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一目惚れ

作者: 野兎

 「好きです! 私と付き合って下さいっっ!!」

 「……え?」


 気づいたときには、私は目の前を歩く男の袖を掴み、そう叫んでいた。今すぐに彼との接点を作らなければ、二度と会えないのではないかと、衝動的に彼の袖を掴んだところまでは意識があった。だが、まさか愛の告白までもが自らの口からこぼれ出るとは、自分でも驚いた。

 振り返った男性は戸惑いと不信感でいっぱいの顔で私を見つめている。……そう! 見つめているのだ!! これで私は彼にとってただの通行人Aではなく、顔見知り程度に格上げされたことになる。良い印象が付けばいいんだけど……。私はじっと彼を見上げる。

 と、急に彼が辺りを見回し始めた。


 「?」


 周りを歩く人々が好奇な目で私たちをチラチラ見ながら去って行く。私は自分のしたことを今さらながら理解した。ここは電車の乗降口。しかも通勤時刻。立ち止まるなんて迷惑きまわりなく、しかも告白だなんて、興味は湧くけどこんな時にしなくても……というのが、大多数の意見であろう。私は羞恥心でと申し訳なさで押しつぶされそうになる。


 「えっと……取り敢えず、端に寄ろうか?」


 男性は戸惑っているようだが、私を避けることなく、目線で私に右側へ行くように合図してくる。

 逃げないでいてくれて、良かった。あ、でも時間、大丈夫かな? と、私は柱に掛る時計に目を向ける。


 「わっ!」


 急に重心のバランスが崩れ、私はよろめく。どうやら男が動き出したらしく、彼の袖を掴んでいた私は引っ張られて地面に倒れ込みそうになる。


 「え? 大丈夫?」


 彼が素早く私の両肩を掴んでくれたことで、なんとか地面に倒れ込まずに済んだ。上半身の体重のほとんどを彼に預けている。

 ……私は彼と触れあっている。ほんの短時間に、私は彼との接触まで果たしたようだ。

 肩から伝わる彼の掌の大きさと体温に、私は自身の鼓動が高鳴るのを感じた。と、同時に、更なる周りの冷たい視線も感じた。


 「ありがとうございます……。えっと……そうですね、あちらで少しお話出来たら嬉しいです。……?」


 あれ? 私の声、聞こえてないのかな?

 彼は黙り混み、掴んだ私の肩をじっと見ていた。私は、相手の顔と自分の肩を交互に見ながら、彼の様子を窺う。そんな私の不思議がる様子に気づいたのか、彼が慌てて私の肩から手を離した。


 「……。」


 彼は私をしばし見つめた後、咄嗟に私の手を握った。そして、人の流れに逆らい、当初の予定どおり壁際まで私と共に移動する。

 私たちは二人、無言で構内に佇む。

 どうしよう……話がしたいとは言ったけど、何を話そう。まずは自己紹介?


 「あの……」

 「俺は君に告白されたのかな?」


 私の言葉を遮るように放たれた言葉は、頭上から体中に響き渡る低音ボイス。先程の戸惑った声とは違う、少しからかうような甘ったるい声に、私は腰から崩れそうになった。見た目だけではなく、声までどうやら私好みのようだ。

 私は痺れ出した体を落ち着かせながら、彼の目をまっすぐに見つめ、彼の疑問に頷いて肯定だと示す。


 「そっか。でもさ、間違ってたらごめんだけど、俺達、初対面だよね? それとも、俺が知らないだけで、君は俺のこと知ってたりする?」

 「あ……いえ、私もさっき電車の中で初めて貴方を見かけました。」


 じっと観察するように私の全身に視線を這わす彼に負けじと、私も自身の目に力を込めて彼を見返す。


 「……いいよ。」

 「え?」


 “いいよ”ってなんだ? え? 私と付き合ってくれるの!?

 私は彼の返事に驚く。

 いつの間にか告白していた自分の猪突猛進ぶりにも驚いたが、彼の即断にはさらに驚かされる。私は、思わず顔に疑念を浮かべてたらしい。


 「? 友達からの方が良かった?」


 と、彼がすかさず返してきた。


 「いっいいえ!! 彼女でお願いします!!」


 彼があまりにもすぐに自分の発言を取り消してしまいそうだったので、私は急いで彼との約束を取り付ける。


 「そう? じゃ、宜しく。あ、これ俺のLINE。」


 携帯を取り出した彼は、画面を私に見せる。


 「あ、私のは……」


 私も急いで鞄から携帯を出して画面を見せる。


 「了解。じゃ、後から俺から送っとくわ。申請よろしく――。」


 そう言うと、彼は改札口に向けて駆け出した。会社に遅刻しそうなのだろう。……当たり前だ。私もこのままでは遅刻してしまう。

 ぽつんと残された私は通勤途中だったことを思い出し、彼とは別の改札口に向け、私も走る。

 名前、聞きそびれたな。などとも思いつつ、私は一人微笑む。何せ、人生初の彼氏なのだ。




 「え!? 彼氏が出来た!?」


 し――っ! し――っ!! と叫びながら、私は大きな声で失言をした親友・絵梨の口を両手で塞ぐ。でも、無駄だったようだ。社内のロビーでエレベータを待つ人達の視線が、全て私に集まっている。


