第8話 二人の始まり
林間学校を終え数日、海斗はいつものようにバスケ部の朝練習を終えた後教室に向かう。教室に入ろうとすると廊下でばったり美雨と遭遇した。
(あっ)
「おはようございます。海斗さん」
「おはよう、桜葉さん」
林間学校のあの日から、海斗と美雨は晴れて付き合うことになった。だが付き合うことになったからと言って一緒にいられる時間が増えたわけでもなくお互いいつも通りの日々を過ごしている。
授業とHRも終わり美雨は、今日は家のことがないので海斗のバスケ部の練習をギャラリーから観ていた。バスケ部は、今試合をしているところだった。
相手のディフェンスを巧みにかわし、ゴール付近までボールを運びゴールからやや離れたところからボールを投げシュートを決める。シュートを決めた瞬間、チームメート達が歓喜し拍手をした。
(海斗さん、すごいなぁ…。やっぱりかっこいい)
美雨は、海斗に目を奪われ頬をほんのり紅く染めていた。既に美雨は、恋する乙女の顔になっていた。
(あっ…)
海斗は試合をしてしばらく休憩してスポーツドリンクを飲んでたいる時、ふとギャラリーにいる美雨の顔が視界に入りお互い一瞬固まった。
(美雨、やっぱり遠くから見ても綺麗だなぁ)
美雨にやっぱりドキドキしてしまう海斗。
「海斗、どうした? 」
「え? ゲホッ、ゲホッ…」
チームメートに突然、声をかけられ海斗はむせてしまいチームメートの男子が海斗が見てた方向を向く。
「あれって同じクラスの桜葉さんじゃん。何、どうしたの? 」
「なんでもないでーす。俺、ちょっとシュート練するわ」
そう言って海斗は、ごまかしその場から立ち去ろうとするが「ちょっと話してこいよ」と言われ、美雨と二人で体育館の外で話をすることにした。
「海斗さん、お疲れ様です。練習すごかったです。最後のシュートかっこよかったですよ」
「あ、ありがとう」
お互い沈黙がしばらく続き海斗が何を話そうか悩んでると美雨が話を切り出した。
「その…海斗さん…そういえば私達って付き合ったからと言ってもそれらしいことまだ一つもしてませんよね…」
「それもそうだよな…」
(たしかに美雨の言う通りだ。よく考えれば付き合ったからと言ってまだ大きなアクションを全く起こしていない)
「じゃあ…デート…するか? 」
「デート…ですか? いいですよ 」
「うん。俺、行きたいところあるんだよね」
二人が幸せそうに会話している頃、二人の会話をバスケ部のチームメートは、扉から盗み聞きをしていた。
「なぁ、どんな感じ? 」
「もう、ダメだ。俺、胸キュンキュンでたまらない。めちゃくちゃ尊いw 」
「いやー海斗に彼女が出来るとはね」
「いや〜…青春だね。学生の頃を思い出すよ〜」
チームメート達もバスケ部の監督も、教え子である海斗に彼女ができたことに嬉しそうな様子だった。
「まぁさここは、あの二人を暖かく見守ろうよ。みんな」
春人も、友人である海斗の新たな恋の邪魔になるようなことはしたくないようだった。
次の日の昼休み、美雨はいつも通りあすか達とお昼を食べている時あすかから海斗の昔の話をいろいろ聞いていた。
「美雨ちゃん、海斗と付き合うことになったんだってね…」
あすかは、海斗が美雨と付き合うことになったことに少々ショックを受けているようだった。
「うん」
「美雨ちゃんなら安心だな。海斗のこと、頼むね。海斗、ああ見えておっちょこちょいなところあるから」
少し落ち込んだ様子になった後にあすかは、元気そうに明るく振る舞った。
「そうなんですか? そうは見えませんが」
「そんなことないよ〜」
それから美雨は、彼の幼馴染であるあすかから海斗の小さい頃の話をいろいろ聞かせてもらった。彼女として彼氏である海斗のいろいろな話を聞けて嬉しかった。
放課後、部活を終え夕飯の当番で街に買い物に出かけていた海斗は帰り道、おしゃれな感じのアクセサリーショップを見かけた。
(こんなところにアクセショップあったんだ。「本日開店」ってのぼり旗あるし、今日開店したのか…。しても可愛いのたくさんあるなぁ…。桜葉さんってこういうの喜ぶかなぁ)
気になって海斗は、外の窓から店の中を覗く。中には、色んなアクセがあった。
「宜しかったら見て行きますか? 」
