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2 朝ごはん、なに?

 朝になったら、昨日のことは夢ですっかり消えているかと思ったら、ぜんぜん消えてなかった。

 俺の部屋で鼻歌なんか歌いながら、鏡を見て髭の手入しているのは、紛れもなく昨日のデブ魔神。

 しかも、狭くて散らかってる俺の部屋にどーんとふわふわの布団のようなベッドのようなものを広げているので、俺のベッドと机以外の場所はすべて魔神の布団になっている。

 俺の昨日脱いだ制服も学校に持って行くリュックも教科書類も、全部魔神の布団の下だ。

 よく、こんないろいろある上に寝られるもんだ。『えんどう豆の上に寝たお姫様』ならブーイングの嵐だぞ。


 「あっ、起きたの。おはよう。朝ご飯なに?」

 朝一番にこのセリフだ。

「そういうサービスするのはそっちの役目じゃないのか。アラジンだって、まず要求したのはご馳走だったと思うし」

「お腹すいたネ」

 魔神は情けない顔でお腹を押さえて訴える。

 はあー、願いを叶えてくれるんじゃなくて、こっちが朝ご飯まで面倒見てやらないといけないのか。

「まず、そのベッドみたいなの、片づけてよ。俺、着替えもできないじゃん」

 ん? と魔神は面倒くさそうに見回した。

「この部屋、全然片づいてないから、ここでは片づけなくていいと思ったネ」

 いちいちカチンとくることを言う。

「ここは俺の部屋なの! だから、俺の物が散らかってるのは当たり前だけど、おまえの物があるのはどう見ても余分なの。そんなスペースないだろ!」

 まだ渋る魔神に、ほれ、さっさとしまう、と追い立てて、ようやくお布団を魔法でボン! と片づけさせた。


 バタンと隣の部屋のドアの音がした。兄貴の部屋の方だ。反対の隣には弟がいる。

「ああ、そうだ。家族もいるから、静かにして、ばれないようにしといてくれる? どう見ても怪しいから、こんな奴いたら」

「ああ? ダイジョブネ。みんな気にしないから」

「いや、気にしないのはおまえぐらいだ。普通、変だって、いきなり俺の部屋にアラブ人いたら」

「ダイジョブ、ダイジョブ。日本人、細かいこと気にしすぎネ。さ、ご飯行こか」

「いや、だからさ・・・」

 魔神は勝手に俺の背中を押してドアから一緒に出てきやがった。


 階段を降りながら俺はひやひやしていた。絶対、そいつ誰って言われるに違いないシチュエーションなのに、誰も何も言わない。俺の方を見てないってのもある。朝は忙しいからな。

 に、しても、魔神、鼻歌やめろ。誰か気づくだろ。


 「おはよう、さとし

 父さんが新聞から顔を上げずに声をかけ、俺もおはようと返したがやっぱり誰も魔神には気づいていない。

 俺は魔神を気にしつつ、いつものように席に着いた。

 あろうことか、魔神は母さんが忙しく立ち働いている台所に勝手に入り込み、冷蔵庫のドアを開けて中身を物色している。

 魔神は冷蔵庫から唐揚げを出しセルフサービスで電子レンジで温め、ジュースをコップに注ぎ、どろん、と魔法で出した机でお食事を始めた。


 「あれ? ここにあった唐揚げ知らない? 誰か夜食に食べた?」

 冷蔵庫をのぞき込んだ母さんが問う。

「知らない」

「知らない」

 兄貴と弟が言い、俺も、知らないと合唱しておいた。兄弟が多いと、責任の所在がごまかせるところは便利だ。だいたい俺が食べたんじゃないし。

 それにしても、どうしてみんな気づかないんだ。目の前で髭にターバンのおっさんがご機嫌で食事してるっていうのに。

 魔神は今度は、勝手に食パンを取り出し、自分ちのようにトースターで焼いて食べている。

「あっ、パンもうないの?」

 弟が空っぽのパンの袋を振り、母さんは、

「え? もうなくなっちゃった? みんな食べ盛りねえ」

 の一言で片づけてしまった。確かに男四人いればよく食べる。みんな勝手勝手に食べるので誰が何を食べたのかいちいちチェックなんかしていられない。でも、さすがにおっさんが、もう一人増えたら食料の減りがハンパない。


 結局最後まで誰も魔神に気づかず、俺はもう一度自分の部屋に戻ってきた。

「なんでみんな気づかないんだ、おかしいだろ」

 二人きりになってようやく俺は魔神に問いつめた。

「見たデショ、これが魔法ね。『ちょっとあっち向いてて魔法』とか、『私何も聞かなかった魔法』とか」

「いや、それ、魔法?」

 なんか脱力する気がするが。

「立派な魔法ほど楽に見えるもんだヨ。さ、学校行く学校行く」

 魔神は相変わらずご機嫌で俺をせき立てた。


 「いってきまーす」

 と、家を出た俺は驚愕した。

「なんでおまえ、ついて来るんだ!」

 ん? と、となりを歩く魔神はいたって気楽に答えた。

「昨日、世界征服とかハーレムとか言ってたネ。悟が何をもって世界征服って言ってるか知るのが真面目な魔神の態度ってもんデショ。しばらくつきあってあげるヨ」

 真面目なのか、こいつは。なんか真面目になる部分、ずれてる。

「いや、つきあってくれなくていいから。うちで大人しくしててよ」

「気にしない気にしない。ダイジョブネ、みんな、ワタシの姿見えないから」

「見えないのか」

「んー、正確に言うと、見えてても気にしないネ。道端に電柱あっても誰も気にしないのと一緒」

「へええ、そういう感じなんだ、魔法っていっても」

「そう。だから、見ようと真剣に思う人には見えるヨ。でも、そもそも魔神のこと知らなければ見ようって思わないデショ。だから、実質見えないネ」

「じゃ、俺がおまえとしゃべってれば気づく?」

「独りごとだと思われなければネ」

 それはちょっと寂しい。実は俺は独りごとをぶつぶつ言うことがあるらしい。気づいてないことが多いけど、一度母さんに言われた。



――――――――――――――――――


読んでくださってありがとうございます。

『えんどう豆の上に寝たお姫様』アンデルセン著

お嫁さんを探している王子様のところにやってきた、自分は本当のお姫様ですと名乗るお姫様に、試しに一粒のエンドウ豆の上にふわふわの布団を大量に敷いて、その上に寝てもらったら、朝になって「固いものがあって眠れませんでした」と言いました。このお姫様をお嫁さんにしてハッピーエンドというお話です。

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