第五話 治療
「取りあえず傷の状態を確認するよ。」
治療師の婆さんは少年の腕を舐め回すような視線で確認した後、その場にいた他の人物には聞こえない声量でブツブツと何かを唱えた。その直後に手に持った杖に緑色の光を灯った。
「弾かれる…。」
緑の光は少年を覆ったが腰の部分に光が届いた瞬間、魔法は最初から存在しなかったかのように消えていった。
「おい、小僧の腰の部分なんかあるだろ。」
「はよどかせ。」
「そんなもん治療の前に取り除いておくのが普通じゃろ。」
「はい、すみません。」
師匠は何かに怯えるように少年の腰についていた道具袋を大急ぎで外し、別の部屋へもっていった。
「それでいい。」
「それじゃあ改めて確認するよ。」
治療師の婆さんは改めて何かを唱え直し緑色の光を灯した。
「ああ、骨にヒビが入っておる。」
「それに体が弱って熱もあるな。」
「後これは…。呪いか?」
「この呪いは知っておる。」
「迷宮の呪いじゃ。」
「誰か知らんが、暴れ迷宮にでも手を出したか?」
そう言うと、治療師の婆さんは師匠の方をちらっと見る。師匠は隣の少女を見るが気まずいのか目をそらした。
「まあ良い。」
「呪いは専門外だから手を出しようがないが、それ以外は纏めてさっさと治してやる。」
そう言うと治療師の婆さんは杖から緑の光を連続で放射し続ける。緑の光は少年の体に留まる訳では無く大気へと拡散していった。その様子を眺める事しかできない二人は無言で部屋の隅に立っていた。何か出来る事がある訳でも無く邪魔になるのも嫌だからだ。
「何ジロジロ見てるんだい。」
「邪魔だよ。」
「何もせずに突っ立っているのなら部屋から出て行っておくれ。」
二人はその言葉を聞いて、部屋から出ていく事に対して少しためらった。しかし、邪魔にしかならないという現状を理解し部屋から出ていった。