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32 アラブ人うじゃうじゃ

 「おい、ビッグニュース・・・!」

 奥さんに会えるぞ。部屋にいるであろう魔神がきっと大喜びすると思って、勢いよくドアを開けたら、そこには、ふわふわベッドの上にぐったりとうつ伏せに横たわっているおっさんがいた。

「どうしたんだ? 生きてるか?」

 どきりとして駆け寄ったが、死んでるとか大怪我とかではなさそうだった。

「んー?」

 なんだ、寝てるだけか。でも、こんなこと、珍しい。

「どうしたんだよ。たかだか文化祭来たぐらいで、そんなに疲れたの?」

「あとでネ、悟。ああ、もうすぐワタシの息子たちが来るからよろしく」

「えっ!」

 増えるのか、魔神。この狭い部屋に。


 理由はわからないけど、とても疲れているみたいなので、休んだままにさせておくことにした。魔神のベッドを広げられていると俺の部屋は本当に狭いので、カバンだけ置いてリビングに避難した。


 夕食なので魔神を呼びに来たら、いた。アラブ人、うじゃうじゃ。もうベッドは片づけて絨毯をどーんと広げてみんなそこの上でお茶のような物を飲んで歓談している。

 いつものように俺の部屋は散らかりっぱなしなので、そのまま絨毯を敷くと凹凸ができてしまうためか、絨毯は床から数十センチ浮いている。

「アッサラーム・アライクム、悟!」

 俺が入っていくと若いアラブ人たちは大歓迎してくれた。

「はあ、どうも」

「こんにちはって言ってる。みんな悟に感謝してるネ。ワタシの大事なお友達」

 魔神は満面の笑みで中心に座り、七人の息子たちを一人一人紹介した。

「これが長男のラシード、上からバリア、ジャッバール、ヒクマト、アナス、ハフィーズ、ムァイッド」

 紹介されると若いアラブ人たちは次々に笑みを向けて右手を差し出す。握手ってことなのかな。俺も右手を差し出して次から次へと握手をした。七番目の息子だけ、あの日の幻影で見たことがある。イケメンになった魔神にそっくりの人。

「えー、おっさん、じゃなくって、お父さんの名前、知らないんだけど」

「ワタシ? ああ、名乗ってなかったっけ。ワタシはアシュファク。幸運って意味ネ」

 幸運、か。

「私に会えたのが悟の幸運で、悟に会えたのがワタシの幸運だヨ」

 魔神は俺の肩をぽんぽんと叩く。何が幸運なのか、よくわからないけど。


 とりあえず、夕食どうしよう。リビングだって決して広くないし、八人も入らない。そもそも、俺の部屋ですら八人ぎゅうぎゅうなんだけど。

「夕食・・・なんだけどさ」

 またアラブ人達、大騒ぎになった。どうやら夕食に招待してくれると思っているらしい。いや、無理なんだけど、この人数。だいたい、今日の夕食は焼き魚だし。

 魔神が両手でまあまあ、と息子達の騒ぎを静めた。

「悟のお母さんがびっくりしちゃうから、食事はワタシのおうちで食べようか。でも、せっかくだから、悟を招待したいネ。今日の夕ご飯、何?」

「ええっと、サンマ、小松菜と油揚げの味噌汁と切り干し大根、あと、納豆」

 今日に限って、純和食だな。毎日こうってわけじゃないけど。

「じゃあ、悟、それ持ってワタシのおうちに来たら。ワタシ達はそれ、増やして食べるから」

「こんな和食でいいの? アラブ風じゃなくって」

「いいのいいの。悟のお母さん、料理上手ネ」

 

 例によってまたサラダ油をランプに注ぎ、青白い炎を灯すと息子達は順番にすうっとランプの中に消えていった。

「で、俺はどうやって夕食持ってそっち行くわけ? みんなと一緒にご飯食べないと怒られるかなあ」

 今まで何度も魔神がごまかしてきたのを見てるからあんまり心配しないで聞いてみた。

「ダイジョブ。悟のお母さん、話わかる人だから。夕食はワタシが運んどくネ。悟もどうぞ」

 魔神が炎を指さすので俺もまた、ランプに吸い込まれた。


―――――――――――――――――


読んでくださってありがとうございます。


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