85 シャイターン
校長室を探すといっても校内は本当に変わってしまっているので、そのままではよくわからない。
廊下の片側はアーチがいくつも続き、その向こうは明るい中庭風になっている。でも、本物の草木ではなく、ガラスのようにキラキラした木や花が生えていて、機械仕掛けのクジャクが歩いている。それはそれで綺麗だけどなんだか本物の命がない感じがする。
よく見ると建物の上は外に解放されていない。ただ、天井が日の光の明るさに光っているだけなのだ。本物の太陽が差し込んでいるのではなく、作られた人工の明るさを感じる。本物の太陽、本物の命はここにはない。
「ええと、校長室ってこっちの方か」
俺はあまり職員室に近づかないので、いまひとつ校長室を把握してない。生徒会をやってる川原が自信を持って、この方向だと思うと言うのでそれを信じてついて行く。
そして俺たち三人は、アーチ型の黄金のドアの前に着いた。
派手だな。豊臣秀吉の金の茶室並だ。成金か。
一応ノックしてみると、
「入れ」
と日向の冷たい声がした。
ドアはそれほど重くなくすうっと開いた。
目の前の金の玉座に日向が座っていた。
黒いターバンと金の刺繍のある黒い黒衣は、けだるい目をこちらに向ける日向に妙に似合っている。アラブの王子みたいだ。俺にターバンなんか全然似合わないと以前ジャッバールと言ってたけど、日本人でも似合う奴は似合うんだな。ちょっと羨ましい。けど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
「日向、どういうつもりだ」
「やっぱり君が来たか」
俺の質問には答えず日向はゆっくりと口を開いた。
「やっぱりってどういうことだ。俺が来るってわかってたのか」
「薄々は。だから閉じこめようとしたのに、あの魔法を破るとは思わなかったな。君が魔法を使いこなせるともっと早くに予想するべきだった」
日向は少しこちらに興味を持ったように薄笑いを浮かべて身を乗り出した。魔神のことは言ってはいけない、ともう一度心に誓った。他の魔神の魔法に手出しをしてはいけないんだ。下手するとおっさんが消えてしまう。そんなことは絶対にさせない。
「君なしで世界を構築しようと思っていたけど、やっぱり君は僕の世界に必要な人材だよ、在田君。僕も妥協しよう。君の望む条件は何なんだ」
条件? いや、そういう問題じゃない。日向の考えは根本から間違っている。妥協はできない。俺が正しいか日向が正しいか、どっちかしかない。
「どうしてそう俺を買いかぶるんだ。俺の何が必要だっていうんだ」
「僕と君は根本のところで同じ人種だ。君は努力が嫌いだろう。でも成果だけを求める。僕もそうだ。同じ考えの人間を見つけたと思ったよ」
ちくり、と胸が痛んだ。確かに努力しなくて成果だけ、欲しいものだけ手に入るんだったら努力なんてしない。
「そう、・・・そうだったかもしれない。俺なんかどうせ努力しても何にもできないし、取り柄もない。だから無駄なことはしない方が楽だって、確かにそう思ってた。けど・・・」
「そこだよ、在田君。努力の中には成果につながる努力とそうでない努力がある。がむしゃらにやっても何の役にも立たない無駄な努力というものは確かにある。その見極めができるのは賢いものだけだ」
おまえが賢いものだって言いたいのか。でも、世の中、そんな風にうまく無駄な努力を見極められる人間ばっかりじゃない。それでも一生懸命頑張ってる人たちのことはどう思ってるんだ。
「努力とか、頑張りとか、そういうものは無駄じゃない。たとえすぐに成果に結びつかなかったとしても、頑張った自分は成長するんだ。俺は前はそれがわかってなかった」
「わかってなかった? いや、そうじゃない。その考えが正しいんだ」
日向は説得するように俺を見据えた。はっきりした顔立ちにその強い目線が黒衣に似合ってるんだな。でも、かっこいいとは全く思えない。むしろ何かに取りつかれている感じが強くする。
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