表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/96

16 夏休み、ついクラスの為に働いてしまった

 学校の方は次の日が終業式で夏休みに入り、魔神の方はあれからあんまり母ちゃん母ちゃん言わなくなった。

 すげえ夫婦喧嘩の現状を把握して諦めがついたのかと思って、俺の方からは話題を振らないようにしている。また嘆かれてもうっとうしいし、怒りに燃えても困るし。

 とりあえず、日向浮気路線は消えたんじゃないかと思う。日向の好きな子って誰なんだろな。考えると、清谷さんじゃないかって苦しくなるのであんまり俺も考えないようにしている。


 夏休みといっても週に四日は部活がある。文芸部はゆるいので午前で終わりだけど。

 まだみんなの原稿が全然集まってないので部誌の編集作業はできない。だから、文化祭の後の読書会の準備をしたり、暇だとその場で原稿を書いたり読みあったりと、別に来てもこなくても良さそうな活動だ。

 水口の友達の漫研部員が時々遊びに来てイラストを描いてくれる。漫研の方は出なくていいのか、というぐらい入り浸っているが、漫画も文芸も創作さえすれば場所はどこでもいいからいいらしい。 

 俺の作品は梶井基次郎の『檸檬』をSFにパロったやつで、自分で言ったらおしまいだけど面白いわけでもない。漫研の彼女は俺の作品に忠実にマンボウ型宇宙船のイラストを考えてくれた。こんな不真面目に書いた作品に真面目に取り組んでもらっちゃって申し訳ないような気持ちだ。


 文章だけ書いていると、どんな見た目かってことはあんまり気にしたことはなかったけど、こうしてイラストを起こしてもらうとイメージが広がることに初めて気がついた。

 実は一番問題なのは水口だ。こいつは一見かわいい顔、ぽっちゃりしたアニメ女子みたいな体型、面倒見の良さそうなトークにみんな一度は騙されるが、頭の中身はホラーとゲテモノで埋め尽くされている。描いてもらった化け物のイラストがかわいすぎるといろいろ注文を付けているが、どんだけおまえの中の化け物は怖いんだ。

 そして対照的に地味顔の小畑のキャラは、すごい正義感強くてかっこいい。

「そうだ、勇者、倒しちまえ、こんなゲテモノ」

 つい、横から落書きして小畑のキャラを応援してたら水口に怒られた。

「あたしのかわいいヒュドラちゃんに何すんの!」

 このかわいいって感じがよくわからん。

「おまえ、人生のどこで性格歪んだんだ。絶対なんかトラウマ抱えてんだろ、この化けもんのどこがかわいいんだ」

「どこがかわいいか聞きたい?」

 しまった。地雷を踏んでしまった。

 目を輝かせながら水口は嬉々(きき)としてヒュドラやキメラの魅力について語り始めた。もう誰も止められない。えぐい。このゲテモノがどんな風に暴れて残虐の限りをつくすかという話なんて普通の感性を持った人間にとってはえぐい以外の何ものでもないということは、彼女には理解できないらしい。

 短い時間の文芸部だったがぐったり疲れた。俺は暗いのは好きだけど、スプラッターやホラーは嫌いなのだ。

 

 同時にクラスの方でも文化祭の出し物の練習が始まる。

 今年の出し物は演劇だそうだ。ストーリーも脚本もクラスの誰か(文芸部員でないのは確か)が書いた、ギリシア神話の神様を使ったよくわからない創作劇だ。


 主役、もちろん日向。

 俺、もちろんその他大勢役。


 できるだけ台詞が少なくて、間違えてもみんなに迷惑がかからないというのを基準に選んだ。

 主役の太陽神アポロがとにかく活躍しまくる、誰かが日向のプロモーションのために書いたような劇だ。アイドルデビューでもする気か。そんなこっ恥ずかしい役を喜んで演じられる日向も、ある意味、尊敬に値するぞ。衣装もギリシア風ということで上半身は裸で斜め布を巻いたやつだっていうし。

 その格好は恥ずかしいという俺や小畑は適当にTシャツ着ていいらしい。ようするに主役以外はどうでもいいらしい。

 それもあって体鍛えてんのかな、日向。


 大道具、小道具、衣装といろいろ準備もある。清谷さん達は手芸部なので、手芸部の作品に加えて衣装や道具の準備も手伝ってくれることになるそうだ。

「大道具係り、ほかには? ちょっと力仕事もあるから男手が欲しいんだけど」

「じゃあ、俺やろっか」

 勢いというか清谷さん目当てで、つい立候補してしまった。

「ああ、在田君やってくれるの。珍しいね」

 クラス委員の女子が俺の名を黒板に書く。確かに俺が自分からボランティアをするのは珍しいかもしれない。やる気なし、目立つ気なしだからな、いつも。

 ちらりと清谷さんの方を見ると、彼女も俺の方を見ていた。心なしかほほえんでいるように見えるのは俺の思い過ごしか。

 思わず心が躍った。

 いや、でも、期待しないでおこう。あとでがっかりするのは何度も経験してるんだ、中学ん時も。


 どうせ俺なんか。

 あんまり普段考えないようにしてるけど、自分はだめだって思ってる。失敗して恥かくぐらいなら最初からやらない方がましだ。


 ぽん、といきなりまた肩を叩かれた。

 こいつ、来てたのか。

「また?」

 忘れてた、俺、こういう心境になると消えるんだってこと。

「悟、せっかくのチャンスなのに、消えちゃうのはもったいないネ」

「チャンス?」

「メガネちゃんと二人になれるかも。行け行けゴーゴーだヨ」

 魔神はぱちっと片目をつぶって見せた。

 おまえはアメリカ人かよ、恥ずかしいなー。


――――――――――――――――――――


読んでくださってありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