紫陽花
軒下で雨を凌がせてもらっていた。
屋根を叩く大きな音が辺りを包む。
被っていて濃くなった常葉色の羽織を手に、あっという間に鈍色になった空を見上げる。
ざあっと音をたてて降り注ぐ雨は、通りを行き交う人々の傘を濡らしただけでは飽き足らず、その着物までをも色濃くしていく。
朝は晴れていたから、今日はついお気に入りの洋傘を持ってくるのを忘れてしまった。
今日は梅雨のこの時期としては涼しいというより、肌寒い。
余所行きでいつもだったら邪魔なだけの羽織が、丁度雨よけになってくれた。
紅い唇から憂鬱な溜息が漏れる。
ついつい長居してしまったせいで雨が非道くなってしまった。
意味がないと解っているからこそ、溜息が零れた。
長い睫毛をそっと伏せる。
いくら見つめていても何も変わらない。
そんな中でも変わらず通り抜ける風が、冷えた体を震えさせる。
時は夕暮れ。
もうすぐ夜がやってくる。
止む気配のない雨はどんどん気温を下げていく。
濡れて帰るしかないか、と諦めもう一度羽織を被った。
踏み出したその先に蒼い傘があった。
同じ軒下で雨を凌いでいたようだ。
首を傾げつつもそのまま歩を進める。
吹き抜けた冷たい風が濡羽色の髪と、その上に広がる常葉色の羽織をなびかせた。
その拍子に羽織の片袖がその傘を掠める。
すみません、と会釈し軒下を出た時、何故か後ろ髪を引かれて顔だけで振り返った。
顔を伝う雫を感じて急いで羽織を被り直す。
どうにか重い海老茶の袴を動かし自邸まで走った。
読者の皆様はじめまして!
この話を書いた 神楽風雅 と申します。
〈作品について〉
この話はあまり書かないようにしながら書きました。
少女の気持ちや状況など、推理しながら楽しんで頂けたらと思います。
〈皆様へ〉
初めての投稿で未熟な部分が多くあると思いますが、暖かい気持ちで読んで頂ければ幸いです♪( ´▽`)
最後に、ここまで読んで下さり、有難う御座いました!