第5話 海斗の過去
期末試験が終わって全ての答案が返却された日の放課後のことだった。もう7月になり生徒たちは、皆衣替えをしていた。
「海斗さん! 海斗さんのおかげで数学、平均点以上取れました! 」
隣の席の美雨が自分の答案を見せ海斗に嬉しそうに笑顔で言った。
「…」
海斗は、美雨の笑顔を見て一瞬、顔が固まった。 もうすぐ夏、葵の笑顔が頭をよぎる。
「海斗…さん? 」
美雨は首を傾げ海斗の顔を覗き込む。
「え…? あ! すごいじゃん‼︎ 桜葉さん」
「89点」と書かれている美雨の答案用紙を見て海斗は、関心していた。
「海斗さん、大丈夫ですか? 具合でも悪いんですか? 」
「うんうん。平気、平気! 俺、そろそろ部活行くからじゃあね! 」
海斗は、笑ってごまかしカバンを持って部活に向かっていった。
(…海斗さん、何か様子が変なような気が…)
美雨は、教室を走り去っていく海斗を見て何か違和感を感じていた。
ある放課後のバスケ部の練習、体育館で海斗は部活の仲間たちと試合形式の練習をしていた。相手チームからボールを奪い取りドリブルしながら綺麗に相手のディフェンスをかわしコートに近づき海斗は、ゴールにシュートを決めた。ボールが入った瞬間、ギャラリーにいる女子達が「キャーッ、海斗君‼︎ 」等、黄色い歓声を上げた。
次の日、休み時間に体育館で一人、シュート練をしてる海斗のところに春人が顔を出した。
「よっ! 海斗! 」
「春人、どうしたんだよ」
「いや、最近、何かお前楽しそうだからさ。部活にも戻ってきたし。何かあったの? 」
「わかった! 桜葉さんだろ? 」
「違うし! 桜葉さんは関係ないから! 」
「隠すなってw わかるよ。すごい可愛いし」
「だから、違うから! 」
「…お前、まさかまだ忘れられないの? 葵のこと」
頑なに否定する海斗。春人は、思わず聞いてしまった。
(…)
海斗は、ふと思い出してしまった。去年の夏まで付き合っていた彼女のことを。
お昼休み、美雨はあすかや仲の良いクラスの子たちといつものように中庭でおしゃべりをしていた。話している内容は海斗のことだ。
「最近の海斗君、すごくカッコよくない? クラスマッチだってめちゃくちゃ大活躍だったし‼︎ 」
「バスケ部また入ったみたいだし。そういえば、美雨ちゃんって海斗君と付き合ってるの? 」
「へ? 何でですか? 」
美雨は、突然の問いに驚いた。
「最近、海斗君とよく一緒にいるじゃんw 」
「ただテスト勉強、一緒にしていただけですよw でも最近一緒にいてすごく楽しいって思います」
「「おぉ〜w」」
あすか以外の子がニヤニヤと笑みを浮かべながら美雨を見つめる。
「それ、もう好きってことじゃん‼︎ 」
「ふえぇぇ〜⁈ そんな私、海斗さんのこと好きなんてそんな…」
突然の言葉に美雨は、甲高い声を上げてしまった。
「ねぇ、そういえば海斗君って今彼氏いるの? あすかちゃん」
「たしかいないはずだよ」
「チャンスだよ! 美雨ちゃん」
「無理だと思うけどね」
美雨が女子達と盛り上がっている中、あすかは小声でそう呟いた。
その日、海斗と美雨は日直当番だった。机を向かい合わせにくっつけて学級日誌を書いていた。
「よし、終わった! 」
「はぁ…疲れた〜」
「海斗さん。私、学級日誌出してきますね」
「ありがとう。桜葉さん」
机にぐったりとする海斗。美雨は、日誌を閉じると日誌を持ち職員室に向かった。
美雨が職員室から出て教室に戻ると海斗は、机の上で寝てしまっていた。
「海斗さん、起きてください」
美雨がそう言うが、スー、スーと寝息をたてて心地よさそうに寝ている海斗。
(寝顔、なんだか綺麗だなぁ…)
美雨がそう思いながら海斗を見つめていると海斗がボソリと寝言を呟いた。
「葵…。会いたかった…」
(葵って、誰? )
「あれ? あ…ごめん。俺、寝ちゃった…」
