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51 学校まで変わってしまった

 次の日、学校に行ったら学校がすごく変わっていた。

 なんだ、このお洒落な外観は。壁は白く、ガラス張りのホールから玄関に続く。靴箱もいままでただの木の棚だったのに、ロッカーみたいになってるし。階段は、と探したらエレベーターとかついてるし。

 教室の位置は変わらないのでなんとか迷わずたどり着けたが、部屋も激変していた。円形に並べられたふんわりとしたソファに座ってクラスメート達がジュースなんぞ飲みながら談笑している。


 「・・・どうしたんだ、これ」

 その中に篠原を見つけてそっと尋ねた。

「ああ、これか。日向君がさ、こんなのがいいってみんなが言ったらぱっと変えてくれてさ。授業じゃなくて勉強会にするんだって。すげーな、こんなおやつ食べながら高校生活できるなんて」

 篠原はソファの前に盛られたお菓子をばくばく食べながら、隣の席を少し開けた。

「ここ座る?」

「・・・ああ、うん。勉強会って何だ」

「なんかさー、今まで先生が一方的に黒板に向かってしゃべってたじゃん。それを生徒が自主的に学んで考える方にするらしいぜ。よくわからんけど」

「わからん。それ、日向が?」

 胡散うさん臭い、と思って尋ねると篠原は声を低くした。

「日向君って言うんだそうだ。全部あいつがやってくれてるみたいだから、呼び捨てすると怒る奴がいるから気をつけろよ」

 ますます怪しい。呼び捨てすると怒るって、いったい何様だ。


 そうこうしているうちに先生が教室にやってきた。様変わりした教室を初めて見て戸惑っている様子だが、日向に進められてソファの一つに腰を下ろした。

「ええー、おはよう。今日からちょっと授業のやり方が変わるそうだが・・・」

 隣に座る日向が冷たい口調でさえぎった。

「授業ではありません。勉強会です。あななたち教師は自分が何もかも知っていて教えてやると思っていたでしょう。確かにあなたは僕たちより少しばかり長く生きていて、学校にいた年月も長いでしょう。その知識は尊重しますよ。でも、僕たちは何も知らない子供ではないんです。僕たちだって今まで生きてきた経験は人それぞれだし、考える頭だってあります。だから、一方的に知識を押しつけるのではなく、僕たちが学ぶのを手助けしてくれればいいんです」

 おおーっと集まった生徒達がざわめいた。何人かが拍手を始め、拍手はじきに大勢に広がった。

 すごいな、日向。言われてみれば、確かに聞くだけの授業はつまらなかった。ここを覚えなさいと押しつけられるのも決して楽しくなかった。でも、学校というのはそういうものだ、日本全国みんなこうなんだからしょうがないと思っていた。

 どうして今までそうしなかったかと言えば、多分、現実にはそんなことできなかったからだ。高校を出て専門学校に行く道や大学に行く道、就職する道と一見、選べるようだけど、実は通るべき道はある程度制限される。道をはずれるとどうなるかわからない。それを恐れて学校も教育もみんな同じにするしかなかった。

 日向や川原の言った理想の社会ってこういうことなのか。よく考えるもんだな。俺は学校つまらないと思うだけで、具体的にどうしたいのか考えたこともなかったんだ。


 お昼時に校内をぶらぶら歩き回ってみると何もかもが変わっていた。

 購買はお洒落なカフェテリアになって美味しそうな料理がいろいろ選べるようになっている。体育館には各種スポーツトレーニング道具が完備されている。文房具だけ扱っていた売店も面白そうな道具やゲームすら置いている。

 校庭もまるで遊園地みたいにいろんな乗り物があったり美味しそうなジュースや食べ物を売る売店が建ち並んでいる。

 みんな戸惑ってはいるようだが、おおむねこの変化を楽しんでいた。まるで学校じゃないみたいだ。


 授業時間が終わって文芸部に行くと、なんだか教室の前に人だかりがしていた。人混みを、ちょっとごめん、とかき分けて近づくとそこはお化け屋敷に変わっていた。

「なんじゃこりゃ」

 真っ暗な入り口からのぞくと水口が見えたので声をかけた。

 水口はすっかり幽霊の姿でうれしそうにこっちを向いた。

「あっ、在田君、待ってたー。手伝って。もう忙しくって。見た? お化け屋敷、始めてみましたって改造したらこんなに人気が!」

「もう文化祭終わったろー。なんでこんなことやってんだ」

 文芸部はあくまで地味に本を読んだり、文学について書いたり調べたりするところだ。テーマパークじゃない。

「でも、いつもの部活じゃつまんなにじゃん。みんな適当にさぼるし。日向君があちこち校内回っていろいろ変えてくれてるんだよ。すごいね、彼、クリエイティブだよね」

 クリエイティブか。

 文芸部の俺が全然独創的でも想像力もないってのに、バスケ部の日向が新しい改革を次々に考えられるなんてな。

 また実力の差を見せつけられた。

 ふう、とため息をついて部室の片隅にカバンをおいて、でもお客様間対応してる水口につきあう気力もなく、ぼんやりと流れ込む生徒達を眺めていた。


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読んでくださってありがとうございます。






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