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9 イケメン、ただし偽物

結局、住所はわからなかった。でも、部活がわかっただけでも、進歩と思おう。


 俺が夜、部屋でスマホで動画とか見て遊んでいると魔神は鏡を見て、はあーとため息をついていた。あえて話しかけずに黙ってたのに魔神はぶつぶつと訴えてきた。

「せっかく会えそうだったのに会えなかったヨ。母ちゃん、早く会いたいネ」

「母ちゃんってことは、子供もいるのか?」

 ちょっとした好奇心だけで尋ねてみた。

「いるヨ。十二人ネ。もうみんな独立してそれぞれあちこちで魔神や魔女として働いてるヨ」

「十二人!」

 アラブ人、子供多すぎだろ。

「もしかして、奥さんたくさんいたりとかするの?」

 自分、ハーレムか、と俺は少々やっかんだが、魔神は諦めたように首を振った。

「無理ネ。二人目の奥さんもらう時は第一夫人の許可がいるネ。失敗したヨ。彼女、最後にすればよかった。もっと優しい人、第一夫人にすればよかった」

 おい、おっさん。汚ねえぞ。

「とりあえず、奥さん、厳しいんだな」

「でも綺麗だヨ。会いたいネ」

 おっさんはああーと大袈裟につっぷして嘆いた。

 ふう。俺の部屋で悲劇的に泣くのはやめてほしいもんだな。遠く離れた舞台なら面白いかもしれないけど、五畳の部屋じゃ狭すぎる。


 「まあ、昨日も言ったけど、住所調べるのが一番だよな。なんか方法あるかな」

「悟、やせ我慢してないでついてったらいいのに」

 うーん。

 確かにその通りなんだけど、やっぱり無理だ。ばれたら、とか考えるし、もし、本当にもし、その後うまくいくことになったりして、あの時のストーカー行為、と思い出されても嫌だし。

「やめとこう。なんか考えるよ。仲のいい女子とか、わかるといいんだけど。もうじき夏休みだけど学校には部活で何回か行くからさ、できるだけ探ってみるよ。約束する」

 魔神は満面の喜びを露わにして俺を見た。漫画だったら目にキラキラが入りそうだ。

「悟、素晴らしいネ。アッラーのご加護あるよ」

 俺はアッラーを信じてないから、この表現はよくわからない。でも、おっさんにとっては最高の誉め言葉なんだろうな。


 「だけど、なんでそんなに綺麗な奥さん、射止められたんだ。おっさんのどこがよかったわけ? 女性から見て」

 聞くと魔神は憮然として立ち上がった。

「ホントはワタシ、かっこいいヨ。見てて」

 部屋の空気が一瞬ゆらいだ。ほんの0・五秒、いや、0・一秒かもしれない。俺の前にすごいイケメンアラブ人が現れた。

「幻覚か?」

 思わず目をこすってもう一度見ると、やっぱりデブのおっさん。

「今、イケメンが見えた気がする」

「見たデショ。あれがホントのワタシの姿ネ」

 見たか実力、とばかりに胸を張る魔神には悪いが、真実は知らせてやらないといけない。

「それは違うぞ。ホントの姿なら一瞬で消えないだろ。リラックスして俺の前にいるおまえこそ本物だ」

「いや、だって、・・・かっこいいデショ。あれが本物ネ」

 声ちっちゃいぞ。

「わかった。もしかして、奥さんの前で安心しすぎて今の姿で過ごすようになって振られたんじゃないか? 口説くときはあの偽者のイケメン面で」

 魔神は真っ赤になってうつむき、両手の指ををもじもじとこね合わせた。 

「家族なんだから、全てを理解し合うのが愛しあってる証拠ネ」

「ってか、ありゃ詐欺だ。騙されたって感じだろ」

 論破。魔神はまだごにょごにょ言っていたが言い返せていない。いじめるつもりはなかったんだけど。

「せめてもうちょっとダイエットしたら少しはましなんじゃないか?」

 慰めるつもりで言ったが魔神は悲しそうにため息をついた。

「母ちゃんいなくて美味しい物も食べれなかったら悲しくて生きていけないネ」

「その母ちゃんを取り戻すためにダイエットするんだろ? 目先のことばっか考えてないでちょっとは我慢しろよ」

 まったく。

 魔神はタレ目で鏡を見つめ、両手で自分の両方のほっぺをぼよんと持ち上げてまた離した。ぷるんと持ち上がったほっぺが垂れて揺れる。


 「ダイエットとかしみしわたるみ系なら、うちの母さんが詳しいんじゃないかと思うけど」

 ちらっと口にしただけだったが魔神はくるっと振り向いて、ぱくっと食いついてきた。

「いいの? 悟のお母さんと話してもいいの?」

 うちの母さんと話すなんて、そんなはしゃぐほどのことか? うきうきそわそわして、まるでしっぽ振ってまとわりついてくる子犬みたいだ。

「あ、ああ。でも、なんてって説明すりゃいいんだ」

 ランプから魔神が出てきて? 二歳じゃないんだぞ。高校二年生だぞ。二歳だったらランプから魔神が出ようが、巨大な鳥がダイアモンドを運んでようが、母さんも笑って、そうね、と言ってくれるだろう。

「ダイジョブネ。悟が納得したように、誰でも納得できるヨ。お母さんなら尚更ネ」

「いや、うちの母さん、超現実的だから」

「心配しなくていいネ。さ、お風呂行こ」

「時間差で入ってくれ。いや、自分ちの風呂入れってば!」

 温泉じゃないんだからおっさんと二人で入りたくない。正直、温泉でも嫌だけど。こいつ、絶対、温泉まんじゅう食べて酒飲みながら鼻歌歌うだろ。

「気にしない気にしない。日本の風呂、お湯たくさんあって最高ネ。ジャバー!」

 見ると、いつのまにか頭にタオルを乗せている魔神は、俺の背中を押して階下に向かった。


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読んでくださってありがとうございます。

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