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第七十ニ話 敵はなりふり構ってくれない。(※キャラクターラフデザイン公開その4)

 開け放たれたままのカーテンの隙間から、朝日が差し込んでくる。


 意識の覚醒とともに、(まぶた)の裏のオレンジ色が視界を占めていく。


 やがて、「ううん」という(なま)めかしい(うめ)きを(こぼ)して、ザザが目を覚ました。


 部屋の一番奥、窓際のベッドの上で上半身を起こし、寝ぼけ(まなこ)で部屋を見回す。


 隣のベッドにはエステル、その向こうにはヴァン。


 そして一番扉に近いベッドに鎮座している、掛布に(くるま)れた丸い塊はミーロの筈だ。


 実は昨晩、誰がどのベッドで寝るのかは、少し揉めた。


 通常であれば階級に従って、奥からエステル、ザザ、ヴァン、ミーロの順になる筈だったのだが、ヴァンの隣が良いとエステルが強硬に主張したのだ。


 仕方がないのでヴァンとザザが入れ替わる事にすると、今度はミーロがこの世の終わりみたいな顔をした。


 ――おまえらもう、一つのベッドで三人寝れば良いよ。


 そう言いたくなる気持ちをグッと押さえて、微笑み。


 結局、ザザとエステルが入れ替わって、一番奥のベッドにザザ、次にエステル、ヴァン、ミーロの順番で落ち着いたという訳である。


 ザザは思う。


 これだから色恋沙汰には関わりたくないのだ。


 恋や愛と言った形の無い物を根拠に、あらゆる合理的、効率的な判断は黙殺される。


 ……全く度し難い。


 二つ向こうのベッドで、胎児の様に小さく丸まっている少年の背を眺めて、溜息を吐いた。


 今は何時だ?


 窓の外から差し込む陽光は、既に高い。


 通常であれば、とうにラデロ少佐の過剰な愛の鞭が飛んでくるであろう、大遅刻の時間帯である。


 一瞬、背筋をひやりとしたものが通り過ぎる。


 だが、あらためて思い起こしてみれば、シュゼット中佐からの指示は、


 ――今日は終日、休養日に充てよ。外出の許可は出せない。出来る限り眠って疲れを取れ。


 そういう指示だった。


 あらためて隣のベッドに目を向ければ、いつも通りファンタジックな寝相のエステルの姿。


 うん……酷いものだ。


 どういう向きで寝付いたとしても、朝起きた時点では必ず北枕になっているというのだから、頭蓋骨が磁力を帯びているとしか思えない。


 名付けて、恐怖の羅針盤少女である。


 このベッドは西向きなので、現在はベッドを横切るような形で眠っていて、足は完全に床に落ちている。


 無論、目を覚ます気配は全くない。


 彼女は火炎系統などという血圧の高そうな系統の癖に、寝起きは相当悪いのだ。


 ザザは自分も眠り直そうと、再び横になってみたが、眠気をほとんど感じなかった。


 屋外からはざわざわと人の行きかう様な音が、引っ切り無しに聞こえてくる。

 