 「もう!」

 

 と、私は小声で親友を叱咤する。

 周りの視線には、肩をすくめた苦笑いで許してもらおう。


 「ごめん。ごめん。」


 明るい絵梨の謝罪に、私は深くため息をついた。


 「うう。今日は厄日だ。目立たず生きて生きたいのに、注目を浴びてばかり……。」

 「今日はって言うか、いつでも注目の的じゃない。貴女の一挙一動に、会社中の男が細心の注意を払ってるわよ?」


 いつもの彼女の軽いノリに、私は少し癒される。


 「……ありがとう。その空想にいつも励まされてる。でも、今日は冗談にのる気がしないの。本当に今日は良く人の視線に晒されてて……ま、私のせいなんだけどさ。」

 「空想って……」


 貴女、自分のこと全く分かってないのね、と絵梨が呟いたが、私に届いてはいなかった。




 「好きな人居たんだ。」


 絵梨がこっそりと、不服さを滲ませた声で私に耳打ちをする。


 「いないよ。 出来たらすぐに絵梨には話すって言ってたし。」

 「え? でも、彼氏出来たって。……そいつのこと好きじゃないの?」

 「だから、さっき、好きになったの。一目惚れ。それで、勢いで告白したら、OKされた。……絵梨にはすぐ話したからね。」


 私も絵梨に耳打ちを返し、彼女の不満を和らげようと訴えかけた。


 「え……それって……」


 「やあ、おはよう。君たち何こそこそ話してるの?」


 突如、後ろから男性に声を掛けられる。振り返ると、普段より爽やかさ20%増の、同期の白石が笑顔で立っていた。さすがイケメン、朝からキラキラの度合いが違う。

 ……ん? この男、誰かに似てる……。


 「っっっ!!」


 私は叫びたい衝動を堪える。


 「せんぱ――い。」

 「おはようごさいます――。」


 突如、キャピキャピ後輩美女集団が現れ、目の前にいた白石が拉致られていく。

 ……あ、エレベータ。そのまま、乗るんだ……。


 「……朝からあの子達も元気ね……。私たちは隣のエレベータで行きましょう。生気が吸い取られそう。」


 絵梨が大きなため息を吐きながら、白い目で彼らを見送る。

 間を置かずして隣のエレベータは開き、私たちはそれに乗り込んだ。


 「絵梨……。」


 私はまたしても小声で隣に立つ絵梨に耳打ちをする。エレベータは超満員ほどではないが、そこそこの人数が乗り込んでいた。


 「どうしたの?」


 私の顔が酷かったのだろうか、絵梨が心配そうに私を見つめる。


 「さっき、気づいたんだけど、私の彼氏、白石にそっくり……。」

 「は!?」


 絵梨の大きな驚きの声に、またしても二人はエレベータ中の注目を集める。


 「……。」

 「ごめん。……いや、今のは私、悪くないでしょ。ちょっと後でじっくり聞かせて貰いますからね。」


 目的のフロアに着いたことで、私たちは小声で周囲に謝罪をいれながらエレベータを後にした。



 「で?」


 昼休みに入り、颯爽と私のデスクに乗り込んできた絵梨は、私を社員食堂に引きずった。うどんを食べる私を尻目に、向かいに座る彼女は身を乗り出して食い入るように私に尋ねる。


 「……食べないと伸びるよ?」


 私は麺を冷ましながらすする。


 「……。」

 「……嘘です。話します。」


 私は観念して箸をお盆に戻す。

 って、何を話したらいいんだろう?


 「ねえ、白石のこと、好きだったの?」

 「え!?」


 突然の思いもよらぬ質問に私は驚く。


 「だって、一目惚れした彼氏、白石に似てるんでしょう?」

 「ちっ違う!! たまたま、似てただけ!!」

 「? 意味が分かんない。だって、一目惚れってことは、外見が好みだったんでしょう? じゃあ、彼氏にそっくりな白石も見た目が好みなんじゃないの?」


 正論を言う絵梨に、私は戸惑う。


 「そ……そうだよね。」


 ほんと、自分でもびっくりだ。でも、白石には全くときめいたことがない。顔はそっくりかも知れないけど、全くの別人。醸し出す雰囲気が全然違うのかな?


