第二話 出会い
少年は迷宮の枝の切れ目まで来ると、少年は迷宮を手で軽く叩いた。迷宮の幹は真四角のブロックが積み上がった構造でありとても人が下りられるような状態では無いが、少年が叩いた事に迷宮が反応し、迷宮の幹が少しずつズレていく。少年はその僅かなズレを利用して降りていった。
「とーちゃくっと。」
地上では大きな迷宮の枝が一本横たわっていた。
付けた傷跡、抉れ方を少年は自らの記憶と参照する。
「うん。」
「間違い無い。」
少年は槌で迷宮の枝を叩いて細かく砕きつつ、枝の下敷きになった人が居ないか確かめていく。その顔は気楽そのもので、多分大丈夫だろうという少年の何の根拠のない自信が透けて見える。
少年はテンポよく枝を槌で叩いていく。
枝の中ほどまで来ると破壊する作業に飽きが来たのか視線をチラチラと上を向いている。
急いで上での作業に戻りたいようだ。
そうして上を見上げながら槌を振るっていると少年の右腕に痛みが走った。
「痛っ。」
間違えて何処かに腕をぶつけたのかと思って少年は自分の腕をまじまじと見る。肘の部分や指の隙間なども確認したが、腕には作業中についたと思われる土が付着していただけだった。
「ま、気のせいか。」
僅かな痛みは気のせいだったのだと思い、少年は迷宮の枝を砕く作業を再開しようとしたがどうにも集中できない。
「やっぱり痛い。」
「後で師匠に見てもらおうかな?」
少年は僅かな怒りを込めて改めて腕を見ていると少年の腕に付着した土は段々と太い五本の指へと変化していった。そして少年の腕を全力で締め付け始めたのだ。
「え。」
槌を振るって追い払おうとしてもリスクを考えると狙いが定めきれず不用意に振るう事が出来無い。やがて指は五本から十本、十本から二十本とドンドン増殖していき、腕だけでなく足も締め付け始めた。少年は足を急に捕まれたことによりバランスを崩し倒れ込んだ。
「こっちよ。」
「早く助けて。」
何処からか声が聞こえてきたが、気にする余裕はない。
「こっちだって言ってるでしょ。」
「もっと締め付けるわよ。」
騒がしい声が気になり、指を引きはがそう格闘しながら少年は声が聞こえてきた方を向いた。
「あ、やっとこっち向いた。」
「解除するわね。」
指が土へ戻り痛みが無くなった。
「あなたがここの迷宮剪定士ね。」
「話は聞いているわね。取りあえず早く助けて。」
少年の視線の先には地面に埋まった人の影が見えた。