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おまけガーデン。  作者: さんまぐ
アートの女神イロドリ。
1/19

24歳の女神と6歳の女神。

「帰ります。お疲れ様でした」

「お疲れ様千歳。今日は残業させて悪かったね」


私の目の前でそう言って謝るのはガーデンの神、東京太郎さん。

私の上司、もう10年の付き合いになる。


「えぇ、別に残業っていってもサードで3時間だけだしこっちなら1時間だよ?」

「それでもさ、ごめんね」

東さんが優しい笑顔で謝ってくれる。


「いいよぉ。私の分野なんだから仕方ないって」

そう言って私は笑う。


今回、サードで出た問題は料理の話でケィの伝統料理は冒険者に不人気で何故かを見て欲しいとお願いされた。

今日は金曜日だったのでこれを逃すと月曜日まで正式に行かない事になるので残業をした。

まあ週末はガーデンにいる事が殆どなのだがメンテナンス作業として日本人伊加利千歳としてサードに入るのは月曜から金曜日までなので今日行くしかないのだ。


「常継は先に帰ったよ。千歳はどうやって帰るんだい?」

「定期代貰っているから電車で帰るよ。わざわざ瞬間移動なんてしないよ〜」

お父さんといい東さんといい何故か私が不精をして瞬間移動で帰ると思われている。


「千歳は偉いね。

じゃあ僕もジョマがファーストから戻ったら帰るよ」


「うん。じゃあまた来週」

「ああ、今週もお疲れ様」


会社の外に出るとムワッとした湿気が顔にまとわりつく。

梅雨特有の湿気と寒暖差が気怠いけどファーストからサードまでのガーデンから帰った実感になるのでありがたい。

濡れた路面が昼間雨だった事を教えてくれる。

もうサードのトラブルから6年になる。

この6年も散々アレコレあったがそれは今後機会が有れば話そうと思う。


私はいまだにビリンさんと付き合っている。

特に離れる理由もないし今も好意はちゃんとある。

だが6年も経っているので結婚するなり考える必要がある。


…のだけど

どうにも日本を離れてガーデンに嫁入りするのもビリンさんに日本に来てもらうのもなんか違う気がしている。


まあビリンさんはそこら辺を理解してくれているので「今のままでいいんじゃね?大丈夫だって国はまだ父さんも現役だし兄さんが2人も居るんだからさ」と言ってくれた。


そんな事を考えながら帰宅をする。

考えてしまうのは明日が週末でビリンさんとずっといられる日だからだ。

会う度に早く考えなきゃと思ってしまうし見破られて「チトセ、また考えたろ?俺達はこのままで平気だって」と笑われる。


「ただいま」

そう言って玄関を潜るとお父さんの「ほら、やっと帰って来たぜ?」と言う声がする。


なんだ?と思っていると「千歳〜!」と言う声が聞こえて来た。


「へ?アート!?あんたどうしたの?」

私はリビングに走るとアートが私の横の席に座ってオレンジジュースを美味しそうに飲んでいる。


「千歳、お帰り〜。お仕事お疲れ様〜」

アートがコップを置くと手を振ってくる。


「さっき急に来たのよ」

お母さんが笑いながら言う。


「京子はうちの前で三角座りして千歳を待ってたんだぜ?まるで鍵っ子が鍵をなくしたみたいだったんだ。俺たちが悪いみたいだった」

お父さんがヤレヤレと言った顔で「京子、普通に家に入って来て千明と待ってて良いんだぜ?」と言う。


「うん。ごめんなさい」

アートはしょんぼりと謝る。


「怒ってないよ。んで?どうした?今度は猫でも拾ったか?」

「…」

アートは暗そうな顔で下を向いて黙る。


「ダメか、千歳が帰って来たから聞いてみたがだんまりか…」

お父さんが困った顔でやれやれと言う。


「アート、私着替えてくるから待っててね」

「うん」


私が部屋に行くとお母さんがついてくる。

「東さんと道子さんには連絡済み。なんかあるみたいだから千歳に頼めないかって…」

「うん。そのつもりだよ。夕飯どうしよっか?」

もうこの状況はなれている。

アートも東さんとジョマに詰め寄られても話す気にはならないだろうからここは私の出番だ。


「私たちがいない方が良いだろうって常継さんが言うから」

「おっけー。じゃあお母さん達は出かけて来なよ」

私は着替えながら東さんに連絡をする。


「アートは私とご飯にするから東さんとジョマはお父さん達とご飯に行っておいでよ」

「すまないね。今度は何があったのかな?」

東さんが呆れながら困った声で言う。

きっと家に居る所を見るとジョマとさっさと瞬間移動をしたのだろう。

そして私との約束を守ってキチンと神の力でアートを見ようとしないでいる事は嬉しい。


「東さんとジョマも偉いよね。私との約束を守って神の力を使わないで育児してくれてるよね」

「それが良いって千歳が言ってくれたから守っているよ」


そう。

私は少し大きくなったアートが東さん達の目を盗んで悪戯をした時に神の力でそれを調べずにキチンとアートに聞いたりするように言った。


東さん達は地球で生きる以上は必要な事と理解を示してくれた。



**********



私は着替えてからリビングに行くとアートに話しかける。

「アート、今日は千歳とアートは千歳ご飯ね。

お父さんとお母さんはアートのパパとママとご飯に行くって。仕事の話をしたいんだってさ。いいよね?」

「うん!いいの!?」

明るい笑顔で嬉しそうにするアート。


「いいよー。じゃあ玄関でパパとママを待とうか?」

私達が玄関に行くと見計らったように東さんとジョマがくる。


「千歳様、いつもすみません」

「いいよ」

困った顔のジョマが謝ってくる。


「アート、きちんとお出掛けする時は言うように言ったよね?」

「…うん」

東さんに言われてまたしょんぼりとするアート。


「アートは言わないで来たの?」

「…うん」


「そっか、じゃあパパとママにごめんなさいしてね」

「はい。パパ、ママ、ごめんなさい」


「はい。次からは言ってね」

「そうだよ。ママは心配しちゃうからね」


そう言ってからリビングに行くと外に出る格好のお父さん達が東さんを待っていた。


「東、今晩は期待していいよな?」

「常継、料亭を予約したよ」

「ふふ、副部長、雪月花亭ですよ」


うわ、本当に高級料亭を予約してるよ。

余程東さん達もアートが心配なんだろうな。

これは私も気合を入れねば。


当のお父さんは和食の顔になって興奮している。

「マジか!?行くぞ千明!」

「はいはい。すみません東さん」


「いやいや、僕達はお金を殆ど使わないからね」

「じゃあ千歳様、アートをお願いしますね」

「おっけー」


「アート、千歳を困らせたらダメだよ」

「うん」


私とアートは東さん達を見送ってからリビングに戻って冷蔵庫を見る。

「あー、今日のお母さんは魚だったかぁ」


多分この感じはカジキの煮付けだ。


「アート、うちにあるご飯だとお魚だなぁ。千歳とお買い物に行くなら千歳のハヤシライスだけどどうする?」

「行く!」


「だよねー」

私は笑いながらバッグとお財布を用意する。


「千歳、ビリンは?」

「え?呼んでいいの?」


「なんで呼ばないの?3人家族しようよー」

「そうだね。じゃあっと…おーい、今さぁアートが来てて今日は私のハヤシライスだけど…わかったよ。じゃあウチのリビングに来てね」

ビリンさんは殆ど説明することなく「ん?アート居るの?行く。おう、父さん達に出かける話をしたら行くわ」と言って終わらせる。


「ビリン来る?」

「うん。あ、ビリンさんの洋服出さなきゃ。

私が神如き力でビリンさんの洋服を用意しているとリビングにビリンさんが来る。



「こんばんは。お邪魔します」

そう言って現れたビリンさんは目を開けると「あれ?ツネツギさんとチアキさんは?」と言う。


「ちよっとね。今日は私とアートとビリンさんの家族の日なんだよ。これに着替えてよ。買い物からだよー」

私が用意した洋服を渡すとビリンさんが頷きながら受け取る。


「成る程な。呼んでくれてあんがとなアート!」

「ビリン!」

アートは6年経ってもビリンさんが好きなので喜んで飛び込む。


「おっとと、着替えるから待てって」

「ビリン早くー」

アートがビリンさんに抱き着きながら催促をする。


「アートがくっ付いていたら着替えられないだろ?」

「えぇ、頑張ってよぉ〜」


そんなアートにビリンさんは「アート酷え」と笑いながら頑張って着替える。


「お待たせ。んで、どうすんだ?」

「スーパーマーケットまで買い物。今日のお母さんは本当なら煮付けの予定だったんだよ」


「お魚は昨日の夜食べたの」と言ってお魚にNOを突きつけるアートを抱っこしてビリンさんの前に出しながら私は「だそうです」と笑う。


「成る程な。んじゃ荷物持ち頑張るかね」

「頑張ってねー!」


3人で手を繋いでスーパーマーケットまで行く。

その間にビリンさんがアーティファクト「千歳の力」に入っている私の神如き力で話しかけてくる。


「んで?アートって今日は何があったの?」

「まだ見てないよ。ご飯の後に調べるよ」


「了解」


本来、半神半人の神如き力は神には傍受とか覗かれるケースもあるがアートの力の源は私だし私は真名を知っているのでアートに覗かれる心配はない。

後は真名を知る東さんとジョマもアートに覗かれる心配は無い。


今回は何だろうか?やはり子供に神の力は不便でしかない。

そう思って歩いているとビリンさんが「チトセ、手に力込めて」と言う。


「へ?」

「アート、大ジャンプだ!」


「え?」

ビリンさんが驚くアートを引っ張り上げる。

私も慌てて真似をするとアートがキャッキャと大喜びをする。


「よし、やっと笑ったな」

「え?笑ってなかった?」

アートが私から手を離すと頬をさする。


「なんか変な顔してたぜ?」

「ビリンのくせに〜」

アートが私の真似をする。


「アート酷え。チトセの真似すんなよな」

「くせに~。あははは!」

そんなやり取りの後で私はアートに声をかける。



**********



「アート、誰が近くに居るかわからないから今からは…」

「わかってるよ〜、京子とお姉ちゃんとお兄ちゃんでしょ?」


そんな事を言いながらスーパーマーケットの前に来ると案の定知り合いに出会う。


「ちぃちゃん!」

「わ、りぃちゃんだ」


コピーガーデンの神様、テッドの奥さんをしているリリオの基になった私の友達理緒ちゃんが買い物帰りで出会う。


「ちぃちゃん?旦那さんとちぃちゃんの子?」

「あはは、違うよぉ。この子は上司さんの子供さん。仲良くしてるから今日はウチで3人ご飯なんだよ」


「そっかー」

「ほら、京ちゃん。りぃちゃんにご挨拶」


「こんばんは京子です」

「はいこんばんは理緒です。

ちぃちゃん、また今度お茶しようね」


そんな話でりぃちゃんは帰って行く。

ビリンさんはこっちのリィちゃんには面識がなかったのか驚いている。


「今のがリリオの?」

「そうだよ」


「まさかジョマ…」

「多分偶然だよ」


そう言って3人でスーパーマーケットに入るとビリンさんがカゴ。

私がアートの手を繋ぐ。


「お肉多めにしてね〜」

