4.パレードが始まったんだが!
音楽隊のラッパと太鼓の音に合わせて、イーリス中央騎士隊の行軍が始まる。
壮大なラッパと太鼓の音に合わせて、均一なリズムで一片の狂いもなく繰り返される騎士隊の足音が、音楽隊と共に演奏を奏でているかのようだった。
子ども達は憧れの眼差しを、若い娘達は黄色い歓声を騎士隊に向けていた。俺も子どもの頃は憧れたなぁ。騎士隊に入れれば、エリートだったのに....。
音楽隊の演奏が終わる。魔法使いが魔法の火球を打ち上げると、騎士隊の行進は止まり、民衆の騒ざわつきだけが響く。次にラッパのファンファーレが鳴ると王様が登場するらしく、民衆はまだかまだかと待ち続けていた。
俺は、潜伏を解いた。マルガとユリウスの肩を二回叩くと驚いて振り返ってきた。真後ろにずっと立ってたんだけどなぁ....。ユリウスは俺に気がつきパァッと笑顔になり、マルガは俺に気がつくとプクッと頬を膨らませて怒り顔になった。
「あっ!待ってたんだよ〜」
「どこに行ってたのよっ!もうっ!心配してたんだからねっ!」
「二人とも悪かったな。このパレードが終わったら城に戻るから」
二人にそう伝えると、安心した顔になった。二人とも口には出さないが、俺のジョブがあまり良くない事に気付いているのだろう。いつも以上に優しい気がする。二人には気を遣わせてしまった。
マルガは何かに気がついたようだ。
「あっ!そういえば、さっき買ってた飴細工は?私まだもらってない」
「あるよ〜」
ユリウスは空中を手でかき混ぜるような仕草をすると、何も無かった場所から赤い飴細工を数個取り出した。
魔力倉庫か。便利だなぁ。あっ、俺にもくれるのか。ありがとう。俺は飴を舐めた。イチゴ味だった。うむ、んまい。
んん?なんだか、飴を舐めているマルガとユリウスの様子がおかしい。なんだろう?
「酸っぱっ!!何よっ!これは!?」
「うわぁっ!酸っぱ〜い!あっ、そういえば!」
ユリウスは、ポンッと手を叩いて、何かを思い出したようだ。
「露店商の人が東方の国の出身らしくって〜。赤い飴は気を付けてねって言ってたんだった〜。これは東方の国の特産物のウメボールっていう食べ物の味なんだって〜!なんだか、不思議な味の飴ちゃんだねっ!」
「あっ、そういえば!じゃ無いわよーっ!!」
「イチゴ味のもあるって言ってたから、赤い飴ちゃんの中にあるかもしれないよ?」
「ふーん。分かったわ。ありがとう」
マルガはユリウスの話しを聞くと、一つずつ貰った飴の味を確認していた。しかし、全部ウメボール味だったらしい。マルガはしょうがなく、その酸っぱい飴を顔をしかめながら舐めていた。俺の飴がイチゴ味だった事は黙っておく事にしよう。
飴をしばらく舐めて待っていると、音楽隊のラッパのファンファーレが鳴り響いた。いよいよ、パレードの主役の登場だ。しかし、俺は背が低くて見えなかった。ユリウスは見えているみたいだ。おいっ!ズルいぞ。
大人の後ろをぴょんぴょん跳ねていると、マルガが、空に魔法による映像が投影されている事を教えてくれた。そこには、王様が広場に作られた壇上に上がった様子が映っていた。そうとは知らずにぴょんぴょん跳ねちゃっただろ!それなら早く言ってくれよなぁ。
広場は緊張と静寂に包まれて、マジックアイテムの拡声装置から王様の声が響く。
「今日は記念すべきイーリス王国の建国記念日である。洗礼の儀式は無事終わり、未来ある子どもたちには、新たなジョブを授けられた事を私は心から喜ばしく思う。今日、この建国祭の主役は、イーリス王国に住む人民全員である!今日は皆、存分に楽しむが良い!」
王様が話し終わると、民衆は堰を切ったように歓声を上げて手を振っていた。
王様が右手を上げると、それを合図に魔法使いの火球が空中にいくつも昇り始めた。火球には色が付いていて、何もなかった空を鮮やかに彩っていた。
「すごい、すごいー!」
「わぁっ!綺麗ねぇっ!」
マルガとユリウスは、はしゃいでいる。俺も高揚感に浸っていた。パレードは始めて見たがこれ程まで心躍る物なんだなぁ。
「さぁ!二人とも帰るぞっ!」
「「うん!」」
今日は祭りやパレードを見物できて、とても満足だった。俺達はそれぞれの家に帰ることにした。