52 小畑の活躍
次の日に学校に行くと、また少し変わっていた。
昨日は白くてモダンな感じの建物だった。大きくは変わってないけど、その一部に高い塔が増えて、てっぺんがアラブ風のタマネギみたいな形になっている。
アラブ風ってとこがちょっとひっかかる。やっぱりアラブの悪魔なのか。
でも、みんなは全く気にしてないようで、特に女子は旅行気分で、あれ素敵、とか指さして噂している。
今日の教室では何人かの生徒が、清谷さんを囲んで何か動物をかわいがっていた。猫ぐらいの大きさで白っぽい狐のような色をしている。尻尾は狐に似てるけど耳がやたら大きい。
そっとのぞきこんでみると清谷さんが振り返った。
「おはよう、在田君」
「おはよう。何? その動物」
「フェネックっていうの。エジプトあたりにいる砂漠の狐なの。かわいいでしょ?」
確かにくるくるとした目が愛らしい。女の子達が次々に手を出してその動物を撫でている。
「あの・・・清谷さんが出したの?」
「うーん、そうかもしれない。日向君が来てから出せたんだけど。だから、あたしの力っていうより日向君かも。この前、マンモス出したときは在田君が一緒だったけど。二人ともすごいね、こんな力持ってるなんて」
清谷さんのとこにも魔女がいるから何かできるんじゃないのか、と言いたかったけどクラスメートがみんな見てるのでやめておいた。
「別に、俺はたいしたことないよ」
それだけ言ってみんなの輪から離れた。
あんまり日向と一緒だと思われたくない。
その日、また学校に幻獣が出た。
空に雲が広がったかと思うほど巨大な鳥だった。鷲にちょっと似てるかもしれない。悪い奴かどうかわからないので、まず観察していたら、そこに向かって飛び立っていく奴がいた。
羽の生えた黒い馬、ペガサスか。乗ってるのは。
「あれ、日向君じゃない?」
女子の誰かが教室の窓から指をさした。そうか、確かに日向だな。あんな空飛ぶ馬になんてよく乗れるな。
と思ったら、隣にもう一騎飛んでいく白いペガサスがいる。
誰、誰、とみんな噂しているが、どうも見たことあるような気がする。
「小畑君?」
そう、小畑だ。あの騎士姿。でも、地上で戦っているときより少し軽装だ。空を飛ぶからかな。
大鷲みたいな奴が地上に向かって滑空する。その先に運動場には一人の女子生徒がいた。
女子の悲鳴が聞こえ、鋭い爪が彼女をかすめる。
そこに二頭のペガサスが突っ込んでいく。小畑と日向が巨大な鳥に向かって剣を振るう。と、たちまち大きな翼でばしっとはじかれる。
危ない!
小畑が馬から落ちそうになり、すんでのところで手綱を握ってとどまった。小畑の奴、あんなすごいことできるんだな。
二頭の馬は方向を変え、一頭は上から、一頭は後ろから、と敵の注意を逸らしながら巧みに攻撃していく。
正直言ってかっこいい。大きさでは鳥よりだいぶ小さいのだが、動きが素早い。剣を正面に構えて一突きしては、さっと身をかわす。鳥がもう一頭に目を奪われている内にもう一頭が下から切り込んでいく。
ギャーギャーと騒ぐ鳥の声が幾度か聞こえて、ついに鳥は大空に飛び去って行ってしまった。
二頭のペガサスが運動場に降り立つと、各教室の窓から一斉に拍手がわき起こった。みんな見てたんだな。
何人かが運動場の二人のところに駆け寄っていく。今は授業のようで授業ではないからみんな自由なんだ。小畑も日向も兜を脱いでみんなから賞賛を浴びている。
俺も教室を抜け出して様子を見に行った。
当然、という顔の日向と照れながらも嬉しそうな小畑。今まで、俺と戦っていたときは、そういえば誰にも認められてなかったんだよな。俺とわずかな目撃者がいるだけで。でも、小畑は賞賛なんて求めていると思わなかった。
ほんとは認められたかったのか、小畑。俺と地味に戦ってるんじゃなくて。そうだよな、せっかく頑張ったのに、誰にも認められないより、自分がやったんだって見てほしいのが普通だよな。
誰にも知られず黙って戦うことなんて、俺が強制できることじゃないし。
よかったな、小畑。
小畑は日向を認めたってことか。
なんだか複雑な気持ちだった。小畑は理解してくれてると思ってたけど。でも、俺も自信がなくなってきた。本当に日向についてる奴は悪魔なのか。悪いことってそんなにしてないんじゃないのか? 学校が変わるのがよくないことか? 巨大な鳥に襲われる女子生徒を助けるのが悪いことなのか。
間違ってたのは、もしかして俺の方だったんじゃないか?
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