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37 小畑に見られた

 ジャッバールは次の晩も現れて、ハードな筋トレと剣の訓練の後、話してくれた。

「これまでは、世界にすでにある物が場所を移動しているだけだった。でも、捻れがさらに進んで、今度は頭の中にある物が漏れ出てきているようなんだ。君たちの檸檬れもんや、ええと、なんと言ったっけ、不気味な海洋生物」

「ナマコだよ。気持ち悪いけど、日本人はそれ、食べるんだ」

 ジャッバールの顔が奇妙に歪んだ。俺たちが、外国のゲテモノ食べる、みたいな感じなんだろうな。でも、今はゲテモノグルメの話ではない。

「その、妄想や思い描いた物が実際に現れているということらしい。妄想なんてどんな人間でも持っているんだろうが、君たちの前に現れているのはおそらく君たちが共通に思い描くことができるものなんだろう。例えば私達のところにはスルタンや悪魔が現れている」

「そうか。そりゃ大変そうだな。それでお父さんはどうしてるの? そういうものの処理で忙しいの?」

「うむ」

 ジャッバールは魔神については触れようとしなかった。何が起こってるのか、とても気になる。

「で、どうしたらいいんだろう」

 うーむ、とジャッバールは腕を組んで考え考え答えた。

「私達もどうしたらいいのか、まだよくわからない。ヒクマトの言うにはヒュウガ、と言ったか、その者についているものの正体を探らなくてはいけないだろうということだが、悟、何かわかったことはあるか」

「わからない。ただ、最近あいつ、なんか体調悪そうなんだ。学校ずっと休んでるし、出てきたときも顔色悪かったし」

 ジャッバールはうなずいた。

「いずれ、ヒクマトが君に直接聞きにくるかもしれない。その時は知っていることを話してくれないか」

「もちろん。俺だって、こんな変なこと、早く解決したい」

 ありがとう、とジャッバールはまた力強く俺の右手を握ると、その晩はすっと消えていった。よくできた息子さんだな。おっさん、あんなにいい加減だったのに。


 学校帰りにまた変な物に出会った。白くてイタチに似てるけど大型の犬ぐらいの大きさで、目がサファイヤみたいな青だった。思わず見とれそうな美しさだったけど、見とれる前にそいつが襲ってきた。

 二回目だから少し感覚がつかめてきた。右手をぎゅっと握りしめるとそこにあの半月刀が握られていて、シュウっと音を立てて振り下ろすとそいつは雲が流れるように形を失って消えていった。


 半月刀が消える感触を確かめていると、後ろに人の気配がした。

 見られたか、今の。

 相手によってはまずいな、と用心して振り返ると、なんと、小畑だった。

「・・・なんだ、今の」

「なんだって?」

 どこまで見えたんだ。俺が変な動作をしてたように見えたのか、それとも幻獣そのものが見えてたのか探るために尋ねてみた。

 小畑は目をごしごしこすって幻獣の消えた辺りを見つめた。

「変な動物みたいなのがいなかった? そんでおまえ、刀みたいなのでやっつけてなかった?」

 まったく当たりだな。

「見えたのか」

 なんて言われるか。まあ、小畑でよかった。

「すっげえ! かっこいいじゃん! 今、刀が消えたよな。どうやってやったんだ。マジックか」

 マジックは魔法って意味だから、まあそうなんだけど。どこから話したらいいものやら。

 

 結局、かいつまむのも面倒くさいので、最初から全部、おおまかに話した。魔神が現れたことから、世界の捻れのことまで。

「おまえもドラゴン見たって言ってたろ? あれも、おまえの頭の中の妄想が漏れ出してるんだそうだ。俺の檸檬やナマコよりかっこいいけど、危険だよな、もし襲ってきたら」

「そうか、そんなこと、考えてもみなかった」

「うん。俺だってこんなことに巻き込まれるとは。でも、こういうこともあるから剣の練習しとけって、最近毎晩マッチョな息子が来てくれるんだ。おまえもやる? 剣の練習」

「いや、だめだよ、俺。そういう肉体勝負は」

 そうだよな。俺だってだめだと思ってた。

「まあいいや。多分、おまえにまで危害は行かないと思うし」

 俺は地面に落としたカバンを拾って帰ろうとした。

「待てよ」

 急に小畑が呼び止めた。

「いや、念のためっていうか、ほら、俺の方が怖いじゃん。今のカマイタチじゃないか? 水口の好きな。あんな奴より俺の妄想のドラゴンの方が現れたらヤバいから」

「確かにそうだな。でも、そんなヤバい奴相手にほんとに戦えるのか、勇者君。こないだの小学生よりタチ悪そうだけど」

 小畑は文化祭のことを思い出したようでちょっと笑った。

「確かに困る。でも、どうにもできなかったらもっと困るんじゃね? おまえの魔神だったらなんて言うかな」

「うん、俺も最近会ってないんだ。でも、そろそろ戻ってきてくれないかな。いい奴なんだ。まあ、息子さんもいい奴なんだけど。なんか、おっさんじゃないともの足りないっていうかさ」

「ふーん、俺も会ってみたいな」

「うちの母さんにも会ってるから、俺から話せば会ってくれるんじゃないかな」

 小畑を巻き込んで悪いような気もするが、かといって内緒にしておいてもっと危ないことになったらますます悪いし。

 どうしたらいいんだろう。

 早く、おっさん帰ってこないかな。 

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