ぼんやりと眺めているとお店の人が声をかけてきた。
「いや…いいです。流石にちょっと…」
店の中には、女性しかいない…。流石に男子高校生が入るのは気が引ける。
(まぁ、せっかくだしちょっと見ていくか…)
海斗は、店の中に入る。店の中に入ると周囲の女性から「あの人、彼女へのプレゼント買いに来たのかな? 」「ちょっとあの人、よくない? 」等の声が聞こえてちょっと気まずかった。
夜、夕飯を食べ終わった海斗は、部屋のベッドに寝転んで自分の机に置かれたアクセショップで買った物が入っている箱を見つめた。
(思わず買っちゃったけど…桜葉さん、喜んでくれるかな)
その後海斗は、美雨になんとなく電話した。
(プルルルル…プルルルル…)
「(なんて話そうかな…)」
そう考えていると電話から声が聞こえてきた。
「はい、もしもし」
「あの七瀬です」
「海斗さん? 」
「桜葉さん、今晩は。夜遅くにごめんね」
電話の主は、美雨だった。
「いいえ、構いませんよ。なんですか? 」
電話越しから聞こえる彼女の声に海斗は、思わずドキッとしてしまう。
「桜葉さん、デートのことなんだけどさ今週の土曜日、空いてる? 」
「今週…ですか? はい、大丈夫ですよ。その日なら空いてます」
美雨は、電話の前にあるカレンダーを見ながら確認した。
「その日にさ、デートしない? 」
「いいですよ♪」
「じゃあ、決まりね。おやすみ」
「おやすみなさい」
お互い電話を切った後、部屋に戻った美雨はベッドで胸を抑えながら天井を見上げる。
(海斗さんと初デート…。あぁ〜ドキドキします〜‼︎)
美雨は、ベッドでうつ伏せになり初デートが嬉しいあまり枕を抱きしめた。
デート前日の夜、自分の部屋で美雨は嬉しそうに服を選んでいた。
(どっちがいいでしょうか…? こっち……でしょうか? うーん…)
「お嬢様、何を悩んでるのですか? 」
美雨が着る服で悩んでると部屋の扉が開いておりどうしたのだろうと気になった浅倉が部屋に入ってきた。
「明日、海斗さんとデートで着る服を悩んでいて…。どっちがいいでしょうか? 」
美雨は、白色の肩が見えたブラウスと白色のワンピースを持って浅倉に聞く。
「お嬢様が一番気に入った方にしてみてはいかがでしょうか? 」
「…」
美雨は、浅倉にそう言われしばらく悩んだ後に着る服を決めた。
ついにデートの日がやってきた。当日、海斗は駅で待ち合わせていた。今日の海斗は、髪は綺麗に整え白の半袖のTシャツの上にノースリーブのジャケット、下は黒のジーンズをはいている。駅の外で壁に寄りかかって待っていると美雨がやってきた。
「海斗さーん」
「あっ、桜葉さん」
声の聞こえる方を向くと美雨が駆け足で海斗に向かってくる。美雨は、白の半袖のブラウスに白いバラ柄のスカート、片手には、白のバッグを持っている。
「海斗さん、お待たせしました。それにしても、かなり早いですね? まだ15分前ですよ? 」
海斗の方にやってくる美雨。彼女の透き通るような白い肌に綺麗な髪に思わず海斗は、ドキッとしてしまう。何より私服を見るのは初めてで海斗は、固まってしまう。
「海斗さん? どうかしたのですか? 」
「へっ⁈ あ…あぁ、うん。今日、可愛いなぁって」
下から顔を覗き込む美雨に海斗は、ドキッとして思わず思っていたことが口に出てしまった。
「え? ありがとうございます」
美雨は、海斗に「可愛い」と言われ嬉しいあまりドキッとして頬をほんのりと紅く染める。
(可愛い…。海斗さんに可愛いって言われた…嬉しいです)
「その行こうか? 」
しばらく沈黙が続いた後、海斗から切り出した。
「はい」
二人は、手を繋ぎ電車に乗る。二人が向かった場所は、電車で30分、歩いて15分の場所にある桜ヶ丘シーパラダイスだった。
「水族館なんて私、来るの初めてで楽しみです♪」
「俺がいろいろ教えるよ」
二人は、水族館に入る。入る時、海斗は美雨の方をふと見る。楽しみそうに目をキラキラとさせる美雨に海斗は、安心した。中に入って二人はいろいろな生き物を見た。
「見て、桜葉さん。あれがマイワシの群れだよ」
「わぁ、すごく綺麗です」
「でさ、あっちにいるのがジンベイザメで…」
