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42 水口の頭の中

 小畑の言ったとおり、水口は教えるとすぐ魔物たちを出せるようになった。こいつも順応性あるとは思ってたけど、小畑以上だ。

 ただ、問題があった。

 水口の幻獣は、結構、飼い主に従わないで暴走するのだ。

 例えば、ツチノコのような太くて短い蛇、野槌のづちを出したときは、いきなりごろごろ転がってきて噛みつこうとした。野槌は高いところに登るのが遅いという弱点があるそうで、急いで階段を登って避難したが、どうしても言うことは聞かせられなかった。

 念のため、と思ってあまり危険じゃない物から出してもらうように言っておいてよかった。

「ふう、危ねえ。それにしても、水口、こんなん頭ん中で飼ってるのか」

「ああー、うん。時々夢に出てきてうなされたりする」

「中二病も楽じゃないんだな」

「でも、かわいいじゃん」

 どこがかわいいのかさっぱりわからない。

 結局、水口の使う幻獣は役に立たないので、あまり考えない方がいい、という結論になった。

「ええー、せっかく、実像が現れるってのに、もったいない」

「役に立つ奴ならな。でも、おまえのペットは危険なだけだから、絶対やめろよ」

「ずるい、在田君と小畑君だけ、妄想が具体化するなんて」

「だから、危険かそうでないか理解しろよ。動物園で、外から見るのは楽しいけど虎の檻に入れられたくないだろ」

 水口は一応納得はしたものの、まだ未練がある顔をしている。

 やっぱりこいつには言わない方がよかったんじゃないか。


 それにしても、学校で普通に怪奇現象が起こるようになってきたなんて。帰り道にやっと、ジャッバールのランプのことを思い出した。使わなくてすんでよかった。あいつの言ったとおり、小畑は頼りになる奴だった。

 夜、やってきたジャッバールにその話をすると、とても喜んで小畑を誉めちぎっていた。

「すばらしい。私の想像していた以上だ。観念をうまく使えているということだな。悟も、私の教えたとおりではなく、もっとオリジナルな物を出せる可能性がある。引き続き、訓練は頑張ろう」

 ただ、水口については、俺の心配したとおり、ジャッバールも表情を曇らせた。

「相手は選ぶ必要がある。その者の人格や、想像力を吟味してから話すべきだ。幻覚を具現化する力は、今となっては誰でも持ち得るものになっているようだ。知れば使える。今、その力がまだ限られているのは、みんなが知らないからだ。むやみに話さない方がよさそうだな」

「気をつけるよ。でも、水口、悪い奴じゃないんだけどなあ」

 小畑が口を挟んだ。

「うん、根はいい奴なんだけど、ほら、趣向がさ。そもそも、あいつの書くものって、怖い話ばっかじゃん。そういうとこに内面が現れてるんじゃないかな」

「そこがわからん。ホラーのどこがいいんだ」

「うーん、刺激を求めてるんじゃないかなあ。なんてのか、普通の人生、必ずしも面白いことばっかりじゃないから、ハラハラドキドキしてみたいってのか」

 そんなものかな。俺の日常はすでにハラハラドキドキになって久しいから、もう十分だと思うけど。


 ところで、魔神は奥さんに会えたのか、と尋ねてみたが、まだ会えていないらしい。息子たちは簡単に呼び寄せられたのに、奥さんには会えないというのが不思議だったが、やっぱり、向こうが会いたくない様子なのだ。

「振られちゃったってこと? そういえば、清谷さんが、奥さん、怒ってるみたいって言ってたなあ。反省がないんだそうだけど」

 言うとジャッバールは苦笑した。

「反省というか、まあ考え方の問題だな。母さんは、父さんに昔のように存分に力を使ってほしいんだが、父さんの方が、今はそういう気になれないんだそうだ」

「存分に力をって・・・。魔法だったら十分使えるんじゃないのか? めんどくさいだけって言ってたけど、そこがだめなの?」

 ジャッバールは笑って首を振った。

「もともと、父さんは君のような個人の願いを叶える魔神ではなかった。することが小さい、と母さんは言っている。まあ、私としては大きいことも小さいことも、同じように価値があると思うんだが」


 なんだか、また少し悲しくなった。

 そういえば、俺の願いってなんだったんだろう。

 魔神が現れたとき、こんな奴、どうせたいした魔法使えないだろうって思ったんだ。それに、俺の方も、それほどの願いなんて持ってなかった。だから、ハーレムとか世界征服とか冗談みたいなこと口にしてて、あいつに呆れられたんだったな。

 今、願いは何だって言えば、そうだな、まず、清谷さんと仲良くなりたい。二人だけで出かけたりできるぐらい。それから、成績もっと上げたいし、将来のこともしっかり考えていきたい。強くなって、川原とかに馬鹿にされないようになりたいし、日向のこともやっかまなくていいぐらい、できる奴になりたい。

 やっぱり小さいのか、俺のこんな日常の願いなんて。

「あのさ、お父さんが昔やっていた大きな願いって何?」

 ジャッバールは言いにくそうに腕を組んでうーむ、とうなった。

「まあ、そのうち話すこともあるだろう。悟、忘れないでほしいんだが、願いに大きい小さいはない。どんな願いも、その人にとって大切なものだったら価値のあるものなんだ。多くの人やものを巻き込むかどうか、社会に影響を及ぼすかどうかの違いはある。そこは、その人の生き方によるものだ。願いの善し悪しではない。悟、私は君の善良さを信じているよ」



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読んでくださってありがとうございます。

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