(未来)
今は雨季。ハレはないはず。でも、空。カラのそら。毎年の雨はここではない、どこかのよう。
ぼんやりと眺める。若い頃なら頬杖もついたり。他には染めたり、流したりしたことも。昔の出来事。
外は、あってもちらほらの薄い曇。内には、陰鬱さがじっとりと澱んでいて、皮肉。季節なんだから合わせて、と。でも、天は気分屋だから。恵みのない空だと思う。
花壇では、女の子が水を遣っていた。じょうろに溜めては足を運ぶ。何回も、よたよたしながら。ただ、既に花は枯れていた。別に、雨が足りなかった訳ではない。咲いて、のち枯れるは理。
女の子は教室に戻って来た。
「先生。お花、枯れちゃった」
悲しんでいる。涙がぽろり、またぽろり。
「あのお花は一生を終えたの」
大人は役割を果たす。隣に座らせ、慰める。まあるい顔に小さな頭。柔らかい髪を撫でて撫でて落ち着かせる。
「一生?」
泣き止んで顔が上がった。目から下には、涙の跡がくっきりと。拭いてあげる。しょっぱいだろう。
「種から芽が出て、茎が伸びて。葉っぱが開いて、花が咲いて。そして、枯れる頃には新しい種ができる。その種がお花の子供、次の代のお花になるの」
目は合わせて、笑顔は忘れずに。
「種が子供?」
「そう。来年になったら、また蒔きましょう。花壇いっぱいになるくらいに。だから、もう泣いちゃダメ、ね」
「うん。来年はいっぱいに」
よくできました。もう一度、頭を撫でると女の子らしい笑顔になった。
「先生。先生のお花もいっぱいにするから」
女の子はさよならをした後、そう言って駆けていった。
透けていて、情けない。役余らせ。
外に目を遣ると、女の子はもうずっと遠くだった。
来年は晴れの空、雨だろうか。いずれでも、枯れた花があふれていることだろう。
未来がある。私にも(には)。過去があった。