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17

「まぁこれからは、惚れられた責任くらいは果たすつもりだよ」

「キーラさんの許す範囲において?」

「そゆこと」


 今まで散々流されてきたんだ、これからも流され続けるさ――ツォッポが嘯く内容はエスラゴの理解範疇外で、けれど悪びれのない態度はいっそ清々しいものだ。

 己が信念に従って導き出した解ならば、ただ流されるまま生きるというのもそれはそれでアり……なのか? 判断に窮したエスラゴは、理解能わず相も容れぬ相手を八つ当たり気味に睨み付け、


「やっぱり、あなたってサイテーね」

「そーゆーこと」


 罵倒なのか賞賛なのかエスラゴにも分からぬその評価を、あっさりツォッポは受け入れた。


「ホントに、キーラさんもこんな奴のどこが好きになったのかしら?」

「案外、こういうダメなところだったりしてな」

「そういう風に開き直られると、よけいムカつくわね!」

「しょーがねぇだろ、性格だし」

「……あぁ、もう! やっぱりアンタなんかに、キーラさんを任せたくないわ」

「お前にゃヴラミルさんがいるだろーが、って――まさか、二股か⁉」


 重大な事実に気付いたように、神妙顔で問い詰めるツォッポ。そのあんまりもな内容に、


「あ・ん・た・が・言うな!」


 とエスラゴは癇癪もとい爆炎型魔法を炸裂させる。巻き散らされた爆風を、バックステップを踏んだツォッポは紙一重の差で回避した。


「危ねぇな、オイ」

「あ、コラ! 避けるなー!」

「いや、無茶言うなって」


 炎弾が、雷光が、雹剣が次々と降り注ぎ、その全てを小器用に躱すツォッポ。意図してかどうかは不明だが間一髪で凌ぎ続ける彼の、余裕ある口調はエスラゴの激昂を否応なく誘う。


「逃げるなって――言ってるでしょうが!」


 激しさを増す攻撃。しかも感情任せの愚直な魔法は語気と裏腹に潜められ、変わって牽制やフェイント・足止めの実戦式魔法が織り交ぜられる。


「逃げるなと言われて、逃げない奴がいるか!」


 曲射された炎弾に回避方向を限定され、囲い込むように展開された雹剣の一斉投擲を――ツォッポは黒空へ飛び立つことにより回避。エスラゴも当然のように飛翔魔法で追い駆けて、安定している彼女の機動にツォッポは頷き進路を決める。

 呪言を詠い、音唱を紡ぎ、其処に意志を織り込むエスラゴ。

 集った霊素が互いに共鳴、増幅されつつ収束し、臨界を突破することで連鎖反応を引き起こす。

 圧縮された空気から巨大な氷塊が形成され、天を支える大樹が如く強大な雷が現出する。撃ち放たれた無数の炎弾が地表一帯を焼き尽くし、撒き散らされた火花さえをも風の刃が切り刻む。そのことごとくはツォッポによって間一髪で回避され、大地に大気に深刻な破壊の痕を刻み付け――次の瞬間、疑似空間の不思議効果が全てを無かったことにする。

 そう、どんなに強大な破壊の力も、此処で振われる限りは何の成果も成し得ない。それは復元が行われる前に致命へ届かせない限り、ツォッポたち自身にも言えること。だからこれは、何の意味も無い攻防。それでも当たれば痛いから、痛いのは嫌だとツォッポは逃げる。逃げて躱して回避して、ついでエスラゴをおちょくるようにフララフフラと空を舞い、殺到する魔法を掠めさせるほどの距離で捌き切って――けれど僅かに崩したバランスを立て直そうとしたところで、正面に回り込んだエスラゴに気付く。


 ――あれ、これ、もしかして、俺、詰んだ……………………なーんってね。


 エスラゴが全身全霊を込めた攻撃、万が一にも避け得ぬように百以上を面展開させた炎剣は――空間干渉により無から生み出された瓦礫によって防がれた。


「えっ……て、あれ?」

「何を――」

「へ⁉」

「何を、やっているんですか!」


 豆鉄砲を食らった鳩のように空中で静止したエスラゴを、聞き慣れた怒声が一喝する。


「やーい、怒られてやんの」


 エスラゴだけに聞こえるよう小声で囁いて、飛翔魔法を解除するツォッポ。降下した彼の傍らに立つ『林檎の木』は、いつの間にか枝に赤い果実を宿らせていた。


 そう、ツォッポはただ闇雲に、魔法を躱していたわけではない。巧みな機動でエスラゴの攻撃方向すら制御して、もといた場所の上空へと彼女を誘導していたのだ。


「あ、あのね、ヴラミル……」


 ツォッポと同様慌てて着地し、けれど口篭もるエスラゴ。子供のように泣き喚き、癇癪の末に逃げ出して――自分でも初めての醜態を存分に晒した後だけに、どんな顔をヴラミルに見せれば良いのか分からない。

 なのにヴラミルはそんなの知ったことではないと、冷たい眼差しをエスラゴに向ける。次いで彼女が視線を移すは、エスラゴが放った炎剣の残骸。


「それで――」


 常日頃からはしたない行為や魔法の乱用には口酸っぱくしているヴラミルが、先ほどの炎剣一斉掃射を当然見逃すはずが無く、


「何か、言い訳はございますか?」

「えっ! あっ、えっと、これはね、その、……………………………ごめんなさい」


 蛇に睨まれた蛙のように身を竦ませたエスラゴは、ヴラミルへ素直に頭を下げた。


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