第01話 ケーキはやっぱり、苺ショートだよねっ
俺の家にサンタクロースがやって来なくなったのは、いつからだろうか?
こたつの中で温まりながら考え込んでしまう。
高校2年生にして、白い髭に真っ赤な衣装で現れるサンタクロースが、全世界を駆け巡ってるということなど、信じようにも無理がある。
まして俺が住んでいる町の子ども全員に配るのも、あんな白髭ジジイひとりじゃ無謀だろう。
「優しそうな顔をしているが、あんな白髭ジジイに、トナカイはこき使われて可哀想だよなぁ。 できるもんなら、トナカイと代わってやりたいね」
トナカイに同情をしながらみかんを頬張る。
今年のクリスマスイブもクリスマスも、毎年のように予定がない俺にとっては、特に何もなく終わるのだろう。
2年前のクリスマスイブ、母子家庭だった我が家は、母さんが再婚をしたことで新しい家族ができた。
イブの夜、家の中でゴロゴロしていたら、呼び鈴が鳴り響いた。
母さんなら鍵を持っているはずなのに、と思いながら呼び鈴のモニターを確認すると、そこには母さんと高身長の男性が立っていた。
母さんがジェスチャーで開けてと合図していたから、とりあえず玄関のドアを開ける。
ドアを開けると母に続いて高身長の男性が入ってくる。
彼は優しい顔で俺に話しかけてきた。
「はじめまして、誠司くん。 これからよろしくね」
母さんには不釣り合いなくらいのイケメンで紳士的な父さんができ、すごく嬉しかった。
そんな父さんの後ろに隠れていたのが、義理の妹だった。
「ほら、沙苗。 誠司お兄さんにあいさつをしなさい」
父さんが優しく義理の妹に声をかけると、恥ずかしそうに口を開いた。
「沙苗……です。 よろしく、おにぃたん…………おにぃちゃん」
父さんの背後から顔をのぞかせた沙奈は、とても可愛かった。
2歳年下というのは後で知ったのだが、小柄だったためか、最初は小学生だと思っていた。
胸元まで伸びている黒く艶やかな髪は、とても美しく感じ、理想の妹像そのものだった。
ひとりっこだった俺は、弟や妹がほしいと願っていたものだが、実際にできると会話をするにしても緊張していた。
今になって、やっと会話ができるくらいだ。
正直、もう少し打ち解けたいとは思っている。
そんな義理の妹と初めて迎えたイブの聖夜は、家族4人でテーブルに並べられた料理を囲み、体験したことのない温かい夜となった。
新しい家族ができてからは、去年も全員でクリスマスを祝っていたのだが、今年に関しては、少し問題がある。
父も母もクリスマスに、海外にハネムーンに行ってしまったのだ。
「行ける時間がなかったにしろ、この時期に行くか普通よぉ」
つまり、我が家には義理の妹しかおらず、今年の聖夜は義理の妹とふたりきりで聖夜を過ごすということなのだ。
ことの深刻さを改めて理解したが、ほんとどうすればいいのか……。
「そろそろ沙苗が帰って来る頃かな?」
寒い中、義理の妹である沙苗は、クリスマスイブに開くパーティーのために買い出しに行っている。
「俺も手伝うよ」と言ったが、「余計なものを買おうとするからついて来ないで」と言われてしまい、こうしてこたつで温まりながらお留守番をしているわけだ。
「12月23日、午後18時のニュースをお伝えします。 今朝起きた――」
「あっ、あの、にぃさん、ただいま」
「お帰りなさい」
ぎこちないこの笑顔は、沙苗にもバレバレだろう。
「あの、明日食べるためのケーキの素材を買ってきたので……今年はパパもいないので、できれば…………いやっ、なんでもないですっ」
「ん? 何か手伝った方がいいかな?」
「いえっ、すいません。 特にお手伝いしていただくことは――」
「その素材を使って、今晩はケーキを作るんだよね? 去年は食べるだけだったけど、今年は俺も手伝ってみたいなぁ、なんてね」
「いいんですかっ! 今年はとても忙しくて、おにいちゃ……にぃさんがお手伝いしていただけるなら、とても助かりますっ」
「では、さっそく作りましょう! 今年はチョコ好きの父さんがいないから、まっしろな苺のショートケーキが作れますよっ。 まっしろなんですよ」
こんなにも苺のショートケーキが好きなのに、父さんの気をつかって我慢していたとは。 今年はとことんクリスマスを楽しんでほしいな。
「さぁ、にぃさん! 手洗ってください! 早く始めましょう」
「あぁ、そうだな。 だけどな、ケーキを作るのは初めてでさ。 やりながらでもいいんだけど、俺に作り方を教えてもらえないかな?」
「はいっ、もちろんです! にぃさんがパティシエになれるくらい、丁寧に教えていきますよ」
沙奈に丁寧に作り方を教えてもらいながら、2人でつくった苺のショートケーキ。 明日迎えるクリスマスイブに2人でワンホールを食べきれるか不安になりながら、冷蔵庫にしまった。
甘党な沙奈にとってワンホールケーキくらいなら、「ひとりでも食べきれます」と言っていたが、あの小柄な体のどこにワンホールのケーキを食べきれるスペースがあるのは、とても疑問だった。
ケーキを作り終わった後は、少し遅めの晩ご飯となった。
母からは「出前を頼んでね」なんて、言われていたが、沙奈がケーキの買い出しついでに買ってきたらしい材料で、晩ご飯をご馳走してくれた。
沙奈の手料理を見たことが一度もなかった俺からしたら、少し心配だったが、味はとても美味しく、新たな沙苗の家庭的な所がみてれ、とても嬉しい。
あまりにも嬉しくてニコニコしていたら、沙苗もなかなか見れない笑顔を見せてくれた。
「こんなに楽しい23日は、いつぶりだろう」
年内に完結予定でしたが、クリスマスという時期を過ぎてしまうと、なかなか筆が進まないもので……。
このまま未完結というような形で、この作品を締めくくることはないので、どうか本作も最後までよろしくお願いします。