神の自覚を持って世界を輝かせて貰うんだよ。
それを繰り返してジョマの傷を癒して貰うの。
そして東さんも救いたかった」
「どうやって?」
「ガーデンをパソコンの中サンドボックス環境ではない外に出して貰うの。
そしてジョマの装飾を手伝う事で自信を取り戻して欲しかった。
心ゆくまで伸び伸びと創造をして欲しかったの。
だから東さんにはジョマを、ジョマには東さんを守って貰っているんだよ」
「凄いね。そう言えば千歳が戦神を倒した所を見た覚えがあるよ」
「あはは、照れるなぁ。あの後で完全解決に一つ追加して貰ったの」
「何?」
「ジョマを魔女と呼ばせない事。それを破る奴は許さない。そのかわりの条件で神如き力を放棄せずに東さんとジョマの作るサードガーデンに私も調停神チィトとして関わる事になっちゃうんだけどね」
「その中でコイツとも知り合ったの?」
「うん。東さんがメガネ達にされたのは世界を見られて意味のない酷評をされた事だから悪意のある神に覗かれたら困る事をジョマが気にしていて、王様と私で神の世界にきて覗ける存在、視覚神を見つけたらコイツだったの」
「メガネ…。ろくに創造しないくせに他人の酷評なんてするの?」
「うん。もう1人創造神と2人がかりで決めつけて悪口言ってって繰り返すんだよ。
そう言えばさ、ジルツァークはどこでメガネを知ったの?」
「え?」
「ジルツァークは人付き合いをしない神なんだよね?」
そう、そこが気になっていた。
見るからに接点が無いんだ。
「うん。私が初めて世界を作った時に近くに居て顔を覚えていたし、6年前にコイツに取り込まれた創造神と噂になっていたから創造神って知ったの」
「成る程」
「ねえ、知っておきたいからメガネの先輩の姿って見れる?」
「えぇ?ジルツァークは真面目だなぁ。10年前に絡んできた時の姿なら出るよ」
そうして私は10年前に東さんに絡んでジョマをバカにして私を酷評した時のメガネと先輩を映し出す。
少し前から映像にしたので最初は「子供の千歳、可愛いね」と笑っていたジルツァークはすぐに顔を硬らせた。
「あれ?先輩、コイツらが世界の奴らかもしれないですよ!」
「なに?ああ偉そうに神の国に連れてきていたのか?まあ何処にでも居そうな女と男だな。
まあお前の創造だとこんなもんだろ?」
「ははは、先輩酷っ」
「先輩、この女…、さっき通達のあった女神ですよ!」
「あ?ああ、あの世界を壊す奴だろ?
本当お前にはお似合いだな。
お前の世界作りはヘタクソだしロクでもない世界しか作れないんだからこの女神に壊してもらうといいぜ。ガハハハハ」
「本当ですよね。2人で失敗と破壊を繰り返して不幸になればいいんですよね」
「本当、まだ創造なんて続けて暇だよな。
俺はやらないだけで、やればお前より凄い世界が作れるんだからな」
「そうですよね。先輩は本当凄い世界を作りますからね」
「そもそも何が凄い可能性だよ。女の方なんて何処にでもいるガキじゃないか。見た目も普通、ちょっと神の気配を持っているだけ!」
「そもそも生みの親がどうしようもないんだから産まれてくる命だってここいら辺が限界だよな」
「コイツ…!?」
「ジルツァーク?」
「コイツ創造神だったんだ…」
「え?」
「コイツら2人でツルんでいるから…。だから世界を作った日にメガネも居たんだ…」
「ジルツァーク、まさかアンタを酷評したのってこの創造神崩れだったの?」
「うん」
なんと言う事だ、東さん以外にも被害者が居たのか…。
そう思うと共通点がある。
「わかったよジルツァーク。ジルツァークは考え事を頑張って。毛布出すからまた身を守ってね」
「千歳?」
「完全解決をするよジルツァーク!」
「え?」
