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64 今度は雨が

 俺の叫びが届いたのか、今度は薄い灰色の雲が空を覆い始めた。さっきの黒い雷雲とはまた違う。何が起こるんだろう。雷が鳴ってくる雰囲気ではない。

 まだベヒモスはドスドス追いかけてくるけど、曇ってきたので少し涼しくなった。ぽつりぽつりと雨が落ち始めてきた。

 と思うと、乾いた大地にざあっと雨が降り始めた。冬の雨だから冷たいけど走って走って熱くなっているので別に寒くもない。むしろありがたいぐらいだ。

 地面がだんだんとぬかるんできた。これで奴の追いかける足が遅くなってくれる・・・なんてことは、なさそうだ。むしろ俺の方が走りにくくなってきた。ほんとに神様、助けてくれるつもりあるのだろうか。

 

 ただ、地面の様子が少しずつ変わってきた。茶色一色だった土が、だんだんと緑になってきた。草が生え始めている。こんなに速く。

 生え始めた草はどんどんと高さを増して膝ぐらいになってきた。おいおい、走りにくいじゃないか。ベヒモスはそんな草なんかものともしないぐらい巨大なので、むしろこの状況は俺の方に不利だ。

 どうしたら、と考えつつ走り続けているうちにまたまた草の丈が大きくなってきた。もう腰の辺りまである。走りにくいったらありゃしない。

 ドスン、と俺のすぐ隣に電車の車両ほどもある大きな足が降ってきた。危ない、もう少しずれてたらぺしゃんこだ。

 まずい、次にあの巨大な足が降ってきたら、と思ってちらりと後ろを振り向いた。

 そして、おや、と気づいた。ベヒモスはもう俺の方を見ていない。

 そうか、もしかして大きすぎてすぐ足下のものは見えないのか?

 

 いきなり考えが閃いた。

 見えなくなる。俺、そういえば透明化できるじゃないか。

 ただ、透明化はもしかして魔神の魔法かもしれない。そもそも魔法で出てきたであろう幻獣相手に、魔神の魔法が通用するのかどうかわからないけど。

 でもこのまま走り続けても埒があかない。ものは試しだ。


 消えろ消えろ消えろ、俺。

 こんなせっぱ詰まった状況で果たしてうまく消えられるのかと思ったが、練習してきただけのことはある。走り続ける足がだんだんと透けてきた。そして、うまく完全に消えた。

 でも、よくないことがある。

 姿は消えるけど、まったく空気みたいにいなくなるわけじゃない。つまり、草をなぎ倒すところは残ってしまうわけだ。

 ベヒモスがどのぐらい賢いのかはわからないが、人間並みに賢ければなぎ倒された草を頼りにすぐ俺の居場所を見つけるだろう。という意味では草なんかむしろない方がいい。八百万の神様、いったい何を考えてこんなこと始めたんだろう。

 ベヒモスは俺を見失ったのか、ドスンドスンと近くをやたら踏みならしている。まずい、ここからなんとか逃げないと、狙ったんじゃなくて偶然にしても踏みつぶされる。もうちょっと小さかったら、草の間を走ってうまく逃げられるのにな。

 

 と考えてまたひらめいた。

 ちっちゃくなったこともあるじゃないか。

 あの時は、おっさんのランプの中に入ったんだけど。でも、魔法に限界はないんだったら。できると思ったら何でもできるんだったら、ランプがなくてもちっちゃくなれるんじゃないか?

 やってみる価値はある。

 小さく小さく小さくなれ。

 

 途端に草がどんどん大きくなっていった。草が伸びたのか? もしかして俺の方が小さくなっているんだろうか。比べるものがなくて初めはよくわからなかった。でも、草と草の間がどんどん幅広くなってきた。つまり、俺に対して草が大きくなってる、俺がちっちゃくなってるってことだ。

 その代わりベヒモスの足はますます巨大になった。この状況はいいって言えるのか。ただ、発見はされにくいはずだ。透明になった上に草の間に隠れてしまえるぐらい小さいんだから。

 これでネズミみたいに足が速かったらいいんだけど。

 と思った途端、走る早さが格段に速くなった。草と草の間は今では大きな柱と柱の間を通り抜けるように楽に走れる。少々ぬかるんでいるけど、草が生え始めてからは泥だらけというよりしっとりした地面みたいでそんなに走りにくくない。

 いいぞ、このままベヒモスをかわして城に走り込んで行けたら。

 ああ、でも、俺の体が小さすぎて周りは草だらけ。どっちに向かって走ったらいいのかわからない。


――――――――――――――――


読んでくださってありがとうございます。



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