「いいよー」


「2人とも食の好みがそっくりな」

「そう?」

「仕方ないよ。私を祝福したのはお姉ちゃんだから似たんだよ」


まあそれはそうかも知れない。

私は一度神化をしてしまった時にアートに力を貰ってもらう事で半神半人に戻れた。

そしてアートもその経験からこの年で並の神を凌駕している。


「お肉とルーと明日のパンとサラダの野菜…。京ちゃんは何のジュース?」

「りんご!」


「お前たち本当にそっくりな」

ビリンさんが笑いながらカゴにりんごジュースを入れて行く。


「ねぇ、お姉ちゃん、お兄ちゃん」

「どうしたの?」

「どした?」


アートが指を指したのはお弁当のPOPでそこには豪華なお弁当とカラフルな色遣いで「彩」と書かれていた。


「弁当?」

「うん。美味しそう」


「京ちゃん食べたいの?」

「うん。あとはあのピンクと黄色と緑色の字が気になったの」


「あれは「彩」、イロドリって書いてあるんだよ」

「イロドリ?」


「うん。綺麗に色をつけるとかそんな感じかな?」

「ママのお仕事!?」


「あー、そうだねジョマの装飾も世界に色を付けたり輝かせたりするよね」

「そっかぁ。お姉ちゃん、あのお弁当の野菜いらないから全部お肉にして作って!」


「えぇ、お野菜食べなよ」

「えぇ、お姉ちゃんはお肉弁当嫌い?」


「うっ…」

「だよな。チトセが今度作ってくれるってさ」

言葉に詰まったタイミングでビリンさんがアートに援護射撃をする。


「やったー!」

アートが喜びながら私に抱きついてくる。

神でも子供は子供だ。

やはり可愛くて仕方がない。


買うものは買ったので後は帰って作るだけ。



6年前は苦手だった料理も調理の専門学校に通って今もガーデンで料理関係のあれこれをメインに仕事をしているので段取り良く作る。


その間も考えてしまうのはアートの事だ。

アートは知る限り3回程、問題行動を起こしている。

小さなトラブルは数えきれない。

小さなトラブルは子供なら仕方のない事で終わると皆が笑って許す。


3回の問題行動も神の世界もガーデンも好意的だが東さんとジョマだけはアートを叱り付けた。


1回目はまだ幼稚園に入る前。

公園で見かけた小鳥が烏に襲われた。その時に神の力で小鳥を生き返らせて仕返しに烏を殺そうと神の力を使おうとした。

勿論人前で力を使う事を禁じていたし何より死んだ命を蘇らせる事を対価も無しに行う事を東さんもジョマも許さない。

その時もアートはお説教をする東さんから逃げて私の所に瞬間移動してきた。


「千歳!鳥さん助けたかったの!」

幼さの残る言い方をしたアートに手を当てて何があったかを追体験して事態を知った私は少し意地の悪い質問をする。


「アート、あの小鳥が生き返ってご飯を食べた時、他の小鳥がご飯を食べられずに死んでしまったらどうするの?」

「え?」


「殺そうとした烏が地球の神様のお気に入りだったら?アートは嫌われてしまうわよ?」

「そんな…え?ヤダよぉ」

そう言ったアートは困って泣きじゃくった後で少しだけ嫌そうな顔で諦めてくれた。



2回目は幼稚園に入園した年でインフルエンザが流行った時にアートのクラスだけは誰も罹患しなかった。

すぐにアートの仕業だとジョマが見破って注意をした。


「お休みやだ!皆と遊びたいの!」

「アート!」


ジョマに怒られたアートはすぐに私の所に来た。

またその日も予防の大事さや風邪を引く事で学べる事もあるからと教えて「来年はやっちゃダメだよ」と言い聞かせた。



そして3回目は友達のお迎えに来ていたママさんの大病を見破って治療してしまった。

アートはお友達のママが死んだら可愛そうだからと泣いてしまう。

未だに私もコッソリと助けて、バレて怒られる事もあるので気持ちがわかる。


「アート、東さんとジョマが言いたいのはお友達のママを助けたのに別の子のママは助けないの?全員助けられるの?それでアートが疲れたり助けられない人が出て悲しい思いをして欲しくないのよ」

そう言って少しだけわかってくれた。


アートは18歳で神化した私の力をもらった影響でまだ6歳だが12歳くらいのコミュニケーション力があってそこそこ大人と会話が出来る。


それも申し訳ない。

何かをした際に子供としてではなくもう一段上の注意をされてしまうのだ。



**********



「アート、アートはいい子?」

私はおもむろに鍋をかき混ぜながらアートに質問をする。

鍋からはニンジンや玉ねぎのいい香りがする。


ビリンさんと私の絵を描くアートは「いい子だよー」と返事をする。

「じゃあアートのだけオムハヤシにしてあげよう」と言うと「本当!やったー!!」と言ってアートは飛び跳ねて喜ぶ。


「良かったなアート。んでチトセ?」

「はいはい。ビリンさんもいい子にしていたのね」


「よろしく〜」

2人はオムハヤシになった事に喜ぶ。


「じゃあ、いい子はお手伝いしてよね」

2人はそそくさとスプーンとフォークを用意してサラダをテーブルに乗せる。


3人での食事。

アートの取り決めで私がお母さんの席でビリンさんがお父さんの席。

アートは私の席で「いただきます!」と言う。


「チトセ飯はやっぱり美味いな」

「美味しいよ千歳!」

ひと口食べて大喜びのビリンさんとアート。


「喜んでもらえて千歳も嬉しいよ」

アートの分は子供サイズでも大きめにしたのだがお替りまでしていた。


食後のお風呂。

アートの事はビリンさんに任せようとしたらアートが「3人で入るの!アートが言うとママとパパは入ってくれるよ!」と言う。


「えぇ、東さんの家はお風呂が大きいからだよ。うちは3人で入るのは大変だよぉ」と私は言う。


「じゃあ大きおお風呂に行こうよ!」

「どこだそれ?ウチか?」

確かにビリンさんの家はお城なのでお風呂が物凄く大きい。


「あ!それも良いけどビリンのお家行くと3人じゃなくなるからダメ」

「じゃあ温泉だね」


私はお風呂道具を用意してウエストの温泉まで行くと神如き力で隠匿してしまう。


「やった!温泉」

アートはさっさと服を脱ぐと温泉に飛び込む。


「身体洗いなさいよ」

「はーい!」


そんな話の後をしながら3人でお風呂に入る。

まあ、私とビリンさんは付き合って6年も経てば裸の一つや二つを見せ合う機会はあるので一緒に入るのは問題ないが恥ずかしいのは恥ずかしい。


「じっと見たら怖いよ」

「わかってるよ」


ビリンさんのありがたい所は見たくても我慢をしてくれることだ。

安心してお風呂にも入れる。


3人で湯船に入ると私は何気なくアートに触れる。

「千歳?」

「溺れないようによ」


「平気だよー」

そう言うアートから何があったかだけ調べる。

追体験はプライバシーの面からやらない。


アートは幼稚園の後は日課になっている神の世界に散歩に行っていた。

「日本は安全だけどママがお仕事の日は神の世界にしてね」と言うジョマの指示に従ってのことだ。



「アート、今日も神の世界に行ったの?」

「うん…、行ってきたよ」

その声はとても暗くて何かがあった事は容易にわかる。


「アート、何があったの?」

「何もないよ…」

アートが俯きながら何もなかったと言う。


「嘘、そんな声してたらわかるよ」

「本当、チトセにもわかるくらいなんだから俺にはバレバレだぜ?」

合わせるようにビリンさんが言うとアートは泣きながら神の世界であった事を話してくれた。


12歳と同じコミュニケーション力があってもアートはまだ6歳なのでどうしても辿々しい場面がある。

心は12歳でも他は6歳なのだ。


「いつもみたいにお散歩してたの。

そうしたら見たことない人達が話しかけてきたの。

その人たちはアートの事を知っていたの。

それで何か嫌な事を言う人たちだから居たくなくて帰ろうとしたのに意地悪して帰らせてくれないの。

それで困っていたらお魚のおじちゃんが助けに来てくれて戦神と時空のお姉ちゃんを呼んでくれて時空のお姉ちゃんのお家に連れて行ってくれてお茶を貰ったの」

そう言いながらアートが泣く。

私は冷静ではいられない。

ビリンさんがそれを察してアートに質問をしてくれる。


「それで嫌な事があったから家に帰らずにチトセの所に行ったのか?」

「うん、きっと顔を見たママが心配して怒って大変な事になると思ったの」


「誰そいつ!?小さな子供にそんなことをして許せない!」

私は怒ると髪が赤くなって放電する。


「バカ!やめろって!痛い!!水の中だとビリビリするから!」

ビリンさんは感電して苦しむ。

アートと私は同じ力で問題ないのでアートは痺れるビリンさんを見て笑う。


「わららららら…たすすすすす…」

笑ってないで助けてくれかな?上手く喋れないビリンさん。


「ビリンがビリビリしてる!」

「面白いねアート!」


私が放電をやめるとビリンさんは「チトセ酷え」と言って笑う。

これで機嫌が治ったアートを連れて家に帰る。



**********



「東さん達遅いね」

「千歳眠い」


「チトセの部屋に布団敷けばいいか?」

「うん。私は東さんに何時になるか聞くよ」


「ビリンさんお布団を敷いてくれるからアートは歯磨きしようね」

私は洗面台にアートを連れて行くと歯磨きをさせる。

アートの服から歯ブラシからウチには何でも揃っている。

まあ、それだけ家出をしてくるのだけど…。


東さん達は二次会をしていた。

アートが心配でたまらないジョマにお父さんが「いい機会だから千歳とビリンに任せようぜ」と言っていた。


子離れと言えば聞こえはいいが、奢りご飯が美味しいだけじゃないか?


「パパとママは?」

「んー、まだお話ししてるね」


「アートも見たい!」

「あー、アートからは見えないんだよね。

まあ大丈夫だから寝ようよ。

夜中にパパが迎えにきたら帰ればいいし来なくても朝までウチで寝れば良いんだからさ」


「うん。川の字して!」

「へ?川の字?どこで知ったの?」


「ツネツギがこの前教えてくれた!「俺も千歳が小さい時や常則が小さい時はなぁよく川の字で寝たもんだ。でも何でか千歳は俺ばっかり蹴るんだよなー」って言ってたからママに聞いたの」


蹴ったのかな?うん、お母さんとお父さんならお父さんを蹴るよね。


「まあ良いかな」

本当は神の世界に乗り込んで犯人探しをしたかったがそれは明日でいいや。


「やったー!ビリン!川の字だよー」

「何だそれ?」

布団を敷き終わったビリンさんにアートが飛びつきながら説明する。


「よし、じゃあ寝るか」

「うん!」


私とビリンさんも寝間着に着替えると私の部屋に敷いた布団に3人で入る。


「狭くね?」

「これがいいんだよー。チトセは今日なんで遅かったの?」

アートが私の方を向くと残業をしてきた理由を聞く。


「へ?チトセ仕事大変だったのか?」

「明日はお休みだから今日中に片付けたかったんだよ」


そこで私は残業になったケィの国の話をする。


「不人気って伝統料理の味が変わったのか?」

「うん…まぁ…」


この言い方で原因が私にあると察したビリンさんが「何やったんだ?」と聞いてくる。


「いやぁ、ほら、サードって外だと10年目で中だと何百年も過ぎているでしょ?