目をゴシゴシと手で擦る海斗。美雨は、海斗がボソッと呟いた葵という言葉に考えが止まりフリーズしていた。
「桜葉さん、どうしたの? 」
「あ…なんでもないです。海斗さん、学級日誌出したので早く帰りましょう」
海斗の発した「葵」という言葉。美雨は、なんだか知ってはいけないことを知ったような気がして聞かないことにした。
帰り道、美雨は、海斗と二人で、帰り道を歩いていた。この頃、海斗は部活、美雨は桜葉家と関わりのある企業との打ち合わせや何やらで忙しくお互いに一緒に帰ることがなかったので久しぶりだ。
「海斗さんって付き合っている人とかいるんですか? 」
「いや、前にはいたけど今はいないよ」
その言葉にホッとする美雨。
「前に付き合ってた人って、どんな人なんですか? 」
「うん…一生懸命生きてた人だよ」
少し悩んだあとそう答える海斗。
「聞いてもいいですか? 」
「うん…。 いいよ」
―――
― 高校1年、夏―
「疲れた〜。面会時間間に合うかなぁ 」
葵と海斗は、中学1年の時から付き合っており高校が別になっても二人の関係は続いた。海斗はバスケ部で葵は、身体が弱くてずっと入院してあまり学校には来なくて部活が終わったらよく葵が入院している病院にお見舞いに行っていた。
病院にダッシュで向かった海斗は、受付でまだ面会時間間に合うかを聞き葵の病室に向かっていった。ガララッと勢いよく病室の扉を開けると病室のベッドで寝ている葵の姿があった。
「海斗! 来てくれたんだ! 」
「葵‼︎ 会いたかった」
海斗は、ベッドで寝ている葵を優しく抱き締め葵もまた海斗を抱き締めた。しばらくしてお互いに抱き締めていた両手を離し海斗は、椅子に座った。
「今日も部活? 」
「うん。大会近くてさ」
「あまり無理しないでよ。海斗」
明るく笑顔でそう答える葵。
「平気だよ、全然。葵は、大丈夫? 」
「大丈夫。検査も全然問題なかったし」
「そっか。良かった」
「あら、海斗君。来てくれたの? いつもありがとうね」
二人で話していると病室の扉が開き一人の女性がが入ってきた。葵のお母さんだった。手にはペットボトル2本の飲み物が。
「葵のお母さん。こんにちは」
海斗が葵と付き合っていることは、葵のお母さんも海斗の叔母、結果理も知っている。二人は、親公認のカップルだった。
そして夏休みがきた。海斗は、部活帰りに葵のお見舞いに向かう。葵がいる病室に入るとするとそこには葵の担当医師と看護師がいて話をしている最中だった。
「そうですね…葵さんは…。はい、検査結果も異常ないし1日くらいなら外出しても問題ないでしょう」
「よかった…」
葵と葵のお母さんが嬉しそうに喜んでいる。
「こんにちは」
「おっ! 海斗君! 大きくなったなぁ。背少しまた伸びたんじゃないか? 今度の試合頑張って」
葵の担当医師が海斗に言う。
「ありがとうございます。葵、来たよ」
「海斗! 来週、先生から1日だけ外出許可もらったの。だから来週の夏祭りの花火、二人で観に行こう‼︎ 」
「葵ちゃん、薬もちゃんと飲んでるし検査結果も良好だから」
医師も葵を後押しするように続いて言う。
「そっか。よかった…」
「あ! でも若いんだからあまりはしゃぎすぎちゃ駄目だよ」
柳田先生にそう言われこうして海斗と葵は、来週の土曜日、二人で花火を観に行くことになった。
「葵、早く来ないかなぁ…」
待ち合わせは、18時30分。だが結果理は、「葵ちゃんを待たせちゃダメ」といい30分前に海斗を向かわせた。
待ち合わせ場所の時計台の上で待っている海斗。まだかなと葵を待ってると「おーい」と声が聞こえて葵がひまわり柄の浴衣姿で現れた。頭には、黄色と青の花飾りをつけて髪は、後ろで綺麗に束ねていた。
「…」
海斗は、目を奪われた。
「早いね。待った? 」
葵が顔を覗き込んで聞いてくる。
「いや、そんなことないよ」
「よかった。ちょっと早いけど行こうか」
「うん」