「私のワガママだけどジルツァークが前に進めないで困っている事が分かったから私が手伝うから前に進もうよジルツァーク!じゃあね!!おやすみ!」
こうしては居られない。
私は走り出すと後ろから「えぇ…いきなり何?」と言う声が聞こえたが今はそれどころではない。
**********
「戦神!夜遅くにゴメン!」
私が戦神の家に入ると皆が勢揃いしていた。
「あれ?皆?」と言って驚く私に皆が微笑んでくれる。
そして…
「千歳、ハンバーグをまず出してくれ」
「すごく美味しそうだったからお腹空いたよ」
「チトセ、こっちのジチさんも一緒に作りたいし食べたいって言ってたよ?」
「チトセのハンバーグも中々だからもう少し食べさせてよ」
「千歳、お疲れ様」
「チトセ、私にも何か出来ることはあるかな?」
「ハンバーグも良いけどお魚食べるカーイ?」
「千歳、私にもハンバーグはあるな?」
と、こんな感じで皆が言葉をかけてくれる。
「チィト、やはりチィトは凄いな」
「ちぃちゃん、お疲れ様。見ていたよ」
「千歳様」
「千歳」
テッドにりぃちゃんにジョマと東さんまでいるよ…。
「あれ?何で?でもいいや丁度いいよ。私はジルツァークを助けたいの!」
そう言っても誰も驚かない。
「全て見ていた。事態が動き出したから私は皆を集めてリリオに映像化をして貰った。
良くジルツァークの心に触れてきた。
千歳でなければあそこまで心は開けなかっただろう。
さあ、思うままを言うのだ」
「え?そうなの?」
「うふふ、千歳様は本当に凄い人。私の太陽は何でも照らしてしまうわ」
「うむ。千歳は凄いな」
皆それぞれ納得をしてくれている。
それならと私はまず最初に皆にジルツァークが昼間申し訳ない事をしたと後悔していた事を伝える。
「さっきの話を見たら仕方ないって思えたよ」
「まあ、ああ言う可愛い子に言われると何かダメージは普通よりあるけどね」
「それこそ仕方あるまい。誰も気にしておらん」
「今度こそお魚受け取って貰うゼーッ!」
ジルツァークの態度に腹を立てる人は誰も居なかった。
これで1つ安心だ。
「良かったよぉ。私の解決には皆の助けが必要なんだよ。皆ありがとう!」
「まったくチトセは…」
「甘いけど、まあ今回は良かったのかもね」
王様と黒さんが呆れながら言う。
「私はジルツァークにアートを見守って貰う事を頼んだけど皆にはアートの他にジルツァークも見守って貰いたいの。
神の世界での知り合いも増やしてあげたいし間違った時に注意してくれる人も欲しいし、普通に話しかけてあげて欲しいの」
「それは言われるまでもないよ」
「本当、ジルツァークは何を考えているのかわからない神だったから勝手に孤高でミステリアスで謎の多い女神って評価だったけど、話せば全然違うし千歳と話した感じを私達にもできるなら問題ないよ」
気になる単語が出てきた。
「孤高?ミステリアス?」
「見た目が可愛らしい女神だからね。男神達の中では評判だったんだよ」
そうなの?じゃあ戦神達も?思ったままを聞いてみよう。
「複製神さんも?戦神もそう思っていたの?」
「私は別に気にしていないよ。いつも1人で居る姿は見えたけどね」
「何を言う?私からすれば子供みたいな年齢差だぞ?」
そんな話を聞きながら1つ分かった気がした。
「あー、何となく読めたよ。メガネはその謎で、ミステリアスで孤高のジルツァークとご飯に行った事をステータスにしたかったと…」
「浅はかだよね」
「異性をステータスとしてしか見えない奴はまったく…」
隠匿神さんと時空お姉さんが呆れる。
「それで?チトセは何をしたいんだい?」
「ジルツァークが考え終わって外に出ると言ってくれたら広場にメガネとメガネの先輩を連れて来てもらいたいの。後はタカドラも来て貰う。キチンと下らない言葉の呪縛から解き放ってあげるの」