少しでも東さん達とサードを良くしていこうとしているからホルタウロスみたいな牛型の魔物から獲れる牛肉が昔より品質もいいし霜降りでさ」

「あ…何となくわかった」


「あはは…?だから昔ながらの製法だと油濃くて不人気でさ」

「それでチトセはその説明をしてスタッフと納得の味になるまで料理を作ってきたと」


「うん」

「まあ、チトセらしいな。お疲れさん」

ビリンさんが笑いかけてくれると疲れが吹き飛ぶから不思議だ。



この話をしたらアートが少しだけ変な顔をした。


「アート?」

「千歳、パパとママの世界はいい世界だよね?千歳も居るから変な世界にはならないよね?」


突然変な事を聞いてくる。


「あんたどうしたの?」

「ならないよね?」


アートが心配そうな声で必死になって聞いてくる。

これはただ事ではない。


「ならないって。チトセも頑張っていてジョマも神様も頑張っているんだからさ。アートは何か気になるのか?」

「ううん。ならないよ」


「そっか、なら良いじゃないか」

「うん」


そう言ったアートは居心地悪そうに私の胸に顔を埋めて眠ろうとする。

いくら神でも6歳なのだ。眠った方が良い。


「今は寝なさい」

「うん。千歳とビリンは赤ちゃん欲しくないの?」


突然胸に顔をうずめたアートが変な事を聞いてくる。


「ふぇ?」

「うぇ?」


私とビリンさんは驚いてしまい素っ頓狂な声を出してしまう。


「赤ちゃんだよ。結婚して赤ちゃんに来てもらいなよぉ〜」

アートが急に甘えた声を出す。


「何だ急に?でもアートってヤキモチ妬きじゃん。サエナにヤキモチ妬いた時は大変だったろ?」


「あれは赤ちゃんのアートがやった事だよ。アートはお姉さんになったから平気だよぉ〜」


アートはシエナさんとザンネさんが授かった新しい命、サエナが生まれたときに私とビリンさんが可愛いを連呼したらヤキモチを妬いて大変だった。

ビリンさんがその話を持ち出してアートをけん制する。

でも赤ちゃんか、居たら大変だろうけどきっとその何倍も楽しいだろう。


「そう?じゃあビリンさんにお願いしてみようか?」

「本当!?」


「うぇ?チトセ?」

ビリンさんは暗がりでもわかるほどに真っ赤だ。


「別にそう言う未来があっても良いかもねって話よ」

「はい。頑張ります」

ビリンさんは更に真っ赤になって返事をする。



「でもアート?何で急に赤ちゃんが欲しいの?」

「赤ちゃんが居てアートがお姉さんになったら強くなれるもん」


…こんな事を言うなんて余程の事があったのだろう。

私はビリンさんを見るとビリンさんも頷いてくれる。


「よし、じゃあ俺はチトセが嫁に来れるように頑張るから赤ん坊がウチに来たらアートがオムツとおんぶをよろしくな」

ビリンさんが笑いながら言うとアートが凄い顔をする。


「えぇ!?ビリンは何をするの?」

「仕事。狩りをしたり魔物を倒したりやる事たくさんだぜ?」


「そんなぁ…千歳は?」

「千歳もお仕事があるからアートにお願いしたいかな。よろしくねお姉ちゃん」


「ええぇぇぇ…」

そう言ってアートは満足をしたのだろう。あっという間に眠りにつく。


「ビリンさん」

「おう、明日だろ?行ってこいって」

何も言わずに察してくれるのは本当にありがたい。


「うん。ありがとう」

「俺も神の世界に行けたらなぁ。防壁張れば覚醒を防げるとか無いかな?」


「無理だってば」

「歯痒いな」


「そんな事ないよ。居てくれてありがとう」

そう言うとビリンさんからキスをしてくる。


「俺の方こそいつも済まない。あとは赤ん坊の話は嬉しかった。いつか産んでくれないかな?」

「うん。いいよ」


私達はもう一度キスをしてから東さん達を呼び戻す。



**********



「千歳様、ありがとうございました」

「ううん。アートの事は私がやるから安心して。それで東さん達が必要になったら呼ぶからそれまではアートを見守ってあげてね」


「済まないね千歳」

「いいって。ウチこそお父さんがワガママ言って迷惑かけたよね。ごめんね」


「いやいや、お爺ちゃんの平和な悩みさ」

「お爺ちゃん?千聖になんかあったの?」


「いいえ、千聖様も常泰様も何の問題もありませんよ」

「お爺ちゃんは長生きして千歳の子供とも遊びたいそうだよ」

「何だそれ。お酒やめれば長生きなのにね」

私は呆れて笑ってしまう。


千聖はツネノリとメリシアさんの娘で私達にあやかって千の字と聖の字でチヒロと名付けられた。

ルルお母さんは名付けに反対せずに賛成までしてくれていた。

私としてはガーデンの命なんだから千聖にしなくてもと思ったのだが皆賛成だった。

メリシアさんの本来の身体を持って生まれた千聖はメリシアさんによく似たクリクリした目が印象的な美少女だ。


常泰はコピーガーデンのツネノリとメリアさんの息子で千聖とほぼ同時期に生まれてきた。

皆を集めてお祝いをしてしまった時は楽しかった。


「千歳様、ありがとうございます!男の子も欲しくなりました!」

「私は女の子が欲しいです!」

産後でヘトヘトのはずなのにメリシアさんとメリアさんが鼻息荒く言っていて母って凄いなと思った。


「じゃあ明日神の世界に行くね。報告するまで覗いちゃダメだよ」

話を戻してジョマと東さんを見るとジョマが凄い顔をする。


「え?ダメですか?」

「ジョマは相手を半殺しで済まないでしょ?」


「はい!全殺しします!」

「ジョマ…、アートが可愛くてもお母さんとしての行動だよ」


「はい…。京太郎は平気なの?」

しょんぼりしたジョマが東さんに聞く。


「平気じゃないさ…。まだ6歳になったばかりのアートに絡んだ狼藉者は許せないさ。だから千歳にお願いをしたんだよ」

その顔は正直怖い。

東さんは優しい面持ちと物腰で周りが勘違いするが怒ると誰よりも強いし怖い。


「うわ、神様怖っ」

「ビリンはいいから飲み足りないから付き合えって。千歳ー!千明ー!つまみー!」

トイレから戻ってきたお父さんがビリンさんに絡みながらテーブルに着席する。


「あー、酔っ払いうっさい」

そう言うとジョマ達が笑う。

アートは東さんが神の力で私の部屋から呼び寄せる。


「じゃあ千歳、本当に今日はありがとう」

「千歳様、ありがとうございました」

そう言ってジョマと東さんはアートを抱っこすると帰って行った。



「お父さん、長生きが目標ならお酒控えなよね」

「無理だって。ビリンが居る日は飲んでも許される日だろ?」


「え?そうなんですか?」

「そうなんだよ。千明!酒とつまみ!」


バカみたいなやり取りは日付を跨ぐまで続いてビリンさんはウチで泊まることになった。



朝ごはんはハヤシライスのルーを使ったホットサンドにした。

ビリンさんは美味いと喜んでくれた。


食後にビリンさんはお城に帰ってもらって私は神の世界に行く。


「チトセ、終わったらウチ来るだろ?」

「うん。そうするよ。でも何で?」


「顔、行く前から戦闘モードになってる。終わったらウチでのんびりと過ごそうぜ?」

「おっと、ありがとう」


「いいって事よ」

ビリンさんはそう言うと私にキスをしてからお城に帰る。

私は合わせるように神の世界に移動をした。




とりあえずお魚さんだな。

神の世界に着いた私はトキタマ君を読んだが反応が無い。

多分ゼロガーデンかコピーガーデンに遊びに行ったんだ…。

仕方ないので広場を見回すと戦神が居た。


「戦神!」

「来たか千歳」


「へ?」

「アートの事であろう?」


戦神は私が来た理由をわかっていた。

「ジョマが乗り込んでこなかったから千歳が来ると思っておった」

「あ、確かにそうなるね。それで、戦神に聞けば全部わかるの?」


「いや、私はアートを助けに乗り込んだだけで何がどうしてそうなったかは友情神の方が詳しいだろう。奴も千歳を待っていたぞ」

そう言われて私は戦神に連れられてお魚さんの家まで行く。



**********



「入るぞ」

「お邪魔しまーす」


部屋はお魚屋さんそのままに魚の匂いがする。

リビングのテーブルでお魚さんこと元々は人脈の神で私に言わせたら軽薄の神。

今は進化して素潜りの神だったり漁業の神だったり本人は友情の神と名乗っていて面倒なのでお魚さんと呼んでいる神が居る。

そのお魚さんはなんか暗い。


「どうした?」

戦神が暗さを感じて質問をする。


「…昨日、あの後ずっと心配でアートの事を地球の神様に聞いたんだゼーッ。

そうしたらアートは2日連続のお魚さんが嫌だって…」


あ、昨日の夕飯の話だ。

お魚さんはそこを見たのか…。


「えぇ、それはたまたまだよ」

「オーゥ。たまたまはまたまたなんだゼーッ。

お魚さんはとっても栄養満点で美味しいんだゼーッ?」

物凄く悲しそうに身振り手振りで話すお魚さん。


「仕方ないって、アートはまだ子供なんだからさ。昨日は私もアートもハヤシライスの気分だったんだよ」

「シーフードカレーじゃダメだったのかヨー!?」

コイツ、何が何でも魚メインにしたがるな。


「シーフードカレーは辛くないと美味しくないでしょ?そりゃ甘めも作れるけどさ。

それにアートはハヤシライスが好きだから仕方ないの。

シーフードはデミグラスソースに合わないでしょ?」

「トマトソースなら美味しいだロー?パスタだってよかったじゃないかヨー!

俺はそれが悲しくて今朝は漁に出られなかったゼーッ」


そこまで?

このやり取りが長そうだなと思った所で戦神が前に出てきてくれる。


「お主がアートを案じたのはよくわかった。とりあえずアートに魚の素晴らしさを伝えるのは全てが終わってからにしてはどうだ?」


戦神がそう言うとお魚さんが私の方を上目遣いに見る。

「千歳、やってくれるかーい?」

「やるやる。広場で浜焼きパーティーしよう。タコ焼きもやるよ」


「約束だゼーッ!?」

「うんうん」


「千歳、私も参加したいぞ」

「うん。戦神も来なよ。後は時空お姉さん達も呼ぼうね」


そうやって話が進んでようやく本題に入れる。



「それで、アートには何があったの?」

「怒らないかーい?」

ちょっとビクビクした感じでお魚さんが聞いてくる。


「もう怒ってるわよ」

「暴れないかーい?」


「そう言う相手なのね」

「オーゥ、名推理」


「とりあえず話して」

そうして聞き出した情報は無茶苦茶だった。

かつて東さんを苦しめた創造神崩れの1人、眼鏡の小柄な方が発端で、散歩していたアートを見かけて近くにいた粗暴の神達を焚きつけていた。


「落ち着け千歳!」

戦神が私の顔を見て慌てる。


「戦神?落ち着けると思う?」

私の髪は怒りに呼応して真っ赤に光って絶賛放電中だ。


「何?あの創造神崩れのメガネがアートを見つけて、粗暴の神達に東さんの娘だと吹き込んだと。それで?お魚さんはなんでそれを知ったの?」


「昨日のお魚のお届け先は天界だんたんだゼーッ。配達したのは視覚神と外聞の神で2人がアートについて教えてくれたんだゼーッ。慌てて助けに来て戦神と時空神を呼んだんだゼーッ」

「え?視覚神って覗きの神?」

まさかの名前に私は驚く。


「ノー、別の視覚神で困った人が居たりしないか探してくれる神だゼーッ」

「成る程。それでなんて話してたかはわかる?」


「落ち着けるかーい?」

「無理だって」


「…家は破壊しないでくれヨー!?」

「壊しても直すわよ」

直せばいいでしょ直せば。


「千歳、そもそも壊すな」

「……善処するわよ」


そう言ったところでようやくお魚さんが口を開く。


「粗暴の神達も昔はあの創造神達とガーデンの神が作った世界を壊していた神達なんだゼーッ」


「落ち着け千歳!」

「落ち着いてるわよ。これでもね」

大気が震えて地面が揺れるが、これでも私は落ち着いている。


「それでたまたま粗暴の神達に出会ったあの創造神は困っていたんだゼーッ」

「は?」


「そもそもあの創造神も粗暴の神が得意じゃないんだゼーッ」

「え?もしかして自分が嫌な思いをしたくないから近くにいたアートを見かけて、粗暴の神達を焚きつけてやり過ごそうとしたの?」

「名推理だゼーッ」


あ、無理だ。

我慢できない。

もう髪の毛は真っ赤に光るしパチパチと言う音がバチバチになっている。


「千歳!人に戻れなくなるぞ!」

「まだ平気」

うん。アートに貰ってもらってから6年。

私の限界値は今日も成長中だ。


きっとお魚さんはここまで私が怒れば後は関係ないと思ったのだろう。

話を続ける。



**********



「それで何も知らないアートにガーデンの神について粗暴の神達や創造神が主観でテキトーに悪く言って聞かせて泣かせて楽しんでいたんだゼーッ」


「ほう…。6歳の女の子を捕まえていい歳の連中がそんな事をしたと。何を言ったかわかる?」



関係ないと思ってもやっぱり思う所があったのだろう。お魚さんは困った顔をした。


「言いたくないゼーッ」

「言って。言いたくないってことはわかるのよね?」


「オーゥ…。


「皆さん、あの子供知ってますか?」

「なんだあの子供?」

「あのガーデンの神の子供なんですよ」

「へ〜、アイツ結婚したんだ」

「はい!それもあの装飾神が相手です」

「あー、なんか前に地球の神が言っていたな」

「はい。先輩ともよく話すんですけど未だに創造をした暇な神なんですよ」

「あの子供って親がダメな神って知ってんのかな?」

「さあ、教えちゃったらどうですかね?」


って始まりだゼーッ」


「……」

「千歳、黙るな!怖い!」

戦神は涙目だ。

でも知らない。

何で10年経っても東さんとジョマが悪く言われなきゃいけないの?