それから二人は、花火が始まるまでの間屋台を見てまわったりした。途中、葵が射的でしろくまのストラップが欲しいと言ったので海斗は射的でとってあげた。
いろいろ見てまわってると時間はあっというまに過ぎもうすぐ花火が始まろうとしていた。
「あー楽しかった。海斗とまた来れてよかった」
河川敷で二人は、座って一休みしていた。葵は、嬉しそうにとても満足していた様子だった。
「俺も楽しかった」
「初めて二人でデートしたのもこの花火大会だったよね」
「懐かしいな。中学1年の時だったよな」
「うん。ねぇ、海斗」
「うん、何? 」
「その…キス…しない?」
葵は、恥ずかしげに言った。
「いいよ」
いろんな人が花火を心待ちにする中、二人は優しい口付けを交わした。
二人が話しているとぴゅ〜〜〜ドーーーンと音が鳴りついに花火が始まった。二人は、慌てて唇を離し花火を観た。
「始まったな」
「うん」
花火が上がる中、葵が
「来年も、二人で来よう」
と海斗の隣で言った。
「これから先も海斗と二人で一緒にいたい」
「俺も葵とずっと一緒にいたい」
いつのまにか二人の手は、強く優しく握られていた。
それから帰り道、葵は、突然身体がふらっとなり海斗は、葵の身体を支えた。
「葵、大丈夫⁈ 」
「平気、平気w。疲れただけ。ちょっとはしゃぎすぎちゃった」
「よかった〜 」
へへっと嬉しそうに笑う葵。海斗は、その顔を見てこれからもこの幸せが続いて欲しいと思った。
夏休みが終わると3年生が引退。2年生が中心になってのバスケ部の活動がスタートしよりいっそう部活がハードになった。海斗は、部活動で疲れが溜まっていて葵に会いに行く余裕がなくなっていった。
「疲れたー… 」
ベッドで寝転んでると電話が鳴り出した。電話を見ると葵からだった。
「葵? 」
「もしもし? 海斗? 最近、忙しい? 」
電話越しから聞こえる葵の声。
「うん…。まぁ、部活かなりハード」
「葵とこうやって話してるとなんかホッとする」
「私も。なんか元気が出る」
「ねぇ…海斗…」
「うん? どうした? 」
葵が何やら困ったような、何か言いたいことがありそうな様子なのが伺える。
「…うんうん。 何でもない」
「何? 教えてよ〜」
「何でもないよ〜w 私、もう寝るね。おやすみ」
「おやすみ」
少し間が空いて葵は、元気にそう答え電話を切る。
「…葵、大丈夫かな」
海斗には葵が何か隠していることがあるんだとおおよそわかっていた。今、思えばこの時、きちんと聞いておけば良かったのかもしれない。
学校が終わったある日の放課後、海斗は久しぶりに葵のお見舞いに行った。
「葵! 来たよ」
「海斗…。今日、部活は? 」
葵は、きょとんとしていた。
「今日は、無い日。葵にどうしても会いたくて来ちゃった」
「無理して来なくてもいいのに…」
葵の病室に来てかなり時間が過ぎた。いつのまにか病室の椅子に座ったまま寝ている海斗に葵は、声をかけた。
「海斗、海斗! 」
「あれ? 葵…。俺、寝ちゃってた? 」
海斗は、寝起き状態で目がショボショボしていた。
「うん。 ぐっすり」
「ごめん…」
「ねぇ、海斗。無理してない? 」
「無理してない」
「うんうん。無理してる」
平気そうな様子の海斗。明らかに海斗が無理をしていることが葵にはお見通しだった。
「大会近いんでしょ? 無理をして身体壊したら大変だよ? 」
「ごめん。わかった。気をつける」
それから一週間が過ぎ、3年生が引退したバスケ部の最初の大会の日が来た。
バスから降り海斗達は、試合会場である体育館に向かう。
「海斗。今日、頑張ろうな。ところで葵ちゃんの様子は、どうなの? 」
更衣室でユニフォームに着替えている最中、隣で着替えている春人が言った。
「うん。まだ入院してるけど、この間も元気だったよ」
「そっか。いい感じなんだ」
「うん」
(プルルルル…)
二人が着替えながら話していると海斗のスマホが鳴った。電話の画面を見ると葵からだった。