 「……それで、彼氏の名前は?」

 「へ?」

 「名字が白石とか。似てるんなら親戚でしょう?」

 「名字……名前もわかんない。」

 「え!?」

 「だって、LINEしか知らないし。」

 「……それ、本当に彼氏?」

 「…………たぶん。」


 ハア――。


 絵梨が盛大な溜息を吐いて椅子に深く腰かけなおした。


 「それ、彼氏って言わない。」

 「え!? でも、告白してOK貰ったし!」

 「体よくからかわれたのよ。もしくは単なる体目当てか。」

 「か……彼氏だもん!」

 「名前も知らないのに!?」

 「っ! それは……急いでて……。」


 ピロロロロ ピロロロロ


 突如鳴り響く着信音で、私は携帯をマナーモードにするのを忘れていたことに気付く。

 よかった……就業時間中に鳴らなくて……。

 私はベストのポケットから携帯を取り出し、息を飲む。一目惚れした彼からだったのだ。

 私は急いで応答のマークを押し、携帯を耳にあてる。


 『あ、俺。今、いい?』

 「うん。大丈夫!」

 『そう、良かった。今日は何時に終わる?』

 「六時には確実に終わってる。」

 『だったら、半頃会わない? 場所はまたメールする。』

 「うん! 行く!」

 『じゃあ、また後で。』


 ツ―― ツ―― ツ――


 ……あ、もう切れちゃった。忙しいのかな?

 耳元で喋られるのってイイナ、などと考えながら私はムフムフと微笑む。


 ジ――。


 私は鋭い視線を感じた。

 あ、ソウダッタ。絵梨がイタンダッタ。


 「……今日、やっちゃだめだよ。」

 「え?」

 「他は何も言わない。だけど、今日やるのだけはなし!!」


 何を? ってナニをよね。

 私は椅子からずり落ちそうになる。

 絵梨ったら昼間っから何てことを……。


 「ゴホン。それは、その場の雰囲気に寄りけりでしょう。付き合ってるんだし。」


 私は胸を張りながら、最もそうな言葉を選ぶ。


 「処女が何を偉そうに言うか。いい!? これだけは約束して。“しない”って。じゃないと、その男の元に行けないようにしてやる。もしくは、今日限りで絶交。」

 「え!? 絵梨!? わ……分かった。絶対にしません。」


 私は縮こまりながら絵梨に約束する。だって、やっぱり、出来たばっかりの彼氏より長年の親友の方が大事だし……。


 「宜しい。」


 絵梨は満足げに頷いていた。



 とは言ったものの、もしそうなったら私、その時に断れるかな……。

 彼との待ち合わせの場所、時計台の下で待つ私は、小さくため息を吐く。

 それだけの関係を求めるような人には見えなかったんだけどな。……まだ、数言しか話してないけど。見たことも数十分ぐらいしかないけど!!


 「遅くなってごめん、待った?」


 いつの間にか傍に立ってた彼に、私は慌てふためく。


 「いっいえっっ!! 思いのほか早く仕事が終わって、待ち切れずに早めに来ちゃっただけです!!」


 私はチラリと目線を移し、空に掲げられた時計を見上げる。時計は6時10分を指していた。


 「俺も。早く君に会いたくて、ここまで走って来ちゃった。」


 彼がニコリと笑う。

 ……かっこいい!! 惚れる。いや、惚れ直した! でも、こう見るとやっぱり白石にそっくりだよね。顔立ちが。だけど、この人は白石みたいな爽やか好青年というか、歩くフェロモンって感じ……。ほら、こうしてる間にも、行き交う人々がチラチラと彼を見ている。……分かるわ――。私も電車の中で彼を見つけた瞬間、もう彼から目が離せなくなったからね。


 「嬉しいです。」

 「え?」

 「あ……いえ、こうしてまた会うことが出来て……。」

 「そうだね。……ねえ、手、繋いでもいい?」


 え? どうしたんだろう、急に。……あ、手を繋ぐなんて、カップルだから当たり前か――!! 初お付き合いだから、気付くのに遅れた!

