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第六十六話 結局、誰をやっつければいいのさ?(※キャラクターラフデザイン公開その1)

公開の許可をいただきまして、この回から順次、一日一人分ずつ各話の末尾にて、第十三小隊の魔女達のキャラクターデザインを公開させていただきます。


どうぞ、よろしくお願いします!

 ヴァンが車輛後部の乗降口から身を乗り出して、キョロキョロと周囲を見回している。


「もう、そんなにキョロキョロしないの。田舎者丸だしじゃない」


「え、あ、すみません」


 小さな子を(たしな)める様なエステルの口調と、詫びながらもどこか興奮気味の少年の姿に、車輛内の空気が(わず)かに緩んだ。


 今、ヴァン達を乗せた高機動車輛『(リノセロス)』は、ブルージュ男爵の騎馬隊を先頭に、王宮を目指して徐行している。


 つい先ほど太陽が顔を覗かせたばかりだというのに、王都の中央を貫く大通りは早くも賑わい始めていた。


 道の左右で軒を連ねる沢山の屋台。


 そこで、慌ただしく開店の準備を進める商人達。


 飛び交う挨拶の間に間に、怠け者の夫を叱りつける奥方の声。


 それを横目に走り回る子供達の楽し気な笑い声。


 賑わい。


 この日常そのものといった風景が、ヴァンにとっては何より目新しいのだ。


 物珍しげなヴァンとは対照的に、道行く人々は高機動車輛を特に気にする様子は無い。


 流石に王都ともなれば、たとえ軍用であったとしても高機動車両など珍しくも何とも無いということなのだろう。


 むしろ人々の目を引いているのは、先頭をいくブルージュ男爵の私兵達。


 この国では珍しい男性の騎兵。


 それも白い甲冑を身に着けた見眼麗しい若い男達だ。


 その姿を、若い娘たちが目で追っている。


 そんな男達を見せびらかすように引き連れて、誇らしげなブルージュ男爵の姿に、ロズリーヌが「愛人自慢とは悪趣味ですわね」と軽蔑の眼差しを向ける。


 すると、クルスが「一人分けてくんねぇかなぁ」と物欲しそうに(こぼ)し、荷台の床に横たわったままのミーロが引き攣った笑いを浮かべた。


 そうこうする内に『(リノセロス)』は王宮へと至り、城門前の広場で停車すると、皆を車内で待機させ、シュゼットとクルスは城門を(くぐ)っていく。


 先ほどまでの街中の喧騒は、遠くから微かに聞こえてくるだけで、ここまではほとんど届いてこない。


 王宮周辺は静まり返っている。


 余程の事でもない限り、庶民がこの区域に立ち入る事はないのだ。


 ザザが車輛後方の乗降口から外へと目を向けると、『(リノセロス)』を取り囲んで周囲を警戒する白い甲冑姿のブルージュ男爵の私兵達が見えた。


 その後ろ姿をぼんやり眺めながら、彼女はアネモネへと語り掛ける。


「中佐は陛下にお会いできると思うか?」


「……残念ながら無理でしょうね。三大貴族の一角がヴァン准尉を狙って刺客を差し向けて来るような状況ですし……」


 その言葉が耳に届いた途端、ロズリーヌの表情に(かげ)が落ちる。


 その三大貴族の一角がまさに彼女の母――ミュラー公なのだ。


 アネモネはロズリーヌの方へとちらりと目を向けながらも、遠慮する気配は(つゆ)とも見せずに言葉を継ぐ。


「おそらく陛下のご意志とは関係無く、取り付がれもせず、訪ねてきた事自体を握りつぶされるのがオチではないかと」


 現王家の治世に於いて我が世の春を謳歌する上級貴族達にとって、ヴァンの存在は自らの地位を危うくする存在でしかない。


 無論、マルゴ要塞で大人しくしているならば、ここまでの扱いを受ける事も無かったのだが、何より女王本人が王位を譲る意志を見せている事が、問題をややこしくしている。


 ヴァン自信は王位など望んでいないのだが、上級貴族達はどうあっても、ヴァンが女王に会う事を阻止しようとし、中級、下級の貴族はヴァンの身柄を確保して、取り入ろうとする事だろう。


