第一話 迷宮の上にて
どうぞよろしくお願いいたします。
迷宮。
それは、栄光と絶望を餌に成長を続ける物。
生まれ落ちた迷宮の種は多くの死を吸い、まるで太陽を求める植物のように上へ上へと伸びてゆく。そして空高く雲を突き抜けるほどの高さになると迷宮の種をばら撒き、崩壊していく。
「そろそろここら辺も壊さんとまずいな。」
一人の壮年の男が髭に触りながらそう言うと腰に結びつけられた道具入れから槌を取り出した。
大した力が込められているように見えないのに男が持つ槌が触れた部分は、ボロボロと崩れさり崩壊していく。
「おい、ちょっとこっち来い。」
壮年の男は誰かに呼びかけた。
そして、その呼びかけに答える声がある。
「はいはーい、ちょっと待って下さいーー!!」
「今向かいますんで。」
「ま、とりあえず。」
「この部分は切り離さないと。」
そう返した少年は急いで迷宮の枝を切り離しにかかる。
全力で槌を振るい、迷宮を壊すのだ。
「っと、まぁこんなもんかなぁ。」
大地へ落ちていく迷宮の枝の一部を少年は視界の端で眺めつつ、大急ぎで迷宮の枝から枝を経由し少年は壮年の男の元へやってきた。
下を見れば目が眩みそうな高さだが、少年は慣れているのかスイスイと何も問題が無いかもように移動してきた。
「はい、どうしました師匠。」
「まず言いたいことは色々あるが…。」
「取りあえず枝が落ちる場所、確認したか?」
少年は、頭をかいて空を見上げる。
「今日もいい天気ですねぇ。」
空は晴れ渡り、小鳥の鳴き声が響いていた。
「言い訳はそれだけか?」
少年は猛烈に抗議を始めた。
「いや、師匠が呼んだから私急いだんですよ。」
「つまりこの責任は…。」
その言葉は頭頂部に振り下ろされた拳骨によって遮られた。
「あの枝が落ちた場所に人が居たらどうなる?」
「お前は命に責任が持てるのか?」
「確かに急に呼びつけた俺にも悪い点があった。」
「でもいつも言っているだろう、仕事に責任を持てって。」
少年は膨れ面で話を聞いていた。
「分かりましたよ。」
「んじゃ、確認してきます。」
そういうと、少年は迷宮の枝から降りて下へ向かった。