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「魔法で作られるプログラム人格には、最初に目的が設定されるのよ。だからきっとヴラミルは、今もその目的の為だけに自分が在るって思ってる。

 世界を救うっていう勇者様を召喚するためだけにしか、在っちゃいけないって考えてる。

 その目的のためだけに、疑似空間(こんなトコロ)に私といる」


『世界を救うっていう勇者様』


 それは他でもないツォッポ自身に、ずっと課せられていた言葉――生れた世界まで追い駆けてきたキーラに吹っ切れさせられるまで、捕らわれ続けていたフレーズだ。


 顔を苦くしたツォッポに気付かず、彼の腕中に抱えられたままで、エスラゴの独白は続く。


「そんなの、許せない――ううん、違う。ただ嫌だった。私が認めたくなかっただけ。世間知らずな子供の、わがままだってことくらい分かってる。だけどそれでも、私はヴラミルに、一緒に居たいから私と居るんだって思ってほしかった」


 激した口調はけれど尻すぼみ、最後の声音は吐息と共に虚しく霧散して消える。僅かな意思の残滓だけが未練がましく漂って、過去形で語られたその想いはもう未来を向いていない。

 ヴラミルの否定がエスラゴに与えた傷は大きく深く、挫折の痛みに竦んだエスラゴは立ち上がることさえ厭っている。彼女の在り様を不甲斐ないと感じてしまったツォッポは、己の想いが気に入らなくて奥歯を小さく軋ませる。


 今の彼女は、在り得たかもしれないキーラの姿。勝手気儘な想い人の振る舞いに、耐え切れず全てを諦めていたかもしれないという可能性。そしてエスラゴを諦めさせたのはヴラミルだが、キーラをそうさせたかもしれなかったのは間違いなくツォッポ自身だった。


「ほしかった、じゃねえだろ」

「……え?」

「ほしいって思ってんだろ、今もまだ」


 ぶっきらぼうな口調に、僅かな不機嫌さを滲ませて。自分を見上げたエスラゴの頭を、掴むようにツォッポは右手を置く。


「だったら、思い続けりゃいいじゃねぇーか」

「でも、そんなことヴラミルは、」

「望んでいようと望んでいまいと、そんなこと別にどうでもいい」


 エスラゴの癖の有る髪の毛を酷く乱暴に撫で付けて、その手でツォッポは彼女の視線を持ち上げ前へと固定する。


「お前はヴラミルの考え――勇者様とやらを召喚するためだけに自分が存在する、ってやつを認めたくないんだろ? だったらヴラミルが望んでいることを、そのまま叶えてやる義理なんてない」


 だから想っていいのだと、ヴラミルを慕っていいのだと、エスラゴに説くのはある意味でツォッポにとっての代償行為。酷く傷付け投げ遣って、なのに自力で立ち直り後を追い駆けてきたキーラ。何もしてやれなかった彼女の代わりに、打ちひしがれているエスラゴを手荒い手段で奮い立たせる。


「それとも。相手の意思を踏み躙って捻じ曲げたいとか言いながら、お前は相手に厭われる覚悟も出来ていなかったのか?」

「そ、そんなわけないじゃない!!」


 混ぜ込んだ一つまみの挑発に、過敏に反応するエスラゴ。予想通りの返答に、ツォッポは内心で苦笑を漏らす。


「まぁ確かに、ちょっと拒否られたくらいで萎んじまう程度の気持ちなら、さっさと諦めちまった方がお互いの為かもしれねぇか」

「だから、違うって言ってるでしょーが!」

「ん? じゃあお前はヴラミルの奴のこと、まだ諦めていないのか?」

「あ、当ったり前じゃない! そうよ。ヴラミルのウジウジしたプログラム根性なんて、私がけっちょんけちょんに叩き直してあげるんだから!」


 泣いた烏がもう笑ったとは彼女のことを言うのだろう。あたかも自分こそがルールであるように、あまり豊かでない胸を精一杯に張り上げて。高慢不敵に言うエスラゴには、先ほどまでの塞いでいた名残りは微塵も見られない。

 誘導したツォッポも驚くほどの、見事なまでの立ち直り。あるいはツォッポの口出しなど、もとより不要だったのかもしれない。

 ああ全く。キーラにしろこいつにしろ、女というのはどうしてこうも柔靭で応変が効くのだろう……いやここは女ではなく、恋をしている奴とするべきか?

 もっとも、


「ヴラミルがそのプログラム根性に浸かってるとは、あんまり思えねぇけどな」

「それ、どういうことよ?」


 呟きを耳聡く聞き付けて、エスラゴがツォッポを睨み付けた。

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