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40 教室の異変

小畑には魔神にもう会えなくなったことは話さなかった。

 話してどうなる? 俺自身も、奴に会いたいのか会いたくないのかわからなくなってきた。仲良くはなったけど、もともといなかった奴なんだし。寂しがるのはどうかしてる。


 ジャッバールは約束通り、生真面目に学校に毎日ついてきてくれるが、それほど危ないことも起こらない。

 清谷さんは、おはよう、と挨拶ぐらいはできるが、その後、とくに話すこともない。水口のところには相変わらずナマコやイタチが姿を見せるそうだが、当の水口が心から嬉しそうなので、まあいいか、と放置している。

 小畑もだんだん筋肉がついてきた。

「肩こりなくなったわー」

 と関係ないところで喜んでいる。お気楽でいいな、小畑は。


 まったく平和に暮らしていた、そんな時。

 突然、教室がぐにゃり、と歪んだ。

 前方から窓側に並んでいる数個の机が地面が盛り上がったように浮かび上がり、椅子は滑って互いにぶつかりあい、出口のドアは、まるでシュールレアリズム絵画のように変な曲線を描いて大きく口を開いた。盛り上がっている反対側の床はクレーターのように陥没して、生徒は滑ってそこに落ち込んでぶつかりあった。並んでいる窓から見える校庭は水面に石を落として波紋ができたようにピントが波打っている。みんなが悲鳴や驚きの声を上げている。

 「なんだ、どうなったんだ」

 教室の後ろに控えているジャッバールを振り向いて、俺は窪地に落ち込んだまま小声で尋ねた。

「落ち着け、悟」

 ジャッバールはゆっくりと指を回した。指の動きに伴って教室の歪みはだんだんと元に戻り、終いにすっかり元通りになった。

 まだみんなざわざわしている。

「なんだ? 地震か?」

「変だったよね、めまいが起こったみたいだった」

 教壇の先生が声を張り上げた。

「落ち着きなさい、みんな。ちょっと確認してくる。クラス委員、念のため校庭に避難しよう。誘導頼むぞ」

「わかりました」

 クラス委員が、並んで、と廊下にみんなを出して校庭まで誘導する。誘導されなくても行けるけどな。ただ、不思議なことに他のクラスからは誰も出てきていない。俺のクラスだけなのか。水口のいるF組も大丈夫なようだ。

 全員が校庭に出てきたすぐ後に、先生が走ってきて、地震ではないから教室に戻るようにと告げた。

 まだみんなざわざわしている。

 地震じゃないならなんだったんだ、あれは。 


 休み時間にジャッバールにこっそり尋ねてみると、捻れの範囲が大きくなったのだろうということだ。ジャッバールは、自分のランプを俺に預けて、今から兄弟たちと相談してくると言って消えてしまった。

 ランプを預けるということは、いつでも呼び出していいということだな。困ったら、これを使えばいいと安心して、とりあえず、いつも通り部活に向かった。


 文芸部で水口にさっきの話をすると、目を輝かせた。

「何それ。なんでD組だけそんな面白そうなこと起こるわけ?」

「面白くないって。経験してみろよ。お子さまパークじゃあるまいし、教室が滑り台みたいになっちゃって」

「やだーっ! 滑り台、あたしもやりたかったよう」

 大喜びするな。

「そうだよな、もっと遊んでもよかったなあ」

 小畑もお気楽にそんなこと言っている。

「嫌なのは、なんでそんなことが起きてるのか全然わからないってことなんだ。ジャ・・・」

 つい、言いかけてしまって慌てて水口に気づいて止めた。水口まで巻き込むわけにはいかない。

 しかし、相変わらずこいつは鋭い。

「じゃ? なあに? じゃの道は蛇か? 話してごらーん」

「いや、水口には関係ないからさ」

 すると水口は急に真面目な顔で俺に向き合った。

「言っときますけどね、ここ最近、起きてることが普通じゃないなんて、いっくらあたしが変わり者でもわかるよ。っていうか、隠さないでほしいんだけど。知ってるんでしょ? そんな言い方するってことは」

 はあー。ほんとに鋭いな、こいつ。不必要に。

「ああ、でもさ」

 俺がまだためらっていると、小畑が珍しくきっぱりと言った。

「話しといた方がいんじゃね? 知らないで巻き込まれる方が危ないかもしれないし。俺だってそうだよ。知らないでいきなりドラゴンに襲われたら手も足も出ない」

「そりゃ、うん、そうだけど」

 でも、そんなこと言ったら一番ヤバいのは水口なのでは。

「水口の頭ん中が本当に漏れ出したらドラゴンどころじゃないんじゃないか」

 

 言ってる間に、窓の外から聞いたことのないおぞましい咆哮ほうこうが聞こえてきた。


―――――――――――――――


読んでくださってありがとうございます。

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