「それでなー。


「こんにちは」

「こんにちは。おじちゃんは?」

「君のパパのお友達だよ」

「パパの?」

「そうだよ」

「おう、何チンタラ話してんだよ。ゲラゲラゲラ」

「おじちゃんは?」

「俺もお前のパパのお友達だよ。楽しかったぜ?昔お前のパパが大切に作った世界を壊した時にはお前のパパは泣き出しちゃってさ」

「あはは、そう言えば皆さんそんな事をしてましたよね」

「お前が教えてくれたんだろ?忘れたのかよ」

「あー、そうでしたね」

「なんでパパの世界を壊すの?」

「それはね、どうせロクでもない世界だからだよ」

「え?」

「うわ、お前酷いなー」

「そうですかね?あはは」

「昔、お前のパパをいじめたのは楽しかったなぁ」

「そうですね。先輩や僕が評価をして皆さんが壊してあげる流れでしたよね」

「なんでそんな事をするの?いじめちゃダメって教わらないの?」

「ゲラゲラゲラ。バカじゃねーの?」

「本当親に似てダメな子供ですよね。あはは」

「まあいいや。お前のママは悪い奴なんだぜ?何人の神が泣かされた事だかな」

「本当だよー。沢山の世界をダメにしてきたんだよ。君のママは魔女なんだよー」


って所で俺が助けに現れたんだゼーッ」



「うん。ありがとう」

もう心は決まった。


「それで向こうは創造神を入れて3人。こっちは1人だったから戦神と時空神を呼んだんだゼーッ」

「うん。すごく助かったよ。本当にいつもありがとう。感謝してる。その後もアートの心配をしてくれてありがとう」


笑顔、笑顔。

あはははは、笑顔でぶち殺さなきゃ。


「千歳…」

「なに?忙しいの。今からソイツら殺さなきゃ」


「待て千歳!」

「待つんだゼーッ」


戦神とお魚さんが慌てて私を止める。


「待てるか!」

私は2人の制止を無視して瞬間移動で広場に出る。

髪が真っ赤に光って放電していて周りの神はそれだけで近寄らない。

もう10年も神の世界に来ていれば大半の神は私の赤い髪と放電を見たら近寄るな危険と分かっている。


「出てこい創造神崩れ!【アーティファクト】!!」

怒鳴りながら光の剣を12本出して広場から神の世界中に飛ばす。


「他の神々も世界を壊されたくないなら創造神崩れをここに連れてこい!!」

キレた私はわざと神々のそばに剣を飛ばして威嚇する。


母子の神が身震いしているが知らない。

怖いのなら創造神崩れを連れてくればいい。


「千歳!やめなさい!」

そこに来たのは時空お姉さんとナースお姉さんだった。


「なにやってんの!?他の神が怯えてるわよ!」

ナースお姉さんが私の肩を持って止めようとする。


「創造神崩れを探してんの!アイツ6年前に助けてやった事も忘れてアートを泣かせやがったの!殺してやるんだ!」


「構うだけ損よ!」

「いいの!神の世界をアートが来られなくなる場所にしない為にも創造神崩れを痛めつけるの!」



「チトセ!」

そう私を呼ぶのは複製神さんで創造神崩れの腕をガッチリ掴んで離さない。


「複製神さん」

「彼を探していたのだろう?」

そう言って創造神崩れを前に出す。


「イタタタ、何するんだよ」

眼鏡の創造神崩れは被害者ヅラして複製神さんを睨む。

複製神さんは私と創造神崩れを一度見た後、無言で私の前に創造神崩れを出してくる。


「アンタ、昨日アートをいじめたわよね?」

殺意は隠さない。さっさと供述を吐き出してから半殺ししたい。


「何の事だか?そもそも僕は普段から創造神同士で親睦を深めていて、知り合いの子供だから話しかけただけですけど」

シレっと目を合わせないで答える創造神崩れ。


「泣かすまで付きまとっておいて?」

「たまたま泣いてしまっただけで泣かすつもりなんてないですよ。これだから子供は嫌なんだ。1人で天界を歩かせなければいい」

またまたシレっと悪びれる事無く言ってのける。


「アンタねぇ!粗暴の神達まで焚きつけた癖に何言ってんのよ!」

「僕は何もしてません。彼等に旧友の話、近況報告をしただけですよ。彼のお嬢さんの事にしても本当の事を言ったら泣いてしまっただけで僕は悪くないですよ」

そしてニヤニヤと言ってのけた辺りで私は我慢の限界を迎えた。



**********



「白々しい!死ね!」

そう言って放った私の光の剣はメガネには当たらなかった。


突如現れた12本の光の剣が私の剣とぶつかり合う。

妨害が入るなんて思わずに放っていた剣は簡単に弾かれてしまう。

この剣は誰だかわかる。

もう10年の間何回も衝突をしている。


「ちっ!王様!?」

「そうだよチトセ」

そう言って私の横に現れたのはビリンさんのお父さんでもある王様だった。


「トキタマから事情は聞いていたし帰宅したビリンから代わりに神の世界でチトセを止めてくれって頼まれたからね」

そう言って王様は左手を前に出すとその手に元アーティファクト「時のタマゴ」の小鳥、トキタマ君が降り立つ。


「不思議ちゃん。おはようございます」

トキタマ君が普段と変わらない愛らしい感じで挨拶をしてくる。


「おはようトキタマ君」

私は邪魔が入った事で面白くない。


「怖い顔はやめてくださいよー。不思議ちゃんが怒らなくてもいいんですよ?」

「何それ?王様退いてよ。私はソイツに用があるの」


「こんなのを斬ったら不思議ちゃんの剣が汚れちゃいますよ。ここはお父さんにお任せしましょうよ」

「そうだよチトセ」


そう言った王様は眼鏡の創造神崩れの前に立つと右手で軽々と首を持って持ち上げる。

複製神さんは王様が掴む事に合わせて手を放す。


「え!?くる…苦し…苦しい」

「やあ、10年前にも散々痛めつけて6年前には命を助けてあげたのにまだバカみたいな事をするんだね。また痛めつけてあげるよ」

王様の冷たい声。


「な…ぼ…そん…」

「何?わかんないや、何で僕がそんな目にかな?大丈夫、殺しはしないよ。神殺しは御免だからね。

でも僕は除き変態趣味の神を散々痛めつけた経験があるから死ぬギリギリまでは痛めつけてあげるよ。

よくもウチのアートを泣かせたね」

「僕は全部見ましたからねー」


王様の言葉にトキタマ君が畳みかける。

そうか、トキタマ君は昨日見ていたのか。


「な…の…けん……」

「何の権利かな?あるよ。君は地球の神が決めた取り決めを破ってジョマを侮蔑の言葉で呼んだのだからね」


そう言うと王様の剣が縦横無尽にメガネを斬り刻む。


「ギィィィッ」

眼鏡が苦し気な声を上げる。

それを見てトキタマ君が嬉しそうに「お父さん格好いいです!」と喜ぶ。


辺りにはメガネの血が飛び散る。

しばらく斬り刻むと王様が剣を止める。

わざわざ皮一枚手前で止める芸の細かさがヤバい。

私はやれて3ミリ手前だ。

ここが同じ半神半人でも違う。


「さて、ここでやめるか続けるか、これ以上をするかしないかは君次第だ」

「へ?え?や…やめ…やめて…」

メガネが必死になって懇願する。


「違うよ」

王様がそう言うとメガネは更に斬り刻まれる。


「ギィィィッ」

そしてしばらくすると手を止める。


「さて、どうする?」

「な…何を?」

今度は余計な事を言わずに慎重に話すメガネ。


「簡単さ。君はここで残り2人の神の事を話してこの後は自分の分の罪を支払えば終わり。

残り2人を庇い倒して2人の分も罪を償うかだよ。あ、ちょうど良いところに治癒神がいるね。僕の支払いでどんな目に遭えるか聞いてみなよ?」

そう言って王様がメガネを投げ捨てる。


投げ捨てられたメガネはナースお姉さんに聞く事なく一目散に逃げようとする。


悪手だ。

そんな甘い考えで王様から逃げられるわけがない。


「バカな奴だ」

王様がそう言うと右の足を切り落として左の足の甲に剣を突き立てる。


突然の事で何が何だかわからないメガネは転がりながら事態に気づくと「ヒィィィッ、あ…足、足?僕の足がぁぁぁっ」と叫び出す。


王様は前に出て足を拾うと「そうだよ。足だよ」と言って渡すとそのままナースお姉さんに拷問の日々を説明させる。

…まだ終わってない覗きの神に対する拷問の日々。

地球の神様の見立てだと後1年くらい刑期があるらしい。


聞いていて真っ青になるメガネ。

「さて、言うかい?」

王様が不気味なくらい優しくメガネに問いかける。


「し…知らないんだ。どこにいるか知らない」

メガネが涙ながらに答えると王様は舌打ちをしながらお魚さんに「お前なら呼べるよね?ちょっと呼んでよ」と言う。


「NO!俺は奴らとフレンドじゃないから無理NO!」

「ちっ、面倒だな。複製神は知らないの?」

王様は周りの神々に聞くけど皆関わりたくない感じなのと本当に知らない感じで話にならない。


「くそっ、プロに頼むか」

「プロ?」

私は王様の言い方が気になって聞き返してしまう。



**********



「ちょっと来てよ!」

王様が声を荒げると目の前に呼び出されたのはりぃちゃん→リリオだった。


「あれ?ここは神の世界?魔王さんに戦神にお魚の神と複製神さん?それとちぃちゃん?」

「リリオ、アートがこのバカと後2人にいじめられたんだ」

驚くりぃちゃんを無視して王様が話を進める。


「え?アートが?何でですか?6歳の子供ですよ?」

りぃちゃんの目が三角になる。

それは初めて見たけど怖い。


「何があったか追体験してみると良いよ」

そう言われてりぃちゃんがメガネを睨むとワナワナと震える。


「テッド!今すぐ来て!大至急!待った無し!」

そう怒鳴ったりぃちゃんはとても怖い。

りぃちゃんはその後で王様を見る。


「魔王さんは優しいですね」

「だろ?それなのにチトセってばさぁ」


「ちぃちゃんも怒っていたからやりたかったんじゃないですか?」

「でもトキタマがチトセの剣が汚れるって言うから僕が代わりにね」


目が怖いが笑顔のりぃちゃんは王様と談笑をした後でメガネを見る。

メガネはりぃちゃんに何かを感じて怯えた声を出す。


「ヒィッ!?」

「よくもウチのアートをいじめてイィト様とジィマ様を侮辱しましたね。許さないから」

そう言ったりぃちゃんの目は怒っていた。

看破と追跡のスペシャリストになったりぃちゃんは本気で怒っている。


「りぃちゃん…」

「ちぃちゃん、追体験で見たよ。アートの泣きそうな顔。頑張って目に涙を溜めて歯を食いしばって何とかその場から逃げ出そうとしたのに逃がさないの、泣きそうな顔すら笑ったこいつらを私は許さない」


その瞬間私の脳内に涙を堪えるアートの顔が浮かぶ。


「りぃちゃん!?これ!!」

「うん。後はちぃちゃんに任せるよ」


許せるわけがない。

私がメガネを睨みつけるとメガネは縮みあがる。

知らない。

さっきまでの怒りが馬鹿みたいだ。


「ムカつく。

でも怒るのも馬鹿らしい。

苦しんで。

アートの涙の1万倍は苦しんで。

ううん。苦しめる。

拷問釘【アーティファクト】」


私は拷問釘を3ダース程作って1ダースずつ刺して根を広げてから爆破をする。

そして爆破した瞬間に次の釘を刺して根を広げる。

止まらない。

止めさせない。


「トキタマ君、剣じゃなきゃいいよね?」

私は一応トキタマ君に確認を取る。

邪魔をされたらたまったものではないからだ。


「はーい、オッケーですよー」

トキタマ君が嬉しそうに返事をする。


その間もメガネがヒーヒーと煩い。

この点ではまだ覗きの神の方がマシだった気がする。


「アンタ煩い。千歳檻【アーティファクト】空気も抜くね」

頭だけヘルメットみたいに出した千歳檻でメガネを封じると空気を抜く。

空気が無ければ静かでしょ?


