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12 球技大会

 魔神とようやくサシで話ができたのは部屋に帰ってからだった。

「なんでおまえ、今日ついて来たんだよ。しかも、母さんとお茶まで」

「悟のお母さん、悩んでたネ。雇い主の家族の面倒も見るのがいい魔神ってもんデショ。悟のためネ」

 コーヒー飲んで俺をボンクラ呼ばわりしてたことしか印象にないけど。

「あと、なんだ、消えるって」

 俺の「幽体離脱」の感じが、こいつ、わかるのか?

 魔神は、おや、という顔であらためて俺を見つめた。

「悟、気づいてなかった? 時々消えてるヨ」

「は? 何? 消える? なんだそれ」

 いくら存在感がないからって、消えるはないだろ。俺、普通の人間だぞ?

「前も消えてたネ。ほら、あのハーレムちゃんに怒られてたとき」

 ハーレムちゃん? 誰だ。

 俺が思い出せないでいると、魔神は、ほら、あのボールで遊んでた時のこと、と言うので、ようやく球技大会の練習の時かとわかった。

「川原麗夏か」

 ハーレムじゃわからん。「ハーレムの夢、一瞬で撃沈ちゃん」とでも呼んでくれたらわかったかも。

「消えてた? 俺が?」

 おかしいだろ。いくらなんでも、消えたら変だって思うだろ? 普通。

「うーん。あの時は、完全に消えちゃうと気づかれたと思うネ。でも、薄くなってたヨ」

 影が、か。どうせ、俺は影が薄いよ。と、むくれていると、魔神は違う違うという風に手を振った。

「悟、授業中でも、時々、すっかり消えてることあるヨ。みんな気がついてないみたいだけど」

「え? いつとか?」

 うーん、と魔神は眉根にしわを寄せて考えた。

「メガネちゃんとぶつかりそうになった日とか、メガネちゃんのストーカーやった日とか」

「ストーカーやってねえ!」

 魔神と一緒に清谷さんの後をつけて家庭科室の前まで行った日のことか。あの程度でストーカーって言えるのか。・・・言えたらどうしよう。

「それ、比喩的な意味じゃなくて、本当に、透明人間みたいに消えるってこと?」

 魔神はうなずいた。

 そんな信じられないことがあるのか、実際。っていうか、そもそも魔神がランプから出てきた時点で、俺の人生なんか変だけど。

「見えてなかったんだったら、おまえと一緒に家庭科室入ってもばれなかったのかなあ」

 なんて、ちょっとずるいこと考えると魔神はだめだめ、と首を振った。

「悟はすぐまた姿現しちゃうネ。完全に透明で行動するにはもうちょっと練習必要ネ」

「練習?」

 どうやってだ。

 でも、いいこと聞いたかもしれない。もしかして鍛錬を積めば、本物の透明人間になれるのか? ちょっとわくわくしてきた。透明人間になったら何をしたいか。つい悪いこと想像してしまう。・・・とか、・・・とか。いや、だめだ、だめだ。そんなことしたら人間が腐ってしまう。

 魔神はわからない、という風に首を傾げた。

「ま、やってみるならつきあってあげるヨ。ワタシの言いたいのはね、魔神が姿を現すような人間はなんかたいてい変わったところがあるってこと。だから、メガネちゃんも何かないかと思うわけ。ワタシの奥さんがいるのが、ほんとにメガネちゃんの家ならネ」

 

 清谷さんに? 消えるとか?


 だんだん混乱してきた。人間の話をしてるのか。ありえないだろ。だいたい俺が消えるってのも、こいつの作り話じゃないのか。

 気になってちらりと鏡を見てみた。どう見てもいつもの俺だ。

「多分、気持ちが集中してるときは消えないネ。ぼうっとしてるときだヨ、どっか行っちゃうのは」

 難しい。

 もう一度鏡とにらめっこする。

 消えるのが、頑張ればできることなら、修行で何とかなりそうな気もするが、ぼうっとしながら頑張るのは同時にはできない。一生懸命ぼうっとしようとしてみたが、「一生懸命」が出た時点で「ぼうっと」はどっかに行ってしまう。

「ふう。よくわからん」

 やっぱり無理なのか。諦めた方がいいかも。

「今度、消えたときは教えてあげるヨ。うまく感じをつかめたらできるかもネ。できないかも、だけど」

「ああ」

 どっちみち、自分が消えるとは思ってもみなかった。ま、もともとなかったと思えばがっかりもしないよな。


 夏休みの二日前が球技大会の当日だった。

 スタメンの日向が、すでに何度もゴールを決めていて、もうほとんど勝ったも同然だ。

「おおおーっ!」

 スタンドが沸く。またダンクが出たらしい。

 ダンクってほんとかよ。ようやく俺も日向に目をやる。

 ・・・何か違和感がある。

 NBAとかの、その身長とリーチの長さ、ずるいだろ、っていう余裕のダンクとちょっと違う。なんていうか、あれはほとんど空中浮遊だ。ジャンプした後、ひゅるーって、空飛んでるって。みんな、なんで気がつかないんのかなあ。

 ほら、また飛んだ。あれ、人間業じゃない、絶対。


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読んでくださってありがとうございます。


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