 私はでれでれと顔を綻ばす。この人は聞いて来るタイプなんだ――と、少女マンガ知識全開の私は彼に手を差し出す。


 「……。」

 「……。」


 なんだろう。私、彼と握手してるよ。あ、私が間違えたか? 彼が右手を差し出したんだから、私は左手を差し出すべきだった!? ……でも、私から右手を出したよね。だったら、後から手を出した彼が左手を出すべきだよ。って、それはどうでもいいけど、彼も恋愛初心者!? このフェロモン垂れ流しの彼が!? それはないなあ――。

 なんて私が考えること数分。彼と私は握手をし続ける。彼はその間、じっと繋がる私達の手を見つめるだけで、全く動かない。彼を見つめていた周りの熱い視線が、徐々に変化していることに私は気づいた。ナニコレ宗教カンユウ? 的な可哀そうな者を見るような目で、彼女らは私に視線を移す。

 今日はよく見られる日だな――。

 私は自棄になって天を仰ぐ。

 やっぱ、彼、恋愛初心者なんだ。手を繋ごうとして失敗して、どうしていいか分からず、固まってる。うん、きっとそうだ。

 こうなったら、私から声を掛けないといけないわよね! と私は意気込む。


 「あの――……。」


 あ、しまった。名前知らない。声を掛けたはいいが、彼に呼びかけられない。でも、LINE名では彼のことは呼びたくない。


 「……あ、ごめん。つい。」


 私の手を離した彼は、苦笑いしながら頭を掻いてる。

 ……ついってなんだ!?

 戸惑う私を余所に、彼は私の腰に手を添えると、じゃあ行こうかと言わんばかりにスムーズに私をエスコートする。

 ……こいつ、やるな!!

 手慣れた彼の動作に、私は引き攣りそうになる口元を押さえ、笑顔で彼の歩調に合わせた。


 結論から言おう。デートは、楽しかった。彼は常にスマートだった。慣れた感じでリードしてくれ、話も弾んだ。連れていかれたレストランも小洒落た感じで料理も美味しかったし、馴染みのバーもいい感じの雰囲気だった。そこで偶然居合わせた友達に、私は彼女として紹介され、彼は友達と話す私にやきもちも妬いてくれた。そして終始、彼は私の肩や手にベタベタと触れていた。

 一夜限りの彼女かも知れない。けど、私は覚悟していた。いいのだ。こんなすばらしいデートを私に教えてくれた。その代償が体でよければ、喜んで提供しよう、と。

 だが彼は求めてこなかった。家に送ってくれたので、部屋に上がるかと尋ねれば丁寧に断られ、もうお腹一杯だからと、名残惜しがりもせず、あっさりとその場を立ち去った。

 彼は性欲よりも食欲の方が盛んなのか? その割りには余り食べていなかった気がするが。それとも、処女がバレたのだろうか。それで、重たいと嫌がられたのだろうか。

 私は悩み、なかなか眠れない一夜を過ごした。



 あ――さ――だ――。

 窓の外では小鳥の鳴き声が響き渡っている。

 あまり眠れなかった私は、眠い目を擦りながらも朝の支度にかかる。私は着替えながら、ベッドの端にある携帯をチラリと見た。夜中も彼からのメールは来なかったようだ。

 おやすみメールも次の約束の取り付けメールもなかった。このまま終わりなのだろうかと、私の中に冷たい風が吹き抜ける。

 処女がだめなのか……。


 アパートから駅までの道のりを、私はとぼとぼと歩く。すると、すぐ前で赤いスポーツカーが道の端に寄せて停まった。そこから降りてきたのは、白石。

 あれ。あいつの家、近所じゃないよね。朝帰りか?


 「おはよう!」


 白石が爽やかな笑顔でこちらに歩いてくる。


 「おはよう。」


 今日は爽やかさ100%増だな。つまり、200%ってことだ。無駄だ。無駄に爽やかすぎる。


 「向えに来たよ。会社まで送るよ。」

 「は?」


 白石の突然の提案に、私は開いた口が塞がらない。

 どうした、白石。わざわざ私を送るために車で此処に来たのか? お前も電車通だろう。

 固まる私をよそに、白石は私の後ろに回って背中をグイグイと押す。拒否する理由もないので、私はそのまま車に乗り込む。

 バタン

 シートベルトは必須だよね。それにしてもなんだこのモフモフな座り心地。高級車か。高級車なんだろうな。

 車がスムーズに走り出す。


 「あのさ、昨日、俺の兄とデートした?」


 運転をしながら前を向く白石がぼそりと呟く。


 「兄!? リュウさんのこと!?」


 私は驚きの声をあげた。

 “リュウさん”とは、私の彼氏の名前だ。……昨日の時点では……。実は昨夜、彼の名前をゲットしたのだ。まあ、マスターや彼の友達がそう呼ぶのを耳にしただけなんだけどね。そこで“名前ってリュウだったんだ~”なんて言葉は発っさなかったよ。空気読んだよ私。