 つまり、彼女達、第十三小隊(トレーズ)は誰にも頼ることは出来ない。


 避けられない形で接触してきたブルージュ男爵については、ヴァンが王位を拒否する事を伏せて、まあ、悪く言えば利用している。


 本人は既にヴァンの後見人気取りの様だが、実際に王位を拒否する段になってどんな顔をするのか見物ではある。


 ――それよりも……。


 ザザはちらりと背後に目を向ける。


 そこにいるのは臙脂(えんじ)色の制服を(まと)った黒髪の少女――レナード。


 ヴァンの血を分けた妹。


 つまりはあの俗物(ジヨルディ)の娘。


 しかも、原理主義者のブルージュ男爵が王都における保護者だというのだ。


 決して気を許してよい相手ではない。


 その筈なのだが……。


「うふふ、お姉さまってお肌が綺麗ですのね。化粧水はどういうものをお使いですの?」


「レナードちゃんたら。正直なんだからぁ、そんなに特別な事はしてないのよ」


 エステルは、『お姉さま』などと呼ばれて、あっさりと陥落した。


 ここに至るまで、おだてられっぱなしの、ニマニマしっぱなしだ。


 だが、ヴァンが最も気に掛けている相手。


 それを見抜いて、レナードがこういう接触の仕方をしているのであれば、油断のならない少女である。


「なにが、うふふですのよ……。まったく、ちょろい人ですわね……」


 ザザとアネモネの話に耳を(そばだ)てていたロズリーヌが、そう言って溜め息混じりに話に加わると、途端にアネモネが首を傾げる。


「先ほどは、ロズリーヌ少尉もお姉さまと呼ばれて、まんざらでもなさそうに見えましたが?」


「そ、そんなことありませんわよ!」


思わず声を上げた後、ロズリーヌは周囲を見回して、バツが悪そうに一つ咳払いをする。


 そして、特にレナードの方を気にする様な素振りを見せながら、声を潜めた。


「この後の事ですが……ワタクシ、お母さまにお会いして説得してみようと思いますの」


「私には、真っ先に暗殺者を放ってきたミュラー公が耳を貸すとは思えんのだが?」


 ザザはミュラー公の人と為りを知っている訳ではないが、自分の娘の所属する部隊に暗殺者を放ってくる様な人間が、真面(まとも)だとは思えない。


「アナタの仰る事も御尤(ごもっと)もですわ。ただ……刺客を放ってきた事については、ワタクシの存じ上げているお母さまのなさられようとは、ちょっと違う様な気がしておりますの」


「ミュラー公の刺客じゃないかもしれないと?」


「もちろん、それこそ権謀術数の渦巻く貴族社会を勝ち抜いてこられた方ですし、ワタクシの存じ上げない顔もお持ちかもしれません。ですが、少なくともお母さまもヴァン様が王位を断ろうとしていることはご存知ありませんもの。むしろ保護するべきである事を訴えれば……」


 だが、アネモネは眉間を曇らせて、そこで言葉を(さえぎ)る。


「少尉、それは余計に状況を悪化させかねません。仮にミュラー公がヴァン准尉を保護してくださったとしましょう。ですが、そうなると今度は残りの三大貴族……ジスタン公とペルワイズ公は、ミュラー公が自分達を出し抜こうとしている。そう捉える筈です」


「アネモネさん。そんな事、あなたに言われるまでもありませんわ。お母さまを説得できたら、お母さまの名で他の二家には書簡をお出しいただくつもりですの。王権の放棄を条件に、三大貴族共同で、ヴァン様を保護するよう働きかけていただくのですわ」


 だが、その回答に、アネモネはますます表情を曇らせる。


「確かに三大貴族に揃って保護されるという状況を作れれば盤石でしょうが……そんなにうまく運ぶでしょうか?」


「ねえ、ロズリーヌ……」


 その時、ロズリーヌの足元から彼女に呼びかける声がした。


 話を聞いていたのだろう。


 床に横たわったままのノエルが、静かに目を開く。


「結局、誰をやっつければいいのさ?」


「そんな単純なものではありませんのよ。ノエルさん」


「えー、あんまりややこしいのは困るよぉ」


 本当に困っている様なノエルの表情に、ロズリーヌは思わず吹き出しそうになる。


だが、それが事実だ。


 状況次第で、敵味方がごっそりと入れ替わる。


 それもあっさりと。


 例えば、今この時点だけを見れば、三大貴族を始めとする上級貴族はおそらく皆、ヴァンの命を狙っている。


 敵だ。


 ブルージュ男爵の私兵が周囲を守っている。


 味方だ。


 だが、ヴァンが王位を断ろうとしている事がバレれば、状況は一気に混沌とする。


 上級貴族はおそらく二つに割れる。


 禍根(かこん)は断たねばならないと、やはり襲ってくる者と、保護しようとする者。


 対して、ブルージュ卿を始めとする原理主義者は、ヴァンを捕らえて、無理やりにも王位につけようと襲い掛かってくるだろう。


 だが、同じ原理主義者の方も一枚板ではない。


 ヴァンが王位に就いた後を見越して、原理主義者同士でのヴァンの争奪戦も絡んでくるに違いない。


 弱り切った顔のノエルに、ザザが微笑みかける。


「いいか、ノエル。そういう時には、利益(ベネフィツト)を基準に考えれば良いんだ」


利益(べねふいつと)?」


「ああ、そうだ。誰が得をするのか? 誰が損をするのか? それを見極めるんだ」


「無理無理! 難しすぎるよ、そんなの」


「いいや簡単だぞ」


「そうなの?」


「ああ、結局、最後には第十三小隊(われわれ)の他に味方はいないという結論になる」


 ノエルは一瞬目を丸くした後、納得が入ったとでもいう様に破顔した。


 それからしばらく経って、外の方へと目を向けていたアネモネが、ザザの方へと振り返った。


「中佐が帰って来られたようです」


「……早いな」


 城門を出てくるシュゼットとクルスの姿を遠目に見ながら、ザザはぼそりと呟く。


 シュゼットの苦々しい表情と、その苛立つような挙動を見れば結果は聞くまでも無い。


 ――女王への謁見(えっけん)は叶わなかった。


 ザザはちらりとヴァンの方へと目を向ける。


「お兄さま、その前髪を何とかいたしましょうよ」


「やっぱりちょっと根暗っぽいもんね。レナードちゃんもこう言ってるんだし、切ったら?」


「え、え、い、嫌ですよ」


 妹と恋人、二人がかりでいぢくられて、タジタジになっている。


 全くもって緊張感の欠片もありはしない。


 白百合の儀までは、まだまだ日数がある。


 それまでの間、どうやってこの敵だらけの王都で生き抜くかと考えれば考える程に、全ての中心に居る筈の、この少年の頼りなさにザザの口から、深い溜め息が零れ落ちた。

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キャラクターラフデザイン公開 一人目は(ラパン)ちゃん。

ミーロ=アパン伍長(16歳)です。


挿絵(By みてみん)


さくらねこ先生……すごい。

作者的にはイメージ通りでした。

皆さんはいかがでしたか?


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