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14 今度の絨毯は前と違う

そういえば、日向の仲良しって誰だ?

 いつもみんなに囲まれているようで、特定の誰かというのが思い浮かばない。俺がたいてい小畑やその仲間とつるんでるのと違う。

 こいつ、もしかして無個性君なのか?

 初めて日向を見たとき、「看板」みたいな奴だと思った。あまりにも何もかも揃いすぎてる。外から見たら立派だが、中身が何かというものが感じられなかった。いい成績、整った外見、スポーツマン、模範的な発言と学校での行動。要素をあげれば百点満点なんだが、これといった魅力がない。

 いや、それは俺が男だからか。女子から見たら「王子様」なのかもしれないな、こういう奴。


 とりあえず、教室に帰るときに一緒になった小畑に聞いてみた。

「なあ、日向ってどこ住んでんか知ってるか?」

「日向? えーと、松崎通りって聞いた気がする。なんで?」

「いや、中学どこなのかな、と思って」

 小畑は別に勘ぐるタイプじゃないけど、俺が唐突に日向に興味を持つようになったのは変だ、ぐらいは気がつくだろう。そしらぬ顔をして一生懸命言い訳を考えた。

「あいつさ、あんなに内申よさそうなのに、なんでこんな二流高校来たんだろなってのが、聞きたくて」

「ああ、そうだな。中学だったら確か尾上や三田と一緒だぞ。女子だったら、水口とか清谷さんとか」

 清谷さん? 

 それを聞いてなんだか少し安心した。清谷さん、中学が一緒だったのか。だから親しいっての、ありか? 昔からの友達で、それ以上でもそれ以下でもないとか?

 いや、でも、あんまり楽観視しといてあとでがっかりするのは嫌だな。

 覚悟しといた方がいいんだろうか。何もかも、あいつには負けてきた。清谷さんのことだって。

 と、考えるとまた暗くなってきた。いかんいかん。また消えちまうとこだった。 


 相変わらず大勢に囲まれる日向を横目で見ながら俺は体育館を後にした。清谷さんの姿は、もう日向の周りにはない。偶然なのか、それともまだそんなにあいつとは親しくないんだろうか。


 日向と同じ中学だと聞いた尾上とはわりと話せる。

 いろいろ聞いてみると、日向は受験の時インフルエンザにかかり第一志望の難関校に落ちたらしい。

「あいつ、すごいんだけど、意外と本番に弱いんだよな。気持ちが先走っちゃうっていうか。中学ん時は、ここぞってとこで失敗して、先生とかに惜しまれてたよ」

「へえ。でも、球技大会じゃよくやったよな」

「うん。最近、なんか変わったみたいだな。自信ついたっていうか」

「最強じゃんか」

 もともと実力があった奴が、自信がついてそれが発揮できるようになった、と。ありがちな話だけど、俺の目の前でそんなことが起こっているのか。羨ましい。

 いや、落ち込んでる場合じゃない。住所だ、住所。

 尾上は番地まではそらんじてなかったけど、だいたいこの辺、とマップで教えてくれた。

「なんで知りたいの? あいつの住所なんか」

「あー、いやー。なんか面白いもんあるかな、と思って。最強トレーニングマシンを備えてるとか、ロッククライミングの壁が庭にあるとか」

 出任せの言い訳をする。尾上は笑って、文芸部のネタにするのかとか勝手に納得してくれた。文芸部に所属して、別に今までいいことなかったけど初めて得をした気分だ。


 よく晴れたいい夜だった。

 これが清谷さんちに行くんだったらわくわくもするんだろうけど、日向んちじゃ気が乗らない。おっさんの方は怒りに燃えてやる気満々だけど。

 そのせいか、今日出した絨毯は真っ赤な炎の柄だった。

「いろいろ持ってんだな」

「気分で使い分けたいネ」

 魔神はお洒落なOLのようなことを言う。絨毯は持ち主のやる気を反映してか、膝ぐらいの高さをびょんびょん跳ねている。

「今日のには乗りにくそうだなー。おまえ一人で行ったら?」

「雇い主、なに、やる気なくしてんの。ワタシが悟の面倒見るなら、悟もワタシの面倒見るのが当たり前デショ」

 面倒見てもらったか? 乏しい記憶を全部並べてみても、あんまり魔神に役に立ってもらった気がしない。前回絨毯で飛んだときは面白かったけど最後が悪かったし。

「しょうがないなー」

 

 びょんびょん跳ねる窓の外の絨毯に、俺はおっかなびっくりそうっと足をかけた。絨毯が跳ねるからうまく乗れなくて、というのを言い訳にして乗るのをやめようと目論んでみたが、絨毯は俺を乗せたくて乗せたくてしょうがないとでもいうように、ふわり、とむしろ俺を迎えるように包み込んだ。

「今日は準備万端だぞ。スマホも持ったし、電車賃もコンビニでドーナツ買うお金も持った。でも、日向んち、結構遠くだから失敗すんなよ」

「ダイジョブね。行くよー」

 待ちきれない、というように魔神は絨毯を急発進させた。

 うわっ。

 急速に加速する絨毯がぼよんとへこんで座席のように支えてくれなかったら宙に投げ出されるところだった。

「速いっつーの。慣性の法則で落っこちそうになったじゃないか。落ちたら俺、飛べないんだからちゃんと考えろよ」

「ワタシの絨毯、信頼できるネ」

「だから、おまえんだから信頼できないんだってば」

 魔神は余裕で絨毯の上に立ち上がって、まるで着いたらすぐ突撃しそうにポーズを決めているが、こっちは空飛ぶなんて生まれて二回目だ。今回は本当に速い。風がびゅうびゅう顔に当たる。

 ジェットコースターの座席みたいにつかまるとこもないし、ちょっと不安だ。絨毯の起毛の端につかまろうとしてみたが、ぴろぴろと短い毛が生えてるだけでつまむとすぐ滑る。エアマットの上に座ってるみたいで座り心地は悪くないんだけど、こないだよりずっと速いのでちょっと怖い。

 

――――――――――――――――――


読んでくださってありがとうございます。









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