そうすることで共存の道を目指して貰いたい。
「え?拷問しないの?」
「しちゃダメ?」
「必要ないでしょ?」
そういわれるとガッカリした王様と黒さんは肩を落とす。
ええい、肩を落とすな肩を…。
「その時皆には広場に居て欲しい。地球の神様には神々の小規模な衝突ではなく取りまとめる存在として仕事をして貰いたいの」
「ふむ。ハンバーグも貰ったし仕事とあればしよう」
地球の神様がハンバーグを頬張りながら了承してくれる。
その後は宴会になる。
私の横にはジョマと東さんが居る。
東さんは私と目が合うと「千歳?どうしたんだい?」と優しく声をかけてくれる。
「ごめんね東さん。さっきので昔の嫌な事を思い出しちゃったよね?」
「いや…ありがとう。千歳のお陰でジルツァークを助けられる。僕と同じ苦しみを味わう女神を救えて僕は嬉しいよ」
「千歳様、京太郎の事は私も支えますからご安心してください」
「うん。ジョマが居てくれれば安心だよ」
「私達は千歳様に救われた。ジルツァークも救われます。ありがとうございます。千歳様は本当に神化をなさらないんですか?神化をして私達と生きてくれませんか?」
突然、ジョマが神化して神の世界に住む事を誘ってくれる。
こんなに直線的に誘われたのは初めてなので驚いてしまう。
「ええぇぇぇ?私はそんな器じゃないよぉ」と言って必死に謙遜するのだが「良く言うよ、今も神として成長していると言うのに…」と東さんが呆れる。
**********
「あ…そうだ。東さん、なんでここに来て急成長してるんだろう?
今までって壁にぶつかってステップアップを意識したりやりたい事が増えると成長してきたんだけど、今はやりたい事とか無いんだよね?」
「…あはは……」
東さんの呆れたような困ったような笑いに「え?」と聞き返してしまう。
「ジョマから言ってくれるかい?僕は男神だからね」
「東さん?え?」
「ふふふ、千歳様?今まで10年間無意識に使い続けて居た神如き力がある事をわかってますか?」
「え?」
男神で言えない?
10年間無意識?
「この前、その事を意識してやめましたよね?」
「まさか…」
「はい。胸の成長を止めて居た神如き力をやめたからその反動で急成長してるんですよ」
「ええぇぇぇ!?何それ?でも身体操作って使っても2とか3だよ?」
寝耳に水で驚く。
今も言ったが身体操作は使っても2とか3だ。今簡単に言えば私の限界地が400近くあったとしても1%未満だ。
「千歳、イメージしてご覧?10年間雨の日も風の日も体調不良の日も、それこそサードで火事に見舞われた人を助けて半神半人の限界が来て寝込んだ日も、視覚神が超神を名乗ってマイスタとオプトを殺した日も、決戦で限界ギリギリまで力を使ってテッドに助けて貰った日も、神化した時も、アートに力を貰って貰った時も全部休まずに力を使い続けて居たんだよ?」
「…」
「千歳様、スポーツ選手が重しを着けて負荷を与えるトレーニングしますよね?あれに近い感じです。ただ千歳様の場合は基礎能力の向上と言うよりは身体が最適な方向に勝手に強化している感じですね」
「…マジで?」
「本当だよ。君、半神半人なのに下手をしたらこの中で4番目に強いからね」
「まあ、今までは王様達と同列でしたけど頭ひとつ突き抜けてますから。言うなら超神ならサードを守りながら1人で圧倒までは行かなくても完勝できますよ?」
「嘘ぉぉぉ…」
「だからこそジョマは神化しないかい?と誘ったんだよ」
何かショックだ。
どんどん人間から遠ざかっていく気がする。
そして今日はこれ以上話すこともなかったのでキリの良いところで帰ることにした。
ハンバーグは飛ぶように売れたがやはり作りすぎて居て残ったので千聖にあげることにしてゼロガーデンの家に寄ることにした。
