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49 帝王ってなんだ、日向

 期末テストの期間中も怪奇現象は続き、いろんな生き物が現れた。

 最近、水口や清谷さんも関わっているせいか、必ずしも敵ばっかりではない。校庭の上の大空に青龍、朱雀すざく、白虎、玄武という中国四聖獣が踊ってたときは思わず見とれた。青い翼のない中国風の龍、雀というが雀よりもっと大きな鳥で、どちらかというと鳳凰みたいに見える鳥。白い美しい虎、そして蛇が巻き付いた亀。

「うわあうわあ」 

 水口が、目を輝かせて空を見つめながら四聖獣について語ってくれた。都の東西南北四方向を守る聖なる中国神話の幻獣なんだそうだ。小畑が面白いという気持ちはわからなくもない。こっちを襲って来さえしなければ。

 奴らは大空を踊っているだけで襲ってくる気配はないので、俺も小畑も武器を出さずに見つめていた。


 「帝王の降臨だよ」

 いつのまにか隣に現れた日向が四幻獣の方を見てつぶやいた。何言ってんだ、こいつ。帝王ってなんのつもりだ。

 胡散うさん臭い、と思って日向の方を見ると、振り向いた日向と目が合ってしまった。

 嫌な予感がして俺は黙っていたのに、日向の方から話しかけてきた。

「聖獣が現れたということは、つまり守るにふさわしい高貴なるものが現れたということだよ。在田君、君は最近なかなか頑張っているようだね」

 話の流れからして、俺のことを高貴なるもの、なんて言うわけがないと思い、黙って聞いていた。頑張っているようだ、なんて、まるで社長が社員にかける言葉みたいな上から目線な言い方だな、と感じつつ。

「運動場でサラマンダーとワイアームを倒した、図書館前で牛頭鬼ごずき馬頭鬼めずきを倒した。隠さなくていい。僕のところには全部情報が入っている。そう、君と仲のいい、ええと、なんと言ったかな、騎士に変身する少年ものこともね」

 こいつ、クラスメートなのに、小畑の名前すら覚えてないのか。ほんとに失礼な奴だな。

 むかむかするので、俺は相変わらず黙っていた。

「能力をうまく使えるのは、選ばれたものだけにできることだよ。君はその選ばれたものだと誇りを持っていいんだ」

 日向は傲然と笑みを浮かべて俺を見つめている。いったいどういうつもりなんだ、誉めてはいるんだろうが、その、エリート意識満載で嫌みなほどの物言いは何なんだ。

「選ばれたものは多くない。僕と君、そして君の友人。本当はそのぐらいだろう。女の子たちのやっていることは、恐らく偶然にすぎない。彼女たちは目的をはっきり意識して幻影を使っているわけではないだろうから」

「目的?」

 思わず尋ねた。

 俺の目的は、幻獣から自分やみんなを守ることだ。日向の目的はなんなんだ。

 日向は俺の目からその強い視線をはずさないまま深くうなずいた。

「世界を変えることだよ。この世界は腐っている。そうだろ?」

「いや・・・」

 違う、腐ってなんかない。世界は薔薇色とは言わないけど、なにもかも悪いわけじゃない。日向は本気でそんなこと考えてるのか?

 日向はふっと皮肉な感じで笑った。

「君は世の中に不満があるんだと思っていた。嫌いなんじゃないのか、学校も、学校の体制も、今の大人が作り上げた腐った社会構造も」

 否定はできなかった。確かに現状に満足してるわけじゃない。大人が作った社会は歪んでいるし嘘だらけだ、なんてことはまともな高校生なら一度は考えるだろう。だけど、だからって変えようとか腐ってるとか、そんな風には考えたことがなかった。

 今の日向はまともなのか? それとも異常なのか?

 ひとつ言えるのは、以前の日向だったら絶対そんなことは言わないだろうということだ。

「僕らは力を手に入れつつある。僕らなら変えられる。そう思わないか?」

 俺はまた返事をしなかった。

 言っていることは、ある意味正論だし、聞きようによっては正義感のように聞こえなくもない。でも、どうしても賛成できない。

 どうしてそう感じるのか、すぐにはわからなかった。

 もし、言っている奴が今の日向のような態度でなければ耳を傾けたかもしれない。


 しばらく日向が俺の返事を待つように言葉を切ったので、俺も一生懸命考えた。どうして反発を覚えるのか。

 それは、その発言が、世のため人のため、というよりもただの日向の独善的傲慢のように響くからだ、とだいぶ黙った後、気がついた。

 下手したら、その考えって独裁とか力による世界征服につながりかねないんじゃないか。俺が最初に魔神に口にして呆れられた世界征服の夢。それを日向がこんな形で本気で考えてるとしたら、お笑い、というよりはおぞましい。

 でも、悔しいけど俺より日向のほうがずっと優秀だ。こんな奴がほんとに世界を征服したらどうなってしまうんだろう。というより、世界はしばしば、こういう優秀な妄想家に支配されたり征服されたりしてきたんじゃないだろうか。


 日向はまだ俺を見つめている。

「俺はそういう風には考えない」

 ついに俺はきっぱりと言った。

「何?」

 日向は、せっかく仲間にしようとしてやったのに、という恩着せがましい態度から不快感を露わにした。

「こんなもの、俺の力じゃないし、俺は自分のことなんて別に大した奴じゃないと思う。ただ、これだけは言える。俺は自分の正しいと思うことをするし、何が正しいかは自分で決める」

「そうか」

 日向は、冷たい目で俺を見ながら言った。

「何が正しいかはいずれわかってくるだろう。自分の目で確かめるのは大いに結構だ。君がちゃんとものをわかる人間であってほしいと思うよ」

 自分の方が絶対正しいと、そう言いたいのか。

 もう俺は答えなかったし、日向もそれ以上突き詰めることなく黙って帰って行った。


――――――――――――――


読んでくださってありがとうございます。




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