 王都はこんなに騒がしいものだったかと自分の記憶を辿るが、判然としない。


 深夜になれば物音ひとつしないマルゴ要塞の環境に、慣れ過ぎてしまったのだろう。


 ザザはそう結論づけると、眠るのを諦めて身体を起こす。


 実際、彼女は寝付きも良いが、寝起きも良いのだ。


 ベッドに腰掛けて眺めると、露出したエステルの白いお腹の向こうに、少年の寝顔が見える。


 色恋沙汰に興味は無いとは言っても、ザザとて木石(ぼくせき)では無い。


 薄らと、将来、婿を取る事もあるのだろうな。


 そう考えることもある。


 その時には、強いて言うならゴツい男が良い。


 代謝が良すぎて、常に湯気が噴き上がっているような、暑苦しい男なら言うこと無い。


 そう思う。


 女装させてみて分かったが、やはりこの少年は農奴にしてはかなり線が細い。


 性格の弱々しさと併せて、Sっ気の強い者なら、虐めたくて仕方がないことだろう。


 やはり、ダメ人間が好みのエステルは脇においたとしても、それほど人を惹き付けるような魅力があるとも思えなかった。


 だが、


「訳がわからないな」


 そんな少年を少女達は、奪いあっている。


 エステルにロズリーヌ。


 ミーロにとうとうベベットまで。


 それぞれに表面上は何喰わぬ顔をしながら、少年の一挙手一投足に喜んだり、不安になったり、嫉妬したり、ぐりぐりと心を動かされているのだ。


「まったく、どこが良いというんだ……コレの」


 ザザはベッドを降りて、少年へと歩み寄り、その顔を覗き込む。


 不細工ではない。


 かわいらしいとは思うが、美男子かと言えば、それもちょっと違う様な気がする。


 内面について言えば、怯懦(きょうだ)としか言いようがない。


 シュヴァリエ・デ・レーヴル様の生まれ変わりかもしれないのだから、その伴侶になれば、もしかしたら贅沢が出来るかもしれない。


 打算で動くタイプの人間になら、さぞかし魅力的に映ることだろう。


 だが、第十三小隊にそんな人間はいない。


 そんな人間が、こんな割に合わない部隊に配属されるような愚を冒す筈がないのだ。


 ザザが、少年の顔を覗き込みながら、そんな(よし)も無い事を考えていると、突然、コンコンと窓を叩く音がした。


 ここは三階。


 慌ててベランダの方へと目を向けると、頬を窓におしつけて、不細工な蛙の様に潰れた顔がある。


 ザザはハァと大袈裟な溜息を吐くと、窓辺へと歩み寄り、鍵を開ける。


「ノエル、お前はどこから来るんだ、全く。普通に廊下から来ればいいじゃないか」


「あはは、いや、ちょっとベランダ渡ってみたら、ザザがヴァン君の事をいやらしい目で見てたからさ」


「なっ! 誰がいやらしい目なんかするか!」


「あはは、ほんとかなぁ。まあどっちでも良いんだけどさ。ボクん部屋、起きたら誰もいなくてさ。ロズリーヌ達、どこ行ったか知らない?」


「アネモネは中佐達に同行して王立士官学校へ行くとは聞いているが、ロズリーヌとベベットは知らないな。散歩でもしてるのか、食堂にでもいるんじゃないか?」


 ザザのその回答に、ノエルは口を尖らせる。


「ロズリーヌはともかくベベットだよ?」


「ああ……まあ、そうか」


 寝れるだけ寝て良いと言われて、ベベットがベッドに居ないという事が、どれだけ異常な事なのかと、ザザも思い至った。


「まさか、あいつら本当にミュラー公のもとへ行ったんじゃ……」


 道すがら、「母親を説得する」確かにロズリーヌはそう言っていたが、ここまで性急に行動を起こすとは思ってもみなかった。


「あの馬鹿ドリルめ……。どうする……」


 ザザは思わず親指の爪を噛む。


 シュゼット達がいない今、この場にいる最上席者は、よりにもよってエステルだ。


 確認するまでもない。


 ミュラー公の屋敷に突入する。そう言い出すに決まっている。


 ザザが思わず頭を抱えると、


「あ、そうだ。忘れてた」


 そう言って、ノエルがポンと手を打つ。


「外、騒がしいじゃん」


「ん? まあ、王都だからな。それは、マルゴとは違うだろう」


「うん、まあ、そうなんだけどさ。さっき、ベランダから何がこんなに騒がしいんだろって見てたら……」


「なんだ?」


「どっかの軍隊が、こっちに向かってきてるっぽいんだよね」


ザザは思わず顔を引き攣らせる。


「それを早く言え!?」


 慌ててザザが窓を開いてベランダに駆け出ると、既に屋敷の周囲を濃紺の軍装を纏った魔女達が、びっしりと取り囲んでいるのが見えた。


 ザザは(きびす)を返して室内へ飛び込むと、


「起きろ! ねぼすけ少尉!」


「きゃん!」


 エステルの脇腹を蹴り上げ、彼女はベッドの上から転がり落ちる。


 軍隊らしいといえば軍隊らしい振る舞いではあるが、普通、上官の脇腹は蹴らない。


「いったたたた……何すんのよ! ザザ!」


「敵だ! 恐らく三大貴族のいずれかが、私兵を繰り出して来てる。ここは完全に包囲されてるぞ」


「ふわーっ、街中よ? そんな馬鹿なことあるわけないじ……」


「あるのだよ! 奴らなりふり構う気はないらしい!」


 ザザが、未だ欠伸混じりの言葉尻に、ふわっとしたものを残すエステルを大声で怒鳴りつけると、ヴァンとミーロもベッドの上で身体を起こして(まぶた)(こす)る。


 その時、コンコンコンコン! とキツツキの様に慌しく扉を叩く音がして、返事をするより先にレナードが顔を覗かせた。


「お兄さま! エステルお姉さま! 脱出のご準備を! ミュラー公の私兵が押し寄せておりますわ!」


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さて4人目はノエル・メイヤー曹長(18歳)です。


第十三小隊の戦闘における絶対的エースにして、史上稀にみるバカ。


作者目線で言えば、とにかく話を転がしてくれる超ありがたい存在です。


挿絵(By みてみん)


まあ、純粋っちゃあ、純粋なんですけど。


このラフでは、比較的お澄まし顔ですが、実際は常時バカ笑いしている様な状態です。





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