もう夜遅くて千聖は4階で寝て居たので、お皿にハンバーグを載せてツネノリとメリシアさんの許可を貰って千聖の夢に入ってハンバーグを追加で持ってきたから食べてねと言うと喜んでくれた。
「千歳!私も千歳みたいになれるかな?」
「へ?」
千聖からの突然の告白。
「お父さんもお母さんも好きだけど千歳みたいに神如き力!ってやりたいんだ」
「なんで?」
「お父さんもお母さんも千聖が守ってこの前みたいにテーブルを分けたりしたいの!」
まだ力の意味も重みもわからない子供だからそう願ってもおかしいことはない。
頭ごなしの否定ではなく親目線で接してみようと思う。
「んー、あんまり良く無いけど今だけだよ」
「え?」
「ほら、千聖。千歳と手を繋いで」
「うん」
手を繋ぐことで千聖のイメージは完璧に読めた。
髪を赤く染めあげて光の剣を出している。
「えぇ、千聖も髪を赤くするの?」
「うん!」
千聖の明るい返事を聞くと「まあいいか」と思えてしまう。
「よし、千歳と手を繋いでる今だけね。剣は3本までね。増やすと熱出ちゃうからね」
「ありがとう千歳!」
「よし、やってご覧千聖!」
「行くよ!神如き力!」
この掛け声で千聖の髪はツネノリ譲りの紫色から赤紫に変わる。
「いい感じ!出してご覧」
「光の剣!」
私が補助を入れて居るとは言え千聖は光の剣を丁寧に作り出す。
剣の細部がツネノリに似ている。
恐らく千聖のポテンシャルは高い。
メリシアさんの本来の身体に今のメリシアさんの能力とツネノリの才能を受け継いでいる。
サラブレッドだ。
多分剣を出せたのも空間把握や俯瞰で自分を見ることに関して脳が完成したツネノリの遺伝子があるからだ。
「出たよ!」
「うん。的を作るから狙いなさい!」
「行け!【アーティファクト】!」
千聖の出した光の剣は止まった的には当たったが動いている的には当てられなくて意地を焼いた。
なんかその顔がジルツァークに似てて笑ってしまう。
「千歳の意地悪!笑わないで!」
「ゴメン千聖が可愛くてつい笑っちゃったよ。でも初めてなのにうまくやれてたよ。本当は戦いなんて無いのが良いけどこれで千聖は皆を守れるね」
そう伝えたら千聖は喜びながらまた教えてと言う。
「今日はツネノリに内緒だから今度は千聖が聞いて良いよって言われたらね」
「うん!」
私はまたねと言って夢を後にする。
一階のリビングに行くとルルお母さんがお茶を淹れてくれていた。
「ほれ。飲むが良い」
「うん。ありがとう」
「どうした?」
「へ?」
「急に来たのだ。何かあったのでは無いか?」
やはり母は偉大だ。
空気で察してくれる。
「んー、事態が動いてここ数日が山場なのと愚痴を言いにね」
「愚痴?」
「私、未だ成長中なんだってさ」
「千歳様?何があったの?」
お風呂上がりのメリシアさんが不思議そうに話を重ねて聞いてくる。
「神如き力がまた強まったって東さんとジョマに言われたの。
今まではそれなりに成長していたし、問題にぶつかって創意工夫するとちゃんと成長していたんだけどさ」
「ほう?それでは壁にぶつかったのではなく成長をしたのだな?」
私はそう言って前に座るルルお母さんをジト目で見る。
「な…なんだその目は?」
「ルルお母さんのせいだよ」
「千歳様?」
「ルルお母さんに気遣って、この10年どんな日も神如き力が胸の成長を止めていたからそれがある種の修行になっていて今はそれをやめたから一気に成長期になったって」
「…あらあら。それは大変ですね」
「もう。今日だって神の世界で東さんから皆の中で4番目に強いって言われたんだから」
「…すまん。もう裏切り者と呼ばないから存分に胸を育ててくれ」
「それもなんだかなぁ」
そうやってひとしきり話してから私は帰宅をした。