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21 やればできるじゃない

 幹事の苦労はそれからも続いた。

 出席と言ったかと思うと欠席と連絡してきて、やっぱりまた出席、と、ころころ変える奴。いつまでも返事を出してこなくて、こっちから連絡してもまだ返事を出さない奴。アレルギーだから食べられない物に配慮してほしいといろいろ注文をつけてくる奴。

 そのたびに、いちいち店に連絡して、迷惑そうな店員に対応しないといけない。

 なんでこんなことやらされてるんだ、俺。


 最悪だったのは当日になって急に、用事ができたから来られない、という奴。

 店に聞いたら当日キャンセルの場合は料金を取るという。

 じゃあ、誰が払うんだ、これ。俺か? いや、そんな馬鹿な。俺、幹事でこれだけ苦労してるのに、その上自腹で出ない奴の分まで払うなんておかしいぞ。

 困って、幹事のみんなに相談した。

「で、どうするつもりなの? 在田君」

 川原が、つんと顎を上げて挑戦するように俺に問う。

「どうって・・・。だって、俺が払う理由はないだろ? こいつが勝手にドタキャンしたんだから」

 怒り出すかと思ったが川原は深くうなずいた。

「その通りよ。本人が払うべきだわ。連絡しといてね」

 川原の言ったことには少し安堵したが、連絡はちょっと。

「え、いや、俺、そういうの苦手だから・・・」

「じゃあ誰に言ってもらおうって考えてるの?」

「え? いや・・・」

 そりゃ川原だろう。誰にでも何でも言える、この気の強さ。俺みたいないい加減な人間からすると羨ましい限りだ。

 あたしがやる、という川原の返事を期待して待っていると、川原は、きっと俺を睨みつけた。

「いつまで甘えてるの? ほっといたら誰かがやってくれるって思ってんの? いつまでもそれじゃ通用しないのよ。あなたの欲しい物を誰かが、何も言わないでもわかって、はいどうぞって差し出してくれるって思ってんじゃないよね。欲しい物があるなら日向君みたいに熱くならないとだめなのよ。努力しない奴は大嫌い」


 なんて・・・。なんて言いぐさだ。ひどすぎるだろ、同級生に向かって。まるで子供扱いのこの台詞。

 俺があまりのショックに口もきけないでいると、川原はさっさと自分の携帯を出して欠席の奴の番号を押し、それを俺に差し出した。

「はい。かけたから。言うのは自分で言って」

 電話を渡されてもまだ俺は呆然としていた。

 呼び出し音が何回か鳴り、相手が出てようやくわずかに正気に戻った。

「もしもし」

 自分がちゃんとしゃべれていたのか、覚えていない。ただ、時々川原が横から言うべきことをささやいて、それを繰り返した。

「わかった。払う。ごめんな」

 と返事を聞いて、心からほっとした。

 よかった。

 ようやくみんなの声がちゃんと耳にはいるようになった。

「やればできるじゃない」

 川原が整った唇の端にわずかな笑みを浮かべて満足げに言った。

「はあ、どうも」

「じゃ、行こうか、あたしたちも。もう始まってるみたい」


 ふう。なんか、この電話だけで今日の全エネルギーを使い果たしてしまった気がする。それにしても無事解決してよかった。

 川原に言われたことはまだ頭の中にぐるぐる回っているが、女王様はすっきりした顔で早速お目当ての日向にくっついている。

 なんだか不思議な後味だ。

 悔しさが残るような、すっきりしたような。

 やればできるじゃない。

 どこかで聞いたフレーズだと思ったら、三者面談だ。本当のボンクラじゃない、やればできるんだって。

 なんか川原の言いたかったことが少し見えてきた。言い方やり方は横暴だけど、大事なことを教えてくれたんじゃないだろうか。 

 自分のことは自分でしないとだめなんだ、欲しい物もやりたいことも。

俺は魔法に頼ろうとしていたかもしれない。魔神がなんとかしてくれるんじゃないかと心のどこかで甘えていた。

 確かに日向は魔法に頼ってるかもしれないけど努力もしている。

 俺は今まで努力ってしてこなかったな。どうせ無理だって諦めて。でも、今更やったって無駄なんじゃないだろうか。日向と俺じゃスタートの時点で違いすぎる。

 

 ふと、少し離れたところにいる清谷さんが、周りの子たちと楽しそうに話している姿が、そこだけ鮮烈に浮かび上がるように目に入ってきた。

 そうだよな。

 本当に好きなら、簡単に諦める前に、せめて少しでもできること、やってみた方がいいのかもな。

 それがたとえ結果につながらなかったとしても。


 「おかえりー」

 部屋に帰ると魔神は魔法で出したテレビを見ていた。番組の方は見たことがない。魔法でアラブの放送を受信しているのか、アラブ人らしい人ばっかり映ってる。

 最近は、いちいち俺についてくることも減ってきた。俺がいない間、何をやっているのかはわからないけど、ついてくるとその都度気をつかうので、まあこれでいいと思っている。

「どうだった? メガネちゃん。なんか進展あった?」 

 ワクワクしながら尋ねてくるが、進展なんかあるわけもない。

「いや、別に」

 気のない返事をすると、どん、と肩を叩かれた。

「もったいないネ。せっかくパーティーだってのになんにも話しかけられなかったわけ? 酔った勢いでどーんと行っちゃえばよかったのに」

「おまえ、何言ってんだ。高校生、酒飲まないんだってば、日本では。アラブは飲むのか? 十六歳でも」

「基本、イスラムは飲酒禁止ネ。でも、日本じゃ飲むかと思った」

「飲まねーよ、どっからそんな情報が」

「ほら、これ」

 魔神はアラビア語で書かれた日本のガイドブックらしい物を広げて見せた。ありがちな富士山と舞妓さんの写真が表紙に載っている。

「おまえ、観光気分で日本来てんのか」

 面白かったのでガイドブック広げて見ながら尋ねる。でも、アラビア語だからさっぱりわからない。

「だって、せっかく日本にいるんだし」


 そういえば今まで気にしたことがなかった。

「おまえ、なんで日本にいるの? どうして魔法のランプがあそこにあったんだ」

 魔神は、どうしてそんな当たり前のことを聞くんだ、という不思議な表情をした。

「ワタシは悟に会いに来たネ」

「いや、絶対ちがうだろ。俺が偶然ランプ買ったんだし」

「運命のほとんどは、偶然やってくるんだヨ」

 運命? よくわからない。どういう意味だ。

 魔神は、俺がわかったかわからないか全く気にせず、ふあーとひとつ欠伸をして、ポン、と俺の部屋にベッドを出した。

「あーっ、また学校のリュック踏みやがって」

「悟がちゃんと片づけないからだヨ」


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読んでくださってありがとうございます。

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