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79 土蜘蛛だー!

 戦車の姿が消え、落ち着いてきたのでやっと俺たちは地面に降り立った。タコも戦車も今は影も形もない。

 そして、床にはみんながまだ倒れていた。

「水口さんにはクッキーあげないの」

 そう尋ねたのは川原だった。

「うん、ああ」

 ポケットから引っ張り出す袋の仲はもう粉だらけで、あげるのも申し訳ないぐらいだ。でも、一応、食べる? と水口に聞くと、彼女は周りを見回して尋ねた。

「どっちでもいいけど。他にお腹すいてる人いない?」

「食べるといいわよ。それ、本物の食べ物だから」

 川原が勧めると水口はそうなの、と袋を開けた。

「ありがと」

「悪い、水口。ほんの少しでいいから残しといてくれないかな」

 不思議そうな顔をしたのは川原の方だった。

「あら、水口さんにあげたいから残しといてほしかったのかと思った」

「うん・・・、まあ水口もそうなんだけど、もう一人気になる奴がいるから」

「あっ、じゃあいいよ、あたし、無くても。今のとこ困ってないし」

 水口はすぐクッキーを返してくれた。

「ちょっとだけもらったら? 奈美ちゃん。全然元気になるから」

 清谷さんがそう勧め、水口は、あ、そう? と中の粉をすくって少しだけ食べた。

「ほんとだー。なんでこんなに違うの? うちのお母さんのお菓子と」

 そうか、みんなよっぽど幻影を食べてたんだな。

「頭の中で作り出しただけの食べ物と、ちゃんと人が手をかけて土と水と太陽からできた食べ物と違うんだよ。魔法の食べ物は綺麗で美味しそうだけど、本当に人間が必要なのはこういう中身のある食べ物なんだ。本当の実のあるものを食べてないと、人間はだんだんとだめになる。そして、実体のない幽霊みたいな存在になっちゃうんだ」

 みんなが驚いたように俺とクッキーをかわるがわる見つめた。

「別に俺が頑張ったわけじゃない。ただ、うちの母さんや、パン屋さんがそれに気がついただけなんだ。でも、いつもちゃんとした食べ物、食べてた人たちは気がつくんだと思う。何かがおかしいって。人の心も同じだと思うんだ。今、何かがおかしいのは日向なんだ」

「そう、日向君、探さないと」

 川原が言い、俺も目的を思い出した。


 「どこだろう、日向。さっきは空、飛んでたんだけど、いつの間にかいなくなっちゃったな」

「校長室だと思う」

 言ったのは川原だった。校長室? そうか、そういえば、ここは悪魔の城だと思ってたけど、もとは学校だった。

 だからか。壁はアラブ風タイル模様だし、出入り口はいちいちアーチ型で装飾が施してあるが、なんだか知っている場所のような気がするのは。

「校長室、どこだっけ」

「二階の職員室の奥。でも、今、どこにいるのかな、あたしたち」

「うーん、303組の辺りじゃね?」

 水口に小畑が答える。確かに、玄関を入って階段を登るとその辺りだ。

「じゃ、こっちか」

 駆け出そうとすると、すぐ後ろからシャーッという音がする。

 振り向かなくても嫌な予感がする。小畑にデュラハン、清谷さんにティラノ、川原に戦車と来たら水口といえば。

「あっ、土蜘蛛だー!」

 はしゃいだ暢気のんきな声が聞こえた。

「喜んでないか? 水口」

 諦めて半月刀を手に持って振り向くと、思ったより敵は大きかった。

「気のせいだって」

 いや、絶対喜んでる。

 シャーッという音と共に土蜘蛛は糸を吹き出した。

 べたべたした糸が一気にみんなに絡みつく。俺はなんとか半月刀で断ち切り、咄嗟に騎士に変身した小畑も剣で糸を切り裂いたが、女子三人は絡まれてしまった。鬼の顔、虎の胴体、長い足を持つ、と書いてあったけど、こんな巨大だとは。

「動けないよー」

「水口、少しは危機感を持てよ。食われちまうんだろ? 土蜘蛛って」

「そう、髑髏どくろになっちゃうのー」

 喜ぶなって! 

 また、シャーッと吐き出される糸をかわしつつ、土蜘蛛本体に少しずつ近づく。

「小畑、大丈夫か。俺が正面から行くから、そっち頼む」

 と、振り向くと小畑は糸で絡められていたので、小畑の糸を切る。と、また、シャーッと今度は俺に糸を吹きかけ、その長い足で俺に向かって近づいてくる。


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読んでくださってありがとうございます。

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