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27 突然、落ちた!

 俺たちはまた屋上にいた。ベニヤ板の裏には俺が置いたまんまのランプがまだ、細く青白い火をゆらゆらともしていた。念のため、ベニヤ板の裏を見てみたら、魔神の家の窓から見たとおり「3ーB 大道具①」と書いてあった。本当にこの中にいたのか、俺。

 振り返ると魔神はどこからか、ゆったりしたシーツのような布を出して膝ぐらいの高さに広げている。

「これがハンモック?」

「そう。ちょっと待ってネ。ああ、悟も手伝ってヨ。こうやって広げて。寝心地いいように」

 言われて、その浮いている白い布をシーツのしわを伸ばすように広げてハンモックらしい形に整える。

「できた」

 満足そうに魔神が、ぽんぽんと手を叩くと、ハンモックの上に枕にちょうどいいクッションがぽん、と現れた。

「乗っていいの?」

「どうぞー」

 魔神は召使いのようにうやうやしく片手をハンモックの方に広げた。

 ハンモックって、テレビなんかで見たことはあるけど寝るのは初めてだ。乗ろうとすると揺れるので乗りにくい。よいしょっと乗ったと思ったら、ごろんとうつ伏せに転がった。ベッドのように転がって上を向こうとすると横に転がってしまってうまくいかないので、ちょっとずつずれて体勢を整える。クッションを枕にして、ちょうど腰のところが一番下で頭と足が少し高くなるくの字型に落ち着いた。意外と寝心地はいいもんだな。

 魔神はすでにお腹の上に軽く両手を組んで隣のハンモックに落ち着いて、目を閉じて寝かかっている。

 夏の終わりだけど今日は曇っていて少し風もある。布団がなくても大丈夫で、暑すぎることもない昼寝日和だった。屋上は誰もいなく、運動場からは部活らしい声が聞こえるが校内は静かだ。

 ふかふかの枕に頭を預けて、俺も目を閉じた。眠い。とろとろとした午後の気だるい日射しと膨れたお腹がいやおうなく眠りに引き込む。

 もう、今日はゆっくりしよう。しばらく眠ったら、また屋上の窓から戻って、家に帰るだけだ。

  

 突然、体がすとん、と落ちる感覚でびくっとして目が覚めた。

 一瞬、夢かと思ったけど、ほんとに落ちてる。少し離れたところに校舎の四階ぐらいの窓が見え、俺はハンモックに乗ったまま急速に下に向かって落ちていた。

 死ぬ!

 恐怖で声も出なかった。

 他に何も考えられなかった。

 次の瞬間、ぼよんと、まるでトランポリンの上に落ちたような感じで落下が止まった。まだ心臓がどきどきしている。

「悟、ダイジョブ?」

 くしゃくしゃになったハンモックの上に横たわった俺の隣に魔神が立っていた。

 しばらく何が起こったかわからなくてぼうっとしていたが、ようやく体を起こして辺りを見回してみた。ハンモックはどうやら魔法の絨毯の上にあるらしい。最初に見た臙脂えんじ色の絨毯が俺の落ちたハンモックを受け止めてくれたようだ。

「ああ、びっくりした。なんだよ、こんな危ないなんて聞いてなかった。もうちょっとで俺、死ぬとこだったぞ」

 なじると魔神は難しい顔で眉根を寄せた。

「こんなことはワタシも初めてネ。なにかおかしい」

 おかしい? 俺はこいつのこと、信用してた。魔神はなにもかもわかってるんだと思ってた。こいつにわからないことって一体何なんだ。

 魔神は絨毯をゆっくり上昇させて屋上に戻るとふわりと降り立った。

「ああ、もう懲り懲りだ」

 文句を言いながら絨毯を降りたが魔神はふざけようともしないで、厳しい顔をしていた。

「悟、ちょっと先に帰ってて。ワタシ、調べたいことがある。ああ、ランプ持って帰ってくれる?」

「あ、うん、わかった」


 ひとりで帰る道すがら、俺はずっと魔神のことを考えていた。

 ランプの家、空中ハンモックと楽しいことが続いた。あいつ自身ものんびり昼寝してたんだから、あの時点では危ないなんて思いもしなかったに違いない。落ちたときは本当に死ぬかと思った。

 と、考えてぞっとして立ち止まった。

 敵がいるのかもしれない。俺のことなんか死んでもいいと考えるような残酷な敵が。

 でも、いったい誰だ? 俺、役に立たないことはあっても恨まれるような覚えはないぞ。まさかと思うが、魔神の敵か? でも、あいつも恨まれそうな性格じゃないと思うけどな。お気楽だし、たいして強力でもないし、いいかげんだけど根はいい奴だし。 


 部屋についてドアを開けた俺は、尋常でないことが起こりつつあるのを痛烈に実感した。

 俺の部屋に天まで届くウェディングケーキが、突然出現していた。

 確かに、何かがおかしい・・・。


――――――――――――――


読んでくださってありがとうございます。

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