「おっ。噂すれば」
隣から春人がスマホを覗き込んで来た。
「海斗君⁈ よかった…。大変、葵が…‼︎ 」
気になって電話を出ると葵のお母さんの声が聞こえてきた。だが葵のお母さんの声がいつもと違った。
「葵がどうしたんですか⁈ 」
「突然、意識不明になってお医者さんが診てるんだけど…」
「……」
海斗は、葵のお母さんが話している最中にゆっくりと耳からスマホを持っている手を遠ざけた。何か嫌な予感がしてきた。
「どうした? 海斗? 」
「春人…ごめん。俺、病院行ってくる」
「はぁ⁈ 何、言ってんだ、お前。これから試合だぞ? 」
「でも葵が死ぬかもしれない‼︎ 行かなかったら俺、絶対に後悔する‼︎ そんなのやだ‼︎ 」
海斗は、春人にそう言い急いでジャージに着替えて春人の言葉を無視して葵のいる病院に駆けていった。
海斗は、急いで葵のいる病院へと向かう。その頃、葵のいる病院では、医師と看護師が全力で葵の対応をしていた。
「ハァ、ハァ…。わっ!? 」
海斗は、走って病院に向かう途中、転んでしまった。
「いってえ…。急がないと…」
全力疾走で病院に向かって走ること30分。ようやく病院につき、葵のいる病室の扉を開ける。
「ハァ…ハァ…」
葵のいるベッドを医師と泣いている葵の家族が囲んでいる。ベッドには、目を閉じたまま動かない葵。海斗の目に、受け入れない光景が飛び込んで来た。
(そんな…嘘だろ…? 葵が…死んだ? )
海斗は、葵の病室に入り二度と目を覚ますことがない葵がいるベッドの前で膝をつき倒れ込んだ。
「葵…葵…‼︎ 」
空が夕焼けに染まろうとしてる中、海斗は、ベッドの前で涙を流した。
数日後、葵の葬儀が行われたが葵の死を受け入れられず海斗は欠席した。それから海斗は、部屋にこもるようになってしまった。部屋から外を見ながら両親が亡くなったことを思い出した。
(父さんと母さんが死んだのも市のバスケットボールクラブの帰りだった…。なんでバスケは、俺から大事なものを奪っていくんだよ…)
そう思いながら海斗は、部屋で嗚咽した。
―――
「ってことがあったんだ…。それから俺は、バスケ部を辞めたんだ 」
「そうなんですか…。私がバスケ部に連れて行ったの駄目でしたか? 」
「うんうん。それは感謝してる。桜葉さんのおかげでバスケの楽しさを思い出せたから」
「じゃあ…も…もしかして、部屋にあった写真…」
美雨は、部屋に置かれていた海斗と知らない女の子が写っている写真を思い出し自然とつい口が動いてしまった。
「写真? 」
「海斗さんと知らない女の子が二人で写っている写真、私、部屋で見つけて…。あの写真の子が葵ちゃん? 」
「あぁ…、やっぱり見たんだ…。そうだよ、あの写真の子が葵だよ」
(あの子が海斗さんの付き合ってた彼女…)
「その…まだ好きなんですか? 」
美雨は、部屋で海斗とツーショットで写っていたあの可憐でいかにも海斗とお似合いな美少女を思い出した。そしてつい自然と言葉が出てしまった。
「わからないんだ…自分ももう未練を断ったつもりのはずなんだけどさ…」
思い詰めた表情をする海斗。
「ごめんね! こんな話ばかりして、この話はやめようか」
しばらくして表情をごまかし明るく振る舞う海斗。
「海斗さん…」
美雨は、何も言葉が出なかった。というか、海斗の話を聞いてなんだか悲しくなり涙が出そうだった。
「そうだ。私、朝倉に頼まれてた物があるんだった。ごめんなさい、海斗さん。また学校で」
その場にいづらくなった美雨は、そう言ってごまかし海斗を置いて急いで家へと走りながら向かった。
(わからないって…。 それってまだ好きってことじゃないですか…。私じゃ駄目なんだ)
そう思うといつのまにか美雨の目からは涙が出始め雫が風のように横に流れていった。
美雨が部屋で見た写真の子、まさかの海斗の元カノだったとは…。はたしてどうなるのか…。とりあえずここまでです。
では、また