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5 魔神の母ちゃんのいるところ

 弁当の時間に、がやがや動き出す生徒たちにまぎれて俺は魔神と二人で話す片隅を見つけた。

「はあー、やっぱ、学校はやめろよ。俺が疲れるわ」

 しかし相変わらず魔神は俺の心配を全く理解しようとしない。

「ワタシのお昼ご飯、なに?」

 言うと思った。

「しょうがねえ。購買行くか」

 俺の弁当は一人分だし。


 購買は早いもん勝ちだ。階段を駆け下りて購買に並び(もちろん魔神も一緒に)首を伸ばして陳列を見ながら、

「どのパンにする? 悪いけど一個にしてね、小遣い足んないから」

 と囁くと、魔神は目を丸くした。

「悟、買ってくれるの? 慈悲深いネ」

「しょうがないじゃん。俺の弁当だけじゃ足りんし」

 魔神はさっさと順番を抜かして歩いていって、メロンパンをひとつ持ってきて、これ、と言った。

「ああ、持ってきちゃだめなんだ。並んで」

「キープしとくだけネ」

 レジに並ぶ子供のようにメロンパンをしっかり両手に持って魔神は列に並んだ。


 教室で食べるとまた独りごとが目立つといけないので、天気もいいし外で食べることにした。グラウンドの見える人気の少ないベンチで魔神と並んで食べながら、メロンパン一個じゃこのおっさんの腹、膨れないだろうなと、可哀想になってきた。

「俺のおかずも少し食べる?」

「ありがと。サダカすると神のご加護あるネ」

「サダカ?」

「富める者が貧しいものに喜んで与えるとアッラーの前に徳を積むネ。悟、与えられてラッキーだヨ」

 ねだっといてラッキー扱いか。しかも全然富める者じゃないけど。

「・・・成り行きってか、しょうがないだろ。ホントは自分で何とかして欲しいけど」

「ああ」

 言うと魔神は、ぽん、と音を立ててメロンパンを二つに増やした。

「なんだ、そんなことできるんだ。早くやれよ」

「あるものを増やすことはできるネ。全くないと難しいけど。増やす魔法は愛と慈悲があるところではやりやすいヨ」

「全然、愛じゃないけどな」

 どう考えても、おっさんに愛はない。

 魔神は俺にメロンパンをくれて、弁当のきんぴら肉巻きやらコロッケやらをぽん、と増やして分け合った。なんか遠足の弁当交換みたいでちょっと楽しかった。

 魔神はメロンパンをどんどん増やしてジャグリングをし、ぽんぽん口に放り込んで見せた。

「すげえ」

 なかなかたいした技だったので、思わず周りに目立たないように拍手した。

「あ、でも、食べすぎじゃね? ダイエットしないとランプに戻れないだろ」

 言うと、魔神はああーと両手に顔を埋めた。ダイエットは辛いけどしょうがないだろ、と慰めようと思ったらこう言いやがった。

「最後の一個まで食べちゃったヨ。もう増やせないネ」

 ほんと、食べることしか考えてないんだな。


 午後の授業でも魔神は生徒一人一人を見て回っていた。誰も気づかない。やっぱり水口が特殊なのか。

 

 なんとなく水口を避けたくて部活はさぼった。

 帰り道、魔神はしきりと髭をしごきながら考えていた。

「あの子、気になるネ。あのかわいいメガネちゃん」

 かわいいメガネ? 俺のクラスでメガネでかわいい・・・。まさか。

「清谷さんじゃなかろうな」

「ああ、多分そう。胸ちっちゃいネ」

 んなとこ、見るな! 俺の清谷さんなのに!

「気になるってどういうことだ」

 ハーレム候補、とはなんとなく言いづらい。本音はなかなか口にできないもんだ。まさかとは思うが、こいつが清谷さんを気に入ったってことじゃないだろうな。

 いきなりライバル出現か?

 ・・・いや、それはないだろう。一般的な女子がヒゲデブおっさんを好きになるとは考えにくい。アラブ系にしたって若くてモデル級にかっこいいならともかく、このおっさんじゃ。俺の方がまだましだ。

「あの子、なんか変わったとこない? 例えば消えるとか・・・」

「は?」

 いきなりなんだ。

「んなわけないじゃん。普通の人、消えないだろ。言っとくけど、俺だっておまえが出現するまでごく普通の生活してたんだ。普通じゃないのは水口の頭ん中ぐらいだ」

「ふーん。じゃあ、あの子、どこに住んでる?」

「いや、知らない」

 ほんとに清谷さんに関してはほとんど知らない。クラス名簿はあるけど、住所までは載ってない。


 「なんでおまえ、清谷さんのこと、そんなに気になるんだ」

「うーん、うちの母ちゃん、多分あの子んとこ、いるネ」

「え? 母ちゃん? おまえのお母さんってこと?」

 魔神は首を振った。

「ワタシの奥さんネ。とっても綺麗でナイスバディ」

 言いながら魔神は両手で胸の辺にドッジボールサイズの丸を描いて見せた。そうか、外人の胸にはかなわないかもしれない。

「あの子んとこにいるってどういう意味?」

 うーん、と魔神は腕を組んで考え込んだ。

「うまく言えないけど、あの子、指輪持ってる気がするヨ。それにうちの母ちゃん入ってると思うネ」

「もしかして、おまえがランプの精で奥さんが指輪の精?」

「そゆこと。はあー。母ちゃん、ずっと会ってないネ。浮気してないか心配。せっかく、近くにいるんだから一目会いたいヨ。悟、協力してくんない?」

「えっ・・・?」

 絶句もんだろ。

 立場、逆じゃないの。なんでお願いを聞いてくれる筈の魔神のお願いを俺が?

「悟、メガネちゃんに惚れてるデショ。ついでにうちの母ちゃんに会いに行くことぐらい朝飯前ネ」

「はあ? いや、・・・いやいやいやっ!」

 なんでわかったんだ。

「わかりやすいネ。悟。ほら、そうと決まったら実行あるのみだヨ」

 何を実行するつもりなんだ!


 夕食も魔神は俺のおかずを魔法で増やして食卓の横で食べ、風呂まで一緒に入ってきやがった。ターバン取った頭は初めて見た。ちゃんと髪の毛はあるんだな。ハゲかと思ってたけど。

 「ちょっと狭いね。でもいいお湯ねー」

 さっさと入ろうとするので慌てて止めた。

「体洗ってから入るんだよ、日本の風呂は。はい、やり直し」

「ええー」

 魔神は一応、言われた通り体を洗って、まだ泡ぶくなのに入ろうとするから、手桶にお湯汲んでざばーっとかけてやった。さすがに風呂桶におっさんと二人入ると狭いので、俺が出て髪を洗うことにした。

 喜んで湯船に入るおっさん、ご機嫌で鼻歌まで歌うな。

「明日から、せめてちょっと時間差で入ってくれよ。っていうか、おまえ、ランプの中にいるとき風呂とか食事とかどうしてんの?」

「ああー、まあ、全部揃ってるけど、一通り」

 魔神はちょっと言いにくそうに答えた。

「だったら自分ちでやってくれよ、もう」

「でも、日本の風呂いいネ。お湯たっぷり使えるヨ。アラブの風呂、お湯少ないネ」

 大喜びでばしゃばしゃ湯をはね散らかしてはしゃいでるし。子供か! 


――――――――――――――――――

 読んでくださってありがとうございます。


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