74 センチュリオン
でも、これならなんとかタイムマシンまで連れて行くことができるかも。問題はこの噛みつく大口なんだよな。なんとかティラノの口をふさげないか何度か捕まえようとするけど、さすが野生の恐竜と、動物になんか慣れてない俺じゃ勝負にならない。
ティラノは巨大化した俺よりも二人の地上にいる女子の方に関心があるようで、今は川原を両腕に抱えて走って逃げている清谷さんをまた追いかけようとしている。そのティラノの尻尾を捕まえて引っ張り戻す。
グワアッとティラノが振り向いて怒る。
小畑も何とか二人を追うのを止めようとしてくれてるんだけど。
この口さえなんとかなれば。
ふと、さっきまで乗っていた絨毯がまだそこらへんでひらひらしてるのが目に留まった。そうだ。これを使えないだろうか。
絨毯を手にとり、それでティラノの頭から上半身をがばっと覆って押さえ込んだ。いいぞ。これで噛みつけない。そのまま巨大化した俺はティラノを持ち上げた。
「どこだっけ、タイムマシン」
「こっちだ!」
地上を走る小畑が槍で示した方に、ブラックホールのような暗い闇の固まりが見えた。タイムマシンって見たことないけど、これがそうだと言われれば信じるしかない。
えいっと、絨毯で簀巻きにしたティラノをその穴に投げ込んだ。絨毯はなくすと困るので絨毯の端っこは離さないようにして。
暗い穴に投げ込んだティラノは間もなく見えなくなり、そして穴は自然にすうっと閉じていった。
「帰ったかな、白亜紀に」
普通サイズに戻りながら誰にともなく尋ねると、川原を静かに床に下ろした清谷さんがほっとしたように答えた。
「きっとそうだね。ありがとう」
「清谷さんこそ、ありがとう。よく気づいてくれたよな、川原に」
「うん。ちょっと意識あるみたいだけど。大丈夫?」
清谷さんがのぞき込むと青ざめた顔で川原は眉をしかめ、片手をあげて顔をこすった。
「大丈夫」
細い声で川原が答えた。
またクッキーのことを思い出しポケットから引っ張り出した。もうだいぶぐちゃぐちゃになっているけど。
「えー、これ、食べる? 汚いから嫌だったらいいけど」
「なにこれ?」
予想通り川原は不愉快な顔でつぶれたクッキーを見た。
「食べた方がいいと思う。元気出るから」
清谷さんの言葉に、すっごく疑わしい、という顔で川原は俺の顔とクッキーを交互に見つめ、指先で袋をつまみ上げた。袋に破れ目がないか十分確認してから袋を開き、一枚だか欠片だかよくわからなくなったクッキーをひとつ口にした。
「ほんとね」
食べてようやく納得したように川原は俺に目を向けた。
「ありがとう。これは何? 魔法?」
「いや、魔法じゃない。むしろ、これが本物だ」
「手作りか」
川原はふっと微笑んだ。忘れてた、というような顔だった。
「残り、もらっちゃっていいのかしら」
「ごめん、まだ、これをあげないといけない人がいるんだ。少し残しといてくれる?」
「わかった」
川原は笑みを浮かべて俺にクッキーを返した。
「ところでティラノサウルスのレックスって何?」
小畑が清谷さんに尋ねている。
「ああ、ティラノサウルスが属の名前でレックスは種の名前。ラテン語で王様って意味なの」
王様か。なんとなく、今敵対してるあいつを思い出す。
さて、日向を探さないと、と思っていたらまた出た。ガガガ、と地面を揺るがす地響きが。
小畑がデュラハンで清谷さんがティラノだから、おおかた予想はつくが。と思って振り返ったらやっぱりそうだった。
大型戦車が走って近づいてくるところだった。
「出たわね。センチュリオン」
詳しいな、川原。
戦車は高さが3メートルぐらい、幅は4メートルぐらいだろうか。数メートルはある主砲が不気味な砲口をこっちに向けている。
結構速いのでまた絨毯で逃げることにした。騎士姿を解除した小畑、清谷さん、川原を乗せて俺も飛び乗った。
「やばい、撃ってくる」
小畑がつぶやくと同時に戦車の砲口が爆音とともに火焔を吹いた。
ドガーン!
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