メガネは紫色になって苦しそうにもがいて暴れる。

爆破が辛いのか空気がないのが苦しいのか知らない。


その後ろでりぃちゃんは絶賛怒っていた。

「テッド!まだ!?なにやってんの?はぁ?私がどこに居るかわからないの?神様の世界だよ!何で怒っているか?そんなの私達のアートがいじめられたからよ!そう!やった奴を痛めつけるの!私の代わりにテッドがやるの!今すぐ来て!」


そう言われて現れたテッドは血まみれの広場で起きている事を見てドン引きする。


「来たぞ。

だが、これは何だ?魔王とチィトと神々と戦神?

誰に何を聞けばいい?」

テッドがりぃちゃんに確認をする。


「聞く必要ない!伝達するから、私の怒りをうけとめて!テッドの怒りをコイツらに思い知らせて!」

「了解だ」


テッドはりぃちゃんと手を繋ぐと全てを見たのだろう。


「退けチィト!!」と言って両手に炎の剣を持つと私の檻ごとメガネを切り刻む。

メガネは新鮮な空気に溺れて咳き込むがテッドはお構いなしにこれでもかと斬り刻む。


「そこだ!やれ!いいぞテッド!止まるな!もう一声!!」

りぃちゃんはニコニコとテッドを応援する。


ひとしきり斬り刻んだテッドは満足そうに剣をしまうと「子供を泣かせて何が楽しい?自身の愚かさと子供にしか勝てない事を証明して何が楽しい?」と見下ろしながら言い捨てる。


「流石だねテッド。それでさリリオ。残り2人のバカを見つけてよ。リリオならどこに隠れようとも関係ないよね?」

王様が嬉しそうに聞く。


「はい!任せてください!さっき看破と追跡で粗暴な神の姿は見ました。

でも陰湿で陰険で粗暴な嫌な感じの奴です。関わらない方が幸せな奴です」

りぃちゃんが聞いても居ない事を言ってくる。

そんな事までわかるようになったの?


「へぇ、また凄くなったんだね。

リリオはそこまで見えるんだ。

どうしようか?」


「私ならテッドとちぃちゃんと魔王さんと黒魔王さんに居場所を送るので気が済むまで光の剣で斬り刻みますかね。

後は2人共周りに仲間の粗暴な神が居ないと大人しいタイプみたいだから私なら各個撃破しますね」


「ふーん。じゃあさもう1人の僕を呼ぼうか。トキタマ、黒い僕を呼んでよ」

「ハイですー!」


そうして呼ばれた黒さんは不満気だったが私達の顔つきと広場の惨状を見て「どうしたの?何があったの?」と聞く。

こういう時の王様と黒さんは頼もしい。



**********



「リリオ、黒魔王に伝達だ」

「よしきた!」


りぃちゃんが黒さんに伝達をすると黒さんは無言でメガネの顔に火の玉を投げつける。

メガネは突然の火で熱さと苦しさに溺れる。

「続きは後だ。覚悟をしておけ」

そう言って顔面の火を足で踏み消す。


「リリオ、僕は何をしたらいいの?」

「魔王さんと黒魔王さんでここから私の指示する場所に光の剣を飛ばしてやっちゃってください!」


「成る程ね。もう一人の僕の用意はいいの?」

「僕こそいいのかい?」

黒さんと王様は早速バチバチだ。


「ふふ、じゃあ黒魔王さんと魔王さんでどっちが先に指定された粗暴神を気絶させられるか勝負ですよ」

りぃちゃんが嬉しそうに言う。


「へぇ、楽しいね」

「いいね。やろうよ」


「ちなみに見つけた連中はこんな感じです」


りぃちゃんが見せてくれた映像では1人の痩せ型の粗暴な神はまだ幼さの残る神に因縁をつけていじめていた。

もう1人の少しふっくらした粗暴な神は他の神にアートを泣かせた事を自慢していた。


「どっちも最悪だね」

「リリオ、早く始めの合図頂戴よ」

王様と黒さんが待ち遠しく言うのだが我慢できない人が居た。


「許さん!【エレメントソード】」

テッドは我慢できなかったようで火の剣を飛ばしてしまう。


「テッド!?」

「くそっ!【アーティファクト】!」

「「革命の剣」よ!【アーティファクト】」


テッドが出した16本の剣は8本ずつに分かれて粗暴の神を痛めつけて行く。


そこに追いつくように痩せ型の方に黒さんの剣、ふっくらした方に王様の剣が飛んでいく。


攻撃の間もりぃちゃんの実況と看破の映像が見える。

「痩せ型の粗暴神はとにかく自分より弱そうな相手を虐めて喜ぶ神ですね。

ふっくらした方の粗暴神はとにかく心がねじ曲がってますね」


「え?リリオってそこまでわかるの?」

「はい。ジィマ様からも看破神と名乗っても良いと言われましたよ」

りぃちゃんがエッヘンと胸を張る。


「へぇ、じゃあこの後で面白い事をしようか?」

黒さんがりぃちゃんに話しかける。

「この後ですか?」


「うん。とりあえずチトセ達はここを掃除しておいてよ」

「はぁ?なんで?」

私は王様から急に言われて不機嫌になる。


「ここにアートを呼んでここでメガネに心から謝らせるんだよ。

流石に血まみれだとアートは優しい子だからそれだけでメガネを許しちゃいそうだろ?」

「なるほど。確かにそうかもね」


「じゃあお魚パーティーしようゼーッ!」

突然お魚さんがとんでもない事を言い出す。


「何それ?」

「アートにお魚の美味しさを教えてあげるんだゼーッ!」

お魚さんが嬉しそうに身振り手振りで言う。


「そうだね。もうお昼時だもんね。じゃあそうしようか」

黒さんが楽しそうに言う。


「オッケー!じゃあちょっと日本海まで行ってくるゼーッ!待っててくれヨー蟹さんにイカさん!サバさん!」

そう言ってお魚さんが消えると戦神が「千歳、片付けようか」と言って動き出す。

戦神ってこういう時の順応性が高くなったよなぁ。

そんな事を思いながら片づけをする。


「チトセ…」

「あ、複製神さん達も皆で食べようよ!」

そう言うと複製神さんは嬉しそうだ。


「ありがとう。隠匿神達も…」

「うん。呼ぼうよ。お願いしていいかな?

後は沢山魚が必要な事をお魚さんに教えてと…。

おーい、お魚さーん。超大人数になったよ。

何?折角の美味しいお魚が皆に食べて貰えて嬉しいの?

え?今から海流に乗って南のほうに行って素潜りでカジキと戦うの?

期待していいの?

んじゃよろしくー」


「千歳」

そこにナースお姉さんが先輩お姉さんを連れてくる。


「あ!先輩お姉さんもお疲れ様。後であのメガネを治してくれるかな?」

「それはいいわよ。ただその前にね」


「へ?」

「1人いじけているのが居るから迎えに行ってよ」


「あ。地球の神様だね。仕方ない。助っ人と呼びに行くか。戦神、ここ任せてもいい?」

「構わぬぞ」


私は後を戦神達に任せて瞬間移動をした。



**********



「アート、お昼ご飯は何がいい?ママなんでも作るわよ?」

ジョマが無理をして明るく振舞う。

テンション高く身振り手振りでアートに気を使っている。


「いらない」

「アート…」

だがアートはジョマをチラ見だけして顔を戻していらないと言う。

ジョマは泣きそうな顔でアートを見る。

そのアートは何かの絵を描こうとしては上手くいかなくてグシャグシャにする。


「アート?どうしたんだい?」

そのジョマとアートのやり取りを見ていた東さんも見かねた末に困った顔でジョマとアートの所に近寄る。

普段は東さんの抱っこが大好きなアートが抱きかかえられてもイヤイヤと首を振る。


東さんもショックを受けた顔をしている。

私はアートに照準を合わせて追体験をするとアートは朝ごはんも殆ど食べずにいじけていた。


それもこれもあのメガネと粗暴の神が原因だ。

くそ、もう少しメガネを痛めつければよかったかな。



「アート」

私はそう言って姿を現すと東さんとジョマも驚く。

普段なら私に気付いている東さんとジョマも気づかないなんて余程余裕無かったのかな?


「千歳!」

「千歳様」

「千歳、どうしたんだい?」


「ん、解決って訳じゃないけど進展もあったし、ちょっとアートに頼みができてさ」

「頼み?」


「うん。アートじゃないと駄目なんだよね。ちょっと困ってさ。助けて欲しいんだよね」

「んー、いいよー」


「本当、助かるよ。じゃあトイレとか済ませてきてね」

「はーい」

アートがなんの疑いもなくトイレに行くので東さんとジョマに概要だけ伝える。


「2人はね、傷つく必要も怒る必要もないよ。皆が東さんとジョマとアートの為にやってくれてるからね。

後は見ても怒らないなら私の追体験をして、そうしたらアートに何があったかわかるからね。

それとお昼ご飯は神の世界でお魚パーティーだから落ち着いた頃を見計らって来てね。

あ、先に言うとさぁ、昨日アートがお魚を2日連続にしないって言ったところをお魚さんに見られちゃったんだよね。ハヤシライスに負けたってお魚さんがショック受けちゃってさ、アートを美味しい魚で元気にしたいんだって。今も日本海だったかな?南とか言っていたかも?素潜りでカジキマグロと格闘中だって」

