第三話 救出
「助けるからちょっと待って。」
少年はさっきまで掴まれていた腕をもう片方の腕で服の上から擦りながらそう言った。少年は気合を入れて立ち上がり対象の上に乗っている迷宮の枝を叩き粉砕していく。
「動かないでね。」
大雑把に周辺を砕き終わった後、少年は槌が間違って救出対象に当たらないように細心の注意を払い砕き始めた。その様子を土の下から見ていたのか若干救出対象の態度が軟化した。
「えっと、その、ごめんなさいね。」
「力を込めすぎたみたいで…。」
地面の下から若干の魔力の放出を感じるが、魔力は垂れ流されるばかりで魔法と言う形を作り出せていない。
「大丈夫です。」
そう少年は言葉を返したが、若干不安になったのか枝を砕く手を止めて後ろを向いて少し離れた。そして慎重に服をめくって右腕を確認する事にした。右腕には最初に掴まれた五本の指の痣がしっかりと刻まれている。後から増殖した分は力が弱かったのか痣は残っていないようだ。少年は手を開いたり閉じたりして作業をする上で問題が無いか入念に確認をする。
「何かジンジン痛むけど…。」
「ま、行けるやろ。」
そう小さく呟くと、元の作業に戻った。
「うん、大丈夫です。」
「あら、そう。」
「ならよかった。」
聞こえてくる声は若干安心したように聞こえた。
そうして慎重に掘り進み、救出は完了した。
救出に随分と時間が経ってしまった。
出てきた要救助者は少年と同じぐらいの年代の土に塗れた少女であった。ただ人間の少女にしてはやけに体つきががっしりとしているように見える。
「助けてください、ありがとうございました。」
「いえいえ。」
「いえいえ。」
お互いに暫く謙遜しあったが、途中で話が進まないことに気が付いたのか二人は同時に謙遜をやめた。
「所で、貴方はこの迷宮の迷宮剪定士ですよね?」
厳密に言うと少年の師匠が正式な迷宮剪定士ではあるが、少年も後継者であると言われているし違うとは言い難い。
「一応?」
「そうですか、という事はもちろん私の弟子入りの件についての話は聞いてますよね?」
「何の話ですかそれ?」
「一切聞いていませんが。」
「えっ?」
「はい?」
二人の間で微妙な空気が流れる。
「おーい、どこにいるんだ。」
「そろそろ帰るぞ。」
そこに救いの手と言わんばかりに少年の師匠が現れた。少年は大急ぎで駆け寄り報告をする。
「どうした、そんなボロボロになって。」
「迷宮管理外の魔物にでも襲われたか?」
「いや、そう言う訳じゃないよ。」
少年は師匠を少女の元へ連れて行った。そして説明をしようとしたが。
「んなぁ事より、まずその痣何とかした方が良いだろ。」
という師匠の一言により、事情を話すよりも先に家で治療を受けることとなった。