38 小畑との練習
それから二、三日はジャッバールだけが相変わらずやってきて、お父さんは来ないのかと尋ねると言いにくそうに、もごもご言っていた。
魔神が来てから小畑のことを話すつもりだったけど、なかなか現れないので仕方なくジャッバールに話してみた。すると、ジャッバールはすぐに目を輝かせた。
「それはいい。志の高い少年が味方になってくれるのは心強いことだ。どのような形でも私は歓迎だよ。悟の部屋に来てもらってもいいし、もし構わなければ私と悟で、彼の家に行ってもいい。なんだったら私のランプを練習場所に使うこともできるし」
志、高いかなあ、と小畑のいつものへらへら笑いを思い浮かべてしまった。でも、あいつは自分から戦うと言ってくれたんだから、魔神に無理矢理やらされた俺よりはちょっとだけ果敢かもしれない。
学校で小畑に話すと、決意は変わってなくて、夜、時間を合わせて俺がジャッバールと一緒に小畑の部屋を訪れることになった。
だいたい夜九時頃、ジャッバールの絨毯で小畑の部屋を訪れた。
「すっげえ!」
初めて空飛ぶ絨毯を見た小畑は興奮気味に窓から絨毯を見つめている。
「乗せてあげることできる?」
尋ねるとジャッバールは、いいけど、とうなずいたが、まず練習が先だ、と正論を言った。
小畑は姉と妹に囲まれた三人兄弟の真ん中で、部屋はほぼ俺と同じぐらいの大きさだ。俺の部屋よりは片づいているが、やっぱり狭いのでランプの中を貸してもらうことにした。
ジャッバールのランプの家は、だいたいお父さんの家と同じような作りになっているが、緑とベージュが基調になっていて少し雰囲気が違う。
小畑にも半月刀を渡して練習してみるが、小畑は初めてなのでなかなかうまくいかない。剣道で使う竹刀とは重心が違うので扱いにくいのだ。
まず二人揃って筋トレをやらされた。
「結構きついな。こんなことやってたんだ、おまえ」
「うん。俺の場合は魔神がやれって言うから。あと、実際に妙なこと経験したからな。絨毯から落っこちそうになったりとか。あの時、落ちてたら死んでたと思う」
「へええ・・・!」
感心したように小畑は言うが、嬉しくはない。ほんとに巻き込んでしまってよかったんだろうか。
「念のため聞くけど、おまえんとこ、魔神とかいないよな。体が透明になったり、いきなり怪力になったりってことも」
「ないない。なんだそれ」
俺は腕組みして立っているジャッバールの方に目を向けた。
「関係ない小畑のところにまで幻獣が現れてるってことは、ほかの全くこのこと知らない人にも現れる可能性があるってこと?」
「そうかもしれない。今のところは私は聞いていないが」
「どうしたらいいんだ」
なんか、本当に大変なことが起こりつつあるのか。俺のせいか? 俺が魔神を呼び出してしまったから?
「私にも今は答えられない。ヒクマトやラシードが調べているはずだ。そうだ、悟。君のガールフレンドのところに母さんがいるという話だが」
「ちがうって! ガールフレンドじゃない。ただのクラスメートだってば!」
慌てて否定したが、小畑が、へえ、と興味を持った。
「誰? その彼女」
「いや、いいって、その話は。そう、お母さん、その子んとこにいるよ、本人に聞いたって言ってた。あっ、住所聞いてなかったな。えーと」
小畑は誰だか知りたくてたまらないという顔をしている。話すべきか。関係あると言えばあるし、でも、恥ずかしいし。
結局、友達だけど、としっかり前置きして清谷さんの話も魔神の奥さんの話もした。
「清谷さんか。そりゃいいな」
「おまえもいいと思う?」
ちょっと心配になって尋ねた。小畑の本命は水口だと思ってたけど、清谷さんだったらどうしよう。
「そりゃいいだろ、あんな清楚で優しそうな人。わかるな、護って上げたくなる感じだよな」
まあ、確かに清楚で優しいけど、護るはどうだろう。人間立体駐車場みたいな人だからな。もちろん彼女の名誉のために内緒にしておくけど。
「頑張れ。目標高いけど」
ぽん、と小畑が俺の肩を叩いた。
おまえ、いいのか。
「おまえが本気になってんの、彼女のためなんだろー。いいよ、隠さなくって」
「違うってば!」
と言ってるのに、小畑はにやにやしながら半月刀を拾って俺に渡した。
「ま、そういうのもいいよな。たまには本気になってみても。練習続きやろうぜ」
なんていうか、ほんとに俺、小畑のこと好きだな。
小畑は自分も半月刀を拾って、隣で素振りの練習を再開した。
――――――――――――――――――――
読んでくださってありがとうございます。