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43 幻影が見えやすい人

 世界の捻れは収まるどころか日に日にひどくなっていった。

 ほとんど毎日のように学校でなにかしら起こる。害のない生き物、たとえば白雪姫の七人の小人たちが体育館で遊び回っていたり、家庭科室が大正ロマンの食堂になってたり、というようなことは日常茶飯事でもう驚かなくなってきた。

 幻の生き物にも危険な奴とそうでない奴がいる。何が危険で何が大丈夫か知るためにはいろんな知識を仕入れなければいけなかった。小畑はともかく、水口には聞きにくい。下手するとまた危険なもの出されてしまうかもしれないし。

 水口の頭の中がどんなに危険かは文芸部の俺たちが一番よくわかっていることなので、最近はなるべく近寄らないようにしてるのだが、向こうはこのあいだの野槌のづち事件以来、味を占めてまた幻獣を出そうと俺たちの周りをうろうろしている気がする。


 この前、運動場でサラマンダーを倒して以来、一部の生徒が俺が倒したと気づいてしまったようだ。大半のその場に居合わせた野球部員は、突然運動場に火の固まりが現れてそれを俺たちが消火した、という認識らしかった。だが、野球部のマネージャー女子に言われたのだ。

「あの時、在田君、棒みたいなの持ってたよね。小畑君は何かに乗ってたみたいに見えた。水が降ってきたのは、消火器じゃなくて、空から急に落ちてきた」

 どうして女子の方が鋭いのかな。完全に見えてはいないようだけど、細かいとこは当たりだ。

 ジャッバールにどういうことか聞いてみたが、彼はわからず、一日経ってヒクマトにカンニングしてきた答えを教えてくれた。

「幻影とは人の心に働きかけるものなんだ。そんなもの見えるはずがないと思っている人には見えにくいし、素直に信じる人には見えやすい。普段から現実以外の物に関心を持っている人にも、当然、見えやすいといえるだろう」

「俺とか小畑は素直なのか」

 小畑は笑って答えた。

「そりゃそうだろ。だいたい文芸部に入ったときから、疑うことを知らなかったよな。だから、水口の外見に騙されちゃって」

「それは言えてる」

 だから水口は一瞬にして魔物を出す方法をマスターしたのか。あいつの中二病、いや、現実以外のことへの想像力は生半可じゃないからな。俺たちよりずっと適性はあるかもしれない。

 

 ジャッバールは笑って、適性があるのと、それを役に立つように使えるのは違う、と言った。

「いくら知能が高くても、それを悪いことに使う人間もいるじゃないか。それと同じだ。幻影や魔法を使えても、問題はどう使うか、だ。使い方を間違えるぐらいならいっそ何もできない方がましだ」

「そんなもんなのか。魔法が使えるってのも楽じゃないんだな」

「そうだ」

 答えるジャッバールはあまり楽しくなさそうだった。こないだ、お父さんが大きな魔法が使えるのに使わないと話したことに、何か関係があるんだろうか。その後、彼は魔神のことをあまり話さないので、聞くのも悪い気がしてあまり聞いていない。


 小畑が新たな技を修得したのでちょっと羨ましいと思いつつ、今日も訓練に励む。小畑は、もう半月刀ではなく、西洋風の剣を使うようになったし、馬の乗り方の練習までするようになった。

 小畑はもともと、頭の中に騎士や勇者のイメージがあったのだろう。筋肉はつけたけど、馬になんか乗ったことないはずなのに、楽々と乗りこなせるのはイメージの中でトレーニングを済ませていたからなんだそうだ。

「いいなあ、イメージがかっこよくて。俺なんかせいぜいマンボウ型宇宙船だもんな。というか、あんまりかっこいい自分を想像したことがないぞ」

「いやー、俺だって、別に自分が王子様になってたわけじゃないんだけど。ただ、忠誠を尽くして想う人のために戦うのって好きだなーってだけで」

「へええ。その辺が志が高いってことか。すげえな」

「何言ってんだ、おまえ」

 どつかれる腕が甲冑に覆われてるので痛い。

「ちくしょー。俺も武装するぞ」

 でも、どうやって?

 考えていると、ジャッバールが自分の頭を指さした。

「ターバンとか巻いてみたらどうだろう? アラブ風ってことで」

「おまえ、本気で言ってる? ターバンはアラブ人だから似合うのであって、俺がターバン巻いても、タマネギみたいな帽子かぶった変な人って言われるのがオチだろ」

 二人とも笑うな。笑いすぎだ。


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読んでくださってありがとうございます。

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