6.絶対に嫌なんだがっ!&仁義なき戦い
「ブフォッ」
スチュアートからの一言で飲んでいたスープを一気に吹き込んでしまった。
スチュアートが白いハンカチでさっと口元を拭う。
「いっ、今なんて言ったんだ?」
「ええ。ですから、今晩のお食事は、おぼっちゃまのご家族と御親戚並びに、一部のイーリス貴族の方々と食べて頂きます」
「聞いてないぞ!それに家族と親戚ってお兄様とお姉様も来るのか?」
「ええ。もちろんです。ここに陛下からの招待状が届いておりますので読み上げてもよろしいでしょうか?」
スチュアートがメガネを指でくいっとあげて、招待状を取り出した。
絶対に嫌なんだがっ!!
絶対に行きたくないっ!!
父上には悪いが、丁重にお断りしなければ。
「あ、行きたく無いと仰られても、無駄ですな。今回の主役は他でも無いおぼっちゃまなのですから」
「お前は超人かっ!絶対に嫌だが、行くしか無いか」
「では、夜の為に私は準備を致します」
スチュアートが部屋から出て行った。
「はぁ」
俺は大きなため息をついた。
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「はぁ。はぁ。はぁ」
「鼻息が荒いですよー。殿下」
馬車の中で付き添いのメイドに指摘されて我に帰った。どうやら俺は興奮していたようだ。すぐに素の顔に戻した。
「陛下とお会いできるのがそこまで嬉しいのですかー?」
「父上だとっ!気色悪いことを言うなっ!今日この日をどれだけ待ちわびたと思ってるんだ!俺は弟萌えなんだっ!」
俺がこの日をどれだけ楽しみにしていたと思っているんだ。
愛しのアルきゅん!待っていてくれっ!!
「そのご本人が殿下とお会いしたいかどうかは別ですよ?」
「そっ、それもそうだな」
「もっと素直になれば良いのにー」
「うっ」
メイドの一言が心に刺さる。
本当は素直になりたいのだが、弟を目の前にすると動揺してつい、意地の悪い事を言ってしまう。
本当は抱きしめて、あの柔らかい肌をスリスリ....。
「殿下ー。変な事考えてませんー?ご学友が今の殿下を見たらドン引きするでしょうねー」
「うっ」
メイドの一言がまた突き刺さる。
これは、傷ついたぞ。アルきゅんに早く会いたいなぁ。
そう思いながら、窓の外をふと見ると前方にイーリス王家の金色の家紋が入った、赤と白の馬車が前方を走っていた。
あの趣味の悪い馬車は他でも無いディーナしかいない。
「あの馬車を追い越せ!」
俺は御者に命令する。
弟をあんな従姉妹に渡すものかっ!
忌々しいディーナ!あいつに先を越されるなんて絶対に嫌だ!
俺は剣を握りしめて、追い越した馬車を睨みつけた。
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「はぁ。はぁ。はぁ」
馬車の中で、この日の為にドレスデザイナーに特注で作らせたフリルが沢山付いているベリーキュートな子ども用のドレスを見ながら、ニタニタと笑い、独り言を呟く。
「これ着せたら絶対に可愛いんだろうなぁ」
「おっ、お嬢様....」
若干、付き添いの執事が引いているが気にしない。この日が来るのを私がどんなに待っていたかっ!!
愛しのアルたそっ!待っていてねっ!
外から馬車の音が聞こえる。
どうやら他の馬車が追い抜いているようだ。私の馬車を追い抜きできるなんて、随分と身分が高いのね。
執事に馬車の窓を開けさせると、イーリス王家の銀色の家紋が入った青と白の馬車が走っていた。
あの趣味の悪い馬車は他でも無いクラウスだわっ!!
忌々しいクラウス!あいつに先を越されるなんて絶対に嫌なんだからっ!
「遅いわよ!あの馬車を追い抜いて!!クラウスなんかに負けないわよっ!魔法で妨害してやるんだからっ!」
「おっ、お嬢様!そのような事をすれば馬車が持ちません。少し落ち着いて下さい!」
執事の静止を押し切って、私は杖を取り出して馬車の窓から外に顔を出すと、忌々しいクラウスも馬車から顔を出して剣を構えている。
その日、仁義なき二人の戦いはお互いの馬車の破損によって幕を閉じた。