私は笑いながら明るく説明をする。


「ありがとう千歳」

「千歳様、なんと御礼を言ったらいいか…」

ジョマが涙目で東さんがジョマの肩に手を置いて慰めながら言う。


「良いんだよ。皆東さんとジョマとアートが大好きなんだよ」

私達は心で話しているとアートが戻ってくる。


「お待たせー」

「うん。じゃあ行こう。アート、よろしくね」


「任せてよ!」

そう言って笑うアートと手を繋いで瞬間移動をする。

私は神の世界に戻ると広場ではなく地球の神様の家に直接行く。


「え?地球のおじちゃん?」

「うん。地球のお爺ちゃんはアートが心配で気になって仕方ないんだって。元気付けようよ」

そう言うとアートが私の手を放して先に地球の神様の家に入っていく。


「こんにちは!」

「アート、よく来た。千歳、私はお爺ちゃんではない」

外で言った事を聞いていたか。

まあ、聞いていたと言うか東さんの家でもずっとアートが心配で見ていたんだと思う。


「変わらないわよ」

私が呆れながら返事をすると笑いながらアートの方を見る。


「アート、大丈夫かい?」

「…うん」

アートは何を聞かれているかを理解して暗い顔になる。


「心配なら乗り込んでくれば良かったでしょ?それをトキタマ君に頼むなんてまったく」

そう、トキタマ君がアートを見守っていた事には理由がある。

たまたま見ていたケースもあるが、恐らくアートが心配でトキタマ君に監視を頼んでいたのだと思う。

だから王様に話が行くのも早かった。


「立場というものもあるのだ」

「面倒くさいなぁ。まあいいや。広場でやるお魚パーティーに参加するでしょ?早く来なよ」


「お魚パーティー?」

私が地球の神様を誘うとお魚パーティーを聞いていなかったアートが驚く。


「お魚さんがアートに魚で元気になってもらいたいんだって。こっちもアートが居ないとダメだから助けてあげてよ」

「アートはお魚も好きだよ。お寿司とかサイコーだよね」


私は「ねー」と言ってアートと笑う。

まあお魚さんならこの部分を聞いてもハヤシライスに負けたと悲しむだろう。


「アート、千歳と迎えに来てくれたのだな?ありがとう。先に千歳と行きなさい」

「地球のおじちゃんは?」


「私はやることがまだ少しだけあってね。それでも間に合うと思うからね」

そう話したところで心の声で「立場的に創造神の謝罪等を見ると事が大きくなりかねない。私は終わったら行かせてもらうよ」と言われる。


面倒くさいものだが確かにそうだ。

今なら神々の小規模な衝突で済む。


「ほら、行こうアート。アートも用意を手伝ってよね」

「何すればいい?」


「お箸配ったりとかだよ。アートはお腹空いた?」

「うん!朝とかあんまり食べたくなくて食べられなかったの」


「そっか。お腹空いているならお魚パーティーはきっと楽しいよ」

「うん!千歳と連続ご飯嬉しいなー」


アートは可愛い事を言うなぁ。



**********



私達はウキウキで広場に戻ると血は全部片付いていてテーブルも出ている。

お魚さんは頑張ったようで色んな魚がこれでもかと用意されていた。


「わぁぁぁぁっ!凄い!」

「ヘイ!お魚お待たセーッ!」

広場に走って行くと大喜びのアートを見て嬉しそうなお魚さんが身振り手振りでアートを出迎える。


「お魚さん!こんにちは!昨日はありがとう」

「大人として当然だゼーッ!今日は沢山食べてお魚を好きになってくれヨー!」


「アートはお魚好きだよ?」

「でも昨日はお肉に負けたゼーッ」


「毎日は食べないよぉ」

「何でだヨー?」


「好きだからかなぁ?毎日食べたら好きじゃなくなりそうなんだよね」

アートが「うーん」と悩みながら答えるとお魚さんは「難しいゼーッ」と言って頭を抱える。

それを見て皆も笑っている。

先程までの血みどろの名残なんかない。


「千歳よ。兄に捌いて貰えないだろうか?」

そう言って戦神がくる。


「確かに…大量だもんね」

「ツワモノと黒魔王は獣なら捌けるが魚は苦手だと申すのでな」


「確かに。私も少しはやれるけどこんなには嫌だな。よし。複製神さん。このお魚を複製して貰えます?」

複製神さんは驚いた顔で「構わないがどうするんだい?これでも大量だよね?」と言う。


「半分は代金になるんです。

おーい、ツネノリー、今どこ?家?私?今日は神の世界でお仕事だよ。

仕事頼みたいんだけど。

「光の腕輪」でツネノリ包丁出してよ。

うん、そうだよお魚さんが沢山魚を獲ってきてくれたから捌いて欲しいんだよね。

いい?ありがとう。

それで2匹ずつ渡すから1匹はツネノリ達の分ね。好きに食べてね。

三枚おろしで良い奴は魚にメモをつけるから。それ以外はお刺身ね」


それを聞いた複製神さんは納得が行ったと魚を複製してくれる。

ただ流石にツネノリ達で食べられる量を超えているので半分はコピーガーデン送りにしようと思い向こうのツネノリにもまったく同じ話をする。


「よし!転送しましょう。

カジキはゼロガーデンで、ブリはコピーガーデン、黒鯛はゼロで鯛はコピー、平目はゼロ、カレイはコピー、アジは半分こだね。タコは私が捌くかな」

こんな感じで魚を渡しては回収を繰り返す。


「千歳、今日はお刺身パーティーなの?」

「ううん。違うよ。こっちのお刺身はカルパッチョでこれはムニエル。

こっちは味噌煮にしてこっちは照り焼きね。

アジは沢山あるからフライとお刺身となめろうだよ」

私はテキパキと調理をする。

数が欲しいものに関しては複製神さんに複製してもらって次々とテーブルに盛り付ける。

お米が問題か。

「ジョマと東さんに来てもらうときにお米を持って来てもらって、地球の神様にもお米頼むかな」

そんな事を想いながら調理がある程度終わったところで王様と黒さんに私とアートが呼ばれる。


「先に支払いを済ませよう」

「アート、今なら僕たちやチトセもいる。頑張るんだよ」

「キヨおじちゃん?黒キヨおじちゃん?」

王様と黒さんの発言にアートはキョトンとしてしまう。

呼ばれた先には隠匿神さんがいて小さく手を振ってくれるのでアートと振り返す。


隠匿神さんがいると言う事は…。

私は隠匿の力を理解しているので隠れていても見ることが出来る。

神の力で目を凝らすと目の前には血まみれで正座をさせられているメガネが隠匿されていた。

王様に斬られた足はくっ付いていた。



「隠匿神、やって」

王様の声で目の前にはメガネが傷一つない姿で現れる。

隠匿神さんの力で怪我を隠匿したのか…。

よく考えると臭いまで隠匿できることに驚いた。


「ひっ!?」

アートが物凄い表情でメガネを見ると私に抱き着いてくる。

余程怖かったんだろう。

強張りが伝わってくる。

私はアートの手を握って安心させる。


「王様、アートにはまだ無理だよ」

「ダメだ、今でなければダメなんだ」

「かつてのチトセと同じだよ」

私の意見に即座に反論する王様。

そしてかつての私と言った黒さん。


そうだ。

私はこのやりとりを知っている。

かつて覗きの神に恐怖した14歳の私を王様が奮い立たせてくれた時と同じだ。


王様と黒さんがメガネの横に立つと

「何か一言でも余計な事を喋ってみろ」

「その時は更に酷い目に遭わす」

と言う。


それも同じ。

これで私は立ち直れた。

私がする事は決まっている。


「アート、今は皆が居るよ。怖くないよ。もうコイツは私達でやっつけたんだよ」

「やだよ千歳。怖いよ」

アートは震えて泣いている。

あの日の私は14歳。アートは6歳。

当然だ。


私はアートを抱きかかえると背中をさする。

「それでも頑張って見ていなさい。そして心のままに怒りと恐怖を表して」

「千歳…」

目に涙をためたアートが私に目で嫌だと訴えてくる。


「アート、大丈夫だよ。僕達は君の味方だ。君が間違った道に行かないように助けて支えるよ」

「メガネ、始めろ」

王様に睨まれたメガネが恐々と口を開く。


「あ…アートさん。今回は…嫌な思い…をさせてすみません…」

「すみませんでしただろ!」と王様が即座に殴る。



**********



「アートさん。今回は嫌な思いをさせてすみませんでした。

私は創造神崩れで能力が弱まる日々が怖くて紛らわせる為にアートさんのご両親を悪く言っていました」

そうメガネが顔を真っ赤にして謝り始める。

真っ赤なのは悔しいのだろう。自尊心の塊が斜に構えて自身を誤魔化しているが格下と決めつけた子供に謝るなんてプライドが許さないのだろう。


そこに黒さんの声がした。

口からではなく心で語り掛けてきている。


「いやぁ、リリオはいい仕事をするね。

看破の力でコイツの心を丸裸にして損得勘定で損をしたくないとか、承認欲求を満たして自分を守りたいからアートをいじめた事とか全部バラされていたよ」

それでか。嘘もつかずにここまで話す理由はりぃちゃんに看破されたからなのか。


その間もメガネの独白は続く。

「5年前、衰えた能力を周りに見抜かれるのが怖くて1度世界を作りましたがそれくらいしかしていません。アートさんのお父さんは長い時間をかけて5つの世界を作られて管理されていて立派です」


ん?

コイツ、世界なんて作ったの?


その後はありきたりの謝罪だったが一通り謝った。


「アート、どうだい?」

王様がアートに優しく聞くがアートは顔を背けて怖がるばかりだ。


「アート、私が前に同じ目に遭った時も王様は助けてくれたんだよ」

「え?千歳も?」

アートは初めて聞いたから驚いて私を見る。

アートの中で私は強い半神半人なのだろう。


「そうだよ。アート、私ならどう怒るか見てもらってもいい?」

「うん」

私は自身がアートならと思いながら力を使うイメージをアートに送る。

アートは何処か嬉しそうに私を見る。

これをしてもいいの?と言う顔だ。

私はいいんだよと頷く。


「千歳も一緒にやってくれる?」

「いいよ。さあアートの怒りを声にして形にして。

全部吹き飛ばそう。

アートは強い子だよ。

私の祝福を受けてくれた強い神。

まだ6歳だけどアートならやれるよ!

周りを見て!皆居るよ!

何かあってもアートが間違っていなければ皆が助けてくれるよ!

やるよアート!」

私は優しい言い方から徐々に語気を強めてアートを鼓舞していく。


「うん!」

アートは震えている。

メガネを見ると決心が揺らぐのがわかる。

私は何も言わずに待つ。

暫く待つ。

広場がシンとなった気がする。


その時アートが動いた。

「昨日は嫌だった!怖かった!

大好きなパパとママを悪く言われて悲しかった嫌だった!

パパをいじめて楽しかったと笑われた時は凄く嫌だった!

パパをアートが助けてあげるんだ!!」

そう叫んだアートがメガネを睨む。

突然アートに睨まれた圧でメガネがビクッとなる。


アートは私の腕を離れて自分の足で広場に降り立つ。

もう一度アートが震えながら涙目で睨むとアートの圧でもう一度メガネが縮み上がる。


アートの考えは読み取ってある。

後は合わせてあげるだけ。


「行くよ千歳!」

「やるよ!アート!!」


「神の力!」

「神如き力!」


「「爆発!!」」

そう言った瞬間メガネを中心に大爆発が起きるが王様と黒さんが防壁を張ってくれている。

ダメだった時用にご馳走と爆破地点近くの隠匿神さんには私が防壁を張っていた。

王様と黒さん?自動防御があるからこの程度で傷なんかつかないから防壁は張らない。


「「あー、スッキリした!!」」

私とアートが同じことを言って顔を合わせて笑う。


やっとアートにいつもの笑顔が戻った。


「メガネは今の攻撃でボロボロさ。チトセは威力を抑えたんだろ?」

「それで僕達の防御壁に傷をつけるなんてね。アート、やるじゃないか」

王様と黒さんが嬉しそうにアートを褒める。

まあ、王様は頑張る子供が好きなので必要以上に褒めちぎる。


「えへへへへ。そうかな?」

「そうさ。将来が楽しみだね」

「おいメガネ。もう帰れよ」

黒さんが蹴り起こすとメガネはヨタヨタと帰っていく。

隠匿神さんは爆破のタイミングで隠匿の力を解いているので傷だらけでも違和感はない。

…主に切り傷と刺し傷ばっかりなんだけどなぁ。

まあアートが気づかなきゃいいや。


「アート、今ここにいる皆はアートを心配して助けてくれたんだよ。ご飯の前にお礼を言ってきなさい」

私が言うとアートはニコニコといつもの可愛らしい笑顔で「はーい!千歳もありがとう!」と言って、目の前の隠匿神さんに握手をしながらお礼を伝えた後で戦神に飛びついてからテッドとりぃちゃん、ナースお姉さん達と皆のところに挨拶に行く。

