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41 小畑の武装

 「なんだ、あいつは」

「サラマンダー(火トカゲ)じゃないか!」

 叫ぶと小畑は俺より先に教室を飛び出した。もちろん俺も後を追った。

 校庭にサラマンダーがいる。

 ああ、まったく。関係ないにも程がある。いったい、学校の何人にこの怪奇現象が見えてるんだろうか。それとも、こんなに変なことが起きているのに校長先生には、おや、なんか空が曇ったな、ぐらいにしか見えてないんだろうか。


 階段を何段飛ばしかで駆け下りて、玄関から靴も履かずにスリッパのままで校庭に走り出た。

 野球部員が練習を中止して遠巻きに眺める中、長さ数メートルの巨大なワニほどの大トカゲが赤く燃える炎に包まれて舌をチョロチョロ出し入れしている。 

 

 駆け寄る右手にはすでに半月刀が握られている。

 近寄るとキャンプファイヤーに近づいたように熱い。

「この化け物!」

 シュウっと半月刀を振り下ろしたが、今回はそう簡単には消えてくれなかった。それどころか、怒らせてしまったのか、敵はくわっと口を開いてこっちに顔を向け、火焔を吹き出した。

 あちちち。

 慌てて片手で炎から身を守る。

「おい、消火器とか・・・」

 言いながら小畑を振り向いて、その姿に驚いた。

 完全武装フルプレートの白馬の騎士がそこに立っていた。

「おいっ、おまえ、まさか小畑?」

 念のため聞いてみた。

「ああ、うん。そうみたい。いやー、こんなんなっちゃうとは」

 照れながらも嬉しそうな口調だ。甲冑で完全に顔が隠れてるので表情はわからないけど。

 小畑は左手に持った盾でサラマンダーの炎をかわしつつ、馬を駆ってトカゲに向けて突進する。

 シュッと右手の剣が振り下ろされる。一緒に訓練した半月刀じゃなくて、西洋風の幅広い両刃の剣だ。

 サラマンダーの炎が二つに割れる。でも、奴も簡単には退治されてくれない。隣を駆け抜ける小畑の方に向かってまたもや、ごおっと火焔を吹きかける。

 トカゲの顔がよそを向いたチャンスに俺はもう一度切り込んだ。

「あちち」

 だめだ、やっぱり熱い。

「なんか火の対策しないといけないんじゃないか」

 炎の音がごうごううるさいので、小畑に向かって声を張り上げた。

「そうか、火の属性だから水を持ってこないとだめなのかも」

 フルプレートの中でくぐもった声が聞こえる。

「わかった、ガーゴイルだ!」

 ガーゴイル? ええっと、西洋の城とかについてる子鬼みたいな奴か?

 俺が考える間もなく空に灰色の雲が渦巻き、空に羽音が聞こえてきた。

「うわっ! なんじゃこりゃ」

 ばさばさと俺のすぐ側をこうもりみたいな羽を持つ怪物が通り過ぎる。

「水だ、ガーゴイル!」

 小畑の命令に従うように空飛ぶ灰色の子鬼みたいな奴は口を開いて大量の水をサラマンダーに吹きかけた。

 じゅわーっと激しく水が蒸発する音とともに、真っ赤だったサラマンダーの体がみるみる汚い灰色に変わっていく。

「すげー。怪物消火器」

 感心してる場合じゃない。今度こそ、俺は半月刀を構えてえいっと切りつけた。

 ギョオーっというような声を上げて、シュウシュウとサラマンダーが消えていった。

「ふう・・・」

 手強い相手だった。今までの幻獣とレベルが違う。いつのまにかガーゴイルもいなくなっていた。

「よく思いついたな、ガーゴイル。それに、いきなり騎士になってるし、魔物まで使いこなせるなんて」

 馬から下りた小畑を俺は賞賛にも似た気持ちで迎えた。

「いやー、なんてんだか。俺もこんなことできるとは」

「順応性ある奴だな、おまえって。いつも思ってたけど」

「そうかなあ」


 甲を頭から外した小畑をやってきた女子が感心したように見つめていた。水口。すまん、忘れてた。

「すっごいじゃん、小畑君。いつのまにこんな特技が!」

「えっ? あー、なんてのか」

 頑張れ、小畑。せっかくかっこよかったのにちゃんと喋れないのはもったいないぞ。


 結局、小畑ではなく俺が魔神から始まる世界の捻れについて説明することになった。

「で、小畑も一緒にトレーニングしてるわけ。だけど、こんな姿になったのは初めて見た。どうやったんだ、おまえ」

「うん、よくわかんね」

「ちょっとは頭使えよ」 

 小畑は相変わらずヘラヘラ笑いながら、うーん、と考えた。

「そうだなあ。おまえと訓練してたんだけど、半月刀ってどうも馴染めなくって。もし俺だったらフルプレートの騎兵だなーとか考えてたんだよな。そのおかげかな。ガーゴイルはおまえに消火器って言われて急に思い出したんだ。なんか水属性の奴いないかと思って」

「ガーゴイルはほんと、よく思いついたよな」

 へへ、と小畑は照れたように笑う。だんだんと騎士の姿は消えていっていつもの学ランの小畑に戻ってきていた。

「いいなあ」

 水口が心底うらやましそうに言う。

「あたしもガーゴイル使いこなしたい」

 そこなのか、感動してるのは。小畑の騎士姿じゃなくて。

「こんなこと、身の回りに起こらない方がいいよ」

 小畑は戦えるからともかく、水口まで巻き込みたくないと思って、もう話を終わりにしようと思った。

「どうやったら使いこなせるのか、あたしにも教えて」

「やめろよ」

 止めたのだが、小畑は真面目な顔で俺に言った。

「水口が筋トレはしなくていいと思うけど、でも俺にガーゴイル使えるんなら水口には水口のやり方で戦えるんじゃね?」

 水口のやり方? それはそれで、ちょっと怖い気もする。


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読んでくださってありがとうございます。












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