美雨は、海斗に水族館にいる生き物についていろいろ教えてもらったり海斗とイルカショーを観たりとても楽しい時間を過ごした。
それから1時間くらい色々見てから水族館を出てお互いベンチで一休みすることにした。
「なんだかとても楽しかったです。私、誰かと休みの日にこうやって出かけたりするの憧れだったんです。それに水族館来るのなんてはじめてだったし…」
「俺も。水族館に来るの小学校の時に父さんと母さんと一緒に来た時以来だよ」
「そうなんですか…。そういえばそろそろお腹が空きませんか? 私、お弁当作ってきたんです」
「マジ? お弁当あるの? 」
美雨は、バッグからランチボックスを取り出し中を開ける。中には、サンドイッチやサラダが綺麗に入っていた。
「すごい。これ全部、美雨が作ったの⁈ 」
「はい、浅倉に教えてもらって」
「すごい美味そう」
美雨の手をふと見ると指にはいくつか絆創膏が貼られている。きっと慣れない料理に苦労したのだろう。
「いただきます。 うん‼︎ すごく美味しい」
海斗は、サンドイッチを一切れ手にし口に運ぶ。美雨が作ってくれた物だからかとても美味しかった。
「嬉しいです」
「美雨も食べろよ。ほら」
海斗は、新しいのを一切れ取り出し美雨に差し出すと美雨は「はむっ」と小動物のように口に入れる。
(やばい。可愛すぎる)
「あ、そうだ。美雨、渡す物あるんだ」
「え? なんですか? 」
なんだろうとワクワクと期待を膨らませる美雨。海斗がカバンから取り出したのは、小さなピンク色の箱。それを美雨に渡した。
「開けていいですか? 」
その言葉に海斗は、頷いた。
美雨が箱を開けると中には、桜色のヘアピンがあった。
「可愛い‼︎ これ、私にですか? 」
「うん。えと…付き合いはじめた記念」
「ありがとうございます。大切にします‼︎ よかったです」
「どうしたの? 」
「私、心配でした。海斗さん、葵ちゃんのことまだ引きずっているんじゃないか、無理してるんじゃないか」
「葵のことはもう大丈夫だよ。ずっと引きずってたら葵が悲しむし、それに今は美雨のことが本当に好きだから」
「海斗さん…嬉しいです」
「そうだ、つけてあげる」
海斗は、ヘアピンをとり「この辺かな? 」と言い美雨のおでこにつけてあげた。思っていた通り似合い「さすが、俺のセンス」と海斗は、つぶやいた。
「できた。ねぇ美雨。写真撮ろ? 」
「はい」
二人は、ベンチで写真を撮る。撮った写真を見るとそこには笑顔で写る二人の姿があった。
「もう、お前、マジ可愛いすぎw」
「海斗さんだって、カッコいいです」
帰り道、街中を歩いていると美雨は宝飾店のあるポスターに目が止まった。
「海斗さん、見てください」
「何? 」
美雨が見ているポスターは、男女が向かい合い男性が女性に指輪をはめるポスターだった。
「これって婚約指輪でしょうか? 」
「そうじゃない? 」
「私、こういうのにすごい憧れます。いつかこんな素敵な指輪を誰かにはめてもらって結婚式を挙げたいです」
「桜葉さん…」
隣で憧れで目をキラキラと輝かせる彼女は、乙女のようで可愛いらしかった。
夕方、電車を降りてホームを出て別れ際、すでに日が沈もうとしていた。
「今日は、ありがとうございます。楽しかったです」
「俺も。桜葉さんが楽しんでくれてよかった。じゃあ、また学校で」
そう言い帰ろうとする海斗の手を美雨は、ぎゅっと掴んだ。
「待ってください、海斗さん」
「その、ずっと思ってたのですがそろそろお互い下の名前で呼びあいませんか?」
「どうしたの? 急に」
「その、あすかちゃんから聞いて。付き合っている者どうしは下の名前で呼び合うものだと…だから、ダメですか」
「え? いいよ。じゃあ、美雨」
「か…海斗君」
「美雨‼︎ 」
「海斗君‼︎」
お互いの名前を呼び合い二人は、抱きしめあった。美雨は、海斗に自分の名前をはじめて呼ばれなんだか焦ったくそして嬉しかった。
「海斗君…、私、キスしたいです」
美雨のその言葉に海斗は、笑顔で「いいよ」と言い二人は、優しく唇を重ねた。美雨にとっての初デートは、最高に幸せな物になり忘れられない思い出になった。
付き合いはじめた二人。名前で呼び合い距離も縮まりました。これからどうなるのか