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20 日向のダンク

 そして俺は女王様に逆らった罰としてか、店の予約を任された。

「店とか知らねー」

 と精一杯の抵抗を試みたのだが女王様のしごきは続く。

「じゃあ、お店考えるのはあたし達やるから電話の方頼むね。あと、出欠表作りも」

「えっ? なんで俺ばっかり?」

 さすがに露骨に嫌な顔をすると、同じく巻き込まれた篠原が助け船を出してくれた。

「じゃ、俺、出欠表作るわ。パソコンでいいんだろ?」

「助かった」

 

 「川原、ほんと在田に厳しいな」

 解散した後、篠原がにやにやしながら俺をつついた。

「念のため言っとくけど気があるとか、絶対ないから。人間関係図に矢印書くなよ。もし向こうにあったとしても絶対やだ。尻に敷かれるどころか、過労死して(しかばね)になってもこき使われそうだ」

「なんでああなんだろな。おまえ、何かした? 実は川原のパンツばっちり見ちゃったとか」

 小畑は冗談のつもりじゃなかったらしく真面目な顔で言ったが、俺たちはつい、笑ってしまった。

「あんだけ嫌われてパンツだけじゃ許せん」

「じゃあ、なんだったら許せるんだ」

 いや、そう言われると・・・。まあ確かに美人だけど、川原麗夏。口を開かなければ、そして俺のこと睨まなければ許す、ハーレムにいても。うーん、そこまでしてハーレムに入れてやりたくもないな。


 ハーレムか。そういえば、しばらく忘れてた。魔神がやってきて初めて口にした願いはハーレムだったけど、やっぱりめんどくさそうだからやめたんだった。

 だいたい魔神本人でさえ、ハーレム作るのは失敗してるしな。他の奥さんもらうのには第一夫人の許可がいるって、アラブのきまりも楽じゃないんだ。黙って側室もらったり、愛人作ったりしちゃいけないんだな。許可してくれる寛大な奥さんって、いるのかな。

 たとえば清谷さんなら。

  

 よこしまなこと考えながら歩いていた帰り道、学校の門に近づき、ふと門の近くに目をやってどきりとした。

 日向と清谷さん。

 門の近くで楽しそうに立ち話をしている。清谷さんの作品だろうか、手芸で作った何かを見せながら笑いあい、話に興じている。

 自分の作品をわざわざ見せるなんて、ただのクラスメートじゃないよな、相手が女子ならともかく。

 日向の方もどうなんだろう。

 あいつの考えてることは読めない。川原に肩を押されてたときもまんざらでもなさそうだったし、清谷さんとのあの嬉しそうな顔。くそっ。川原の方は別に羨ましくもないけど、いや、あの川原でさえ、複数の女子にもてるのは羨ましいぞ、てめえ。


 どうせ俺なんか。


 またこのフレーズが頭をよぎる。でも、最近はこの言葉をつぶやく時、つい自分の手をじっと見る癖がついてきた。

 消えてないか? 透けてないか?

 そう考えると、ちょっとわくわくする。腕時計をつけた左腕が心なしか薄くなってる気がする。残念ながら、わくわく、が出てきた途端、腕はまた存在感を取り戻してしまった。なかなか難しい。

 どうせ俺、どうせ俺、とぶつぶつつぶやきながら消えるに集中してるうちに家に着いてしまった。

 清谷さんのことばっかり考えなくてすむのは精神衛生上いいことかもしれない。暗くなっててもしょうがないもんな。


  篠原が打ち上げの出欠表を作ってくれて、川原が店をいくつかピックアップして、独断と偏見でここの店、と決めた後、俺に連絡してきた。

 予約とか、初めてだ。

 希望の日にちと人数を告げると、その日は他のご予約でいっぱいでして、と言われた。

 しょうがないので川原にもう一度連絡を取ると、次の候補を二、三軒提案され、何度か電話を繰り返す。四軒目にしてようやく予約が取れた。

 今までこういうこと、みんな誰かがやってくれていたし、俺の関わることじゃないと思ってた。やってみると結構大変なんだな。よく、みんな進んでこんなこと、やってくれてるよな。

 川原が俺に今回やらせたかったのは、なんでなんだろう。

 なんで、あいつは俺にばっかりつっかかってくるのかな。 


 夏休みのある日、大道具の配置を考えるために大道具係のみんなで体育館の舞台を調べに行った。

 俺はよくわからないので美術部員たちに任せて、ぼーっと体育館を眺めていた。今はたまたま部活の時間ではないらしく、バレー部とバスケ部の何人かが自主練習らしいことをやっている。

 その中に日向の姿を見た。熱心なもんだ。

 ドリブルシュートの練習を何度も繰り返している。やっぱりうまい奴はそれなりに人知れず努力をしてるんだな。

 

 でも、何か違和感がある。球技大会の時も感じた。

 しばらく見ていて俺はその違和感の原因が、日向の飛んだときの動きにある、とわかった。

 やっぱり空中浮遊している。ぴょんと跳ぶだけじゃない。しばらく宙に止まっている。今、バスケットゴールの上にまで手が届いたぞ。何センチ浮いてるんだ。

 

 ゴールから落ちてきたボールをワンバウンドして取った日向が、突然ちらりと俺を見て、どこかばつの悪そうな目をした。

 俺が何も言わなかったのに日向の方から近づいてきた。

「バスケに興味があるの?」

「・・・、いや、別に。大道具係だから舞台の大きさとか調べに来たんだけど、俺はよくわかんないんで。なんとなく見てただけ」

「そうか。えっと、在田君は何部だっけ」

「文芸部」

 当たり障りのない会話ですませようと思ったが、自分でもよくわからない衝動に動かされてずっと聞きたかったことをこんな言葉で尋ねた。

「ずいぶん跳べるんだな。どこまで跳んだことある?」

「・・・ダンクのことか。あれはかなり練習したから」

 日向は目をそらし、ゴールの方を見た。

「っていうか、人より楽々跳べるって感じだけど」

「そうかな」

 なんだか態度が少し変だ。練習一本やりでできるようになったんだったら、もっと爽やかな表情でもよさそうだ。

 魔法でも使ってるんじゃないか、とあやうく口にしそうになったが押しとどめた。

「羨ましいよ。なにか秘訣とかあるの?」

 羨ましいのは嘘だ。別にダンクがしたいわけじゃない。

「別に。練習量だよ。僕は人より練習してると思う。それだけだ」

 俺と目を合わせないまま、日向はまたボールに向かう。

 怪しいとも言えるけど、それ以上証拠もない。

 指輪の精、ついてる? とか聞いたが最後、次の日から俺はクラス中の笑い物だろう、なんたって相手は日向だから。

 美術部員達が舞台の上から俺の名を呼んだので、練習に戻った日向に背を向けて自分の仕事をやりに戻った。


―――――――――――――――――


またお読みいただきありがとうございます。

整形の名医のおかげで思ったより早く回復しました。

これからもよろしくお願いします。



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