皆アートと握手をしたりアートを抱っこしたりしながらお礼のお礼を言ったりしてくれる。


「王様、あんまりアートに変な自信はつけさせないでよね」

「爆破の威力の事?チトセと半々だからまだまだだよね。でもツネノリの練習と同じさ。自分でやった自信がアートを更に成長させてくれるから大丈夫だよ」

王様は嬉しそうに笑いながら言うが私は気が気じゃない。



**********



そう言えばメガネが気になることを言っていたのでりぃちゃんのところに行く。


「りぃちゃん」

「何?ちぃちゃん?」


「メガネが世界を作っていたの?」

「あ、その事?うん。大体5年前にね。

創造の力を失いかけていて失わないように世界を作ろうとしたけど周りの評価とか損得を気にして最後まで作れないでいたの」


「それなのに作ったの?」

「うん。女神ジルツァークって人に頼まれて作ってたよ」


知らない女神の名前が出てきた。

基本的に神の世界で神は、戦神は戦神と言う名前だったりフナルナと言う世界を作った事でフナルナの神と呼ばれたりする。

それなのに何の神かも言われずに「ジルツァーク」と言う名前なのが気になった。


「ジルツァーク…、それってなんて世界?」

「エクサイト。メガネはジルツァークに頼まれてエクサイトを作っていたよ」


「エクサイト…」

「気になるの?」


「ちょっとね」

やはり名前も含めて何もかも気になる。


「ちぃちゃん、伝達してもいい?」

「うん。何?」

そう言う私の脳内にはヨタヨタと歩くメガネの前に立つ東さんとジョマが居た。

私は慌ててりぃちゃんを見るとりぃちゃんは少し困った顔で「メガネが仕返ししないか気になっていたから見ていたの。そうしたらイィト様とジィマ様が現れたの」と言う。


「君が僕に何を思おうが構わないが僕の娘は無関係だ。関わらないで貰いたい」

「僕は何もしてないさ。たまたま昨日は君の娘が僕の居る所に通りがかって君を知る旧友が居ただけだよ」


この瞬間に東さんがメガネを睨む。

その顔には恐ろしいまでの怒りが居た。

東さん、東京太郎は本来恐ろしい神だ。

戦う場面は見たことがないが、10年前王様と私が本気で剣を飛ばしている中を平然と入って行った事がある。並の神には回避不可能の私と王様の剣。1人で出した剣すら回避不能なのに2人で出したそれを平然と回避したのだ。

そして並の神なら殺せる力を持つ私達、ゼロガーデンの皆の攻撃で敵になった神が死なないように防壁を張りつつ防壁の余波でガーデンが壊れないように世界も守り切れる。

それだけの力を普段は隠している。

知り合って10年になるがその理由は知らない。


その東さんは創造に全てをかけているからこそ、創造の事を考えればこそ周りの神からの誹謗中傷も切磋琢磨の一環だと思い受け入れていた。

東さんは粗暴の神々に自分の世界を示威行為の一環で壊されても、創造すらまともにしない創造神達の誹謗中傷も全部自分が悪いからと思って全てを押し殺して心を壊すまで創造に繋げた。

その結果創造が出来なくなるまで追い詰められた東さんは地球の神様の世界…そう地球に身を寄せて居たほどだ。

それでも本能に抗えなかった東さんはこっそり作ったゼロガーデンでお父さん達との出会い、私やジョマとの出会いで変わった。そしてアートを授かったことで更に変わった。

だからこそ東さんは怖い。

睨まれたのはメガネだが私自身が震えあがってしまう。


「言葉遊びは不要だ。君はただ僕の娘に、僕の身内に近付いて余計な事をしなければいい」

「たまたま道端で会っただけなのにどうしろと言うんだい?そんなだからいちいち細かい事を気にして周りから弄ばれて世界を壊されるん…」

メガネは最後まで話せない。


隠匿された光の剣が24本飛んできてメガネの足をこれでもかと串刺しにしていく。


私は慌てて王様と黒さんを見ると2人とも微笑んで「当然だろ?」「仕返しなんて考えたら痛めつけようと思って隠しておいたのさ」と言うし隠匿神さんが「私が教えたんだよ」と照れながら言う。


痛みに蹲るメガネ。

ジョマが前に出るとつま先でメガネの顎を持ち上げる。


「これ以上私の京太郎と私のアートに何かしたら本気で叩き潰すわ。覚悟しなさい。私は京太郎程優しくない。京太郎は優しすぎるから最後の最後で踏みとどまるけど私は踏みとどまらない。もう一度言うわ。叩き潰す」

そう言ってメガネの顎から足を退かすと東さんの手を引いて連れて歩き出す。


「隠匿神、メガネも隠匿してよ」

「粗暴神と同じ感じでいいよ」


「王様?黒さん?」

「ちぃちゃん、魔王さん達は隠匿神さんに頼んで気絶した粗暴神を隠匿の力で周りから認識できなくしたんだよ」


「はぁ?じゃあ今もボロ雑巾になっていて誰も助けられないんだ」

「うん、すごい事考えるよね」

「へへ、千歳とリリオに褒められた。嬉しい」

隠匿神さんが照れ笑いをすると東さんとジョマがくるのが見えた。

顔は暗いのを誤魔化しているのがよくわかる。


「東さん、ジョマ」

私が先に近寄るとジョマが泣きながら抱きついてくる。


ずっと我慢していたんだよね。

本当なら暴れてこの世界ごと叩き潰したかったんだよね。

私はわかっているよと心で言う。

言葉が届くかは気にしない。

他人に聞かれるよりは思ってもし伝わったらいいなくらいで丁度いい。

そんな気持ちでジョマの背中をさする。



**********



「お母さんが泣いているとアートが心配しちゃうよ」

「でも、でも…。私のせいでアートが嫌な思いをしたなんて…」

ジョマは止まらない。

東さんが困った顔で私を見て頷く。

私は大丈夫と目で言う。

その後で東さんが口を開く。


「千歳、すまなかったね」

「何を言ってるの?アートは皆で助けるの。私は東さんもジョマもアートも仲間や友達は誰も取りこぼさないの。だからすまないなんて事は無いの。これも全部私のワガママだよ」

それを聞いていたジョマが更に震えて泣き出す。


「千歳様、千歳様」

「ほら、ジョマが泣くと王様達がまた怒りだすよ」

私は背中じゃなくてジョマの頭を撫でながら言う。


「そうですよジィマ様。今も見てみてください。

泣いているジィマ様を見て怒ったテッドと魔王さん達が剣を飛ばしてますよ?」

私はメガネに照準を合わせると隠匿の力で隠れた剣が36本メガネに飛んで刺して切ってを繰り返している。

テッドに至っては属性解放を行っているのだろう。メガネは火傷している。


「母さん、泣く事はない」

「そうだよジョマ。泣く必要なんてないよ」

「これからの時代は理解してもらえるまで黙ってやり過ごすなんてしないで武力行使だよ」

3人がジョマに近づいてそれなりに励ます。

ジョマは返事が出来ないけど嬉しそうに頷いている。


「王様と黒さんは少し控えなさいよ」

私が呆れながら言うと後ろから駆けてくる足音が聞こえる。



「パパ!ママ!」

その声はアートで一目散に駆け寄ると泣きながらジョマの胸に飛び込む。


「アート!」

「ごめんね!朝はママのご飯残してごめんね!」


「アート!アート!!」

「ママが泣かないで済むようにアートが強くなるよ!パパを悪く言う奴をアートがやっつけるよ!今も千歳とやっつけたんだよ!」

アートが泣きじゃくりながら必死になってジョマを励ます。


「アート、見ていたよ。ありがとう。強くなったね」

東さんが嬉しさを隠しながらアートにお礼を伝える。


「パパもギュッとして!」

「ここでかい?」


「そうだよ!ママが泣いてるんだからアートとギュッとするの!ママも泣いてないでアートと一緒に泣きたいのを我慢しているパパをギュッとして!」


「そうだねアート。ジョマ、泣く事はないよ」

「京太郎…、アート…」

「パパ、ママ」


そう言って3人で抱きしめ合う。

それは凄く尊い一枚の絵に見える。

思わず涙ぐみそうな中、王様と黒さんが「くる?」と言いながら手を広げてきやがった。


誰が行くかバカタレ。



その直後は相変わらず空気の読めないお魚さんが「それよりもアートは俺のお魚で元気になってお魚好きになってくれヨー!」とアートに駆け寄る。


皆からブーイングを食らう中で引き下がらないお魚さんにアートが笑いながら「さっきも言ったけどアートはお魚好きだよ。本当に昨日はハヤシライスの気分だったの。でも千歳が海鮮丼作ってくれてたら喜んで食べてたよ」


「2日連続でもカーイ?」

「うん」

アートが言い終わると即座に私を見るお魚さん。


「ヘイ!千歳!?」

「無理、私のお財布からは私やアートが満足できる海鮮丼のお魚は買えません。それにうちのお父さんは肉より魚派だから居ない間に海鮮丼食べたなんてバレたら大変だもん」


「そりゃないゼーッ!言ってくれればいつでもお届け産地直送だゼーッ?」

「毎度たかる訳にもいかないでしょ?」


「NOォォォ!」

「千歳、海鮮丼食べたい」

アートがお腹を触りながら言う。メガネを倒してようやく食欲が出てきたのだろう。


「ジョマと地球の神様がお米持ってきてくれたならやるよ」

私が言った瞬間に広場の端から後光を出しながら歩いてくる影が見える。

もう誰だかは分かってしまう。


「そうだろう、そうだろう」

そう言って現れたのは地球の神様。


「何やってんの?」

「ふふふ、アートがお米を求める事は知っていた。

米の神に頼んで特別のブレンド米「天上天下唯我独尊」を入手したぞ。

アートや、お腹いっぱい食べなさい」

そう言って両手から米を出しながら笑う地球の神様。


しかもそのまま止まりやしない。

「ふっふっふ、友情神、いや漁業の神よ!」

「NO!俺は友情神!」

あ、地球の神様の認識も漁業の神なのね。

本当友情神じゃなくて魚神とか漁業の神とか素潜りの神になればいいのにと思う。


「いや、魚の神よ!お前が捕ってきた魚達はこの米に見合うだけの魚なのかな?ふはははは!」

あ、また大人気ない事し始めたよこの人は…。

私は6年前に私の為に本気を出して複製神さんと隠匿神さんを巻き込んでフルーツを作ってきてくれた時の事を思い出す。

地球の神様は部下に塩を送るとかそういうことが出来ない。

本気で準備してしまう人なのだ。


「何を!?俺のお魚さん達が負けるわけがないゼーッ!」

「ふっ、本業の素潜りを片手間に友情神を目指す奴がよく言うわ!」


「ちょっと、やめてあげなさいよ。とりあえず地球の神様は炊飯器とタコ焼きの機械を出してね」

このままだと長引くのがわかっているので私はさっさと止める。


「むぅ、もう少し楽しませる気は?」

「ないわよ。アートもお腹ペコペコなんだからね」


「おお、アート…、済まないね」

「おじちゃんお腹空いた」

こう言う時のアートはまとめる力が強くて助かる。



**********



炊けたお米「天上天下唯我独尊」は私でも分かる程に美味しくて驚いた。

「地球の神様、このお米でちょっと試してみたいんだけどいい?」

「兄であろう?構わぬぞ」

そう、お米が好きすぎてたまらないお米バカの兄ツネノリに食べさせてみたくなったのだ。


「ありがとう。んじゃツネノリ!すごいの行くよ!」

そう言って「天上天下唯我独尊」を送り付けてみる。


さて、そろそろ感想を聞いてみるか。

そう思ったところでツネノリは違っていた。

ありえない行動に出たのだ。


「千歳!なんだこれは!?今まで食べたどのお米様よりも旨いぞ!」

「はぁ!?なんでツネノリの声がするの?今私は神の世界に居て人間が神の世界と話すのはかなり大変なんだよ?」

あり得ない。

本当に規格外の事をしてきた。


「そんなことは知るか!このお米様の事を千歳に聞きたい一心で次元球を握りしめたら出来た!」

「嘘でしょ!?何なのウチのお米大使は…」


「千歳、この米の名は何と言うのだ?」

「「天上天下唯我独尊」だって」


「素晴らしい。このお米様はどこで手に入るのだ?」

「無理だよ」


「な…何!?何故だ千歳!」

ツネノリの困惑する顔が目にもの浮かぶ


「地球の神様がお米の神様に特別に頼んで作って貰ったブレンド米なんだってさ」

「そ…そこを何とかならないか?千歳の力で何とかならないか?何か千歳が支払えるもので何か手に入れる方法は無いか?」


「はぁ!?なんで私なの?」

何を言い出すんだ何を?

