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83 告白

 「小畑、これって、水口を助けたせいじゃないか? 今までの敵は誰かの頭の中から漏れ出てきてた奴だった。次から次へお化けが出てくるのは水口の妄想が止まらないからってことないか?」

 吹雪の中、一生懸命声を張り上げる。

「そうか。そうかも」

 叫び声が答える。

 だからさっきから倒しても倒してもきりがない。こっちは戦えるのは川原を入れて三人だし、水口や清谷さんが協力してくれるっていっても百鬼も出てきたら太刀打ちできないだろ。

 そもそも水口は、助かろうという気があるのか。最初だって土蜘蛛が出たとき喜んでたし。退治するって言ったら諦めてとか言ってたし。

 お化け達はふざけるようにひゅるりと襲いかかっては笑いながら過ぎていく。といっても数が生半可な量じゃないから、何度も連続してバシバシ叩かれている。これじゃいくらなんでも体力が持たない。

「水口、いい加減に妄想やめろ。おまえの頭の中が原因だ!」

 吹き荒れる冷たい風に飛ばされて、声が届いているのか届いていないのかわからない。

「水口ーっ! 聞こえてるか?」

「聞こえてるよーっ!」

 答えがかすれかすれに飛んできた。

「でも、どうすればいいかわからないのーっ! だって、あたしがこうしようって思ってるわけじゃないんだもん。勝手に出てきてるだけなんだもん」

 勝手に、か。自分がこの化け物達を生み出してるって自覚がないんだな。自覚がないものは止めようがない。それはそうなのかもしれない。何とかして自覚を持たせてやるのはどうしたらいいんだろう。

 それにしても寒すぎる。冬だから一応コートを着てきたけど、極寒仕様じゃないし。手もしびれるし頭も麻痺しそうだ。

 

 麻痺。そうだ。考えを止められないなら、いっそ何も考えない方がましだ。水口の大好きなお化けや怪物をすっかり忘れさせるような何か。

 小畑が大ムカデや一つ目小僧と戦いながら、だんだんと声が届くぐらいのところに近づいてきている。

「小畑! やってほしいことがある」

「うん、何だ?」

「おまえ、水口のこと、好きだろ。告白しろよ」

「はあ!?」

 ま、驚くよな、俺が小畑の立場でも。

「ななななな何言ってんだ」

「いや、好きじゃないなら無理にとは言わないけど」

「☆●∇%○∞♯Φ▲φ・・・」

 小畑、それ日本語になってないぞ。

「じゃ、俺が代わりに言っていい?」

「だめじゃー!」 

 変な方言が出ている。相変わらずろくろ首はニュルニュル首を伸ばして俺たちをあざ笑うし、化け猫がシャーッと爪を出してひっかいてこようとするのをなんとか半月刀で防ぐ。

「なんで今そんなことが関係あるんだ」

「いいから、やってみろって。騙されたと思って」

「騙されて困るのは俺の方だ」

 気持ちはわかる、小畑。でも。

「いてっ!」

 油断した。ぬえの虎のような爪で思い切り右腕を切られ思わず刀を取り落としそうになった。小畑が槍で鵺を攻撃し、猿の顔をした鵺は一歩飛び下がる。

 意を決したように小畑は、槍を構え、吹雪の向こうに叫んだ。

「水口、聞いてるか! おまえのこと、好きだーっ!」 


 結構、直球だったな。俺も驚いた。

 けど水口が一番驚いたに違いない。というのは、予想通りブリザードも百鬼夜行も一度に収まったからだ。

 なんでこんなに、と思うぐらい一瞬にして雪女もろくろ首も、さっき俺を傷つけた鵺も消えた。腕の痛みはまだ少し残っているけど。

 床に座って目を丸くして小畑を見ている水口と、兜で顔が見えない小畑が向かい合っているのだけが見える。

 

 「何? 何があったっていうの?」

 ひゅん、と絨毯が近くに寄ってきて川原が飛び降りざま尋ねた。

「うん、妄想を根本から断ち切ったみたいだ」

 なにそれ、わけわからない、と川原が吐き捨てるのと清谷さんが滑り下りてくる絨毯からひらりと降り立つのと同時だった。

「そうだったんだ、小畑君、奈美ちゃんのこと好きだったの」

「やっぱりそうみたいだな。水口の方は脈ありってことかな」

 清谷さんが首を傾げるとさらさらの黒髪が顔に少しかかってまた、どきりとする。

「うん。いいじゃないかな。とりあえず彼氏とかいないみたいだし。小畑君、気が合いそうだよね」


 で、川原麗夏は無事、手長足長を倒したようだった。

「すげー。川原、さすが期待のヒーローだな」

「ヒロインって呼びなさい」

「いや、ヒロインはもうちょっとこう、かよわいっていうか守りたいっていうか」

「うるさい!」

 またパンチが飛んできた。

「とりあえず、校長室に向かおっか」

 清谷さんが言うので、小畑たちは見つめ合わせておくことにして、校長室を目指す。


――――――――――――――


読んでくださってありがとうございます。

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