 リュウさん的には一夜の女に名前を知らせるつもりも無かったのかもしれない。聞こうとすると遮られた。別にいいのだ、あだ名とか偽名とかかもしれないけど。


 「……そう“リュウ”。あいつ俺の双子の兄だよ。」

 「お兄さんだったんだ……。」


 しかも双子。いや、似てるなとは思ったけど。


 「あのさ、あいつ、突然告白されたって言ってたんだけど、俺と間違えたの?」

 「え? 間違えてないよ!?」

 「……そうなの?」

 「そうだよ。私、今まで白石にそんな雰囲気だしてなかったじゃん。……もしかして心配してくれたの?」

 「いや。……でもさ、俺ら双子だし、顔そっくりだろ? あいつと付き合えるなら、俺とも付き合えるんなじゃない?」

 「……冗談、だよね?」

 「…………そう、俺とは無理なんだ。」


 突如、車が速度を落とす。どうやら路肩に停めるらしい。


 「どうか、したの?」


 戸惑う私は、白石の横顔を見つめる。そんな私をよそに、車を静かに停めると、白石は私の目をじっと見つめてきた。

 え!? 告白される? ……あ……あれ……なんだか頭がボーッとしてきた。

 頭の中に白い霧がかかったように感じられ、私は何も考えられなくなってきていた。

 ……ここ、何処だっけ? 私、何してたんだっけ?

 そんなことを考えていると、何かが私の頬に触れる。どうやら手を添えられたらしい。暖かくて大きな手が、私の頬にあたった。

 ……目の前の男、誰だっけ? ……あ、リュウだ。そうだ。私、リュウとドライブしてたんだった。私ったら、何で彼のこと忘れちゃったんだろ。駄目だなあ。

 その時、男の顔が徐々に私に近づいて来た。

 おや? キスするのかな? 良かった。嫌われてなかったみたい。処女でも大丈夫だったんだね。


 バン


 突如、助手席の扉が開かれ、両肩を掴まれた私は後ろに引き摺られる。


 「おい! 力は使わない約束だろ!」


 私を引っ張る人物が運転席にいたリュウに怒鳴りつける。

 なんだよ――邪魔するなよ――。せっかくキス出来そうだったのに。誰だ、無粋な奴は。

 私は後ろを振り返り、抱きつかんばかりの勢いの人物を見上げる。

 あれ? リュウだ。リュウが二人? ……いやいや違う! ドライブって言うか、車に同席してたのは白石! 私、白石とキスしようとしてた!?

 私は車から引きずり出された。リュウがそっと私を壊れ物の包み込むかのように抱きしめる。


 「良かった、間に合って。」

 「ご……ごめんなさい……。私ったら……。」

 「お前が謝る必要はない。全部あいつが悪いんだ。」


 そう言うと、リュウは弟を睨みつけた。


 「残念。」


 白石は悪びれなさそうに小さくため息を吐く。


 「さっさと、行け。お前とは後で話し合いが必要そうだな……。」

 「は――い。じゃ、先行くね。遅刻しないようにね!」


 そう言うと、白石は私に爽やかな笑顔を向け、去って行った。

 なんと、無害な表情。私、キスされそうになってたんですけど……。

 私は呆れ顔で車を見送る。


 「ごめんな。」


 リュウが私を抱きしめながらそう呟く。


 「い……いえ。どうしたの? なんでリュウが謝るの?」

 「お前、あいつと同じ会社だろ? 昨日の夜知ったんだけど。で、お前が俺とあいつを間違えて告白したってあいつが言い張ってさ。それに、先に目を付けてたのは自分だってあいつが主張するし……。」

 「間違えてないよ!?」

 「うん。さっき理解した。力を使わないとお前を崩落出来ないなんてな。」

 「……力?」

 「あ――それにしても、本当にお前は美味いなあ。」

 「……うまっ?」

 「触れるだけで食事が出来るって。お前を抱いたらどうなるんだろうな。」


 リュウが恍惚とした表情で私の頭に顔をうずめる。

 …………。

 私は体を固くした。

男性視点も書いてみました。短編『請い慕う』です。宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] え?彼ってインキュバスの設定? 後所々一言抜けてるのは何かあるんですか? 結局彼は主人公のこと好きなんですか?それともご飯として見てるだけなんですか?
[良い点] かなり書き急ぎの面があるけどテンポが良くておもしろいです。 [気になる点] これほど見事な投げっぱなしジャーマン初めてだwwwww [一言] 話はおもしろいのですが、エンドになってません…
[一言] 続きみたいな(^ー^)
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