お前はもう27で一児の父だろう?


「俺では神の世界には行けないし、行って雑用をすれば貰えるのなら今すぐに飛んで行きたいくらいだ」

「マジかよ…」


「頼む千歳!多分俺は死ぬ前に食べたい物と聞かれたらこの「天上天下唯我独尊」をメリシアに炊き上げて貰い千歳が魚神に捕って貰った魚で作る漬けマグロ丼と言う程だ!」

「ええぇぇぇ」



ちなみにツネノリの執念は常軌を逸していて広場中に聞こえていた。


「これ千歳のお兄さんの声なの?」

なんてナースお姉さんが反応している。


「俺のお魚を死ぬ前に食べたいって言ってくれる人が居て嬉しいゼーッ!!」

お魚さんは泣いている。


「ツネノリ!欲しいの!?」

「アート!アートもいるんだな!頼む!俺に天上天下唯我独尊を授けてくれ!」


「地球のおじちゃん。お願い〜」

アートが地球の神様に飛びついてお願いをする。

「むはっ、アートに頼まれては断れぬなぁ。千歳よ、お前の兄も半神半人にしても良いかな?」

「はぁ!?無理!!」

何でお米ひとつの為にツネノリまで半神半人にせねばならないのだ?

ツネノリは綺麗で優しい奥さんと可愛い娘が居るパパなのだ。

まだ世界の為なら許せるがお米の為なんて言語道断だ。


「ふむ。米神に言わせるとブレンドが面倒らしいのだ」

「ブレンド米だからブレンドが面倒なの?」

私はそう言うと地球の神様はツネノリに話しかける。


「千歳の兄よ」

「はい!なんでしょうか地球の神様!」


「元になる「天地創造」「明けの明星」「天使の嘆き」「悪魔の大炎上」「終わらない明日」と言った米神が作った米を一粒単位で奇跡的にブレンドをすると出来るそうだ。

今回はアートの為にガーデンの神を真似て0と1の間を作ってそこに監き…ではない、招いて完成するまで頑張って貰ったのだ」


…なに?またこの人はそんな事をしたのか?


「はぁ?何やってんの?監禁して終わるまで帰さなかったの!?」

私は地球の神様に文句を言おうとするが「千歳、うるさい!黙っていろ!」とツネノリが怒鳴ってくる。


「地球の神様!それが出来れば俺にこの天上天下唯我独尊を与えてくださるのですか!?」

「それなら良いと米神も申しておる。だが残った米や失敗したからと捨ててはならぬのだぞ?他の米も米なのだぞ?」


「仮に天上天下唯我独尊のブレンドが不可能だった時、そうしたら俺は生み出されたお米も残ったお米も遜色なく食べ尽くして見せます!!」


…おい。

それメリシアさんが大事にしてるツネノリがメリアさんの話でルルお母さん達に覚悟を問われたときに答えた奴だろ。

私は追体験してそれを見たぞ?


「よし!その覚悟は見事だ精進すると良い。後で千歳に持たせよう。頑張るのだぞ」

「はい!ありがとうございます!!」


…もういいや、好きにして。



「面白い話だったね。ねえチトセ。ウチのツネノリにも為そうよ」

「ええぇぇぇ?」

黒さんが余計な事を言う。


「ふむコピーガーデンで試すと言うのだな。やるが良い」

それを聞いた地球の神様も笑顔で賛成しだす。


「…おーい。ツネノリさっきはありがとう。

うん。ちょっと凄いものを送りつけるからさ食べてみてよ」


この先は以下同文と書いても遜色ない話だった。

違うのは天上天下唯我独尊を食べたツネノリは瞬間移動で神の世界までこようとした。


「見える!今の俺には千歳が見える!あそこに行けばお米様に出逢える!」と言って飛ぼうとしていた。

慌てて東さんが止めてくれて助かったのだが、まさかそこまでの執念を見せるとは思わなかった。

ジョマと東さんと呆れながら慌ててしまった。


その後は何とか天上天下唯我独尊を手に入れようと画策して自分でブレンドすると言い切っていた。


「本当ウチのお米バカは…」

「米神が喜んでいるぞ?」


「でしょうね。お米の神様にはちゃんと監禁したことは謝りなさいよ」

「ああ、そうしよう」



**********



ナースお姉さん達も戦神も皆お魚さんの魚を大絶賛でアートも海鮮丼を喜んで食べていた。

足りなくなると複製神さんが複製してくれてみな心ゆくまで食べていた。


途中でお魚さんがツネノリに漬けマグロ丼をと言うので天上天下唯我独尊で作った漬けマグロ丼を差し入れたら「こんな幸せな事が許されるのか!?いやこの後で何かトラブルなんかに見舞われるのではないか!?」と泣いて喜んでいた。

それをりぃちゃんの力で見たお魚さんも「俺の魚でこんな泣いて喜んで貰えるなんてサイコーだゼーッ」と泣いていた。


「ちぃちゃん、お兄さん…娘さんが食べたがっているのに「済まない!いくらチヒロでもこれは!」って謝って娘さんが泣いて…」

「はぁ!?バカじゃないの?何やってんの?「千聖!聞こえる?千歳だよ!千聖の分は今から千歳があげるから待っててね!」」

そう言ってからツネノリにムカついたのでヒラメと鯛も漬けにして三色丼にして差し入れてあげた。


「千歳!酷いぞ!」

「どっちがよバカ!軽々しく神の世界まで通信寄越さないでよ恥ずかしい!」


「ねぇチトセ」

「試さない。常泰泣いたら可愛そうでしょ」

黒さんの言いたい事はわかる。

なんで姪っ子に続き甥っ子まで泣かさなきゃいけないんだ。


その後はタコ焼きもアホみたいに焼いた。

これに関しては戦神が隠れた才能を発揮していて器用にタコ焼きを焼き続けていてカリカリのフワフワに焼けていて上手だった。

タネの仕込みは私だがあんなに美味しくは焼けない。

あまりに皆から絶賛された戦神は「千歳、このタコ焼きはフナルナに広めてもいいか?」と言い出した。


「どうぞどうぞ。ジョマ、鉄板の作り方をフナルナに授けてくれるかな?」

「はい!喜んで!」

ジョマがフナルナを装飾出来ることに喜んでニコニコとする。


「ママ楽しそう」

アートがニコニコと喜ぶジョマを見てそう口にしていた。

「そうだよアート。

ジョマはこうやって皆を笑顔にする為に頑張っているんだよ。

頑張っている時が本当に楽しくて仕方ないの。

うまくいかない時に悲しむ人も出た事があるけどママは誰かを困らせたいんじゃないんだよ」

それを見て本当に嬉しそうにするアートを見れて私は良かったと思う。

そして皆も同じで顔を見合わせて笑顔になってしまった。



私は夕方に帰宅すると複製しておいたお刺身と海鮮丼を出しながらお父さんとお母さんに経緯を説明する。


「ツネノリの奴はまったく…」

「本当、千聖が可愛そうね」

お父さんとお母さんがやれやれと呆れる。


「じゃあお父さん、これ千聖にあげていい?」

私は出した刺身達を指差して聞く。


「何!?嘘だろ!?」

お父さんは世界の終わりみたいな顔をすると「親子揃ってまったく…」とお母さんが呆れながらつっ込む。


「お父さん、長生きをしたいみたいだから今日は休肝日にするならこのお魚は全部ウチで消費出来ます。拒むなら海鮮丼とお刺身半分は金色お父さんと千聖にあげます」

「くっ…何て残酷なんだ…。わかったよ」

苦しんだ末に休肝日を受け入れるお父さん。

魚好きだからお魚を使えば飲酒を控える。


「じゃあお父さんのお財布と家中のお酒は0と1の間に格納しておくからね」

「マジかよ、そこまでやるか?」


「大マジよ」


「千歳、ビリン君のところに行くの?」

「うん。待ってくれているだろうし神の世界に行きたいのを我慢して王様に頼んでくれたから行ってくるよ」


「じゃあよろしく言ってね」

「千歳、ビリン呼ぼうぜ?」


「呼ばないよ。ビリンさん来るとお酒が許されちゃうもん。じゃあね行ってきます」



そうして私が迎えに行くとビリンさんが「ご馳走様チトセ」と出迎える。


「へ?」

「父さんが複製しておいた海鮮丼を食べたんだよ。母さん達も大喜びで食べていたよ」


「あらら。じゃあこれは要らなかったかな?」

私はビリンさんと食べようと格納しておいたお刺身を見せる。


「いやいや、俺はそこまで読んでいるからお腹に余裕もあるしチトセ飯は食べ尽くしたい」

そう言ってニカっと笑ったビリンさんが手を出してくる。

本当に嬉しそうに私のご飯を食べてくれるから嬉しいし作り甲斐がある。


「おっと、ビリンさんのくせに」

「酷え。なあ…」

何を言いたいかわかる。


「うん。今日は一緒の時間が少なかったからセカンドに行こうよ」

「おう。のんびり魚を食べながら過ごそうぜ」


2人でセンターシティのホテルに泊まってのんびりと魚を食べながらゴロゴロする。

今日の出来事を話すとビリンさんは表情を変えながら適度な相槌をくれる。


「ツネノリさん、神の世界を目指せばいけるって事か…」

「天上天下唯我独尊が絡んだからだと思うけどね」


「あ、そんな気する」

「でしょ?」


「アートの事も何とかなって良かったな」

「うん」


「だがエクサイトだっけ?気になるな」

「うん。東さんを酷評した創造神崩れが作った世界」


「ああ、それもだけどさ」

「へ?」


「多分何らかのトラブルになると思う」

「そっちか…」


「俺達でも見てみたいんだ。神様やジョマならまだしもアートはな…」

「うん。私も考えてるよ」


そう、アートは東さんを酷評したメガネが創った世界を気にするだろう。

父が酷評されるほどにメガネの世界が素晴らしいのか。

それともまともな世界を創れないメガネが東さんを悪く言う事で保身しているのかもしれない。

そして見たがることを否定すれば暴走すると思う。


「チトセ、辛くても見守ってあげてくれないか?陰ながら助けてあげて欲しい」

「うん」

私が思っている事をビリンさんも言ってくれる。

ずっとこうして私の後押しをしてくれる。


「後さ、力の逃げ場がなくなるのは辛いかも知れないけどアートを守る時に手が足りなければ俺も神の世界に行かせてくれよ」

「えぇ、必要無いと思うよ?」


「それでもさ。アートは俺たちで守ろうぜ」

「うん。わかったよ」

6年前にアートを守ると言った事を今も守ってくれている。

律義で誠実で…今も本当に好きでなくてはならない人だ。

嬉しい気持ちで顔を見てしまう。

そうするとビリンさんが何かを思い出した顔をして私を見る。


「あ、そうだ。ゴメン」

「は?」


「昨日の赤ん坊の話を意識してたら母さん達にバレた」

「はぁぁぁぁっ?」


「ウチに残ってたサエナの着替えを手に取って見てたら母さん達に見られて…


「おやおやおや?ビリンはパパになりたいのかな?」

「やっとチトセさんのお許しが出たのかしら?」

「やだ!どうしよう!待ち遠しい!」


って言われた」


「絶対にあれこれ言われる奴じゃん」

「ゴメン」


「仕方ないなぁ」

私はビリンさんに呆れながらキスをした。

そして「赤ちゃんは授かり物だから流れに任せるからね」とだけ言った。


真っ赤になったビリンさんは「よろしくお願いします」と言う。

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