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06

 

 振り乱された金色の髪に、呼応し漏れ出る霊素干渉余力。エスラゴのそれは嵐のような霊素の奔流を生じさせ、咽び泣きに似た拙い呪言の効果を無理矢理呼び起こす。洗練さとは対極の、酷く強引な飛翔魔法。周囲の空気や砂埃を巻き込みエスラゴの躰が浮遊して、余波で舞い立った砂土煙にキーラは両目をきつく顰めた。

 飛翔するエスラゴの後ろ姿が黒空に紛れるまで目で追って、呆れ混じりの溜息を付く。


「あいつ、一体どうしたんだ?」


 掛けられた声に振り向けば、怪訝と心配を混在させた表情のツォッポが首を傾げている。ある意味で予想通りである彼の反応に、暴風で乱れた髪を直しつつキーラは無意識の微笑を宿した。

 元勇者らしく豪儀なツォッポは、反面心の機微についてやや疎い面がある。今もエスラゴの言動を十二分には解せずに、それでも彼女に親身になろうと頭を悩ませているのだろう。そんな彼の在り方を堪らなく愛おしく想い――そのまま惚け掛けたキーラは、ブルルと首を振り雑念を掃う。それでもほんのり頬を赤らめ、逸らした視線の端で捉えたのは、一見ほとんど変わらぬ様子でその場に立ち竦んでいるヴラミル。けれど彼女の表情が、ほんの僅かに白んでいるのをキーラは見逃さなかった。


「ツォッポさん。エスラゴさんを見て来ていただけませんか」

「ん、そりゃ構わねえが……俺でいいのか?」

「はい」


 ここは彼女が適任では、とヴラミルに向けるツォッポの視線を、抑えてキーラは首肯する。


「今は、ツォッポさんでないと駄目なんだと思います。あ、でも――」

「なんだ?」

「二人っきりになったからって、エスラゴさんのこと口説いたりしたら厭ですよ」

「……バカヤロ」


 彼女の言葉を冗談と解し、苦笑を浮かべて翔び立つツォッポ。半分以上は本気だったキーラは複雑な思いを顔に浮かべ、けれど湧き上がる嫉妬の情を意志の力で抑え込む。

 本当に、全く、この人は。自分のことをこれっぽっちも理解してはいないのだ。気さくな物腰で胸元に踏み入り、奇天烈なまでの行動力で抱える問題を絶ち払う。深淵な闇の底に繋がれているものさえ、当たり前のように引き上げる。八面六臂なその活躍は目にしたものに憧憬を抱かせ、自分のように救われたものたちは敬慕の念を募らせる。けれど自らの行為を当然のこととする彼は向けられた好意に気付かずに、それが拗れて生じる感情もだからやっぱり見過ごして……結果、彼を想う者たちが互いに同胞意識すら抱く状況が生じてしまうのだ。

 人が恋に落ちる瞬間を幾度となく見せられてきたキーラにとって、女性関係でのツォッポの信頼はとっくに地底へ墜ちている。もしもエスラゴがヴラミルに首ったけでさえなかったら、今回だって二人きりにするなど絶対許さなかったはずだ。


――気付いたうえで無かったことにしてしまう人と比べれば、それでもずっとマシですけれど。


 なおも燻る不安と不満の矛先をキーラが移したのは、エスラゴが恋を煩う相手。


「ヴラミルさん。さきほどのエスラゴさんへの態度は少しあからさま過ぎたのでは?」


 僅かに唇を尖らせて、八つ当たり混じりで発した言葉に――ヴラミルは、まるで初心な小娘のように顔を蒼褪めさせた。


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