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48 日向の変化

 期末テストの直前、ひさびさに日向が学校に出てきた。

 もう顔色は悪くない。でも、以前の日向とは何かが違うように感じられた。なんというか、以前よりももっと冷たいように見える。 

 前は完璧ではあったけど、もっと一生懸命さが漂っていた。その辺が熱苦しくも人間的だった。今の日向はロボットのように温かみが感じられない。  クラスのみんなは気づいていないらしく、日向を囲んで盛り上がっている。もともと俺は親しくもないのであまり近づかないが、案外変化というものは近くで見るより少し離れてみたほうがよくわかるような気がする。


 日向が明らかにおかしいとわかったのは期末テストが始まったときだった。一日目、一限目の数学が終わって、回答を集めた先生が日向を呼んだ。

「ああ、日向君、ちょっと」

 先生は日向が教壇にいる先生のところに来ることを期待したようだが、日向は傲然と席に座ったまま冷たく答えた。

「何か」

 返事の仕方もどこか違う。以前ならもっと爽やかに、はいっと答えていた奴だ。

「ああー、どうした。どこか調子でも悪かったか。回答欄に何も書いてないようだが・・・」

 クラスのみんなはそれを聞いてざわついた。

 優等生で模範生の日向が何も書かずにテストを提出するなんてありえない。先生も、そういう意味で声をかけたんだろう。それなのに、日向は露ほども気にする様子がない。

「いえ、結構です、そのままで。二学期中間試験までの成績で留年はないはずですから。これ以上、努力する必要を認めません」

 先生は眉をしかめ、クラスのざわめきが大きくなった。

 ボイコットか。あの日向が。

 テスト白紙提出なんて、俺みたいなのがやったら、勉強してなかったか、と一喝されて終わるに違いないけど、日向みたいな模範生がやるから意味があるんだろうな。

 それにしても、どうしてだろう。いきなり。


 その日の三科目のテストが終わると、みんな一斉に日向を囲んで問いただしていた。日向には興味がないが、どうしてなのか知りたくて、俺も遠巻きに話の聞けるところまで近づいた。

 クラスの奴らのかける声は、ほとんどが賞賛だった。勇気がある、胸がすかっとした、おまえだからできるんだよなあ、等々。

 もちろん、どうして? と尋ねる声も多い。

 それに対して日向は、無表情で淡々と答えた。

「別に。学校側の決めた体制に何故、自由である僕らが従わなければいけないんだ。僕には能力がある。教師にへつらう必要なんてないだろう」

 おお。いい子ちゃんだった日向が、よくここまでできるようになったな。

 俺も思わず賞賛の気持ちが強くなった。こういう奴だったら、友達になってやってもいいかもしれない。向こうがどう思うかはわからないけど。

 取り巻きも、普段あまり日向に近づかない奴も、驚いたような目で日向を見つめている。

 それにしても、この変化はなんなんだろう。

 清谷さんの言っていた、悪魔のような奴が日向についているとしたら、日向が急に反抗的になったのと何か関係があるんだろうか。


 夜、その話をジャッバールにすると、ふーむ、と顎髭をしごきながら考え込んでいた。

「日向という少年は、教師にだけ反抗したのか。暴力でもなく、悪行でもなく、ただ、体制に反旗をひるがえしただけ、ということなんだな」

「うん、そうみたい。俺も、日向があんなこと言うなんて思っても見なかった。くそ真面目で周りにばっかりいい顔して、いけ好かない奴って思ってたけど、あんなに気骨があるなんて」

 小畑がちょっと嫌な顔をして答えた。

「それ、気骨なのか? 変な反抗期が今頃になって出てんじゃね? 今まであんまりいい子ちゃんだったからさ」

「でも、俺やおまえがやったら留年確定だろ?」

「そりゃそうだけどさ。真似はできんけど」

 俺は小畑と二人で、二学期中間までで留年しない成績って、どの程度か考えてみて、

「三回のテストで全部百点取ったら、学年五回のテストで全部六十点以上になって赤点にならないんでは」

 という結論に達した。

「すげー。でも、嫌な奴だよな、やっぱり」

 俺が言うと小畑も笑った。

「うん。自信満々って言うか、それをひけらかすところはやっぱりやな奴。でも、どうしたんだろな、いきなり。悪魔の仕業かね」

「うーん、それが悪魔の仕業だとしたら、悪魔の狙いは何なんだ」

 それにはジャッバールもわからないようだ。

 ヒクマトに相談してみる、と言って、その夜は稽古の後消えていった。



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